高機能プラスチックCOPが急成長 新たな株主還元方針で配当率をアップ

高機能プラスチックCOPが急成長 新たな株主還元方針で配当率をアップ

躍進を続ける企業には、成長を支える方策がある。その秘訣を探る「成長企業の法則」。今回は、独創的技術で未来をつくる化学メーカー 日本ゼオン株式会社の代表取締役社長 豊嶋 哲也氏に聞いた。

スペシャリティケミカル企業として高付加価値製品をよりいっそう強化

「当社は2025年に創立75周年を迎える化学メーカーです。1950年の創業当初は塩化ビニル樹脂メーカーとしてスタートし、1959年、日本で初めて合成ゴムの生産を始めました」
同社が独自に開発した耐熱性、耐油性に優れた合成ゴムは世界中の自動車のエンジン周辺部品に採用された。
「高度成長期には右肩上がりで業績を伸ばしていきましたが、やがて合成ゴムに頼りすぎていることに危機感を抱き、次の柱となる新たな事業を模索しました」
1980年代から、業容の転換を見据えたさまざまな試みを始め、そのなかから新事業が芽生えてきた。2000年には、入れ替わるように、祖業の塩化ビニル樹脂の生産を打ち切り、同事業から撤退した。

シクロオレフィンポリマーと用途先の製品

「中核となるのは、高機能プラスチックのシクロオレフィンポリマー(COP)です。1980年代から開発を始め、現在大きく開花した製品のひとつで、優れた光学特性を持ち、各種カメラレンズやディスプレー用光学フィルムといった光学用途に採用されています。また、タンパク質低吸着性、高バリア性、低不純物特性などを生かし、医療分野、バイオ分野でも活用されています」
COP事業は、開発スタートから約35年という歳月を経て、同社の主力製品と位置づけられるまでに成長した。さらに、現在も活用領域は広がり続けているという。

「COP事業の成長は、失敗を恐れずにチャレンジをし続けた結果だと考えています。さらにスペシャリティケミカル企業として事業を磨き上げるため、徳山工場におけるポートフォリオ組み換えの計画を発表いたしました。汎用ゴムの一部製品と使い捨て手袋用ラテックスの生産を2026年に停止し、2028年にCOPの新たな生産拠点を新設する計画です」
同社は今後、とくに医療用途と半導体用途、光学フィルム向けにCOP事業の拡大を図る。

「COPは特殊な原料でできているのですが、当社はその原料を自前で作っています。また、複雑で高度な製造技術が必要で、他社の追随を許さないと自負しています」
同社は、2024年10月の決算説明会で、新たな株主還元方針を発表した。
「新たな配当方針として、株主資本配当率(DOE)4%以上、自己株式取得を2024年度に100億円としていたところ、200億円に増枠しました。2026年度までに合計で400億円の自己株式取得を計画しています。今後のCOPの成長性と、これに伴う大型投資には自信を持っており、よりレバレッジをかけても問題ないと判断したものです」
同社は今期、15年連続増配を更新する見込みだ。研究開発への惜しみない努力と、将来を見据えた事業変革の英断、成長過程にあっても常にチャレンジを怠らない姿勢が、同社を力強く支えている。

 

今や社会分断など混迷の時代に、ネット上の虚偽情報も影響

2024/12/27

中間層の弱体化などが心配、政治経済リーダーの責任は重大

世界中の主だった国々を見渡すと、どの国も政治や経済にさまざまな混迷がある。それに連動して経済社会は停滞し、大きく前に踏み出せない状況が多々、見受けられる。

国によっては極右政党の台頭による政治混乱が無視できないものになったりする一方で、インターネット上でSNSによる誹謗中傷、虚偽情報の拡散が目立ち始め、それらが影響して社会混迷に一段と拍車をかけている。

それだけでない。経済格差の拡大などに加え、これまで経済社会の安定を支えていた中間所得層の弱体化、という心配な事態も起こりつつある。これらの動きによって、社会混迷どころか、社会全体の分断が進んでいる。米国がその典型例だが、日本も次第に似たような不安定状況に陥りつつある。いずれも無視できない構造的な問題だ。

日本のデフレ脱却はいつ?中国は「経済の日本化」回避に躍起

日本経済に目を転じると、バブル崩壊から30年以上がたつのに、いまだにデフレ脱却・終了宣言が出来ていないのも無視できない問題だ。日本の経済イノベーションが死語になったのか、と錯覚しかねないほど経済に勢いがなく、低成長経済から、いまだに抜け出せていない。長年、実態経済をウオッチしてきた私にとっては、首をかしげることばかりだ。

かつて年率8%成長を誇示した中国でも、不動産価格低落が進み経済のデフレリスクが強まっている。中国共産党は、日本経済デフレを後追いしないように、と必死で「経済の日本化回避」を政策課題にしつつある、という。経済に勢いがあったころの日本は、中国のみならず新興国にとって、先進モデル事例となったが、今は様変わりの状況と言っていい。

内向きの日本、メジャー大谷選手ら若手の活躍で変わるか?

2024/8/30

日本全体に連鎖し世代交代のきっかけになればベスト

米メジャーリーグ野球での大谷翔平選手ら日本人選手のアクティブな活躍は全く見事だ。異文化が錯そうする米国で、人種を超えてあらゆる人たちを興奮させているのだから、素晴らしい。彼ら若手の行動は、今や内向き思考の強かった日本人を刺激しつつある。

パリ五輪で世界の強豪を抑えて金メダルをとった陸上のやり投げ、体操、レスリング、柔道、ブレイキン、フェンシングなどの若手世代の動きも同じ。どれをとっても素晴らしかった。この感動が日本中に連鎖し、世代交代のきっかけになれば、間違いなくベストだ。

健康被害が問われる小林製薬の前会長の企業私物化は驚き

そんな中で、冒頭から、世代交代がらみで、あまり楽しくない話を1つ。創業者一族の関与する企業の長老が、経営を私物化する問題が最近、判明した。その企業は、紅麹(こうじ)サプリメントで数多くの消費者に腎臓病被害などを引き起こし、企業責任が問われている小林製薬(山根聡社長、本社大阪)で、問題の長老は、小林一雅前会長のことだ。

小林氏は経営責任をとり会長職辞任の意向を示したあと、7月23日付けで特別顧問職に就いた際、事業再建へのアドバイス名目で、何と月額200万円の報酬を要求したのだ。同社規定では、顧問職の報酬は月額50万円なので、要求報酬額は4倍にあたる。その一方で、健康被害で企業責任が問われているのに、関係者によると、小林氏は「現場が対応する問題だ」とし、我れ関せずの姿勢だった、というから驚きだ。

創業者一族保有株の「数の論理」で経営ガバナンスが効かず

小林製薬の山根社長は8月8日の会見で、紅麹サプリ事業からの撤退を表明すると同時に、補償対応に関して「誠実に対応させていただく」と述べた。しかし、巨額報酬問題に関しては、社外取締役4人を含む7人の取締役会で、議論があったものの、最終的に承認した、という。企業経営ガバナンスは全く効かず状態だのだ。

前述の関係者の話では、社外取締役の中にガバナンス問題専門家の伊藤邦雄一橋大名誉教授がいたが、小林製薬の株式の30%を持つ創業者一族の中核に小林氏が隠然たる力を持っているため、賛成多数の「数の論理」で承認となった、という。本来ならば、長老の企業私物化に反発し、小林氏への特別顧問職解任決議といった事態に持ち込むべきなのに、取締役会は積極対応しなかった。消費者がこのまま見過ごすと思っているのだろうか。

着実に進む日本の衰退、若手政治家はなぜ動かない?

2024/5/15

円相場は1995年時に比べ通貨価値が半減のリスク

日本は今や政治の劣化がひどすぎる。経済も着実に衰退が進みつつある。その1つが大幅な円安だ。対米国ドル為替レートが最近、一時的とはいえ、1ドル160円台をつけた。1995年4月に記録した1ドル80円割れの円高時に比べて通貨価値は半減、しかも円の対外購買力も大幅に下落する結果となっており、経済的に無視できないリスクだ。

ところが、今の政治は、大幅円安を含めた経済の衰退に強い危機意識を持っているようには見えない。とくに次代を担う若手政治家たちに時代を変革しようというアクティブな動きがないのが何とも残念だ。彼らこそが時代の先をじっと見据え、行動を起こすべきだ。

強靭化に向け大胆な改革策を、霞が関の若手官僚と連携も

若手政治家にとって今、重要なのは、衰退する日本の経済を再度、強靭なものにするため、大胆な経済構造改革策に積極的に取り組むことだ。早い時期に、その具体策を次々に世の中に対して積極的に働きかけ、国民のみならず、市場関係者に「若手政治家たちは、しっかりとした問題意識を持っている。捨てたものでないぞ」と思わせることだ。

その際、霞が関の行政官僚の中には、旧態依然の政治の枠組みに反発して日本を変えたい、という問題意識ある若手官僚がいるので、若手政治家は、その官僚たちと連携して、経済構造改革に関する政策面でのバックアップを得て行動に移せばいい。そして「日本は、30年間に及ぶデフレに苦しんだ。だが、今後はイノベーションに積極的に取り組み、諸課題解決型の凄い国に作り変えるアクションプログラムに挑戦する」とアピールすればいいのだ。