日本の電機産業は今、生き残り分岐点 強み・弱み見極め完全品揃えと決別を


時代刺激人 Vol. 286

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本の産業群で今、地殻変動が起こりつつある。技術力に裏打ちされた国際競争力を武器に、外貨稼ぎができる業種は自動車と電機と言われた時期が長く続いたが、このうち白物家電産業がここ数年、韓国、台湾、中国の追い上げ攻勢に太刀打ちできず、シェアを大きく奪われて凋落の一途と言っていいほどの厳しい事態に陥っている。

日本の産業群で今、地殻変動が起こりつつある。技術力に裏打ちされた国際競争力を武器に、外貨稼ぎができる業種は自動車と電機と言われた時期が長く続いたが、このうち白物家電産業がここ数年、韓国、台湾、中国の追い上げ攻勢に太刀打ちできず、シェアを大きく奪われて凋落の一途と言っていいほどの厳しい事態に陥っている。まさにグローバル競争に敗れつつある。「失敗の研究」の格好のテーマなので、ぜひ取り上げてみたい。
具体的に申し上げれば、液晶テレビで先行した家電大手シャープが経営不振から台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入った。また、三洋電機も経営不振で中国ハイアールに家電の冷蔵庫部門を身売りし、本体部分は家電大手パナソニック傘下に入って完全子会社化した。さらに、粉飾経理で経営悪化に陥った東芝は冷蔵庫・洗濯機など白物家電事業部門を中国の美的集団に売却したことなどだ。しかし日本に限ったことでない。米ゼネラル・エレクトリック(GM)は、日本とは対照的に大胆な事業部門整理の一環とはいえ今年1月、家電事業部門を中国ハイアールに売却した。白物家電産業分野で一時代を画した国々の主力企業が後発参入国の追い上げで地殻変動に見舞われたことは間違いない。

1億人成熟消費市場へのこだわりやデジタル化対応後れ、
スピード経営欠如が敗因

シャープや三洋電機などのケースは、理由がはっきりしている。1億人レベルの成熟消費者がいる日本国内市場向けの高品質の製品づくりにこだわり過ぎて、アジア新興市場などローエンドと呼ばれる低価格品主体の市場を軽視するなど、機敏なグローバル化対応ができなかっただけでなく、デジタル化、ICT(情報通信技術)時代の製品対応に後れをとったこと、さらに決定的なことは資金調達力の差に加えて、設備投資判断を素早く行うスピード経営の面でも差がついてしまった結果、競争に敗退していった、と断言できる。
中でも、韓国サムソン・エレクトロニクスは強烈個性のトップリーダーのもとで、日本をターゲットに追いつき・追い越せの猛ダッシュ作戦で日本の電機産業を凌駕した。今はその企業経営の勢いは中国に移りつつある。ハイアールや美的集団は、技術開発力の弱さを補うため、資本力にモノを言わせた企業合併&買収(M&A)作戦で、技術力のある日本や米国の企業買収に踏み出した。これに人件費など生産コストの差がつけば、太刀打ちができないが、ひと昔前ならば、考えもつかなかったことが今や次々に現実化している。

捨てるものは大胆に捨てて事業転換図った
富士フィルムや米GEが成功モデル

では今後、日本の電機産業は、どういった道を歩むべきなのかが次のポイントになる。結論から先に申し上げれば、厳しいグローバル競争の現実を冷静に見極め、競争に勝つために大胆かつ新たな巻き返し策をとる必要があるが、その場合、重要なことがある。それは、かつてのようなあらゆる製品を誇示するフルセット主義、端的に言えば完全品ぞろえ主義を捨て去ることだ。同時に、すべて自前でやる完璧主義へのこだわりを止め、異業種の優れもの企業、ベンチャー企業などと大胆に連携し、その技術開発力や生産力などを活用してネットワーク力を広げることだ。
それを踏まえて、グローバル競争に勝つ経営ポイントは、その企業の強みと弱みを見極め、捨てるものは捨て、逆に強みに磨きをかけて付加価値生産力を高め、国際競争力を強化していくしかない。需要が激減したカメラ用フイルムを見限り、かねてから培ったバイオ技術など活用して医薬品や化粧品などに事業転換して見事に成功した富士フイルムが好例だし、米GEの大胆な事業転換も成功モデルだ。大事なことは何を捨てるかだ。
経済学の教科書にあるリカード比較生産費論にあるとおり、日本は間違いなく人件費や部品など資材調達費のコスト競争に関して、ライバル国の物価水準だけでなく為替換算しても歯が立たなくなっている。かつて、日本企業は急激な円高に対応して、生産拠点を中国などに移し現地生産によって競争力確保を図ったこともあった。しかし生産移転に伴うおびただしいコストアップ要因を克服してもプラスなのか見極めがつかなくなっている。それどころか一時議論があったように、あおりで国内の生産空洞化を招くだけでなく雇用を大幅削減するリスクがはかりしれないなどの問題もある。

アナリスト泉田さんの分析は鋭い、
「グローバル競争ルール変わったことに気づかず」

しかし今は、そのレベルを越えて、地殻変動が起きている現実に対し、日本企業が対応できているかどうかが重要だ。あるセミナーで出会って鋭い問題意識に共感し、それ以後、交流しているアナリストの泉田良輔さんの分析がとても参考になるので、ご紹介させていただこう。泉田さんは著書「日本の電機産業」(日本経済出版社刊)で、なぜ日本企業の強みが弱みに転じたのか、という点に関して、競争のルールが変わったこと、早い話、地殻変動が起きていることに気づこうとしなかったことに問題があった、と指摘している。
泉田さんによると、日本の電機メーカーはデバイスの強み、その強みを享受した最終製品へのこだわりを捨てきれなかった。ところが通信やネットワークのインフラが大きく変化したことで、電機メーカーが強みにしていた最終製品の機能がスマートフォンやタブレットパソコンにどんどん取り込まれ、ネットワークを通じて不特定多数の人たちが「見る楽しみ」を共有するようになった。もはや、コンピューターやネットワークとつながらない最終製品では競争に勝てないし、消費者に見向きもされなくなっているのだ、という。

「競争優位見極める」「総合優勝よりも種目優勝」
「プラットフォーム獲得を」など5つ

電機メーカーの経営の強み、弱みを見抜くアナリストらしい分析力に、私自身が目から鱗の部分があるが、泉田さんは「負け戦から学びグローバル競争に勝ち進む5つのパターン」を挙げている。具体的には「外部を使う」「競争優位を見極める」「総合優勝よりも種目優勝を目指す」「そらす戦いをする」「プラットフォームを獲得する」の5つだ。
私がすでに申し上げた事業分野で競争力を失ったものは捨て、逆に強み部分に磨きをかけるなどいくつかの点は同じなので、さすがと思わせる「そらす戦い」「プラットフォーム獲得」のポイント部分のうち「プラットフォーム」に関して述べよう。要は、グローバル競争に勝ち抜く場合、国際標準のルールづくりに主導的にかかわっていることが重要だが、ことルールづくりでは欧米諸国が圧倒的に強い。そこで、日本企業は、国際標準化している外国企業をM&Aなどで傘下に収めグローバル競争力を誇示すればいいという考えだ。

国際標準ルールづくりに積極関与を、
中国のTPP参加検討は国際ルールづくり絡み

それと同時に、日本企業が今後、グローバル市場で大きなシェアを確保する電機製品などを持ち続けるにあたって、重要なのは、その日本企業が国際標準ルールづくりのルールメーカーの役割を果たすか、欧米の有力企業を巻き込んでルールをつくるかのいずれかを積極的に進めることだ。今、中国が日米主導のTPP(環太平洋経済連携協定)に後発でも参加することをひそかに検討している、という中国関係者の情報がある。ひたすらTPPを敵対視していた中国がなぜ、と思われるかもしれないが、中国は日米主導で国際標準ルールを作られてグローバル市場から取り残されるよりも、TPPに参加して国際標準ルールづくりに中国も参加することで競争力を維持すべきかどうか悩んでいる、という。要は、今後のグローバル競争でのポイントは国際標準ルールをめぐる争いだということだ。
次に、ぜひ申し上げたいのは今回、シャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったこと、三洋電機が中国ハイアールに冷蔵庫事業部門などを売却したことなどは、経営不振のあおりで、その選択肢をとらざるを得なかった点に関することだ。すでに申し上げたように、あらゆる事業部門を装備してフルセット主義で強み保持、という時代には無理があり、コスト競争力の面で決定的に勝てなくなった事業部門に関しては、事業譲渡などで見限る発想を持つしかないが、今後のグローバル競争時代の電機産業のビジネスモデルとして、日本のものづくり企業が持つ「すり合わせ」機能をグローバル化にうまくつなぎ合わせ強みにする戦略的な発想が重要だ。

シャープOB中田さんは鴻海精密と
「すり合わせ国際経営2.0モデル」連携を主張

この点について、シャープ問題の取材過程で私が関心を持ち、その後交流を続けるシャープOBの中田行彦立命館アジア太平洋大学教授の話がとても参考になる。中田さんはシャープで液晶技術本部技師長などを務めたあと、外からシャープ経営を分析しているが、最近ご自身の著書「シャープ『企業敗戦』の深層」(イースト・プレス刊)で、ポイントをつく指摘を行っている。
中田さんのキーワードは「すり合わせ国際経営2.0モデル」だ。具体的には、シャープが今後、鴻海精密工業の傘下に入って生き残りを図る際、シャープの「すり合わせ」による研究・開発力とブランド力を使い、鴻海精密工業の生産技術と中国などにある生産工場や世界に広がる顧客のネットワークを活用する、言ってみれば「国際水平分業」のネットワークの形成だ、と中田さんは著書や講演で盛んに述べている。
ここでいう「すり合わせ」は、日本のものづくりの世界では重要な手法で、独自設計にもとづき複数の部品をうまく組み合わせて品質のよさ、使いやすさなどの付加価値部分を巧みに生み出す手法だ。日本のものづくり企業が世界に誇る生産手法だが、今やデジタル化が進んでコンピューターによる設計や製造、とくにコンピューター上でつくった3Dという3次元データを設計図にして立体物つくっていく対極の新生産方法にプレッシャーをかけられている。
しかし中田さんは、インターネットが発達すれば、グローバルの遠距離の世界でも日本のものづくり産業の強み部分の「すり合わせ」をうまくマッチングさせれば、むしろ強みが倍加する、という。そこで、シャープの生き残り戦略は、鴻海精密工業の傘下に入ったとはいえ、互いの持つ強み部分を補完しあうようにすればいい、とくに鴻海精密工業の中国を含めグローバルに広がる生産力、それにテリー・ゴウ会長のスピード経営判断力をうまく活用すればいい、という。

中国ハイアールも旧三洋電機の技術陣を活用し
洗濯機で日本市場シェア確保

中国ハイアールが旧三洋電機から事業買収した冷蔵庫、洗濯機の白物家電事業部門は現在、旧三洋電機の技術者が中心になって新機種開発に力を注ぎ、「ハイアール」、それに「アクア」の2つのブランド名で日本市場でも一定のシェアを確保するほどの健闘ぶりだ。現に旧三洋電機の「アクア」ブランドがそのまま活用されている。
中国や台湾、韓国の企業にとっては、1億人の成熟消費人口がいる日本に市場参入してシェアを確保するのは厳しいため、まずは旧三洋電機やシャープのブランド力、技術開発力などをうまく生かして、まず実績をつくること、日本市場で評価を得れば、他のアジア市場、あるいは欧米の先進国市場に輸出しても市場浸透を図れる、という考えもあるのは間違いない。
でも、重要なことは、日本の電機産業にとって、地殻変動が起きて、大きな試練を味わっているが、競争力を失った事業分野は捨てて、逆に強みを誇れる事業分野は磨きをかけて、新たな付加価値で対応すること、さらにシャープOBの中田さんが指摘するように、事業分野によっては中国や韓国、台湾企業と提携し「すり合わせ国際経営2.0モデル」で生き残りを図ってもいいのだ。日本はこのグローバル競争時代に新たなビジネスモデルづくりにチャレンジすればいいのだ。

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