町の電器屋さんの「攻めの経営」がすごい 独自ビジネスモデルで家電量販店と競争


アトム電器
代表取締役社長
井坂泰博

時代刺激人 Vol. 261

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

今回のコラムは、大阪を拠点に「21世紀型電器店」を標榜して町の電器屋さんの全国フランチャイズ展開を行い、ライバルの家電量販店、それにインターネットを使った家電品低価格ネット販売ビジネスに対抗し、タフにがんばっている事例を取り上げてみたい。

今回のコラムは、大阪を拠点に「21世紀型電器店」を標榜して町の電器屋さんの全国フランチャイズ展開を行い、ライバルの家電量販店、それにインターネットを使った家電品低価格ネット販売ビジネスに対抗し、タフにがんばっている事例を取り上げてみたい。
その経営リーダーは、「経営規模の小さな店は、大手企業には価格競争などで負けて淘汰されていくものだという常識がまかり通るのはおかしい。その常識を打ち破る」とチャレンジ精神旺盛に取り組んでいる。既成概念、固定観念を打ち破ろうとするたくましい取り組みこそが、日本を元気にするポイントになると考え、アタック取材してみた。

全国870のフランチャイズ店網持つ
アトム電器チェーン、「21世紀型電器店」めざす

実は、この話は、私の自宅近くの町の電器屋さんから「面白いビジネスモデルで、がんばっている町の電器屋さんネットワークがある。ジャーナリストならば、たぶん興味を持つだろうと思う。ぜひ、取材してみたらいい」ということを聞いたのがきっかけだ。
経済ジャーナリストの好奇心で事前調査してみたら、ずっと以前にNHKのテレビなどメディアで取り上げられていた。しかし、最近の状況を独自に現場取材して、経営チャレンジ部分を詳しく聞いてみたい、と思い、大阪に別の仕事で出かけた際、足を延ばして現場取材してみたら、これが大当たりだったのだ。

具体的に申し上げよう。町の電器屋さんネットワークを作り出したのは、アトム電器チェーン本部(本社・大阪府羽曳野市)で、井坂泰博社長が経営にあたっている。現在、全国に870店のフランチャイズ契約店を持ち、それらをネットワーク化し、その大口購買力を武器に家電メーカーからエアコンを中心に数多くの電器製品を仕入れてフランチャイズの電器店に卸すのが基本部分だ。井坂社長が標榜する「21世紀型電器店」のビジネスモデルは、過去の井坂さん自身の経営失敗を踏まえて編み出したものだ、という。

家電量販店などの「弱み」を見抜き
アフターサービスや取りつけ工事力を武器に

そのポイントは、ライバルの家電量販店やインターネット販売が圧倒的な強みとして持つ「価格の安さ」、「製品群の多さ・品ぞろえの多さ」、とくに価格面での競争に負けないように必死でチャレンジすることが1つ。同時に、町の電器屋さんが本来的に持つ強み、端的には「痒い所に手が届くアフターケアなどのサービス」、とくに「声をかければ時間調整して早めに対応するクイックアクション」、さらに「電器製品の取り付け工事、修理対応」に磨きをかけるのが2つめ。その2つを兼ね備えた経営展開を武器にする、という。

要は、戦略的に、弱み部分の価格競争力を必死で強み部分に変える経営努力を行う一方で、ライバルの弱み部分の取り付け工事や修理、さらにアフターケアのサービス力に決定的な差をつけて自身の強みを倍加させる。どちらか1つだけでは、競争には絶対に勝てないため、この2つを合わせ持つビジネスモデルにして戦略的な強みをはっきりさせる。これが「21世紀型電器店」経営のポイントだ。

メーカー系列店軸の「20世紀型」モデルが変容、
量販店などからの低価格攻勢

この点に特化した経営を行えば、低価格と品ぞろえの多さを武器に攻勢をかける家電量販店やネット販売網と競争しても生き残ることは十分に可能だ、という。確かに、戦略的な発想だ。

井坂社長の話によれば、これまでの「20世紀型」の町の電器屋さん経営では事態を乗り切れない現実が出てきた。パナソニック(旧松下電器)など数多くの大手家電メーカーがかつて需要旺盛な国内市場で元気よく競争していた時代には、町の電器屋さんも、どこかのメーカーの系列下に入って系列販売店、特約店を「売り」、つまりは「強み」にした。あとは町の電器屋さんが独自に持つアフターケアなどのサービス力、電器製品の取り付け工事、修理対応力の「強み」で地域セールスを展開し、存在感をアピールしてきた。

韓国などの攻勢で家電メーカー再編成、
系列販売切られた電器店は独自競争に

ところが、韓国や中国の追い上げ攻勢を受けて、世界最強を誇っていた日本のエレクトロニクス産業、家電産業は次第にシェアを奪われ、中でも重電・弱電の2つの事業部門を強みにしていた日立製作所が、弱電の家庭電器部門から撤退を余儀なくされる厳しい事態に陥っている。家電メーカーの中には系列販売店網を維持することが厳しくなって整理に及ぶメーカーも出てきた。

井坂さん自身、昔、三洋電機中央研究所に勤務した関係で、独立して家電販売の電器店経営に取り組んだころ、旧三洋電機の電器製品を集中的に取り扱った。そんなかかわりで深いかかわりのあった旧三洋電機も今やパナソニックの傘下に入り、その後、経営統合で社名も消えてしまった。日本が圧倒的な強みを誇っていたエレクトロニクス産業が韓国サムスンエレクトロニクスなどとの競争に敗退を余儀なくされた結果だ。

このため、町の電器屋さんも当然のことのように、メーカー系列を外れ、特約店などの看板を外す店も次々に現れた。そこへ低価格を武器にした家電量販店やインターネット販売の攻勢も加わったため、小規模経営の町の電器屋さんは一気に姿を消すところも出始めた。「20世紀型」経営に代わるビジネスモデルの模索が始まってきた、という。

井坂さんのキーワードは「雑魚は磯辺、
クジラは太平洋に」、身の丈経営を主張

井坂さんは、私の取材に対して、何度も自身の経営のキーワードが「雑魚は磯辺、クジラは太平洋に」あることを強調した。最初は、なかなか理解しにくかったが、話を聞いているうちに、その意味が理解できた。要は、小さな魚は磯辺で泳いで棲みついている限り、クジラなど大きな魚に食われることもなく、うまくいく。逆に、クジラはエサを求めて磯辺に近づくと、次第に身動きがとれなくなり、下手をすると死んでしまう。互いに、棲み分けを行うと同時に、身の丈に合った経営をすればいいのだ、ということなのだ。

ただ、現実問題として、実際の経営の現場で、雑魚とクジラがうまく棲み分けして互いにハッピーということはあり得ない。では、なぜ井坂さんは、その言葉を経営キーワードにするのだろうか。問題は、そこだ。

家電量販店に対抗して背伸びしたら負け、
むしろ弱み部分を探り逆手で勝負

井坂さんによると、身の丈に合った経営をすることが重要で、フランチャイズ契約を結んだ企業に説明する際のポイント部分として、このキーワードを使っている。たとえば家電品の販売競争が厳しい中で、ある町の電器屋さんの近くに大型の家電量販店が進出してきた場合の対抗策に関して、その電器屋さんが値引き競争を行うばかりか、品揃えの多さを見せるために、背伸びして電気製品を買い入れて見栄えよくしようと競争を仕掛けたりする地域へのチラシ配布も活発に行い、特売セールのためにアルバイトも確保する、といった段階で、身の丈を越す経営になってしまい、自滅の道をたどるリスクがぐんと高まる。

それよりも、町の電器屋さんの取るべき道は、近くに進出してきたライバルの家電量販店の弱み部分が何かを徹底的に探って、その弱み部分を逆手に取って勝負を仕掛けられるかどうかの見極めが必要だ、とアドバイスする、という。

家電量販店の弱みはエアコンなどの
取り付け工事と見抜き、サービス体制強化も

とくに取り付け工事などで待ち時間のかかるエアコンなどの電気製品に関して、家電量販店は顧客との間で売買契約を結んでも、いざ顧客の家やオフィスへの取り付けでは下請け工事業者の人繰りや作業工程の関係で、順番待ちを理由に、取り付け工事が先になることの了承を求めるケースが多い。そういった時に、町の電器屋さんとしては、スピード対応が十分に可能で、機動的対応が可能だ、という点を全面に押し出すことだ、という。

井坂さんによると、家電量販店、またインターネットでの家電品ネット販売のいずれも、価格面ではそれぞれの経営判断で他社、他店との競争に負けまいとして、価格政策に関しては異常なまでに神経質になる。しかしエアコンなどの取り付け工事が必要な電器製品になると、工事作業人員や作業スケジュールの面で弱みが露呈し、逆に町の電器屋さんの強み部分がぐんと浮上する。しかも町の電器屋さんにとっては、工事費用で利益幅を大きくとれる面があるため、電器製品自体の値付けで家電量販店ともそん色ない低価格に仮に持ち込んでも、この取り付け工事のスピード、さらに工事費用の利幅の部分で十分に競争力を維持できる場合もある。だから、身の丈に合った経営こそがポイントだというのだ。

アトム電器チェーン本部は契約店向けの
修理工事の技術研修でも体制整備

そこで、アトム電器チェーン本部は、全国870のフランチャイズ契約を結んだ電器店に対し、この電気製品の取り付け工事に関して、家電量販店などへの戦略的な強みを維持するため、作業員が不足して顧客のニーズに対応できない、といった事態を避けるため、バックアップシステムをつくっている。端的には、取り付け工事をスムーズに行えるように、本部がそれぞれの地域で取り付け工事業者を確保し、派遣するシステムをつくっているほか、町の電器屋さんのスタッフの取り付けや修理の技術研修などを行う研修センターも独自に確保している。研修センターは10日間、15万円コースを設定している。

しかしアトム電器チェーン本部にとっては、家電量販店などとの価格競争をどうするかだ。井坂社長の打ち出す「21世紀型電器店」モデルのポイントは、町の電器屋さんの強み部分の電気製品の取り付け工事、アフターサービス分野では戦略的な強みに磨きをかける、と言っていたが、やはり価格競争にどこまで太刀打ちできるかだろう。

量販店との価格競争対策が勝負、
最新価格を毎日チェックし契約店に卸すシステム

870店のフランチャイズ契約店の大口購買力を武器に、アトム電器チェーン本部は、家電メーカーから可能な限りの低コストで電気製品仕入れを行うが、契約店が現場でその日、その日の価格競争にさらされる。本部としては、契約店のニーズに対応して、電器製品を卸す際には、家電量販店とギリギリの競争が出来る価格で出す。
井坂社長によると、売れ筋の電器製品などの機種や価格などを網羅した販売促進カタログを毎月、870店に配り、そのカタログの品名、型番などをもとに受発注の作業を頻繁に行うが、このカタログづくり、配布に2か月近くかかってしまう。当然、最新の価格データが反映されていない。そこで、本部は、インターネット上で家電量販店、インターネット販売店の最新の価格データを、そのカタログに毎日のように反映させて価格データを更新し、それをもとに契約店から最終の発注を受け、配送体制に入るという。

井坂社長は「雑魚は磯辺で、という点をキーワードにして、小さくても勝てる仕組みをつくればいい。大事なのは、利益の出る仕組みづくりと経営努力だ。フランチャイズの契約店は着実に増えてきており、多くの町の電器屋さんが地域での生き残りに自信を持ち始めてきた。21世紀型経営でがんばりたい」と述べていたのが印象的だ。要は、戦略の見極めに尽きる、と言える。いかがだろうか。

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