賢者の選択TOP > 時代刺激人

時代刺激人-ジダイシゲキビト-経済ジャーナリストの辛口メッセージ

Vol.293

2017.03.29

「藻谷・開沼対談」――コメ全量検査で
放射能汚染ゼロでも風評被害消えず大問題

 さて、本題に戻ろう。7年目を迎えた今年の3.11の日に「デフレの正体」、「里山資本主義」などの著作で有名なエコノミストの藻谷浩介さん、それに社会学者の目線で福島の現場を分析し「フクシマ論」や「フクシマの正義」などの著作がある福島県いわき市出身の開沼博さんの2人による対談の集いに参加した。地震津波に加え原発事故にも見舞われた福島の今をどうみるか、がテーマだったが、問題を考えるヒントがいくつかあった。

 開沼さんによると、原発事故に伴う放射能汚染はまだ問題が残る。しかし福島県の農業者は、自身の生命線ともいえるコメに関して、安全の証明のため、福島県内の禁止地域外で作付けされたコメの放射能汚染をチェックする全量全袋検査をずっと続けている。うれしいことに2015年産米、16年産米とも放射能ゼロだった。原発事故後の12年産米が71袋、13年産が28袋、14年産が2袋だったことから見れば大きく安全度が高まった。検査自体は、サンプル調査ではなく全量全袋を行うもので、人体に内部被ばくがあるかどうかチェックするホールボディカウンター検査のコメ版検査、と言えるほど精度の高いもので、福島の人たちにとっては今や胸を張れるものだ、という。

福島県の農業者は風評が消えるまで
コメ検査を続けざるを得ないジレンマ

 藻谷さんも対談の中で、そのコメ検査について「福島県の人たちにとって安全・安心の証明は、県内で生産した自分たちのコメをすべて全量全袋検査して結果を出すしかない。私も現場で検査を見たが、ひたすら全量全袋検査に汗を流す姿を見て、この人たちの必死な気持ちが伝わると同時に、安全性に関しては心配ない、と思った。あとは、福島県の人たちが風評をどう打ち消せるかだ」と述べた。

 ところが開沼さんによると、風評被害に関しては、依然として、福島のコメは放射能で汚染の恐れがあり安全でないのでないか、という意識が根強い。福島県内でさえ安全データを示されても「気持ちが悪い」「本当に大丈夫なのか」と言って頑固に譲らないクレーマーのような人たちが県民の20%ほどいる。福島県外にはその風評がもっと強く、それによる福島産のブランド価値低下で経済的損失に歯止めがかからないのが問題だ、という。
 開沼さんは「福島の農業者は辛い立場にある。今後のコメ検査で放射能ゼロが続いても、もし独自判断で検査を止めたら『なぜ勝手に止めるのだ』と言われかねない。風評が消えない限り、安全の証明のために検査を続けざるを得ないジレンマに陥る」と述べた。

開沼さん「情勢が動いており、
3.11を固定化せずポスト復興期課題に取り組め」

 開沼さんの言動を見ていて、とても評価するのは、さすが社会学者らしく、原発事故による社会学的な影響調査を定点観測の形で辛抱強く続けながら、その調査結果を丹念に分析し今、何が課題かを探って世の中に対し問題提起していることだ。それだけに、今回の対談でも、現場分析を踏まえた言葉には説得力があった。

 対談での開沼さんの問題提起を私なりに要約すると「3.11の災害、原発事故の影響などを固定化してはならない。福島の現場は時々刻々、変化している。ところが福島の自治体職員の間で問題対応に耐え切れず、自殺する人も増えてきた。原発事故で避難を余儀なくされた人たちのうち、高齢者らはコミュニケーション力に欠けるため、心的な病に陥るケースも増えた。ポスト復興期の新たな課題として取り組む問題が山積している」と。

PAGE TOP

 登録はこちら 詳細はこちら