世界トップレベルの性能を誇る高周波コネクタメーカーが、同軸から多領域に拡大を図る
株式会社ワカ製作所
代表取締役社長
若林 佳之助
無線通信設備、無線装置、測定器、光伝送装置、医療機器、防衛・航空レーダー、衛星通信などで使用される高周波コネクタの開発・生産を主力事業に成長を続ける株式会社ワカ製作所。そこには常に先を見据えた技術開発で、他社との差別化を図る同社の取り組みがある。
「高周波とは文字通り周波数が高いこと、つまり1秒間あたりの電気・電波の振動数が多いことを指します。簡単に言うと通信が高速化するほど、信号や電波の周波数が高くなります。例えば、ケーブルで信号を送る際、情報量を多くするためには周波数を上げて波をたくさん作る必要があるのです」
モバイル通信を例にとると、3G、4G、5Gと通信を高速化するほど、高い周波数が必要になる。
「当社はこうした通信の高速化に必要不可欠な、高い周波数に対応したコネクタを開発しています。周波数が高くなることで、デリケートになり部品の質によっては反射や減衰が起こり、通信が滞ってしまうのです。そのため、精密なコネクタが求められます」
電気的な理想論では、まったく段差がなく、電気の通りやすさが一定な伝送路を通すことが望ましいが、現実には課題が山積する。
「コネクタは挿抜を繰り返すものなので、段差構造を設けていないと接続部品としての機能を果たしません。高周波への対応を実現するためには、まず求められる性能を出せる設計力が必要です」
理論上の性能を出す設計ができたとしても、加工技術が伴わなければ製品化はできない。
「そこには精密加工の技術が求められます。最新の加工装置を使っていても、そのまま使って満足のいく結果が得られるわけではありません。設計の段階で加工の限界まで抑えるようにします。さらに、組立の段階で調整をしていきます」
ケーブルとコネクタを接続するケーブルアッセンブルの工程では、はんだ付けで熱を加えるため、材料の変形による影響が生じる。ものづくりのノウハウと経験が不可欠だという。
「従来は高周波対応のハイエンド製品に特化したメーカーではありませんでした。創業当初は民生用の接続部品や、カセットテープレコーダーのモーターコイルなどコネクタ以外についても製造していたのです。また、ゲーム機専用のコネクタ開発にも携わりました」
高周波や超高性能というよりも、幅広い分野に果敢に挑戦する方針だった。
「1980年代から高周波コネクタに取り組み始め、次第にシフトしました。当時、民生用のコネクタは安価で大量生産という時代を迎え、当社も韓国や中国の拠点で生産しました。しかし、2000年代になると海外での人件費も高騰し、リーマンショック後は日本の家電メーカーが海外勢に押されていきました」
海外のメーカーは日本ほどシビアな用件を求めないため、やがて競争力を失い、路線変更が必要になったという。
「当社は1980年代から高周波帯への対応を始めていました。蓄積した技術を生かして、製品力を強化していく方向に向かったのです。2013年にはJAXA認定を受けるなど、民生用からより高い周波数への対応と高品質を追求する路線に完全にシフトしました」
宇宙開発向けに求められるのはなによりも信頼性だという。現在取り組んでいるのは、信頼の上に成り立つ高性能化だ。
「無線通信でミリ波を本格的に利用するようになったのは、5Gが取り沙汰されたごく最近のことです。それまでは数百MHzという、当社にとっては比較的低い周波数が中心だったのです。従来から意識的に技術力を磨いていたことが実を結んだのです」
データの高速通信、大容量化が進むなか、高周波コネクタへの期待も高まり続ける。
「当社の製品は既に同軸コネクタで実現できる上限、世界最高の周波数まで到達しています。現在はもう少し上の周波数まで実現しようと研究しています。一桁上までというのは難しいので、同軸以外の方式で実現できる方法にも取り組んでいます」
高周波の根幹に関わる技術は同じでも、部品の構造などは大きく異なるという
「高周波伝送路には、同軸コネクタ以外に導波管という、電波の特性に合わせた管の中に電波を通していく方法があります。また、プリント基板といった回路を使う方法、無線などの方向もあります。いずれも、同軸コネクタとは異なり、例えば基板上なら平板回路における技術などが必要です」
専門分野の設計技術力が求められるため、経験を持った技術者の採用も常に行っている。
「この事業を進めていくためには、優れた技術者や他社との協業も必要です。そのためには当社が先端技術に取り組んでいることをもっとアピールすることが大事です。業界や関係者に伝えるため、現段階では大きな需要が期待できない先端開発品も、他社にさきがけて積極的に製品化しています」
同社のコアコンピタンスは高周波の伝送技術だという。今後は得意分野の力を磨いていくだけでなく、技術領域をさらに拡大していく方針だ。
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