日本農業再生のキーワードは「6次産業化」 生産と加工、流通の連携で消費者につなぐビジネスモデルを


時代刺激人 Vol. 3

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本の農業はいま、思い切った手を打たないと間違いなく衰退の危機に陥ると思う。しかしそれを避けるために政治や官僚組織、さらに農協といった既存の枠組みに頼ったり期待してもほとんどダメで、農業に携わる人たち自らが、閉そく状況を打ち破る新しいビジネスモデルを考え出す努力が必要だ。そのキーワードになるのが「6次産業化」だ。
 この「6次産業化」という言葉は、専門家などの間で一般化しつつあり、あえて使わせていただく。要は、第1次産業の農業、第2次産業の製造業、そして第3次産業の流通・サービスの3つを足しても、掛け合わせても6になることから、その3つの産業を結び付けるという意味で「6次産業化」と言っている。

わかりやすく申し上げよう。3つの産業を結び付けてビジネス展開すること、たとえば今回の農業再生という点でいえば、農業の現場が農産物の付加価値をつけるためにさまざまな加工を行い、それを自らの手で流通の現場のスーパーマーケットや外食産業、さらにはその先の消費者にまでつなげていくことだ。その場合、大事なことは農業の側から積極的にアクションをとることで農業自体が産業としての農業になっていく、そうすれば農業再生の原点が見えてくる、というわけだ。

千葉県の農事組合法人「和郷園」はフロントランナー
 今回、農業の話を、と思ったのには理由がある。実は、最近、小生が、いくつかの先進的な農家や農事組合法人のひとたちの現場を見学するチャンスがあり、話を聞いていると、こちらまでがワクワクして、刺激を受けた。まさに農業再生のフロントランナーなので、そのチャレンジぶりをご紹介したいと思った。
 前置きが長くなってしまい恐縮だが、そのフロントランナーは、これまでの農業のイメージを打ち破るような先進野菜生産農家の集まりである千葉県の農事組合法人「和郷園」(木内博一代表理事)だ。 この「和郷園」は、17年前の1991年に木内代表を含めて5人の専業農家の若者たちで野菜の産直を始め、7年後の98年に農事組合法人を設立、今や正会員41人、準会員51人の合計92人の専業農家集団になっている。千葉県の成田市に隣接する香取市の専業農家が出発点だが、いまや周辺市町村の協力農家を巻き込み、自然循環型農業を基本に年商15億円をあげている。 木内代表によると、そのビジネスモデルは、農事組合法人「和郷園」が生産農家から野菜を集出荷する。そして株式会社「和郷」という別組織があとで述べる野菜カットや冷凍加工、直営のスーパーなどにもかかわる、という形で「6次産業化」を進めるやり方だ。

生産農家主導でマーケットリサーチしスーパーなどに提案
 首都圏の大手スーパーや生協など50社との産直や契約出荷を基本にし、野菜などはすべて受注生産で、値決めも当然、相対取り引きながら生産者主導で行っている。生産農家が農協を通じて野菜などを出荷し卸売市場でセリにかけるという既存の農産物流通システムに依存している限り農産物の価格決定はすべて市場に委ねられ、農家に将来性がないため、あえてこの産直方式にこだわった、という。
「時代刺激人」の立場で言わせてもらえば、原油価格の高騰で、それに影響を受けるさまざまなモノやサービスの価格がいったいどうなるのか、どこで落ちつくのか、いわゆる新価格体系の落ちつきどころがまったく読めない、ということが最大の問題だ、と思う。

「6次産業化」の核となるのは、パック・カットセンターという、会員農家で生産した野菜をスーパー向けにカット野菜に加工するセンターだ。木内代表らが独自に立ち上げ、さまざまなアイディア商品をつくりあげてスーパーやデパートに逆提案の形で売り込み、ことごとく成功している。「大きくて不揃いのなすやじゃがいも、大根などに関しては、生(なま)で食べる生鮮野菜として出しにくい。そういった場合、われわれがスーパーマーケットの惣菜売場で揚げたての天ぷら調理できるように鮮度がいい状態でカットしパック詰めで冷凍加工する。われわれはスーパーの人たち以上にマーケットリサーチを行い、何が流通の現場や消費者のニーズかを探ってから付加価値をつけた加工を行う。生産者が主導的に値段を決める代わりに安定供給を約束する、といった形で、生産者自らがマーケットにまでかかわるところに意味がある」と木内代表は述べている。

第2次産業とのかかわりでいえば、ほうれん草など7品目の野菜を旬の時期に収穫したら、すぐ衛生管理の厳しい「さあや‘キッチン」という冷凍加工センターで急速冷凍加工するシステムも完成させている。食べたい時に解凍すれば、旬の味がそのまま活きる。いまでは海外にも輸出するほどだという。

厳格な生産管理し農薬管理結果もネット上で公開
 そればかりでない。木内代表らがこだわっているのは独自基準による厳格な生産管理だ。「和郷園」は日本で最初に農薬安全管理システムを導入したそうで、消費者の強い関心事である安全や安心要求に応えるべく野菜生産の際の農薬使用に厳格にした、という。とくに千葉県が設けた「ちばエコ農産物」の認証基準である農薬や化学肥料などの使用量に関しても慣例的使用量の半分以下にするようにした。「和郷園」では農薬管理状況を明確にするトレーサビリティのシステムを採用し本部センターのパソコンのエクセルですべての会員農家の農薬管理を行うと同時に、トレーサビリティの中身をインターネットのホームページでも公開する徹底ぶりなのだ。
 また株式会社「和郷」は06年に東京都内に自前のスーパー「OTENTO」をオープンさせ安全・安心の野菜を販売している。さらに、「道の駅」や農産物直売所の延長線上のものとして、地域コミュニティショップ「風土村」を地元でつくり、会員農家がつくった野菜を直売すると同時に、レストランタイプの店内では地元の消費者に新鮮野菜を調理した料理を食べてもらい地産地消を実践している。いずれも収益をあげているが、「和郷園」や「和郷」は生産から加工、流通までの第1次、第2次、そして第3次を合算した「6次産業化」を実践しているところが興味深い。

この「6次産業化」に関しては、小生が見学した福岡県岡垣町の複合観光農園「グラノ24K」はじめ全国各地で、産業連携する試みがあり、それぞれ成果をあげている。

閉そく状況にくさび打ち込むのは農業者自身
 いま、日本の農業は高齢化のうえに後継の担い手がいなくなり、追い討ちをかけるように耕作放棄地が全国的に増える、といった現実が重くのしかかってきている。そのうえ、原油や穀物価格の高騰で飼料価格が上昇し、経営的に採算がとれず廃業の危機に追い込まれる農家もある。その一方で、中国産野菜や冷凍食品の安全性が問われる問題から国産の農産物回帰という状況が出てきているが、肝心の生産現場にとってはうれしい話ながら生産力が伴うのか、という問題もある。
 こういった閉そく状況にくさびを打ち込むのは、農業に携わる人たちの自助努力、創意工夫しかない。その意味では農業再生のキーワードの1つが「6次産業化」と思っている。生産農家が市場流通にすべて委ねて価格変動のリスクにさらされるよりも、「和郷園」のようなチャレンジで状況を変えていくことも重要でないだろうか。

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