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時代刺激人-ジダイシゲキビト-経済ジャーナリストの辛口メッセージ

Vol.294

2017.06.30

宅配便に危機、物流新イノベーションを
ネット時代の社会インフラ見直し急務

 宅配便大手のヤマト運輸は、不思議な企業だ。インターネット通販(以下ネット通販)増大に伴う宅配現場の人手不足による深刻な配送遅れ、巨額の残業代の未払いなど引き起こした問題が日本中の関心を呼び、社会問題化させた。そればかりでない。ネット通販が今後の大きな潮流となるのは避けられないので、この際、宅配を含めた物流という社会インフラをどうするかを考えるべきだ、との議論も誘発した。一企業の問題で、これほど社会的な広がりが出たケースは珍しい。失礼ながらライバルの宅配便の佐川急便や日本郵便に同じような問題が出ても、ここまで多くの人を巻き込む議論にならなかっただろう。

ヤマト運輸は不思議な企業、配送遅れなどで
社会問題化しても「頑張れ」コール

 しかも、そのヤマト運輸が、窮余の一策として、値上げを表明した時に、「企業の自助努力なしに安易に値上げとはけしからん」と反発が噴出するか、と思っていたら意外にも「やむを得ない。その代わり改革にしっかり取り組め」と頑張れコールが大勢になった。なぜなのだろうか。私の見るところ、個別宅配システムをビジネス化したヤマト運輸創業者の小倉昌男さん(故人)の「利益よりも顧客サービスを」という経営理念が今も現場に浸透しており、それが多くの人たちから企業評価を得ているからでないか、と思う。

 現に、私もクロネコマークのヤマト運輸の宅配便を活用することが多い。セールスドライバーと言われる現場の人たちは、感心するほど、よく動く。先日も、首都圏が強い風雨に見舞われた際、東京都心ビル街で、雨合羽もなしに、荷物を載せた台車と一緒に小走りに動き回る姿を見て、思わず「ご苦労さん」と声をかけざるを得なかったほどだ。

創業者小倉さんの経営哲学が現場に浸透したが、
問題は改革に向けた取り組み

 独自サービスを生み出した創業者の小倉さんはリーダーとして傑出している。反骨の人で、政府の規制に対して大胆に挑戦する実績がある。経営理念も「よいサービスをすれば顧客に喜んでもらえ扱う荷物も増える。地域あたりの荷物個数が増えれば密度化が進み、生産性上昇につながり利益も増える。だから利益よりも、顧客サービス提供を」という。
米国のヘルスケア大手、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も同じ顧客重視の経営姿勢が評価されている。いずれもリーディングカンパニーとしての軸がしっかりしているところが「強み」なのだろう。しかし問題は、ヤマト運輸の今後の取り組みだ。

 そこで、本題だ。ヤマト運輸の作り出した短時日に素早く個別宅配するネットワークシステムは、日本の社会インフラとなっており、世界に誇ってもいい。問題は、このシステムの崩壊は社会的ロス(損失)となるため、再構築するにはどうすればいいかだ。ただ、小手先の宅配サービスを含めた物流改革ではなくて、物流システム全体を変える新イノベーションが必要だ。スマートフォン(以下スマホ)を使ってタクシー配車を行う米ウーバーのように、デジタル技術を宅配など日本の物流システムに活用することもヒントだ。

ネット通販は拡大必至、
ヤマト運輸の労働集約モデルは限界、大胆なイノベーションを

 結論から先に申し上げよう。インターネット通販が今後、とめどもなく拡大する時代を視野におくと、数多くのセールスドライバーに頼るヤマト運輸のような労働集約的な宅配サービスは、もはや限界がある。今の宅配システムを活かすにしても、米アマゾンがインターネットと物流をつないだイノベーションで新ビジネスモデルを作り出したのを参考に、ヤマト運輸も時代を変えるイノベーションに大胆に取り組むべきだろう。

 そんな矢先、私の長年の友人で、日立コンサルティング社長OBの芦邉洋司さんが経営者仲間の人たちとの会合でたまたまヤマト運輸問題が話題になり、物流システムのイノベーションが必要だ、との点で意見一致した、という。その考え方を聞いてみたら「わが意を得たり」の点があるうえ、参考になることが多いので、ぜひ紹介させていただこう。

芦邉さんらは「宅配業界が競争から共創めざす
オープンイノベーションを」と提案

 芦邉さんらの議論ポイントは、ネット通販が今後10年間に最大10倍規模で扱い高が増える。ヤマト運輸がネット通販大手、アマゾンからの受託荷物の総量制限するのは不可能、値上げで歯止めをかけようとしても荷物量は減らない。労働集約的な宅配便の集配構造のもと、1社での改革対応には限界があり、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の主力企業を軸にオープンイノベーションの取り組みが必要になる、という。発想が興味深い。

 端的には業界全社で、競争から共創をめざす新たなセントラル・コントロール・センターを組織する。その際、どこまでが共創で、どこからシビアな競争か、必ず線引きが必要。そして新センターはラスト・ワン・マイルと言われる荷物受け渡しの末端部分の効率的な配送システムづくりなど、新ビジネスモデルを検討すべきだ、と芦邉さんらは指摘する。

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