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時代刺激人-ジダイシゲキビト-経済ジャーナリストの辛口メッセージ

Vol.295

2017.08.23

ホンダジェット強みは米航空機業界の
「常識」打ち破る主翼へのエンジン取り付け

 「現行のビジネスジェットは胴体後部にエンジンを取り付ける設計だが、もし主翼にそれを取り付けることができれば、エンジン支持構造を胴体後部から排除でき、胴体内の客室キャビンなどのスペースの最大化が可能になる。キャビンが小さく騒音も大きい、といった現行設計のディスアドバンテージをアドバンテージに変えることができる。そうすれば評価も高まり、市場ニーズに応えられると考えた」と藤野さんは言うのだ。

 航空業界の「常識」に対して、後発の自動車メーカーがその「常識破り」に挑戦したい、というのは、後発だけに、その気持ちがあるのは当然だ。問題は、それを実行に移すことだが、それをやり遂げたのだから、そのイノベーションへのチャレンジには脱帽だ。
本田技研が社内でも極秘に航空機研究チームを立ち上げたのが31年前の1986年。飛行機づくりに強い夢を持っていた創業者本田宗一郎氏(故人)にもチーム立ち上げをいっさい知らせず、藤野さんがたまたま研究所を訪れた本田氏にトイレでばったり出会った際も、守秘を通す徹底ぶりだった、という。

本田技研のイノベーションへのチャレンジが
開発パワーの源泉?藤野さんは実行

 本田技研が航空機開発に関して、徹底した秘密主義を貫いたのは、チャレンジして失敗した場合の外部の冷ややかな対応や評価を嫌ったのか、独自技術、言ってみれば「秘伝のタレ」の中身が外部に漏れるのを避けるためだったのか、そのあたり定かでない。
しかし藤野さんは開発に取り組んだ10年後、主翼の上にエンジンを取り付けるコンセプトスケッチを描いた。事業化までの時間はさらに長かった。藤野さんによると、空気力学と空力弾性学の両面から技術的チャレンジにぶつかることはわかっていた。とくに主翼上面へのエンジン配置は、好ましくない空力干渉や強い衝撃波を引き起こし、抵抗発散マッハ数を低下させるため、その克服が課題だった、という。

 講演でのチャレンジ話は専門的過ぎて、私にはなかなか理解できない部分が多かったが、数々のコンピューターシミュレーションなど試行錯誤を経て難題を次第に克服していく。米航空宇宙局(NASA)研究施設やボーイングの施設を借りての風洞試験から「ヒョウタンから駒」状態にぐんと近づいていくあたりの話は苦闘ぶりが伝わってきて興味深い。

冷ややかだった米国も次第に技術力を評価、
イノベーションへの好奇心の表れ

 だが、藤野さんの話で興味深かったのは、主戦場となった米国での動きだ。「米国の学会は、私の新技術開発に対する関心度が高かった。私が研究論文を出したら、普通ならば論文評価に1年以上かかるのに、何と3週間で回答が来て、専門家の間でも認められるようになった。スピード感がすごい」という。イノベーションに対する米国の好奇心の強さだ。

 現に、航空エンジン開発現場から一転、航空機ジャーナリストに転じた前間孝則さんの著書「ホンダジェット――開発リーダーが語る30年の全軌跡」(新潮社刊)によると、藤野さんはボーイングの研究施設を借りて遷音速風洞という音速前後のマッハ数を実現する風洞試験を行った際の時のことを、前間さんにこう語っている。る米国の好奇心の強さだ。
 「最初、ボーイングの技術者たちは、われわれのコンセプトを見て馬鹿にしているような様子で、『まあ、やってやるか』といった受け止め方でした。でも試験を進めていく中で、データが出てくるに従い、その態度が変わってきて、彼らも認めざるを得なくなりました」と。この評価態度の変わりぶりは、安全性評価判断を下すFAAも同じだったようだ。

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