今こそ日本はASEANに本格連携提案を 中国や韓国にない強み部分で勝負せよ


時代刺激人 Vol. 260

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

2015年最初の「時代刺激人」コラムをお届けしよう。今回は、日本の立ち位置を戦略的に考え直す格好のテーマを取り上げてみたい。

2015年最初の「時代刺激人」コラムをお届けしよう。今回は、日本の立ち位置を戦略的に考え直す格好のテーマを取り上げてみたい。それは、今年12月から新たに地域統合、市場統合に踏み出すASEAN(東南アジア諸国連合)10か国の巨大地域経済圏にからむ問題だ。以前から、このコラムでも申し上げてきたが、ASEANとの本格的な連携は、中国のASEANへの南下攻勢などとのからみでも戦略的に極めて重要だ。
その場合、日本は、成長志向の強まった6億人のASEAN巨大地域経済圏との戦略展開にどういったカジの切り方をするかがポイントだ。結論から先に申し上げれば、私は、成長への取組みに際してさまざまな課題を抱えるASEANに対し、日本自身がASEANの現場の実情をしっかりと見据えて、兄貴分として、あるいはまた、先行ランナーとしての成功体験、失敗体験をもとにした改革モデル提案を行い、ASEAN各国が不必要な政策判断、誤った企業行動をとらないように互いに協力し合う形をとること、そのことが、ASEANにとって、日本は、中国と違って頼りがいのある、信頼できる戦略パートナーだと位置付けてもらえることになる。日本にとって、それは戦略的にも地政学的にも極めて重要だ。

日本は過去の成功、失敗事例をもとに
ASEANに改革モデル提案することが重要

今年は、そういった意味で、ASEANが地域統合、市場統合という重要な時で、新たなチャレンジに踏み出す時であり、日本にとっては間違いなくビッグチャンスだ。その場合、日本にとって、2つのことがチャンスとなる。

1つは、日本が過去の成功事例、失敗事例をもとに、後発のASEANに対して改革モデル提案を行う際、日本にとっても年金制度や医療制度など綻びのきた制度を見直し、再設計するチャンスでもある。要は、ASEANの改革と同時並行的に、日本自身の大胆改革を行うチャンスが出来るということが重要だ。

もう1つのチャンスは、言うまでもなく成長センターのASEANに深くコミットすることで、日本経済にとって成長の果実を享受できるチャンスがあることだ。この点は、日本がデフレ脱却を果たすためにも必要な点だ。そのためにも、日本はASEANを新たなビジネスチャンスの場とするのは言うまでもないことだが、ASEANの企業との連携を深め、その投資マネーを日本に呼び込み、日本、ASEANでWIN・WINのチャンスを作り出し得る。

ASEAN対応で日本は「上から目線」改めよ、
1人あたりGDPでシンガポールに負け

幸いにして、ASEAN各国は、総じて言えば、親日国が多く、中国や韓国と違って歴史認識などで近親憎悪のような関係に陥るリスクがなく、むしろ兄貴分として、また経済成長面で学びとることが多い国としての評価もある。いい意味で、連携しやすい。

しかし、ここで重要なことがある。日本は、この機会に、ASEANへの立ち位置を変えることも重要だ。率直に言って、日本はこれまで、ASEANへの接し方は「欧米先進国と競合しながら、アジアで最初に経済発展、経済成長を遂げた国」、「アジアで唯1つの先進国としてG5(先進5か国)、G7(先進7か国)に名前を連ねる国」といった形で、主として、経済成長力を武器に、アジアを代表する先進国にこだわってきた。

しかし今や中国にGDP(国内総生産)で世界第2位の座を譲って後塵を拝すると同時に、1人あたりGDPでもシンガポールの5万ドルにも追いつけない状況にある。このため、日本は「上から目線」を止め、ASEANと相携えて、新時代を築く仲間国という発想で対応することが必要になってきた、と思う。

日本提案のASEAN向け改革モデルは
医療や年金、介護など日本の強み分野に絞れ

さて、本題だ。ご記憶かどうか、定かでないが、私は、陸のASEANと言われるタイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマーのメコン経済圏諸国を陸路、動き回り、ジャーナリスト目線で各国の経済社会状況を取材したものをもとに、昨年春、7回ほどにわたり、このコラムを使ってレポートの形でさまざまな問題を取り上げた。今回、その当時、知り合った方々とEメールで情報交換したりしたが、その人たちの情報、あるいはASEANを回って日本に帰国した人たちの情報をもとに、最近の動きなどを踏まえて問題提起してみたい。

冒頭に申し上げたASEANへの改革モデル提案について、日本が提案する場合、ASEANが成長セクターを何に置いて政策の優先度をどうつけるのか、急速な都市化に伴う問題にどう対応するのか、成長のひずみとも言える環境破壊や公害問題の解決には何が課題か、さらにもっと大きな問題は、経済成長を実現しない前に押し寄せ始めたASEANのいくつかの国の人口の高齢化に伴う年金や介護の新たな問題にどう取り組むべきか、といったさまざまな課題への対応がポイントになる。

吉野アジア開銀研究所長も同意見、
医療や介護に加え中小企業金融も指摘

最近、こういった視点で、私がメディアコンサルティングでかかわっているアジア開発銀行の戦略シンクタンク、アジア開発銀行研究所の吉野直彦所長とディスカッションしたら、いくつかの点で意気投合したので、ぜひ、お伝えしたい。中でも興味深かったのは、日本が、タイのバンコクに産業集積している自動車、エレクトロニクスの企業群の次の日本の強み部分のビジネスを、タイを含めたASEAN各国に示せるかどうかだ、という。

吉野所長によると、アジアで急速な都市化が進むにもかかわらず対応の遅れている医療や教育などの社会インフラを充足させるビジネス、いずれASEANで深刻な問題になる人口の高齢化に対応した年金や介護がらみのビジネス、さらにASEAN経済のすそ野部分の中小企業の資金ニーズに対応する中小企業向け金融などが候補だ、という。いずれも日本は欧米諸国のみならず、中国や韓国などに対しても、先行モデル、実績ノウハウを持っており、他の追随を許さない強み部分なので、これらをうまくビジネスモデル化することが重要だ、という。

日本は戦略的な強み、弱みを見極め、
中国や韓国が太刀打ちできない分野で勝負を

私も、以前のメコン経済圏取材レポートで、各国の現地の動きを踏まえて、成長志向の強いASEAN、特にメコン経済圏諸国ではさまざまな日本企業のビジネスチャンスがあること、中でも都市化に対応したさまざまな社会インフラシステム、端的には医療や教育、介護、年金などのビジネス、さらに交通渋滞などに対応するスムーズな交通安全管理システム、水道、ガスなどの都市エネルギーインフラの安全管理システムなどに関して、日本は強み部分を持っているので、日本での成功体験、失敗体験を交えて、ASEANの現場ニーズに合う提案なり、問題提起をすべきだと述べてきた。吉野所長と同意見だ。

とくに、私は、日本としては戦略的な強み部分と弱み部分を吟味、かつ見極め、ある意味では弱み部分を捨てて、むしろ強み部分で徹底的に勝負すべきだ、という考えでいる。メコン経済圏諸国を旅行した際、気が付いたことだが、日本がかつては強み部分として誇示してきたテレビなどエレクトロニクス絡みの家電製品に関しては、中国や韓国、とくに韓国のサムスン電子の製品群が幅をきかせ、価格面でも太刀打ちできない強さを発揮しているのを見た。そればかりでない。サムスン電子の場合、ブランディング戦略やマーケティング戦略の面でも巧みで、日本の同種の製品が店の片隅に追いやられるほどだったのを憶えている。

エレクトロニクス分野は今や韓国が
価格面、ブランディングなどで強み

このエレクトロニクス絡みの家電製品は一例だが、中国や韓国にはモノによっては、価格競争の面で太刀打ちできないばかりか、品質面でも差がなさそうな分野のものを見ていると、日本は、不必要に競争しても無意味とは言わないまでも限界があるのでないだろうか、と思わず考えた。しかし、日本は、それでも技術力に裏打ちされた高品質の製品、さらにそのメインテナンスでは日本は圧倒的な強みを持っている。そういった中国にも韓国にもない「強み」部分に関しては、日本は、間違いなくASEANのニーズに対応して、期待にもこたえられるのだから、そこをどう伸ばすかだ。

しかし、都市化に対応したさまざまなインフラシステム、医療や教育、介護、年金などの制度設計に関しては、日本自身が現在、日本国内でそれらの制度改革の必要に直面しているが、こと、これらの分野は、中国も韓国も、ややオーバーに言えば、逆立ちをしても日本には格段の差があるのだから、この強み部分に焦点をしぼって、新たなビジネスモデルをつくってASEANで勝負していけばいいと考える。

日本の年金や介護制度の弱み部分は
ASEANも研究済み、再設計して提案を

もちろん、ASEANも、日本の年金制度や介護制度などが問題を抱えているのは、十分に研究していて、先刻承知のことかもしれないので、当然ながら、ASEANにモデル提案する際には、制度設計を徹底的に見直し、ASEANの現場のニーズ、現場で受け入れられやすいような制度設計に組み替えることは当然のことだ。

いずれにしてもASEANは2015年12月に地域経済統合のスタートを切るが、関税率の撤廃や国境の税関業務のスムーズ化など「経済国境」を一気に引き下げることで、ヒト、モノ、カネの自由な往来が大きく進み、経済成長に弾みがつく、といったバラ色の事態がすぐに現出するとは、失礼ながら、誰も思っていない。

しかし、ASEANは、すでに申し上げているとおり、6億人の消費市場を含めた広範な広がりがある。各国間の「経済国境」が引き下げられ、地域横断的なプロジェクト展開がどんどん進む可能性が高い。いわゆる互いを連結させるCONNECTIVITY(連結性)が成長をもたらすのは間違いない。日本が、ASEANと戦略的に連携して、成長のチャンスを共有することが必要だ。2015年はまさに、そういった点で面白い年なのだ。

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