3代にわたり日本人移住者支援のすごいブラジル人医師


時代刺激人 Vol. 317

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ブラジル高齢化を見据え介護施設づくり、日本の先進事例を活用

森口さんのブラジルでの取り組みは、日本人移住者向け巡回診療にとどまらない。高齢化し始めたブラジル社会のさまざまな課題にチャレンジ、その1つとして、リオグランデドスール州の州都ポルトアレグレに日本人移住者第1世代の人たち向け介護施設をつくる計画を立ち上げた。日本の介護システムが制度的にも世界で例がないほど進んでいることを森口さんはとても評価、移住者第1世代の高齢者支援のため、積極導入したいと考えたのだ。

この取り組みがブラジル人のホテルオーナーの目に留まった。傘下のホテルチェーンがコロナ禍で稼働率ダウン、対策を探っていたことから、森口さんにアドバイス依頼があり、快く応じて高齢者向け施設の在り方を指導した。今ではホテルの一部をブラジル人高齢者向け介護施設に活用する、そのオーナーのビジネスは軌道に乗りつつある、という。

父幸雄さん立ち上げの老年医学研究所を継承、NPOで同じ取り組み

森口さんの取り組みは続く。2015年にNPO法人森口老年医学研究所を立ち上げ高齢社会化に対応しつつある。父幸雄さんが先行して、1973年に日本政府支援でリオグランデドスール州のカトリック大学内に同じ研究所を設立しており、志を継承するためだ。

巡回診療時に、森口さんはリオグランデドスール州奥地ベラノポリスに長寿村を発見、現地踏査結果を公表した。ブラジル厚生省がレポートや老年医学研究所の研究に刺激を受け、2020年にブラジル高齢化社会研究所を立ち上げた。森口さんの娘さん2人も医療関係で育ち後継者となりつつある。医師ぞろいの森口ファミリーの取り組みはやはりすごい。

ブラジルの日本人移住者問題にとどまらず、日本に来て働く日系ブラジル人の問題など取り上げるべきテーマは多い。日本国籍を取り戻せない森口さんは、苛立ちを感じながらも両国の橋渡し役としてそれらの課題に取り組む。日本は少子高齢化、人口減少など課題を抱えるが、ますます内向きではおれない、と感じる。いかがだろうか。

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