社会に貢献しつづけるバイオ企業。独自のメタボロミクス事業とバイオマーカー事業の未来。
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
代表取締役社長
橋爪 克仁
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社は、2003年慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝所長と「CE-MS法」の生みの親である曽我朋義教授によって設立されたベンチャー企業。メタボロミクス事業を中心とするソリューションプロバイダーとして活躍している。
同社の中核事業である「メタボロミクス事業」は独自開発された「CE-MS法」によって数百から数千の代謝物質を一斉に分析できるという。
「代謝物質(メタボライト)を一斉分析できる独自の『CE-MS法』は、キャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis, CE)と質量分析計(Mass Spectrometry, MS)を繋いで解析する方法です。代謝物を一斉に解析できる技術は海外を見ても弊社を含め数社しかありません。その技術を進化させ、より高感度で最先端な分析法によって、これまで見えていなかった物質が見えるようになり、より多くの代謝物質を検出できる形になりました」
アカデミアの研究者層が同社の技術を使い、自身の研究の一助にしたいということで利用されることが多く、また民間企業の基礎研究のみならず商品開発に利用されることも増えているという。
「受託先は幅広いですが、基本的なベースはアカデミアの研究用途が中心です。医学系で言えば、病気との関係で、病気の有無によって我々の測る血液中の代謝物がどのように変化するか、その違いが分かることで自身の研究をさらに進めていくなど使い方は様々あります」
ここ数年は「トクホ(特定保健用食品)」や機能性表示食品を色んな食品会社が製造し、あるいは異業種分野の企業もヘルスケア分野に参入し、ヘルスケア業界が活性化している。
「最近のトレンドとして、ここ1~2年で急激に増えているのは、機能性表示食品等を開発している民間企業からの受託です。機能性の表示は日本独特のものですが、各社競って機能性表示食品を開発している状況で、弊社の技術を使い、その効果や変化を見るために基礎データを取りたいということで利用いただいています。人が食べた時にどのような変化があるのか、血液を採取して測ることで、その効果を見ます。プロジェクト自体は検体数も多く、弊社の受託規模も大きくなります。最近、このような食品会社からのニーズの高まりを肌で感じており、受注が増えることで弊社の経営も軌道に乗せることができるのではないかと考えています」
同社は2012年にアメリカマサチューセッツ州において、「Human Metabolome Technologies America, Inc.」を設立し、海外進出を果たしている。
「現在、アメリカに営業拠点があり、ヨーロッパやアジアでも代理店を使った営業を展開しているところです。アカデミアからの受注はもちろん、海外の製薬企業やベンチャー企業からの受注もあります。海外の受注シェアは全体の15%程度になっています」
同社は製造生産の拠点が山形県にあり、営業や管理などの拠点は東京にある。どこの企業もコロナ対策を講じているが、同社は特に山形の生産拠点において徹底的に対策を講じているという。またさらにまたさらにライフサイエンス分野のベンチャー企業として同社がコロナに関連して取り組んでいることがあるという。
「一つは弊社HPにて『感染症研究×メタボロミクス』と題する特集を組んでおり、感染症研究でメタボロミクスを用いる意義や利点、更には実際に感染症研究でメタボロミクスを利用していただいた先生へのインタビューも公開しています。弊社の特集では直接的にCOVID-19に関するものではないものの、代謝物を解析することが、感染時の身体の状態や重症度の把握、さらには、ワクチンの副作用予測などにつながっていけばよいなと思っています。もう一つは新型コロナウイルスのワクチンを研究開発しているアンジェス株式会社とDNAワクチンの共同研究開発の契約を締結しました。当社のメタボロミクス技術が新型コロナウイルス対策に寄与できるよう取り組んでまいります」
もう一つの中核事業にすべく取り組んでいるというバイオマーカー事業とはどのような内容だろうか。
「バイオマーカー事業は、ある病気の有無や進行度の指標となるバイオマーカーを開発し提供することで、人々の健康に役立つことを目指しています。また、予防医療において、病気のリスクの有無を指標化し提案できるようなことが事業に繋がればいいとも考えています。弊社では鬱などメンタルヘルスや認知症予防に関するバイオマーカーの実用化に向けた研究に取り組んでいます。加えて、お客様からの要望に応じてバイオマーカー探索の研究サービスを提供しています。研究開発には時間や費用がかかるので、弊社としては収益性を上げつつその開発費等を吸収しながら将来の事業の柱の一つにしたいと考えています」
さらに、アプリケーション開発にも取り組んでいるという。
「色々なお客様に使っていただきたく、アプリケーション開発をやろうとしています。ただ代謝物を解析できるだけでなく、目的を持って使用できるように、様々な新規メニュー(例えば、腸内細菌に関する代謝物を測定するなど)の開発に取り組んでいます」
今後もバイオ産業に属する企業として、社会の役に立てるものを実装していきたいという。
「色々な社会問題や環境問題に、我々の技術やソリューションが役立てるよう、大きく成長していける会社にしていきたいと思っています。社会の何かに役立っていると感じられるソリューションを社会に提供していくことに我々の存在意義があると考えます」
全従業員数は78名の企業だが、そのうち22名が博士号の資格を持っているという。これだけ博士号を有している社員を持つベンチャー企業は珍しい。そもそも起業に際し慶應義塾大学が初めて出資したという同社、コロナ後の不安な社会に明るい光を差す使命感溢れる強い言葉に同社への期待は大きい。
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