賢者の選択TOP > 時代刺激人

時代刺激人-ジダイシゲキビト-経済ジャーナリストの辛口メッセージ

Vol.295

2017.08.23

米現法開発現場で30か国1800人の技術者、
人材や組織を自由に動かす指導力

 私の見るところ、米国は軍用機、民間航空機を含め技術開発力などで航空機先進国の自負が高い。ところがエンジン取り付けの常識を覆す藤野さんの自然層流翼などの考え方に対し、米国は最初、冷ややかだったが、試験結果を見るうちに、その開発発想や着想のすごさに驚き、次第に畏敬の念となり、最終的に高評価へとなったのは間違いない。その点でも藤野さんが米国のジェット機開発の主戦場で勝負した意味が十分あった、と言える。

 もう1つの異文化コミュニケーション力に関しても、講演時に紹介されたビデオ映像が象徴的だった。FAAからの型式認定を得た時の米国現地法人ホンダエアクラフトの開発現場では30か国の多国籍社員が手を取り合って喜び合う姿が映し出された。なかなか感動的だったが、日本企業がグローバル市場で生き残る秘訣はこのあたりだな、と感じた。

藤野さん
「ホンダジェットは安易に海外企業に頼らずホンダ自身でつくった自負」

 現に、前間さんの著書の中で、工場で主翼製造の責任者を務めるある米国人エンジニアは藤野さんを「ボスはとっても緻密で、知識も豊富だ。彼のために働くのはとても気持ちがいいよ」と語っている。この動きを見ても、私は、ホンダジェットの成功は、藤野さんの航空機エンジンの常識を打ち破る独創的な技術力が第一義的にあるが、同時に、多国籍の技術人材や組織をダイナミックに動かせた藤野さんのリーダーとしての指導力と思う。

 それにしても本田技研工業は面白い会社だ。中でも、創業者本田さんは日本でベンチャー企業が育ちにくいと言われる中で、イノベーションに情熱をもって取り組んだ草分け的な存在だし、その精神が引き継がれて藤野さんのようなリーダーを輩出させた、と言える。
 藤野さんは、前間さんの著書で本田技研の社風について、こう述べている。
 「研究開発のやり方は、おそらく普通の飛行機会社ではできないでしょう。なぜかというと、開発の途中で万一、新しいアイデアがダメだったとなると、一からやり直しになり、膨大な開発費が無駄になってしまい、最悪、開発を諦めることになるでしょう」
 「すべての基本設計は全部、ホンダの中でやってきました。その意味で、ホンダジェットは、安易に海外の専門サプライヤーなどに頼ることなく、文字通りホンダ自身でつくった機体だ、と胸を張って言えます」

東芝はアングロサクソン企業をマネージできなかったが、
独自技術力などで克服可能

 ホンダジェットの開発成功にからむ話は、いろいろな切り口がある。端的には第2次世界大戦の敗戦国日本はドイツと同様、連合国、とりわけ米国から航空機開発の開発製造を禁止され、終戦から7年後の講和条約発効後も一種のトラウマ状態でYS11など一部の自主開発機を除き、米航空機メーカーの下請け生産に甘んじてきた。そういった中で三菱飛行機MRJの問題とは別に、ホンダジェットの独自開発は、もっと掘り起こすチャンスだ。
だが、私は今回、藤野さんの講演を聞いていて、オンリーワンの独自技術開発の重要性、それと主戦場で異文化コミュニケーションを発揮してグローバル企業挑戦をすることが日本企業のグローバル戦略のポイントと感じ、メインテーマにした。

 その点で、東芝が米原発メーカーのウエスチングハウスを巨額資金で企業買収しながら、肝心なところでコントロールできないどころか、損失をかぶらされて手痛い打撃をこうむったのとは対照的だ。「日本企業はアングロサクソン企業をマネージできないのか」と言われてもやむを得ない事態だが、ホンダジェットの場合、それらを克服した。
 藤野さんに講演後、東芝のウエスチングハウス経営の問題点を聞いてみたところ、「他企業の経営をコメントする立場にない」としながらも、「厳しい競争が進行する米国を主戦場にして企業経営を行う場合、最大のポイントは独自技術力、それにイノベーションに裏付けられた長期ビジョン力をしっかりと持つことだ」と語った。確かに、鋭いポイントだ。

PAGE TOP

 登録はこちら 詳細はこちら