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時代刺激人-ジダイシゲキビト-経済ジャーナリストの辛口メッセージ

Vol.292

2017.02.28

2014年3月全人代で環境汚染との闘いを
新目標に加えたのに中央の威令届かず

 場面変わって、NHKスペシャルの映像は、2014年3月の全国人民代表大会で、習近平政権NO2の李克強首相が、経済成長と同時に貧困撲滅という政策目標に加えて、新たに環境汚染との闘いを目標に加える、と強い口調でアピールした姿を映し出す。政権は、これまで共産党幹部などの腐敗撲滅を全面に押し出してきたが、大気汚染にとどまらずさまざまな環境汚染にも対策を講じて社会不安が政治不安につながらないように躍起、ということなのだが、驚くことに北京中央の威令が武漢の地方政府に全く伝わっていないのだ。

 調査報道では、武漢の地方政府は、任端さんらが訴えたゴミ処理会社の大気への排出物の情報公開要求に対して、「社会の安定を乱すので、情報公開などは認められない」と答える姿を映し出す。企業のゴミ処理工場も、住民の抗議デモに対して平然として対策もとらない。堪忍袋の緒が切れた任端さんらはらちが明かないと、北京の環境保護部に直訴に行くことを決め、行動に移した。ところが察知した武漢の地方政府の役人がスパイもどきに尾行する。気が付いて抗議したら、逆に開き直って「余計なことをするな」と恫喝する。

北京の環境保護部陳情窓口でノラリクラリ、
下級裁判所でも門残払いに住民が対策

 話はまだ続く。北京の環境保護部の陳情窓口で、任端さんらは窮状を訴え、違法操業しているので、対策の手を打ってほしいと懇願する。しかし窓口の担当者は、映像では声が聞こえてこないが、事務的処理で「やることはやっている。しかし陳情が多すぎて大変で処理しきれない」と言っているように見える。字幕に「年間100万件の陳情」と出る。
 それよりも問題なのは、別の場面で映し出された武漢下級裁判所の対応だ。任端さんらは、ゴミ処理場を相手取って70万元(円換算1300万円)の賠償請求訴訟のアクションを起こすが、肝心の裁判所がのらりくらりの姿勢で受理せず、事実上の門前払いなのだ。

 李克強首相が、2014年の全国人民代表大会で明確に環境汚染との闘いを目標に加える、と声高にアピールしたにもかかわらず、北京の環境保護部のみならず、武漢の地方政府もポーズだけなのだろうか。あるいは中国独特の「上に政策あれば、下に対策あり」がここでも続いているのだろうか。
 NHKスペシャルは、武漢下級裁判所の門前払いの対応ぶりを報じたあと、中国政府が司法制度改革によって2015年4月から立件審査制から立件登録制に切り替え、すべての訴えを受理するように改正する、というニュースを伝えた。それでも疑心暗鬼の任端さんらは、新たな訴えを起こす。下級裁判所が受理しやすいように、損害賠償請求額を70万元からわずか7元の少額に変えたのだ。まずは受理させることが重要との判断からで、結果的に受理された。中国の裁判所現場は、中央の方針表明とは別に、まだこんな悲しい状況だ、ということを浮き彫りにしたが、任端さんらの運動はまだ続き問題解決していない。

松野さん「中国政府は一票否決制度などで
地方幹部の環境対応に厳しいはず」

 前回の中国ネット通販問題のコラムで最近の現場事情を聞いた友人の清華大学・野村総研中国研究センター理事兼副センター長の松野豊さんに再度、今回の問題に関連して、中央政府の威光が地方政府になぜ届かないのか、北京中央の共産党の力の低下なのか、といった点に関して聞いてみた。

 松野さんは、「武漢の地方政府が、住民の環境汚染問題意識が高まった今、環境問題をないがしろにして成長だけを追い求めることはしていないはずだ。というのも、中国は、第11次5か年計画で地方政府幹部の仕事評価に関して『一票否決』原則、つまりGDPで目標値を上回る実績を残しても環境保護で目標達成できなければ地方トップの昇格人事を否決する制度導入して、重しになっているからだ」という。
 松野さんは同時に「中国は、これまで(地方政府間で互いに)発展GDPで競争してきたので、地元の企業の抵抗に出合ったり、また環境行政の制度的な不備がまだまだあるため、解決に時間がかかっているのだと思う。ただ、中央政府は、社会不安につながる事案には極めて敏感だ。その点で環境問題が、中央政府にとってもまだ致命的な問題だとは認識されていない、とすれば残念だが、私の見るところ、これは少しやばいぞ、と感じてきたようには見える」と述べている。

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