「国会議員の怠慢、放射線除染急げ」 児玉東大教授の政治批判が共感呼ぶ


時代刺激人 Vol. 147

「7万人の人たちが原発事故で(未だに、住みなれた)自宅を離れてさまよっている時に、国会はいったい何をやっているのか」、「福島原発事故で漏出した放射性物質の総量は広島原爆の29.6個分に相当するものだ」――東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が今年7月27日の衆院厚生労働委員会に参考人として出席、原発爆発事故で被災する人たちの思いを代弁する怒りをぶつけると同時に、国民の放射線汚染の不安除去には今すぐ放射線の測定や除染が最重要であることを切々と訴えた。現場体験をベースにして行動する、真面目な学者の発言だけに、多くの人たちが胸を打たれる話だった。

国会参考人としての訴えがYouTubeなどネット上に拡がる
今のようなインターネットの時代はすごい。この児玉教授の怒りや訴えがあっという間にYouTubeはじめ、ネット上に、さまざまな形で流れ、大きな波紋を与えた。与野党を問わず政治家が、不毛の「政局」に明け暮れて、肝心の東日本大震災で苦しむ被災者の人たちの復旧・復興支援を後回しにしている現実があるため、この痛烈な政治批判が多くの共感を呼んで一気に拡がった。

実は私自身、取り組む分野が違っていたこともあり児玉教授自身を知るよしもなかった。だから国会での政治批判も「ぜひ、見ておいた方がいいぞ」と勧められるまでは気がつかなかった。でも、ネットの時代というのは、本当にすごいネットワーク力、情報の伝播力がある。2つのネットワークの仲間の人たちから、時間差を置いて声がかかった。見てみると、確かに具体的な事例をもとに放射線の除染が必要であること、そればかりか測定や検査する機器が極度に不足し、除染も後手、後手に回っている現実を知った。これは素早い行動が大事と、今度は私が伝言ゲームでのリレーのように、他の友人たちに伝えた。

メディアも関心、南相馬市の自治体主導の除染協力は1面トップに
メディアもやっと動き出した。東京新聞が8月1日付のコラム「筆洗」で、また2日後の3日付「こちら特報部」で児玉教授の訴えを取り上げた。毎日新聞も8月8日付の朝刊インタビューで大きなスペースを割いて、その問題提起を引き出している。それと、読売新聞が8月7日付の朝刊1面トップ記事で、福島県南相馬市が8月、9月の2ヶ月間に、自治体主導での放射性物質の除染作業を行うと発表したことを大きく取り上げていたが、その除染作業に児玉教授ら東大アイソトープ総合センターが積極協力する、というのだ。

まだ発言の訴え部分をご存じない方々のために、問題を浮き彫りにした国会での参考人発言のポイント部分を少し紹介させていただこう。児玉教授は発言前に、自己紹介していたが、それによると、教授自身は内科医で、東大病院での放射線の内部被ばく問題に取り組み、放射線の除染に数十年かかわってきた。とくに抗体医薬品にアイソトープ(同位元素)を付けてがんの治療を行っているが、人間の身体にアイソトープを打ち込むため、内部被ばく問題に関しては、研究者としても大きな課題であり取り組んできた、という。

教授は「個々の放射線濃度が問題でない、
総量こそが大事」と強調
そこで、本題に入ろう。まず、教授は「3月15日に、東大アイソトープ総合センターが(茨城県)東海村で5マイクロシーベルトという放射線量を観測し、(量が多かったため、放射線障害防止法にもとづき)第10条通報という形で文部科学省に通報しました。その後、東京で0.5マイクロシーベルトを超える線量が検出されました。一過性であとになって下がりましたが、東京(や原発周辺地域)でそれ以降、雨が降り、これが今日まで高い線量の原因になっていると思います。この時に枝野内閣官房長官が『さしあたって健康に問題はない』と、記者会見で言われましたが、私は、(むしろ)これは大変なことになるぞ、思いました」と。

教授によると、現行の放射線の障害防止法は、高い線量の放射線物質が少しあるものを処理することを前提にしている。このため、法的には総量はあまり問題ではなくて、個々の濃度だけが問題になる。しかし自分たちのような専門家は、放射線障害を診る場合、総量を見る。東京電力や政府は、今回の福島第1原発事故で漏出された放射能の総量がどれぐらいか、はっきりした報告をしていないことが大問題だ、という。

原爆放射線は1年で1000分の1に、
原発漏出分は10分の1しか低下せず
ここから核心部分だが、教授は「私どもアイソトープ総合センターの知識をもとに計算してみますと、熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するもの(放射線量)が漏出しております。ウラン換算では20個分のものが漏出していると換算されます。さらに、恐るべきことは、これまでの治験で、原爆による放射線の残存量と、原発から放出された放射線の残存量は、原爆が1年で1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度にまでしかならないという点です」という。

そして、教授は、南相馬市で現在行っている緊急避難的な放射性物質の除染で、「えっ、そんな場所に放射線量が溜まっているのか」と驚く現実を述べている。具体的には「子供たちがよく遊ぶ滑り台に、雨水がザーッと流れて来ますと、子どもが手をつく滑り台には毎回、雨が降るたびに、放射線量が濃縮します。右側と左側とずれがあって、片側に集まります。平均線量1マイクロシーベルトの所だと、濃縮で10マイクロシーベルトの線量が出てきます。こういう所の除染は緊急にどんどんやらねばなりません」と訴える。確かに、日ごろ、われわれが気づかない部分に、目に見えない放射線量が濃縮し、子どもたちの生命をむしばむリスクがある、というのはとてもこわい話だ。

緊急避難とは別に恒久的な除染が必要、
民間の最新鋭技術を生かせ
現場体験を踏まえ具体的な事例で訴えるので、教授の話は自然と引きこまれてしまうが、スペースの関係で、とても全体を紹介できないので、最後の訴え部分を取り上げよう。
教授は、さきほど述べた緊急避難的な放射性物質の除染とは別に、内部被ばくから将来ある子どもたちを守るために恒久的な除染が必要であること、ただ、巨大な事業であり、財政面でも何十兆円という巨額なものになるため、利権がらみの公共事業になることを恐れるが、まずは除染研究センターをつくること、そして日本の民間が持っている最新鋭のイメージングなどを用いた機器を福島県に投入すべきであること――などが早急に必要だ。国会は、7万人の被災者が自宅に帰れずにさまよって避難所生活で苦しんでいる時に、いったい何をやっているのか、という政治家の怠慢を怒る結びとなった。

現行の放射線障害防止法が実体に即さず、
現場では問題が発生
この教授の話で、もう1つだけ付け加えておくべき話がある。現行の放射線の障害防止法が実体に即していないこと、早い話が今回の東電福島第1原発の爆発事故という、日本のみならず世界中を震撼させる巨大事故を、そしてその影響度合いを現行法がまったく想定していなかったことから、現場ではさまざまな問題が生じている。このため早急に法改正か新法制定に取り組むべきなのに、国会は何の対応も出来ていない、という批判点だ。

教授によると、東大アイソトープ総合センターが南相馬市で放射性物質の除染作業を行う場合、現行法では幼稚園など各施設で取り扱う放射線量が決められ、セシウムの使用量制限がある。現実問題として、除染作業によって高濃度の放射線量を検出しても、それらを施設に置いておくことなど、到底できないため、教授らはドラム缶に詰めて、東京に持ち帰っているのが現実だが、これらの行為はすべて法律違反。この矛盾は現時点でも、法改正も新法制定も出来ていないため、法律違反が続くおかしな現実がある、という。

見えない放射線のコントロールが大事、
がん治療には有効な面も
放射線という見えないものをどうコントロールするか、教授の内部被ばくを防ぐ内科医師にとっても重大課題なのに、よかれと思ってとった行動が法律違反というのは納得できない、となるのは当然だ。

この放射線コントロールという問題に関して、私には実体験がある。私は、放射線治療による手術で前立腺がんを克服している。正確には小さな金属片に放射能を埋め込み、それをがんのある患部に射ち込む小線源治療だが、1年近くかけて放射線でがん細胞を除去してしまった。要は、教授が指摘するように、放射線の内部被ばくに注意し、うまくコントロールすれば、がん治療には極めて有効なのだ。同じように放射線の測定、そして除染もしっかり行えば、恐れなくても事態の克服は不可能でない、ということだ。

福島県の行政現場は安全検査に必要な機器や
スタッフ不足で問題噴出
しかし、現実の世界は、東電福島第1原発の爆発事故を受けて、見えない放射線の恐怖に、多くの人たちが苦しんでいる。現に、牛肉やコメ、野菜などの食品の放射能汚染問題1つをとっても、大騒ぎになり、とくに牛肉に関しては、国や自治体が畜産農家対策、それに消費者対策もからんで放射能汚染の疑いのある牛肉に関しては買い上げざるを得ない状況に陥っている。この話は、私も少し取材したことがあるので、別の機会に現場の話はじめ行政の対応の遅れなどを取り上げてみたい。

福島県の現場からのメディアの報道だけを見ても、放射性物質の件差に当たる自治体ではゲルマニウム半導体検査機器などの設備が極度に不足しているばかりか、生ものの食品は時間をおかずに安全なのか、廃棄処分すべきなのか、その判断を急ぐ必要があるのに、肝心の検査機器だけでなく関連設備、さらには専門機能を持つスタッフの絶対数の不足などの問題が噴出している、という。
改めて原発事故の社会的な広がりの大きさに、試練が待ち受けていることを痛感せざるを得ない。その意味でも、スピーディな政治、それに行政の対応が必要だ。タテ割り行政の弊害がまだ現場では延々と続いている、というから恐ろしい事態だ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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