理解しがたい中国の防空識別圏挑発行動 国際情勢判断に甘さ、虎の尾を踏む公算


時代刺激人 Vol. 231

 ちょっとおわびしなくてはならない。前回230回のコラムから3週間という空白部分をつくってしまったからだ。実は、11月前半の16日間ほど、私は1人で「陸のASEAN(東南アジア諸国連合)」といわれるタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーのメコン経済圏諸国とシンガポールを旅行していたため、コラムに取り組む時間がなくなり、誠に失礼した。刺激的だったその旅の話は、いずれコラムで取り上げてみたい。

さて、今回は、いくつか取り上げたいテーマがある。ジャーナリストの立場で、さまざまな問題を抱える特定秘密保護法案に関して、安倍政権や与党が衆院での審議を十分にせずに参院に送り国会成立を図る強引なやり方を厳しく問題視したい。

日本の領空域の尖閣諸島の上空域に、
重なり合うように防空識別圏を設定
しかし、それよりも、もっと気になる問題を取り上げたい。それは、中国が、日本に対して領有権を主張して外交上の問題に発展させた尖閣諸島の上空域に、新たに、ここは自国の空域だと言わんばかりに、中国自身の防空識別圏(ADIZ)を一方的に設定し、関係する日本、米国、さらに韓国、台湾はじめ、その空域を飛行する各国の民間航空機を巻き込む国際トラブル事態を引き起こしている問題だ。

私は経済ジャーナリストなので、軍事がからむ問題に関して、不十分な知識で論評など到底、できない。このため、専門家の方々に聞いたさまざまな話をもとに、私なりに、問題整理して、時代刺激人ジャーナリストの切り口で取り上げてみたい。

国際法上で違反、日本は二国間問題にせず
米国など関係国巻き込み撤回要求を
結論から先に言えば、中国が今回、11月23日に突然、それも一方的に、外交だけでなく軍事トラブルの発生確率が高いことを承知の上で、挑発行動としか思えない尖閣諸島の上空域への防空識別圏を設定したことは明らかに国際法上でも違反であり重大問題だ。
日本は執拗に、ことあるごとに撤回を要求すべきだ。とくに、その場合、重要なことは、日中の2国間の問題にせず、日米安全保障条約を武器に米国を巻き込んで共同行動をとる一方で、中国が領土だと主張している南沙諸島や西沙諸島に関係するベトナム、フィリピンなどの国々にもいずれ波及することを想定して、それらの関係国、さらに国連にも働きかけて国際問題として、事態打開を図る方向で対処すべきだ、と考える。

この問題空域では民間航空機が常時飛行している。中国は今回の防空識別圏の設定発表に際して、空域を飛行する民間航空機は事前に飛行計画を提出せよと一方的に命じ、応じなければ領空侵犯機と見なして対応する、とも表明している。何とも身勝手な行動だ。

新設定空域を運航の民間航空機に
事前に飛行計画書の提出求める強引さ
それよりも何よりも、国際法の専門家によると、国際法上、公海上空での民間航空機などの飛行の自由を不当に、しかも今回のように一方的に侵害すること自体が明らかに重大な国際法違反だ、という。とくに、さきほど述べた、中国側が設定空域を運航する航空機に対して事前の飛行計画の提出を求め、仮に拒否したりした場合には中国戦闘機がアクションをとるという恫喝まがいの軍事優先の行動も国際法上で認められていない、という。

仮に、中国側が、巧みに、この民間航空機をタテに使って、日本や米国が民間航空機を巻き込むような軍事行動をとることはないだろう、とし、既成事実をつくって居座ろうとしているのならば、国際的にも許されないことだ。

なぜ今になって中国は問題エスカレートさせ
一気に挑発行動に及ぶのか
もともとは、故鄧小平氏が、日中間で領土にからむ外交懸案をつくらないとの立場から、尖閣諸島問題に関して、中国側は棚上げ論で終始してきた。ところが、この尖閣諸島周辺海域の海底に眠るエネルギー資源の確保が重要課題になってくると、中国は一転して、海洋権益の確保を前面に押し出してきた。そして、日本が100年以上にわたって実効支配してきた尖閣諸島について、これまで半ば容認状態だったのにこの数年、過去の古文書などを引っ張り出して都合よく領有権を主張し始めた、というのが日本側の受け止め方だ。

中国側は、尖閣諸島の日本側領海の海域に中国漁船を送り込み、領海侵犯した中国漁船の船長を日本側が拘束した際に、中国国内で反日の動きを強めさせるなど緊張関係を生じさせたが、こと現場海域で銃撃戦に発展する、といったことはなかった。
ところが、今回の中国の一方的な行動で、一気に軍事的な緊張関係に発展するリスクが高まってしまった。というのも、尖閣諸島の上空にある、日本の防空識別圏空域と、中国が今回、一方的に作り出した防空識別圏空域の重なり合う部分があり、この何とも危なっかしい空域で問題が発生する可能性が十分にあり得るのだ。まさに一触即発のリスクだ。

尖閣諸島周辺での自衛隊の海上作戦行動に強い制約、
上空では軍事衝突リスク
 端的には、中国側の偵察機などが挑発するかのように、問題空域に入った場合、日本側が戦闘機のスクランブル(緊急発進)をかける可能性が高い。その場合、中国側が支援の形で戦闘機を同じくスクランブルさせた場合、互いのにらみあいにとどまらず、現場で事態がエスカレートして危機一髪寸前状態になりかねない。

この問題で話を聞いた自衛隊将校OBや軍事問題専門家によると、海上で日中双方の艦船が接触しても問題が多いが、空域ではもっと軍事面でリスクが大きい、という。
たとえば尖閣諸島の海上で、現在は海上保安庁が領海侵犯の監視行動にあたっているが、 仮に中国の大量の漁船群が踏み込んできて、その漁船の一部から銃による発砲があったり、あるいは中国監視船、さらに中国軍艦が中国漁船の護衛で侵入してきて事態がエスカレートした場合、海上保安庁法や警察官書職務執行法で対応しきれなくなる。日本側は対抗上、海上自衛隊の出動を仰がざるを得なくなるが、自衛隊が海上警備行動でいくのか、あるいは一歩踏み込んで防衛出動でいくのか、その対応基準が全く定まっていない、という。

ある軍事問題専門家は「自衛隊法で対処すると言っても、防衛大臣によって発令される海上警備行動と、総理大臣にしか発動権限がない防衛出動をどの段階でどう対応するか、実施基準、発動基準などがまだ定まっていない。海上での問題がこんな状況なのに加え、今回の中国が突然設定した日本と重なり合う防空識別圏空域での戦闘機のスクランブルがエスカレートした場合の『次の一手』をどうするのかなどについても作戦行動の基準が決まっていない」と述べている。

安倍政権が新設の国家安全保障会議が機能するか、
お手並み拝見も
その点で、安倍政権が外交、安全保障の新司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の設置法を11月27日の国会で成立させ、12月4日から施行・発足となる。今回の中国の挑発的な防空識別圏設定問題に対し、どう緊急事態対応するか、そんな事態を想定してタイミングよくつくったのだから、さっそくお手並み拝見といきたいところだ。
さきほど述べた尖閣諸島の海上での中国側艦船の発砲など事態エスカレートの際、自衛隊法の海上警備行動でいくのか、一段上の防衛出動で行くのか、あるいは空域での戦闘機のスクランブル行動で事態悪化の場合の対応をどうするのか――など、最悪の有事に備えて、国家安全保障会議で議論し、必要に応じて、その議論の開示を求めたいところだ。

さて、本題の中国はなぜ、強引かつ一方的な防空識別圏設定によって、国際的な非難集中で孤立も覚悟せざるを得ないような問題に、あえてリスク覚悟で踏み込んだのだろうか、という点が気になる。とくに、日本や米国を挑発し反発承知の上での強い言動も繰り返し、さらには現時点で中国にとっては友好国の韓国、台湾に対してまでも防空識別圏の対象にしたのだろうか、という点だ。

最近中国から帰国した中国の要路に人脈ネットワークのある専門家、外交官OBなどの話を総合しても、見方はまちまちで、定まっていない。代表的な見方は、習近平政権が政権基盤を確立することに躍起で、強大国中国を前面に押し出し、かねてから標榜している中国にとっての核心的な利益の追求を鮮明にさせる狙いでないか、という。
この核心的な利益は3つあって、1つめが国家主権と領土保全で、この中に尖閣諸島問題などが含まれる。2つめが国家の基本制度と安全の維持、3つめが経済社会の持続的で安定した発展だ。国益の確保はどの国にも共通する問題だが、今回の問題は外交的かつ軍事的なリスクをはらんでおり、何とも理解しがたい。

人民解放軍の独断行動説も、
米国が問題空域に爆撃機を飛行させ無言の圧力
次の見方は、人民解放軍が習近平主席の了解をとりつけず、半ば独断でアクションを起こしたというものだ。習近平政権としては海洋権益の確保や領土保全問題とのからみで、今回の防空識別圏の設定そのものが矛盾するものでないので、渋々と容認せざるを得なかったのではないか、という。
とくに、人民解放軍は軍備増強の一環として、今後の周辺海域のみならず太平洋などでの作戦行動でさまざまな衝突も想定し、そこで、今回の尖閣諸島の上空域での防衛識別圏問題に関して、日本や米国などがどういった出方をするか、対抗手段をどうとるか、見極めるためにあえて挑発的な行動に出たのでないか、という見方もある。

その点で、今回、米国防総省が、中国への事前通告もなしに、米大型爆撃機2機を中国が設定した防空識別圏空域にあえて飛行させ、無言のプレッシャーをかけた意味合いは大きい。しかも米国は外交ルートを通じて、日本側に対し日米安全保障条約上の義務も果たした、という趣旨のメッセージを送ると同時に、中国側に対しては日米は共通の利益のために動いていることをアピールした。中国は、この米軍の動きに何の対抗措置もとらず、考えようによってはメンツをつぶされた面もある。これが今後の中国の行動にどういった影響を与えるかが重要なポイントになる。中国が、いまだ軍事力で力を持つ米軍の「虎の尾」を踏んでしまった、という事態になるかどうか、興味深いところだ。

中国国内の社会不安が共産党批判に
発展するのを恐れ外にホコ先向けさせた?
ただ、私は、これらの見方とは別に、中国国内のさまざまな問題をきっかけにした共産党批判穂のホコ先を外に向けさせること、とくに反日の動きにつなげていくことといった国内に充満したガスを外に吐き出させる手段に使ったのでないか、という見方だ。

現に中国国内では格差問題、端的には所得格差、都市と農村の地域格差、さらには共産党中央、そして地方の幹部の腐敗汚職の撲滅が習近平政権の政策課題に掲げられながら、問題が後を絶たず、さらには少数民族問題についても強権で押しつぶそうとする動きも加わって、社会問題が次第にエスカレートして政治問題化し、最近の天安門広場での爆弾テロ事件などが起きている。
今回の問題は、いずれにしても、中国の対応次第でエスカレートすれば、一気に、東アジに緊張が広がりかねず、ウオッチが必要だ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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