27兆円の追加経済対策、主要国の需要喚起案への足並み揃えが重要 政局型政治など2の次、まずは与野党で「100年に1度の危機」共有を


時代刺激人 Vol. 13

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

麻生首相もやっと、米国が震源地のケタ外れの金融および経済の重大危機に対し素早く、かつ大胆な対策の手を打たねば日本経済が大変な事態になると判断したようだ。この判断は正しい。10月30日夜の緊急記者会見で、政府として、事業規模27兆円の追加緊急経済対策を打ち出したのはOKだ。中身を見れば、政治的なばらまき政策という感じもあるが、率直に言って、いまはそれどころでない。グローバルなリスクの連鎖がいつ再燃するか見えない中で、欧米、それに中国までが一斉に需要喚起のための緊急経済対策を打ち出しており、それに日本も足並みを揃えて対応することは極めて重要だ。
 それにしても、政治のサイド、とりわけ衆院解散総選挙がいつなのか、そのことに躍起になっている与野党政治家の動きを見ていると、気持ちはわからないでもないが、政局型政治にうつつをぬかしている状況ではないのでないか、この国がいま非常事態に陥りかねないという時に政治家の見識が問われるぞ、と言いたくなる。
まずは、与野党で「100年に1度の危機」の予兆が世界中で随所に出ている現状を踏まえ、危機意識を共有して追加の緊急経済対策にとどまらず、制度改革を含めた抜本対策に関して、与野党共同で対応することが必要でないだろうか。

「真水」部分がわずか5兆円かといった議論よりも今はスピードが肝心
 今回の政府の追加の緊急経済対策は、中小企業向けの緊急保証枠と政府系金融機関の貸付枠を追加的に21兆円拡大したことなどで、全体の対策事業規模が26兆9000億円、数字を切り上げて約27兆円になった。
国の政策費ベースでの実質の財政支出、よく言われる「真水(まみず)」部分は5兆円でしかないが、中小企業向けの貸付に関する保証枠の拡大などは民間金融機関の貸し渋りなどの信用収縮が見られる中で、中小企業の経営者らにとっては重要なこと。その意味でトータルの27兆円の数字はそれなりに意味がある。
 知り合いの大手企業の経営トップは「うちは、厳しい経営環境下でもがんばって比較的、高収益を続けてきたのに、ここ1ヶ月ほどの米国発の株安に連動した東京市場の株価急落に巻き込まれてズルズルと値下がりしてしまい、振り回されている。企業業績と無関係に株価が落ち込むのは問題だ。投資家の不安心理が先行して市場混乱し、それが企業マインドを萎えさせたりしたら、それこそ問題だ」と嘆いている。
そういった意味で、政府が、投資家のみならず企業、さらに消費者はじめさまざまな経済主体の弱気に陥りかねない心理を変える対策を早め早めに打ち出すことが大事だ。マーケット関係者や一部のメディアは、「真水」5兆円程度では実効性は薄いといった評価だが、まずは対策のスピードがきわめて重要、そのあと実体経済の状況次第で、新たな内需創出につながる改革を含めた抜本対策を矢継ぎ早に打ち出せばいい。

高速料金値下げ案などは民主党対策を拝借?政権交代への道筋と思えば、、、
 ただ、今回の追加の緊急経済対策の中身を見て、エッと思ったのは、野党の民主党が主張していた政策を少し形変えて拝借?したのかな、と感じられる部分があったことだ。
具体的には、高速道路料金の大幅引き下げは民主党が主張していた「すべて無料化」に近づいたものだが、もともと自民党は、料金値下げをすれば建設投資資金の回収が進まず問題多いと強硬に反対していたこと。また財源対策として特別会計の積立金など、いわゆる「埋蔵金」を活用する案に関しても、自民党では中川秀直元幹事長が主張していたが、民主党も「税金や保険料を財源とする特別会計の積立金約204兆円や積立金の運用収入を国民生活のために活用する」とし、端的には財政投融資特別会計の運用収入、さらに当面使う見込みのない積立金の一部の活用を挙げていた。
 しかし、ここは目くじらを立てることはない。民主党の菅直人代表代行は今回の政府・与党の対策について「選挙目当てのばらまきだ」と批判したが、民主党だって高速道路無料化のみならず農家所得補償制度など似たようなばらまき政策提案をしてきたことだし、批判は大人げない。むしろ、自民、民主両党で似たような政策が出始めることは、政権交代につながる道筋、と有権者の国民は感じるかもしれない。とりわけ今回のような危機の時期の政策運営は、非常事態という危機感を共有し、与野党で互いに知恵を出し合うことが重要だ。そう思えば、やはり目くじらを立てることではない。

株式市場は反応せず依然不安定な動き、外国人投資家の受け止め方がカギ
 問題は、この追加の緊急経済対策が株式市場などマーケットで、どう受け止められるかだ。前述の企業経営トップが言うように、市場の不安心理を少しでもなくすことにつながらないと意味がない。
と思って株価など市場の動きを注目していたが、10月31日の東京株式市場では朝方、日経平均株価が4日ぶりに反落し一時は300円超の下げ幅となって不安定な動きを見せた。あまり一喜一憂せず、少し長い目で冷静にみることが必要だ。
 以前、このコラムの第11回のところでも書いたが、東京株式市場の場合、外国人投資家の株式保有比率が60%を占めており、彼らの投資行動によって株価が左右される。最大の問題は、彼らが、今回の日本政府の経済対策をどこまで理解し評価するのかどうかだ。
外資系証券のマーケット・ストラテジストの1人は「彼らの行動は極めてドライで、相場動向をみながら、株価指数先物を売買する。円高は日本経済に長期的にはプラスなのだが、そんなことはお構いなし。日本の場合、輸出企業や投資家を中心に円高恐怖症があるのを見てとり、円高の兆候が見られれば、日本株の先物売りに走る。現物株はそれに引っ張られて売りが続くのだ。しかもニューヨーク市場で株価下落が大きいと保有株の損失リスクとのからみで、東京市場で日本株を処分売りしたりする。だから、彼らは日本政府の緊急対策に無関心ではないが、どちらかと言えば大きな関心事でない」という。
これがグローバル時代のマーケットの現実なのだ。それも踏まえて、日本政府としても株式などの市場対策対応をせざるを得ないところが辛いところだ。

首相官邸の危機判断は評価するが、主要国との緊密連携が危機回避に
 米国の経済学者、ジョン・K・ガルブレイス氏(故人)は「大暴落1929」(日経BPクラシックス版)で、大恐慌に至る市場の動きに無関心だった政治家の「罪」について、こう書いている。
「クーリッジ大統領は市場で何が起きているか知らなかったし、気にもかけていなかった。1929年3月にホワイトハウスを去る数日前にも、状況が『まったく健全』で株価は『割安だ』と上機嫌で語っている。大統領は以前から、投機が抑制できなくなってきたと報告されるたびに、第1の責任者は(米中央銀行の)FRB(連邦準備制度理事会)なのだからと考え、心を落ち着けてきた」
今のように、米国が世界のマネーセンターとなり、リスクの連鎖があっという間に世界中に広がり、グローバルな危機に及ぶ確率が高い中では許されないことだが、日本の首相官邸が麻生首相を中心に危機感を強めたことだけは、評価する。あとは、世界の主要国との緊密な連携、協調行動が危機回避につながっていくことを申し上げたい。

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