アジアを舞台に電子部品の開発・製造・販売を手がけるメーカー機能を持つ商社のグローバル戦略
iTak(International)Limited
代表取締役社長
後藤 俊夫
一部上場商社である高島株式会社の100%子会社として、1993年香港に設立されたiTak(International)Limited(アイタックインターナショナルリミテッド)。現在、日本を含め6つの子会社を持ち、アジアを中心に11の拠点で事業展開をしている。液晶や音響部品などの電子部品の開発・製造・販売、白物家電やデジカメレンズ等の基板実装等を手がけている。日本の家電業界は国際競争激化による海外メーカーとの価格競争に晒され、厳しいと言われている昨今、同社では電子部品の商社から脱皮し、メーカー機能を合わせ持つ製販一体の強みを生かし、生存競争に勝ち抜く道を着実に歩んでいる。
取引形態はいわゆるB to Bである。お客様が国際競争に晒されているという中で、商社がメーカー機能を持つとは、どのようなことなのだろうか。
「これまで液晶を中心に、中国・台湾メーカーの株式の一部を取得し、役員として経営に参画し、エンジニアを工場に常駐させるなどして、アイタックブランド(自社ブランド)を展開してきました。時代の変化とともに家電メーカーが外資の傘下になったり、家電部門を外資に売却したり、業界にとって厳しい状況が今も続いています。当社は2018年からベトナムの工場で液晶の後工程の生産を行っています。前工程からの投資となると設備投資金額が大きく、事業化までには何年もかかるため、最後の工程となる液晶注入済のガラスに偏光板を貼り、検査して出荷する、というところから開始しています。将来的には、ガラスの上にICを搭載し、接続するための基板を圧着し、バックライトを組み込む工程まで行う計画があります。」
メーカー機能を持つ商社の強みは、アジアにおける国境を越えた分業によって面展開で商材を提案できることだという。
「2017年にタイに工場を作りました。それまでは外部の会社を使い、委託生産を行っていましたが、協力会社の敷地を借り、そこに設備投資を行い、自社生産できるようにしました。コイルやトランスフォーマーなどのいわゆる巻物部品をサブラインとして自社生産し、その他の部品とともに基板の上に実装してお客様に提供できるようになりました。我々がメーカー機能を持ち、お客様の工場の近くで生産する。この強みを生かし展開していくと同時に、基板実装で搭載する電子部品は中国で生産されたコストパフォーマンスの高い部品を提案する。つまり価格競争力があり、かつ高品質なメーカーの電子部品をキットで提案できるという点が非常に重要となります。」
ただし、単にコストパフォーマンスが良いというのではなく、高品質なものを安心して使っていただきたいということで、社長直轄の品質管理推進室を立ち上げたという。
「アジア系電子部品はトップクラスのメーカーといえども、日本の部品メーカーとは技術的に差がある場合があります。当社はそのギャップを埋め、安心して使っていただけるよう、社長直轄の品質管理推進室を2018年に立ち上げました。電子部品を採用する際にはお客様側で工場監査を行いますが、どこのお客様もマンパワー不足によって、初回だけになってしまうケースが多いです。品質問題などが生じた時、電子部品メーカーに対して品質指導や工程監査をする機能を当社内部に持っていることで、安心して採用していただくことができます。商品の価格だけでもなく、営業サポートだけでもなく、品質管理に関しても強化しているところです。」
中国を中心に、アジア、東南アジアに拠点を多く持つ同社にとって、コロナは大きな影響を与えたという。
「最初に中国で感染拡大していき、その後、日本を含め東南アジアにも拡がっていきました。最初は中国の部品メーカー、お客様の工場が止まり、次の段階ではマレーシアやフィリピンの工場も生産が止まりました。その後、欧米への感染拡大により最終消費市場がロックダウンしました。ゴールデンウィークあたりからは、お客様からの受注が激減しました。要するに、生産拠点だけでなく、最終消費地の動きが止まることで、多大な影響を受け、2020年の前半期はとても厳しいものとなりました。7月以降の後半期は持ち直してきましたが、前半のマイナスを補うまでに至らず、一年間を通して厳しい年となりました。」
コロナ後の商取引に関して、色々な変化が起きそうだという。
「今後、お客様が取引相手を選定する際は、自分たちの代わりに工場の現場に行き、対処できる機能を持つ電子部品商社が選ばれるのではないかと考えています。新製品立ち上げなど、今までであればお客様も自ら海外工場に出向き、スピーディーに対応することもできましたが、アフターコロナで、お客様自身が海外に出向くことを控えざるを得ない状況になれば、当然、我々のようにアジア各国に拠点があり、お客様の代わりに動けることが一つの選定要件になるでしょう。またリモートワーク中心となり、今までのように購買部隊に多くの人員を割けなくなるケースも想定されます。その場合、今までのようにたくさんの部品メーカーから購入するのでは無く、信頼できる電子部品商社、何社かに部品の調達をまとめて任せる方向になるのではないかと予測しています。その時こそ、我々の利用価値が高まるのではないかと期待しています。」
格差問題は、ただ単に個人所得の格差だけではなく、企業間でも拡がっている。
「電子商社も年々厳しい状況になっていきます。大手はM&Aにより規模を拡大する一方、中小は後継者問題も含めてかなり厳しい状況にあると思います。弊社は拠点が海外にあり、アジアのコストメリットを利用した点では強みがあります。しかしながら、これまでは家電中心のマーケットでアジアベースに展開してきましたが、車載関連や産業機器関連はあまり強くありませんでした。逆に言うと、そこをしっかりやっていくことで、更に発展していけるのではないかと思っています。ただ、自社だけで拡大するには時間を要するので、パートナーと組んで強化していきたいと考えています。一緒にやってお互いに発展できるような組み合わせもあるのではないかと思います。」
同社で働く従業員の国籍は8ヶ国にも及ぶ。今後ヨーロッパや中近東、アフリカなどアジア以外の地域に進出しようとする時、その中心で動くのは、実は日本人ではなくタイやマレーシアのアジア人部隊だという。タイやマレーシアに進出している欧米企業に対して、同社のアジア系社員がアクセスし、積極的にビジネスを作る動きを開始しているのだ。また、従業員数は2010年の放送時では100人にも満たない規模であったが、現在では400人を超える規模になっている。その中には多くの女性従業員も在籍し、取締役を筆頭に多くのアジア人女性マネージャーが在籍している。多様化や多様性が謳われる世の中において、真っ先にそれらを実践し、結果を残し、着実に成長を遂げている企業だと言えよう。「中国を含め、アジアの人たちとの強固な信頼関係を作り、事業を発展させていく喜びを共有していくことが肝要。」という。他社にはないユニークさと内に秘めたグローバル戦略で、今後の展開も期待される。
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