賢者の選択TOP > 時代刺激人

時代刺激人-ジダイシゲキビト-経済ジャーナリストの辛口メッセージ

Vol.292

2017.02.28

中国は世界に胸を張る先端部分の環境法制を
作ったのは事実、問題は運用

 中国の環境問題対応、とくに省エネ問題取材で以前、訪問した際、中国の大学教授が興味深い話をしていたのを思い出す。中国は、後発国のため、立場上、先進国の環境法制などに関して学習研究して、先端部分の法制備を行っている。問題は、地方政府などの現場が現実との乖離が大きく対応しきれないことだ。ただ、その場合、外国から中国の環境行政を批判されたら「我が国は、世界に胸を張れる環境法整備を進めており、後ろ指をさされるいわれはない」と開き直れる。その面で法制度だけはしっかりしたものにすることは重要だ、というものだ。

 しかし現在は、中国がGDPで世界第2位の国といったことにとどまらず、いろいろな意味でその存在が大きなインパクト、影響を与える状況になった。端的には、環境汚染に関しても、中国の水際で外国に流出もしくは影響を出さないように歯止めをかける、いわゆ国境措置を講じることが可能な問題は別にして、大気中を伝わって周辺国に影響を及ぼすPM2.5はじめ、急速に問題が増えている。このため、中国政府の本気度が試され、世界に向けて自慢できる環境法制に対応して厳しく実行を、という段階にきている。

杉本さん「三権分立になっていない、
地方下級裁判所と地方政府が癒着構造」

 今回のNHKスペシャルで問題になった武漢の下級裁判所の当初の門前払いの事例は、現実に被害が出ているだけに、驚きだったが、日本国内の中国環境問題ウオッチャーでつくる中国環境問題研究会の有力メンバーの1人、杉本勝則さんは「中国は、立法、行政、司法の形をとっているものの、残念ながら三権分立にはなっていない。民主集中制の社会主義国家で、憲法規定で他機関に影響されずに裁判を行えとなっていても、裁判官の独立もなく、とくに地方の下級裁判所が組織、財政面で地方政府に依存しているため、結果的に、今回の武漢のような問題が仮に起きて正式裁判になっても、地方政府や問題企業に有利に働くような判決、司法判断になりかねない。言ってみれば癒着構造だ」という。

 その杉本さんは、中国の大学で講演などをするチャンスがたびたびあった際、日本の高度成長期に経済成長優先の経済風土の下で、企業が引き起こした公害問題に対して住民の訴えにメディアが、そして地方政治、自治体が呼応し、結果的の地元選出の国会議員が国会で問題視、霞が関の行政も公害対策に踏み出した事例を具体的に挙げ、日本の公害対応、環境汚染対応を学習材料に、あるいは教訓にしたらいいと強く述べた。しかもその際、杉本さんは先例となる英国ロンドンの大スモッグの都市公害対応も同時に教訓とすべきだ、と訴えた、という。

中国は日本の公害対策で学習しているが、
民主制度を導入する気はない?

 これに関しては、私も同じような問題意識を持っており、以前、中国を取材訪問した際、杉本さんのロンドンのスモッグ公害対応まで思いが至らなかったが、中国の取材先などで問題をぶつけたことがある。
 この点に関してさきほどの清華大学・野村総研中国研究センターの松野さんは「日本のことは、彼らは間違いなく学習している。しかし中国は、国民がすべてを決める、という民主国家ではないので、日本や欧米のような民主制度を導入する気は全くない。彼らは、日本の制度を学習しているのではなく、『環境問題を社会的に解決する』ための科学的な手法を学ぼうとしているだけだ。中国のメディアも、環境問題を鋭く追及するが、それは国民に知らせる段階にとどめている。中国では、解決の主体はあくまでも共産党政府なのだ、ということを理解しないとダメだ」と述べている。

 何とも難しい国だ。しかし、NHKスペッシャルで調査報道した現実は、中国の武漢の一例で、他の地域では、問題噴出している。ある面で都市複合汚染だという状況が起きていると言っても言い過ぎでない。これが、中国国内におさまらず、周辺国や地域に及んでいる現実が問題になっているのだ。重ねて言いたいところだが、中国習近平政権が「大国」あるいは「強大国」を誇示するならば、対策のホコ先を変え環境大国をアピールする国にすべきだと思っている。いかがだろうか。

PAGE TOP

 登録はこちら 詳細はこちら