日立製作所など大企業が自己資本増強で公的資金活用の動きはサプライズ 銀行の信用収縮下で政府の救済もやむなしだが、企業はビジネスモデル再構築を


時代刺激人 Vol. 35

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

米国発の金融危機のあおりで経営ピンチに立たされる米自動車ビッグスリーへの公的資金注入をめぐって、米国内では国民の税金を使っての企業支援に根強い反発がある。ところが、日本では政府が4月22日に改正産業活力再生特別措置法、略して改正産業再生法を国会で成立させ、自己資本不足に陥っている民間企業の資本増強を支援するための公的資金注入制度を打ち出した。米国と違って、ねじれ国会で自民、民主党の与野党とも賛成で、納税者の国民の強い反発もなかった。
 日立製作所、東芝、パイオニア、それに半導体のエルピーダメモリなどの大企業がさっそく、制度活用を表明した。これら大企業はいずれも瀕死の状態にあるわけでないので、この公的資金活用の動きには驚かされた。なにしろ国の資本参加を仰ぎ、大株主の一角に政府が入ることを事実上、受け入れることになるのだから、よく考えれば大変なことだ。
その一方で、国が公的資金を使って、民間企業の資本増強策に手を差し延べるということについての是非の問題もある。米国の自動車ビッグスリー救済とは一線を画すべきだろうが、国家が民間企業に公的資金注入して救済に動くというのは、国民経済にとっても、また企業自身にとってもプラスとはならない。国民の貴重な税金を無駄遣いしかねないこともあるし、企業の側の問題を先送りするだけということになってしまうケースも多い。だから、私は率直に言って、反対だ。

しかし今、メガバンクを含めた金融機関が、企業向け融資に関して不良債権化しかねない融資によって、自らの自己資本比率悪化を避ける、という理由で信用収縮に走っている極めておかしな現状がある。そうした中で、国が一時的に公的資金で資本増強のバックアップするのは、ギリギリのところ、やむを得ないかもしれない。

今回の企業救済は米国発の金融危機で影響受けた企業に限定だが、、、
 これだけ申し上げただけでも、今回の改正産業再生法がらみで、さまざまな問題が横たわっているのだな、ということがおわかりいただけよう。そこで、今回、ぜひ取り上げてみたいことがいくつかある。
まずは、国が改正産業再生法によって、資本不足に陥った民間企業の自己資本増強のサポートをする問題だ。
今回の改正産業再生法では、グローバルリスクとなった米国発の金融危機の影響で急に業績悪化を余儀なくされ自己資本不足に陥り、雇用リストラなどに手をつけざるを得ないような国民経済的に波及の予想される企業に対象を限り、いわゆる企業の自助努力欠如で恒常的に赤字決算体質を持っている企業は除く、ということになっている。
 早い話が、今回の米国発の金融危機を特別な事態と位置づけ、それら危機の影響を直接、あるいは間接に影響を受けた企業のうち、その企業の取引先企業、下請け企業数の多いさ、さらに雇用している従業員の数の多いさなどを勘案し、資本増強の面で緊急避難的かつ例外的に支援すること、という点に限定していることだ。
現に、支援企業を認定する権限を持つことになった経済産業省の幹部は「認定基準を明確にし、安易な救済だと批判を受けないようにする。少なくとも、資本増強の対象になった企業に万一、不測の事態があった場合、日本経済あるいは地域経済にとって大きなダメージと受け止められる企業に限定する」と述べている。

売上高が前年比20%減など4条件クリアすれば議決権なき優先株で資金
 その経済産業省幹部によると、認定の要件は4つほどあって、主なものは、たとえば金融危機の影響で売上高が四半期ベースで前年比20%以上減少という大きな打撃を被ったこと、連結ベースでの従業員数が5000人以上、あるいは基幹部品の国内シェアが30%以上の供給力を持つこと、といった全体の比重が高い企業などだという。
また、公的資金注入による民間企業への資本増強は、かつて金融システム不安解消のために金融機関に資本注入した際と同様、議決権のない優先株で行われる。裏返せば、議決権行使で経営に細かく介入しない、という。
米国発の金融危機がらみで一般企業への政府支援という点では、政府系金融機関の日本政策投資銀行(旧日本開発銀行)が2008年12月から緊急融資という形で政策的な意味合いを持つ政策金融をしている。その貸付額は1兆円を超すまでになっている。しかし今回のように優先株を通じた企業への出資というのは、金融機関への公的資金注入以外ではまだ例がない。
かつてのダイエーやカネボウといった大企業の企業再生にかかわった産業再生機構の場合、官民の資金で設立され、民間の企業再生プロの手で経営チェック、役員の経営責任を問うたあと大胆に企業再生に取り組むやり方だった。しかし、今回の場合、日立製作所を生体解剖して企業再生を第3者のプロがやるというのではなくて、あくまで米国発の金融危機に伴う資本不足などを公的資金注入で補う、というものだ。

税金を使っての私企業救済には大義名分が重要、産業再生につながることも
 ただ、個別企業への一時的な救済のために、貴重な国民の税金を使う明確な理由がなくてはならない。金融危機の影響で資本が傷んだ企業は、今回の局面でもかなり多くの企業が該当する。そこをどのように選別するのか、なぜ公的資金注入が必要なのか、やはり税金を使っての私企業救済となれば、しっかりとした根拠、理由が必要だし、それによってその企業がかかわる産業の再生にもつながる、という大義名分も必要になってくる。このあたりはとても重要なことだ。
 次に、ぜひ指摘したいのは、企業のビジネスモデル、国家の経済モデルという点で輸出立国型、外需依存型のモデルが半ば崩壊してきており、この際、新たな成長モデルをつくりあげる時期に来た、ということだろう。
今回の米国発の金融危機で興味深いことは、主要国の国内総生産(GDP)ベースで日本の落ち込みが最も大きい、とくに外需の落ち込みが響いたことだ。自動車、エレクトロニクスなどの輸出に比重を置いた企業の対米輸出の落ち込みなどによる収益の悪化はひどい。この自動車やエレクトロニクスなどの大企業にぶらさがった関連部品企業、下請け企業がもろに連鎖的に影響を被っている
日本にとって、輸出先として大きかった米国、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)などの国々が突然、自国の企業再建、雇用対策などから「バイアメリカン」といった形で自国産の生産物の購入義務付け、外国産ボイコットにまで向かう世界の貿易縮小というリスクは皆無と言えない。
それに、米国が今後、どういった経済再生を果たすのか、これまでのようなGDPの70%が個人消費という過剰消費、輸入依存の体質、それに世界中からマネーを吸い上げて経済を動かす金融立国モデルを続けるようであれば、またまた今回に似たような経済危機が再燃しかねない。日本は、むしろ、米国の過剰消費体質に見合った対米輸出依存型のモデルを新しいものに組み替えないと、今回のような同じ問題を引き起こしかねない。
それは中国向け輸出依存に対しても同じことが言える。もちろん、中国は新興国として、まだまだ成長が見込める国で、日本にとっても重要な輸出先市場であることに変わりがないが、かつての対米国輸出依存と同様、過度に対中国輸出依存を強めたままだとリスクだということだ。

米国や中国に過度の輸出依存するのではなく内需主導型「前川レポート」の再検討を
 日本は、確かに今後、人口減少に伴って市場規模が縮小していくため、外需依存をバッサリ削って、内需依存型の経済に100%切り替えなどというのは現実的な選択ではない。しかし、かつて1980年代に「前川レポート」という形で、日本の生き残り、経済のあり方として内需主導の経済に、というレポートを書いたのに、その後20年たっても、ほとんど経済モデル、ビジネスモデルの切り替えが図られていない。
そういった意味で、今回は、間違いなく切り替えを探るチャンスなのだろう。日立製作所などの企業が、この機会に、ビジネスモデルをどう変えるのか、21世紀を生き残るための新型ビジネスモデル、企業成長戦略の構築について、今回の公的資金導入に際して、ぜひ考えてほしいと思う。
 いずれにしても、日立製作所に限らず、企業は、資本不足に陥った原因について抜本的なメスを入れ、ビジネスモデルの再構築に取り組まないと、こういった公的資金頼みでは麻薬を吸い続けるリスクと同じで、ただ問題先送りするだけになりかねない。

金融機関は自己保身型のビジネスでなく産業支援融資を
 最後に、金融機関が信用収縮の形で自己防衛に走ることに関しても、注文を付けたい。日銀の幹部によると、昨年秋からずっと続いた現象だが、われわれがよく知っている大企業が日銀に入れ替わり立ち替わりでやってきて、さまざまな形での金融支援を仰いだ。要は、メガバンクを含めて、金融機関の対応がリスクをとりたくない、といった後ろ向きの姿勢で、この際、日銀からプッシュしてほしい、というものだ
同じことは、いろいろな企業サイドからも直接、聞いたので間違いない。資本市場が傷んでいるため、勢い、間接金融の金融機関に融資を仰ぐが、貸し渋りの形で門戸を狭めるという。
今回の政府による企業向け資本増強のための公的資金注入制度も、そういった民間金融の問題があることと無縁ではない。金融機関がリスクをとらずして、いったいどうするのかと思わず不満を言いたくなる。これは私1人のことでないだろう。

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