どんどん女性起業の先進モデル例を 愛媛の総菜ビジネス藤田さんは全国区


株式会社クック・チャム
社長の藤田敏子

時代刺激人 Vol. 230

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 最初から、ちょっと堅い話になるが、日本の生産年齢人口が先細りというトレンドの中で、海外からの技術人材などの移民受け入れがなかなか認められず、その一方で少子化によって子供たちもなかなか増えない閉そく状況を打開しないと大変なことになる、と前々からずっと思っていた。

私は、その打開策として、人口の半分にあたる女性が、「大阪のおばちゃん」的なバイタリズムで、さまざまなことに好奇心を持ち、行動力を発揮するだけでなく、独自のユニークな発想で起業して、ビジネスチャンスの場をどんどん創出することが必要だ、と考えている。

JR東日本でカリスマ車内販売女性、
米でMBA取得後に起業女性などタフな実例
 そんな中で、最近は、雇われる立場にあるさまざまな女性がタフに存在感を見せている。JR東日本のケース1つとっても、車内販売で巧みなスマイル話術とフットワークのよさで一気に売上げトップの座に立ち、カリスマ車内販売女性と評価されたケースがある。
また、乗降客の多い駅の駅弁売店コーナーでお客に話しかけながら、そのお客のニーズを探り、「この駅弁はあまり脂っこくなくてヘルシーですよ」とその気?にさせて、同じく売上げで群を抜く凄腕ぶりを見せた女性が、ついには経営手腕を評価されてパートタイマーの地位から一気に正社員となって現場の幹部に躍り出るケースなど、いくつか素晴らしい事例を耳にする。いずれも女性の、ちょっとした気遣い、センスがお客の心を動かし、魅了させるのだろう。まさに女性のいい面での特技だ、といっていい。

そればかりでない。私の知っているお友達の女性の中には、もっとタフな女性がいて、ハーバード大学など米国の大学でMBAという経営学修士をとり、マッキンゼーなどのコンサルティング・ファームを経て独立し、日本で起業し経営の才覚を発揮する女性も数多くいる。

人口の半分は女性、
その女性市場をターゲットにしたビジネスモデルでがんばれ
要は、人口の半分は女性なのだから、家庭に閉じこもることなく、家庭と仕事を両立させ、ご主人とワークライフバランスによって役割分担を行うと同時に、女性の独特の感性で商品開発をしたり、また独自のマーケッティング力で時代を凌駕するシステム開発も行うなど、まさに女性の先進モデル事例を作り出すことが大事だ。
男性も、もちろん負けずに張り合ってがんばる。しかし、こういった形で、女性の生産労働力化が実現すれば、人口問題の重要な解決課題の生産年齢人口の減少に歯止めをかけることが出来るのでないだろうか。

しかし、私は、女性がアクティブに働くにしても、ぜひ期待したいのは、女性独自の問題意識、感性、経営センスで、人口の半分の女性市場をターゲットにしたビジネスモデルをつくり、自ら起業して先進モデル例をつくるべきだ、という点だ。
今回は、それにぴったりのたくましい女性の企業経営者と知り合えたので、ぜひ取り上げたい。たまたま、私がメディアコンサルティングにかかわっている政府系金融機関の日本政策金融公庫のオピニオンリーダー向け雑誌AFCフォーラムの企画記事「変革は人にあり」の取材でお会いした人なのだ。

藤田さんはデパ地下総菜店と対照的、
あたたかいもてなしの地域密着の店舗展開
 その人は、株式会社クック・チャムの社長の藤田敏子さんだ。「おかずや 日本のお母さん」、「まちのお総菜屋さん」をキャッチフレーズに、さまざまな種類の総菜を日替わりメニューで売る店を創業の地、愛媛県新居浜市を拠点に四国、九州、関西圏で店舗展開し、最近は東京にも進出している。いわゆるデパ地下の総菜の店とは対照的に、女性の感性や目線で常にメニュー開発を行い、地域密着のあたたかいおもてなしで、女性市場をターゲットにしたビジネスモデルがポイントだ。

私に言わせると、実に目のつけどころがいい。とくに、人口の半分の女性に照準をあて、女性の関心が高い食べものに工夫をこらしてビジネス化する点は素晴らしい。藤田さんは「人口のもう半分の男性も重要なお客さんで、決して忘れていません。ただ、私は女性のうちでも、働く女性と高齢者の女性をターゲットにし、家庭で調理に時間をかける余裕がない人、あるいは年齢的に調理に手間ヒマをかえるのが難しい人たちの日常生活をぜひ、バックアップしようという考えなのです」と述べている。

「パートタイマーは時間の切り売りの感じでダメ」とユニークなパートナー社員制に
 その企画取材で、愛媛県新居浜の本社ビルに行き、同時に、店舗展開しているお店も見学させてもらった。どの店も郊外の住宅街に通じるロードサイドにあるこぎれいな、思わず入って夕食などの総菜を買いたくなるような店だ。確かに、地域密着である点がデパ地下の惣菜店とは大きく違う点だった。

地元愛媛県だけでなく、九州の福岡県、長崎県や関西の大阪府など競争の激しい地域、それに東京都内にまで六七店舗を出しているそうだが、店長の七七%が女性で、それら店長を含めた全従業員ベースで見た場合、パートナー社員を含めれば、女性の比率が九九%にも及ぶ、という。ここで、「えっ、パートナー社員?それはどんな人たち?」と思われるだろう。そう、実は藤田さんに、その意味づけを聞いて、これは素晴らしい、この経営感覚が先進モデル例の1つだと言ってもいいと思った。

働く主婦のパートナー社員のことを考え、
日曜日や祝祭日は店を休業に
 藤田さんによると、パートタイマーの人たちのことをパートナー社員と呼んでいるのだ。
このひとことで、藤田さんは抜群の経営感覚を持つ人だと、思わず感じた。「パートタイマーとか、パートというと、時間の切り売りのような感じで、私は好きではありません。クック・チャムのお店の大切な戦力の人たちであり、私たちのパートナーです。だから、短時間でも必死に働く社員の方をパートナー社員と呼ぼうと思ったのです」と述べている。

さらに興味深いのは、大型スーパーに出店している店以外は、日曜日、さらにゴールデンウイークの休日、地方で祭りのある日、お盆休み、正月休みはすべて店を休業にしている点だ。理由は、パートナー社員を含めて、社員は主婦の人たちが圧倒的に多いので、そういった休日は家庭での団らん、主婦稼業に専念する必要があると判断し、あえて休業にしているという。地域の利用者のお客も、その点はわかってくれている、というのだ。

メニュー開発も独自、
新居浜本社をセントラルキッチンにしてキットで各店舗に配送
 このクック・チャムという会社は、すでに述べた地域をつないで、チェーン展開している。それぞれの店の日替わり希望メニューに対応して、新居浜の本社内にある工場、それと福岡の九州工場の2カ所がセントラル・キッチン役となって、総菜の食材を準備を行う。メニューのたとえば八宝菜のおかす一個分の野菜などを一つのキットにして、それを各店向けにつくり冷蔵車で配送するやり方だ。

顧客のニーズは、それぞれの地域でまちまちなので、現場のお店が調査したデータなどに対応してメニューづくりを行う。藤田さんによると、新居浜の本社と各店とはコンピューターでつながっていて、本社が毎日100種類ほどのメニューを提示する。各店は売れ筋メニューが何かを把握しているので、コンピューターによって注文を出し、それをもとに本社工場で食材をキットにするやり方だ、という。

「毎日、損益決算する感覚で利益の把握を」
「みんなが商売人の発想を」と藤田さん
経済ジャーナリストの好奇心で、「惣菜の食材の単価が相対的に割安なので、たくさんのお客が来て買ってくれる、というボリューム確保をしっかりとする必要があり、経営的にはご苦労が多いのでは?」と聞きにくいことを聞いてしまったら、藤田さんは「そのとおりです。私たちは、日常的に六七店全部の個別チェックなど行えませんが、現場のお店には『日々のメニューの売れ行きによって決算、損益がすぐ出る。だから、毎日、損益決算書をつけて利益の把握をしっかりやってほしい。いい数字を出せるように、みんなが商売人という感覚で日々、対応してほしい』と言っています、と語った。

しかも、藤田さんは「先日、ある店の店長の独立募集を呼びかけたら、12人の人が応募してくれました。うち女性が7人、男性が5人でしたが、面白かったのは、男性の場合、きっとパートナー感覚なのでしょうが、奥さんが一緒に来ていました」とうれしそうに述べていた。自身で起業して、このビジネスに自信があるからこそ言える言葉なのだろう。
さらに、藤田さんは「本社サイドも、ただ要求するだけでなく、社員みんなが楽しく、面白く仕事が出来るようにいろいろ企画もつくっています」と述べ、女性社員を中心にみんなが連帯感を持てるビジネス展開にしているところも素晴らしい。

障がい者雇用を積極的に進め社会的自立支援、
農業法人つくり野菜生産も
藤田さんのビジネスの話に関して、もう少し付け加えておく必要のあるのは、障がい者の就労支援や社会的な自立を促す場づくりということで、クック・チャムmy mamaという会社を2010年につくり、ハンディキャップを持つ障がい者の方々を優先雇用して総菜の下ごしらえや加工・調理に取り組んでもらっている、という。

また、農業にも参入し、新居浜の本社近くの休耕地の畑30アールを借り受けて無農薬のコマツナなどを10アールのハウスで栽培、また残りの畑でサツマイモやナスの露地栽培している。順調に進んでいます。さらに、北海道の帯広市に隣接するめむろ町でも、今年4月に株式会社九神ファームめむろという会社を立ち上げ、農業法人の資格をとって農業生産に かかわっている。男性に全くひけをとらず、タフにビジネス展開をするところが、私からすれば、思わず応援したくなる点だ。

女性の感性や目線で市場開拓すればビジネスチャンスはいっぱい、
という発想がいい
実は、藤田さんは、新居浜で、ご両親を含めて住友企業グループのサラリーマン一家だったが、肉屋さんに嫁いだあと、その肉屋さんで仕事を手伝ううちに、事業経営に目覚めて、ここまで述べてきた総菜ビジネスで起業したユニークな人生だ。
藤田さんは「実家の名前を捨てて他人の家に行くのだから、発想を変えて面白いことをやるしかないと思いました。女性の感性や目線で市場開拓すれば、いろいろビジネスチャンスがあります」と語る。10年ほど前に、こうしたビジネスへの取り組みが評価されて、藤田さんは、女性起業家大賞を受賞、さらに政府から女性チャレンジ賞も受賞している。

私が冒頭から申し上げたように、人口の半分は女性であり、その女性市場をターゲットにしたビジネス展開はいくらでもあるように思える。その女性市場に飛び込んで、女性特有のセンスで起業して、雇用創出のみならず、新たなビジネスモデルの先進例をつくりだす、ということに弾みがついてほしい。

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