原発事故処理で東電の一時国有化に反対、国民負担での公的資金注入は筋違い まずは東電が最大責任負うこと先決、同時に原発認可した国の責任追及も必要


時代刺激人 Vol. 129

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 東京電力の経営陣はいま、福島第1原発事故現場で連日のように次々と出てくるトラブル発生で必死の対応に追われる一方、放射能汚染の恐怖が増幅されて社会不安となり、それが東電への反発や不満となってきている。針のむしろに座らされている心境だろう。しかし日本国内だけでなく世界中を震撼させる非常事態だけに、やむを得ない。

東電はいま、安全確保に最低でも数カ月が避けられない厳しい現実を前に、まずは事故収拾に向け全力を注ぐこと、夏場の電力需要のピーク時対応に向けて、どういった供給体制をとれるか必死で考えること、今後の被災者へのさまざまな補償や損害賠償にしっかり対応することなど重い課題に最優先で取り組むことだ。間違いなく、東電の企業存続がかかっている。経営がどうあるべきか、責任をどうとるべきかは、そのあとの問題だ。

メディアで国の東電経営関与めぐり観測報道、そのつど金融市場は動揺し混乱
 ところが、そうした中で、最近になって、東電の一時国有化論が出てきた。事故処理や損害補償に巨額な資金を必要とするため、東電単独での企業対応では無理との判断がポイントになっている。メディアの間でも観測記事が流れ、そのたびに株式市場での東電株、また債券市場での東電社債価格が動揺して揺れ動く。海江田万里経済産業相は記者会見で「原発情勢が動いており、いま東電の経営のあり方を議論する状況でない」と述べ、方向がまったく見えない事故の処理が先決との判断を示した。そのとおりだろう。

にもかかわらず、毎日新聞は4月1日付の朝刊1面トップ記事で政府が意向を固めた、という形で「東電、政府管理へ、公的資金投入」と踏み込んだ。「国が一定程度(経営に)関与するため、出資する形になる」との政府高官発言を根拠にし、東電の一時的な政府管理によって事態の収拾を図る、という政府部内の考えをニュースとみたようだ。この政府高官がどのレベルなのか、菅直人首相なのか、枝野幸男官房長官なのか定かでない。経済ジャーナリスト的には関心事の1つだが、メディア報道がお騒がせであってはならない。マーケットがまたも動揺して不安定な動きを誘発しかねないからだ。

一時国有化案は事故処理や損害賠償の巨額負担には国の支援必要が根拠
 ただ、こういった形で一部国有化論まで踏み込んだ議論が台頭する以上、今後の議論が上滑りにならないようにするため、本当に公的資金をつぎ込んでまで東電経営を一時的に国有化の必要があるのかどうか、それに、原発事故対応で事業体としての東電の経営責任が第一義的にあるのは間違いないものの、今回の局面で全く議論されない国の責任はいったいどうなっているのかーーといったことについて、少し述べてみたい。

結論から先に言えば、まず、東電の一時国有化論に関しては反対だ。とりわけ国民負担の形で公的資金を注入といったことには反対だ。なぜ税金を投入して事故処理への対応が必要なのか、初めに公的資金という論理には飛躍がある。ここは、東電があらゆる資産を投げ打って、必死でもがき苦しんで対応することが先決だ。被災者を含め国民は、その東電の経営の取組みを見ないと納得しないはずだ。

「想定外」問題と別に、事故処理検証で「人災」が判明すれば東電も覚悟必要
 東電は、他の電力会社と同様、電力の安定供給という厳しい供給責任義務を負わされているものの、その一方で地域独占という形でさまざまな恩恵を受けてきたことも事実。その東電が、今回の事故の「失敗の研究」の過程で、いわゆる「想定外」という問題とは別に経営の判断ミスが判明したり、あるいは原子炉建屋の爆発事故や炉心溶融リスクなどをめぐる真相究明過程で、仮にもリスク対応について決断の遅れなど「人災」があり、それによって放射能汚染に至る重大事態を起こしたとなれば事業体としての責任は重くなる。
それらの検証が今後、何としても必要だが、事故処理をめぐっては、いずれにしても東電に最大限の経営責任をとってもらわねばならない。そこに、国民負担のような形で公的資金を注入するという話がさきに、しかもすぐ出て来ること自体、おかしなことだ。

毎日新聞の経営再建ヒントに、東電も新旧経営分離で事故処理などの対応を
 そこで、私は、かつて在籍した毎日新聞の経営が厳しくなった際にとられた手法をそのまま、今回の東電に適用し、経営の新旧分離によって事態の収拾を図るべきだと思っている。具体的には、旧社が廃炉を含めた事故処理、被災者や地域住民への損害賠償などに取り組み、その処理にあたる。新社は、民間出資を仰ぎ、首都圏を中心に巨大な電力需要を満たすための供給システムの再構築に取り組む。その場合、民間主導でやるべきだ。
日本航空の場合、会社更生法を踏まえ100%減資、金融機関からの債権放棄、半官半民の企業再生支援機構が公的資金の形での出資で公的管理下に入っての再建だった。東電の場合、事故処理と電力の発電・送電・売電は別々にやるべきで、日航とは違うと思う。

こんな発想でいたら、毎日新聞OBの秋山哲さんが「メディアウオッチ」最近号で「東電の国有化に断固反対する」というコラムを書かれ、やはり経営の新旧分離でいくべきだ、と主張されている。この「メディアウオッチ」は前回のコラムで、「言論はメディアの独占物でない」と書いてメディア以外の人たちも言論形成に参画を、といったコラムだが、そこでの秋山さんのポイントは、現在の東電が廃炉作業や被害補償に限定した会社となる、新会社は経済界あげて出資し、その資金で福島第1原発を除く東電のすべての資産を買い取り、電力供給を担う、という大胆なものだ。

東電など電気事業者の責任に押し付けるのは問題、国の原発認可責任に問題も
 ところで、もう1つ、ぜひ今回、述べておきたい問題は、国の責任がどうなっているかという点だ。3月11日の大地震・大津波、それに続く東電福島第1原発事故のうち、国民生活に大きな不安を与えた原発事故をめぐっては終始、東電の対応が問われた。原発の現場を管理・運営している事業体だから当然のことだ。
事故がケタ外れのものになってくるに従って、東電の現場、東電本社の対策本部、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、首相官邸の対策本部の間の連携がスムーズに行かず、危機管理が大きく問われた。メディア調査報道を見ていると、東電のリスク対応に大きな課題を残し、菅直人首相が東電本社に乗り込んで東電と政府の合同対策本部をつくり、細野豪志首相補佐官を常駐させて危機対応に乗り出した。異例のことだった。刻々と動く事態の推移の中で、この首相判断は評価できるが、問題は、もっと以前の国の責任だ。

今回の福島第1原発を含めて、現在、全国に54基ある原発については、それぞれの電力事業者の建設認可申請をもとに、国の原子力安全委員会や現在の原子力安全・保安院が安全審査などを踏まえてゴーサインを出している。このうち、福島第1原発に関して、当時の国の判断はすべて正しかったのか、地震に対応する原子炉の耐震構造チェックのみならず、今回の大津波をどこまで想定し、安全と見極めたのか、もし、それらの認可判断を越える事故が起きた場合、国はどういった責任を負うことになっているのか、という点だ。
結論を言おう。国は過去に責任をとって担当大臣はじめ行政責任者が引責辞任したケースは皆無だ。今回の福島第1原発の設置認可の判断、責任の所在などに関して、メディアの検証が必要だ。要は、東電など電気事業者だけの責任に帰すべきでない、ということだ。

米国、仏では原発監督に第3者機関、日本の行政はアクセルとブレーキが一緒
 それと、原発安全規制をめぐる米国、フランス、日本の国際比較をした場合、米国もフランスも原子炉設置者の事業体に対して、米原子力規制委員会(NRC)、フランス原子力施設安全局(DSIN)、原子力設備製造検査局(BCCN)が監督チェックすると同時に、そろって第3者機関の検査機関を置いている。
ところが、日本の場合、経済産業省の外郭組織の原子力安全・保安院が監督チェックするだけで、米国やフランスのような第3者機関の検査機関が存在しないのだ。しかも、すでに識者の間では、常に問題指摘されてきた点だが、経済産業省の資源エネルギー庁というエネルギー推進行政機関と横並びで原子力安全・保安院が存在するのは、ある面でアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもので、おかしい。
現在の経済産業省の松永和夫事務次官は資源エネルギー庁で石油部長を、また原子力安全・保安院で次長を、という足取りが象徴的だ。米国やフランスと違って、どこか首をかしげさせる監督官庁の行政の仕組みだ。とくに、中央省庁改革で、かつて旧科学技術庁の原子力安全保安局が経済産業省に一元化され、現在の仕組みなったため、結果として、アクセルとブレーキを同じ経済産業省がコントロールする奇妙な形となった。

東大原子力工学科卒の技術者に独特のヒエラルキー、東電は隠然たる力
 そればかりでない。過去に、いろいろな関係者から何度も聞いた話だが、原子力工学分野の世界は、独特の人脈ネットワーク、それにヒエラルキー(階層構造)が厳然として存在する。具体的には、東京大学工学部原子力工学科を卒業後、まずは東電など電力会社、続いて日立製作所や東芝などの原子力プラントメーカー、大学、そのあとに旧科学技術庁の原子力安全保安局、現原子力安全・保安院という順番で、言ってみればそれがそのまま成績順で卒業生が配置される。
複数の関係者によると、東電などの原子力本部の関係者のプライドの高さは図抜けていて、原子力安全・保安院のような監督機関の同じ原子力分野の技術者も力関係で決まってしまう、という。今回の原発事故で、まさか、東電の現場の技術者のプライドの高さに、原子力安全・保安院の技術者が気後れして対応が遅れたなどということがないことを願うだけだ。

あと、今後の検討課題としては、東電、関西電力、中部電力など電力各社が海岸立地している原発の安全性確保ために、今後、「想定外」というエクスキューズが許されないとしたら、どこまでの大きな津波対応のための安全対策が必要になるのか、同時に、2006年に見直した原子炉の耐震基準に関しても、さらに基準のバーを引き上げる必要があるかどうかの議論も必要だ。

今回事故の教訓は多い、1社単独での原発管理に限界、電力10社再編成論議も
それよりも、今回の東電原発事故での教訓は極めて多い。最近、いろいろな専門家やジャーナリスト、大学研究者の人たちと議論していると、電力9社、沖縄電力を含めれば10社の体制を再検討する時期にあるのでないか、という指摘が目立ってきている。実は、私もその再編成が今後、現実味を帯びてくる、という立場だ。

また、今回と同じような最悪の事態に発展する原発事故が、自然災害などで仮に起きたりするリスクが皆無とはいえない。その場合、仮に1社単独で負いきれないリスクが現実化したりした場合、電力最大手の東電でさえ、この経営危機に陥るのが避けられない事態になったのだ。ましてや経営力の弱い地方電力では対応しきれない可能性もある。
その対応策として、電力の再編成をどう進めるか、ということ、それに、中長期のことを考えたら、前々回のコラムで書いたが、場合によっては電力、ガス、石油の経営統合によって2つ、3つの総合エネルギー会社をめざすことも一笑に付すシナリオではないのだ。

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