「日本は人口減少など危機克服策を」 米国専門家が2050年復活シナリオ


時代刺激人 Vol. 287

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

近未来の日本はどうなるか、といった予測のレポートや小説に遭遇すると、4、5年先でも大きく変動することが多いうえに先がなかなか読めない現代世界で、よく大胆に推論を踏まえた見通しを書けるものだな、と思うことが多い。

近未来の日本はどうなるか、といった予測のレポートや小説に遭遇すると、4、5年先でも大きく変動することが多いうえに先がなかなか読めない現代世界で、よく大胆に推論を踏まえた見通しを書けるものだな、と思うことが多い。
ところが今回取り上げてみたい、と思ったクライド・プレストウイッツ氏の著書「近未来シミュレーション 2050日本復活」(東洋経済新報社刊)はちょっと違う。
これまでの近未来ものと違い、日本の再生や復活に関して何がポイントか問題の所在をよくつかんでいて、ヒントになる問題提起もあり日本の将来を考える上で参考になること、しかも筆者自身が日本を戦略的に見る「訳ありの米国人知日派」という興味深い点があることだ。
 

筆者は「訳あり米国知日派」、
かつての「日本たたき」がなぜ今、復活論なのかに興味

訳ありの米国人知日派」というのは、著者のプレストウイッツ氏が、かつて米レーガン政権時代に対日貿易赤字是正のため、日本に市場開放を求める米側のタフな交渉官として有名で、米ワシントンポスト紙記者が当時「ジャパン・バッシャー」(日本たたき)と命名するほど厳しい対日市場開放要求を行い、日本側を震え上がらせた過去があるからだ。

日本での生活経験があり、貿易交渉を有利に導くため日本研究を徹底して行った、という意味での知日派だが、米国中心に世の中が動くべきだとの思い込みの発想によって、世界中にアメリカナイゼーション(アメリカ化)を強要する米国至上主義者ではない。

しかも別の著書「東西逆転」(日本放送協会刊)では米国の慢心にブレーキをかけ、今後、経済成長を背景に台頭する中国、インド、ブラジルなどBRICS諸国に対してしっかりとした戦略軸を持たないと、米国がリーダーシップを失う、と鋭い指摘を行っている。

しかし私が興味を持ったのは、過去の対日貿易交渉にあたって日本の強み、弱みの徹底研究を行い、交渉を有利に導くためとはいえ、日本を追い詰めるかのように弱み部分にグサッと攻め込んだ人物が、なぜ今、日本復活シナリオを書こうとしたのか、という点だ。

 

35年ぶりの日本は先端技術国家、
「イノベーションで無人自動車、交通事故はゼロ」

まず、プレストウイッツ氏がどんな2050年の日本を描いたか紹介しよう。冒頭の「2050年東京」部分がなかなか面白い。米国から東京へ35年ぶりに出張した人が東京羽田空港に全日空機で降り立つところから話が始まる。

搭乗したミツビシ808型超音速ジェット機は1970年代に英仏共同開発のコンコルドとは比べものにならない機材で、巡航速度が2倍、航続距離も3倍近い、カーボンファイバーや最先端電子機器を搭載している。

さらに、開発した三菱重工は2020年に、事故などで倒産した米ボーイング社を買収した、との設定で、このスーパー飛行機の製造と輸出を世界で独占した結果、日本の貿易収支が大幅黒字になるほどの貢献度だ、という。現在、三菱重工子会社の国産初のジェット旅客機MRJの立ち上がりが遅れ、苦戦しているのとは対照的だ。

2050年日本の話はさらに続く。

「羽田空港に降り立つと、入国審査も通関手続きもない。パスポートは機上でスキャンされ、フライト中に、そのデータが審査されている。(到着後)彼の荷物を積んだロボットが出迎えてくれる。ロボットに案内され、予約しておいた鉄道かインテリジェント自動車の発着ターミナルへと向かう」

「ここで目にするのが、本当の先進日本だ。都心だけでなくどこへ行くにも、運転手がハンドルを握るリムジンバスやタクシーはいない。ロボットが操縦する高速鉄道や無人自動車を利用する。もはや、日本では誰も運転などしない。道路も建物も乗り物も、すべてがスマート化されている。こうしたイノベーションのおかげで、日本では交通事故がほぼなくなり、当然ながら交通事故による死傷者もいなくなった」と。

本当は「失われた20年」経て活力失った
日本の行く末心配、2017年危機を主張

何ともすごい日本の近未来を想定しているが、日本には技術革新力があるため、2050年時点の姿を描くとこんなシミュレーションをベースに、今後の社会システムづくりに関して、日本は世界の先進モデルを作り出せる国になる可能性があると評価している。

しかしプレストウイッツ氏の本当の問題意識はそこにない。日本はバブル崩壊後のデフレの長いトンネル「失われた20年」を経て、以前の政官財一体の日本株式会社主導で目標に向かって動いたアクティブな姿が2015年から2017年にかけて消える。「仕方ない」という諦めムードが政治、経済リーダーのみならず社会に漂って、活力に欠ける日本に変貌し今後の行く末が心配、というのだ。そして、日本の2017年危機を主張する。

要は、先延ばしで来たさまざまな課題解決に取り組み、構造改革に努めないと、2017年に一気に問題噴出する、という設定だ。

そのシミュレーションによると、2016年半ばに、安倍首相が掲げた経済政策「アベノミクス」の限界が見え、日本経済復活ができないことがはっきりする。興味深いのは、日本が何と国際通貨基金(IMF)借り入れに頼らざるを得ず、事実上のIMF管理下に入る、という。国民財産の大半が注ぎ込まれている国債に下落リスクが急浮上し、資産目減りや国債暴落の恐怖から年金信託や投資信託が日本国債はじめ円建て資産の売却に走る。政府や日銀は資金流出を食い止める利上げに消極的で、資産逃避に拍車がかかり、ついにIMF借り入れに走る、というのだ。

 

専門家による「特命日本再生委員会」で
人口減少策に手を打たないと絶滅の危機

そればかりでない。ソニー経営が内向き志向になり、追い上げる韓国サムソン電子と手を結ぶ決断に及び、2017年に吸収合併を余儀なくされる、という話もある。プレストウイッツ氏は、これら最悪の事態に陥りかねない日本に歯止めをかけるため、日本のさまざまな分野の専門家からなる「特命日本再生委員会」という委員会の組織化、そして日本復活シナリオづくりに入っていく。

日本研究を続けた知日派米国人が委員会を通じて、まず手掛けるべきだと打ち出したのが人口減少対策だ。2050年までに人口が8800万人まで落ち込む日本政府予測の先にはやがて年間1000万人の人口が減り、何も手を打たなければ絶滅する可能性があり、日本社会は機能しなくなる、という。委員会は、働き手であり母親の女性の就業率を大胆に高めることを最重要対策にあげ、さまざまな対策も提案している。ポイント指摘の部分が多く参考になる。そして、いずれタブーの移民受け入れに踏み込む決断が必要という。

 

新・日本経営モデルで生産性の大幅引き上げを、
高齢社会システムづくりも提案

また、委員会は日本経済復活のために新・日本的経営モデルづくりを打ち出した。生産性を大幅に引き上げることが軸になっていて、たとえば高度先端技術や製品開発力で世界のリーダー的な力を持つ中堅・中小企業をドイツの同種の「ミッテルシュタンド」企業向け対策に合わせて、世界市場進出や起業支援のために政策金融を充実強化する策、また税制改革に関しても法人税率をシンガポール並みの15%、消費税率を6%に逆引き下げる代わりに累進税率を所得に応じて高くする個人所得税の導入なども打ち出した。

スペースの関係で多くは紹介できないのは残念だが、日本の強み・弱みを知る知日派の問題提起はそれなりに参考になる。ぜひ、読まれたらいい。

そんな矢先、プレストウイッツ氏が日本記者クラブで講演するというので積極参加した。質疑応答時に、質問は1問と制限されたので、私は、日本が人口の減少と同時に高齢化にいや応なしに向き合わなくてはならない一方で、日本には世界で未踏の高齢社会システムづくりにチャレンジできるチャンスがあり、新たな制度設計を作り上げて、中国など後発の人口高齢予備軍を抱える国々に問題提起すれば、存在感をアピールできると思うが、どう考えるか、と聞いた。プレストウイッツ氏は、「同感だ。日本は、人口の高齢化という弱み部分を強みに変えて、先進事例として、各国に示して行けばいい」と答えた。

米国にとって同盟関係にある日本の弱体化はリスク、
そこで活力回復を狙った?

さてここで、冒頭に「対日貿易交渉で日本を追い詰めるかのように弱み部分にグサッと攻め込んだ人物が、なぜ今、日本復活シナリオを書こうとしたのか」という疑問に関する答えを申し上げよう。私は、この本を読んでいて、米国の知日派を中心に、経済的に低迷を続け、しかも人口減少など構造的な課題の解決を忌避して弱体化する日本の存在は、同盟関係にある米国にとってリスク、という判断も出てきたため、この際、逆に復活シナリオを提案して、米国のライバルにならない程度に活力回復を狙ったのでないか、と。

もう少し申し上げると、今回の米大統領選の共和党大統領候補のトランプ氏が、財政赤字削減のために同盟国にもそれぞれの国に駐留する米軍基地の費用負担を求める、という発言ともリンクする。早い話が、米国は巨額の財政赤字を抱える中で、経済の低迷に苦しみ財政、金融政策両面で身動きがとれない状況を打開するためにも今後は、同盟関係にある国々が米国頼みにならないように経済活性化につながるマクロ政策を求めると同時に、米国の負担を肩代わりするような同盟関係に持ち込むべきだ、という考えがあることだ。

 

「米国による安全保障の傘が小さくなる状況と向き合え」
と日本の米国頼みけん制

そのヒントが本の中にいくつかあった。たとえば、プレストウイッツ氏はパックス・アメリカーナ(超大国米国の覇権で成り立つ平和)が弱まってきた問題に関連して、「米国が直面したのはコストの問題だ。通常、覇権を握る国は、自分の庇護下にある国の安全を保障する代わりに負担を求めるものだ。しかし、米国の場合、安全を提供するという『特権』に自分で代価を支払っていた。直接的には同盟国を守るために米軍を投入したこと、間接的には莫大な貿易赤字という形での負担だ」と述べている。この言い方は、トランプ氏の大統領予備選時の同盟国に全額負担を求める発言につながる。

そして、プレストウイッツ氏は「日本は1945年以来続いてきた米国による安全保障の傘が今後小さくなる状況と向き合わねばならない。それが、日本の抱える最大の課題だと理解することが重要だ」と述べている点だ。その際、「長年にわたり、日本は米国主導による安全保障同盟の庇護の下で安穏としていることに慣れてしまい、そうした状況が変わることなど、想像もできない。しかし間違いなく変わる」とも述べている。

 

米国は地域覇権に踏み出す中国に単独で
相対峙困難と判断、日本を巻き込む狙い

プレストウイッツ氏は、この著書で、弱体化する日本に危機感を持ち、2050年日本復活シナリオを提示したかったのは間違いない事実。しかし、そのシナリオの背景には米国自身の地盤沈下、経済力の低下に対する危機意識も事実で、だからこそ、米国にとって、同盟国日本の弱体化は負担増を余儀なくされ、リスクである、と判断したのだろう。

早い話が、中国がアジアで地域覇権を求め政治的、軍事的だけでなく経済的にも攻勢を強め、米国が単独で中国に相対峙するのは難しく同盟国日本を強化してサポートを求める必要がある、その意味でも日本をアジアでニラミをきかす強い存在にしておくことが重要だ、と判断し始めたと言えないだろうか。

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