• 賢者の選択 Leaders

がん治療に患者目線の選択肢を 免疫の力でがんを治す患者の会 会長坂口 力氏(元厚生労働大臣) がん治療に患者目線の選択肢を 免疫の力でがんを治す患者の会 会長坂口 力氏(元厚生労働大臣)

「賢者の選択 Leaders」
遺伝子と免疫の力で、がん治癒を目指す

ひとりの思いが世界を変える──。変化を続けるグローバリズムの中では、あらゆる分野で真のリーダーの選択と決断が待たれている。「賢者の選択 Leaders」は、毎回話題の経営者、時代のキーマンをスタジオに迎え、グローバルな視点から、今を解き明かすトークを展開。 常に革新を求められるリーダーに鋭く切り込んでいく、ビジネス情報TV番組だ。
今回は特別篇として、徹底した個別化医療の研究でがんの治癒を目指しているシカゴ大学医学部教授 中村祐輔氏が登場。ゲノム治療の第一人者として、遺伝子レベルでがんと対峙し、その治癒をゴールに定めて研究に取り組む同氏ががん治療の最先端を語った。

※音声が出ます

  • がん治癒率は50%を超えて、治る時代がやってくる

    がんの治療をゴールに研究を進めてきた。ゴールはもう目に見えている

    日本人のおよそ2人に1人が罹患し、国民病とも呼ばれているがん。不治の病というイメージは今も拭いきれない。 「既に50%以上のがんは治り、治癒率は今後もさらに上がると感じています」(中村教授)
    そのポイントなるのが遺伝子だ。 「1980年代、がんは遺伝子の異常によって起こることが分かりました。私たちの遺伝子は加齢によって異常を積み重ね、あるレベルを超えると細胞の増殖に歯止めがかからなくなります。それが、がんという状態を指すのです」(中村教授)
    がんは体内の正常細胞が傷つくことで生み出される異常な細胞の塊だ。その細胞が無制限に増えたり、周囲に広がることで身体に悪影響を及ぼす悪性腫瘍を形成する。 「ある種の白血病などは、遺伝子の異常に応じた薬が作られており、高血圧や糖尿病などの慢性疾患と同じように、治療で治癒できるようになってきているのです」(中村教授)

  • ゲノムの最前線から広く浸透してきたプレシジョン医療

    プレシジョン医療の推進

    「ゲノムは親から子に受け継いだり、それぞれの細胞の中に含まれている遺伝子の総称です。病気の性質やがんの性質は患者さんによって違います。そこで私は、個々の性質を見極めた上で薬を選ぶ、オーダーメード医療を1990年代から提唱してきました」(中村教授)
    現在ではプレシジョン医療と呼ばれるようになり、医療界に広く浸透している。患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択して施術。最先端の技術を用いて細胞を遺伝子レベルで分析し、適切な薬を投与するなどして治療が行われている。

  • ピンポイントにがん細胞に働きかける新しい治療法

    遺伝子解析や免疫力を活用した治療法

    患者ごとに異なる治療を選択するために必要なのが遺伝子検査だ。
    「遺伝子を調べることによって、個々の患者の遺伝子にどの薬が効きやすいのか分かります」(中村教授)
    がん治療はさまざまな研究の成果や技術の革新によって、大きく様変わりしている。 「がん細胞が増殖するのに必要な、特有の因子を狙い撃ちする治療に用いられる分子標的治療薬や、身体の免疫を強めることにより、がん細胞を排除する治療法に使われる免疫治療薬によって、ピンポイントにがん細胞に働きかけることができます」(中村教授)
    遺伝子検査によって1人ひとりの患者にプレシジョン医療が実現することで、がんの治癒は大きく近づいてくる。
    「現在は遺伝子を調べても、自分に合った薬を見つけられる人の割合は20%~30%ほどですが、新しい薬が開発されることでその割合はどんどん高まります。これまでのがん治療は、外科療法、放射線療法、化学療法でしたが、これに加えて免疫療法ががん治療法として既に市民権を得ています」(中村教授)

  • 米国の各学会も大きな期待を寄せる免疫療法

    患者自身が本来もつ免疫の機能を回復させることで間接的にがんを攻撃

    免疫とは病気を引き起こす細菌やウイルスなどの異物から体を守る仕組みだ。免疫療法は免疫細胞の機能を高めたり、増強することでがんの治癒を目指す。
    「免疫の機能を強化・回復させるための免疫チェックポイント素材剤という薬があります。多くの方は誤解されていますが、これは薬が直接がんに作用するのではなく、薬が患者の免疫細胞を元気にさせて間接的にがんを叩くものです。その有効性が示されたことによって、患者自身の持つ免疫の力が非常に大切だということが科学的にも証明されました」(中村教授)
    米国の臨床腫瘍学会、血液学会、がん学会でも免疫療法は大きなテーマのひとつだという。どのような形で患者の免疫力を高められるのかに大きな注目が集まっている。

あらゆる治療において、安全性は最も優先されるべきだと同氏は語る。

「しかし、希望をなくして生きるのは辛いことです。標準療法を終えたら、座して死を待つことで本当によいのでしょうか。リスクとベネフィットのバランスを考えなくてはいけません。健康な人のリスクと、余命が迫った人のリスクは違うものです」(中村教授)
新しい治療を受ける権利は、がん患者にとって生きる権利でもある。治癒を目指して生きる権利を尊重し、日本から新しい治療法として免疫療法を生み出していく発想が求められている。病気に合わせた医療ではなく、患者1人ひとりに合わせた治療を──これが同氏の目指す最善の医療だ。

Profile

シカゴ大学 医学部教授

中村 祐輔氏

免疫の力でがんを治す患者の会 会長 坂口力氏

1977年大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院ならびに関連施設で外科医として勤務。
1987年ユタ大学人類遺伝学教室助教授に就任。
帰国後は、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター長などを歴任。
2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長に就任。
2012年より拠点をシカゴ大学に移し、ゲノム医療の第一人者として従事。