どこへ行った「観光立国・日本」、新設の観光庁の顔が見えず開店休業? 外国人に「日本は魅力に欠ける」と言われるリスク、もっと戦略的工夫を


時代刺激人 Vol. 66

 閉そく状況に陥っている日本にとって、ゴルフでいうリカバリー・ショットのようなものが、何としても必要だ。そんな時に、政府が打ち出した「観光立国・日本」を思い出し、いったいどうなっているのだろうか、と首をかしげてしまった。というのも、戦略センターとして、政府が2008年10月に国土交通省の外局に観光庁をつくったのだが、顔がまったく見えず、開店休業なのかと思ってしまうからだ。ある関係者が「かんこうちょうっていうのは、官公庁のことかと思った」と皮肉っぽく言うほどだから、推して知るべしだが、その意味でも、観光庁は矢継ぎ早に新戦略を打ち出し、行動に移してほしい。
 ところが、12月9日に、政府は、観光立国推進本部の初会合を開いたのだが、率直に言って、「まだ、そんな議論をしているのか」と感じさせる状況だった。政権交代したこともあっての推進本部の初会合とはいえ、観光庁自体は、1年以上も前に発足していること、民主党政権のもとでの前原誠国土交通相ら政務3役の新体制になっても3カ月たっていることを考えると、その初会合の内容が、何ともスピードの時代に対応しきれていない、スローモーなのだ。

スピードの時代に対応しきれずスローモーなのはなぜ?
 具体的にいえば、推進本部内に3つの部会を置き、このうち中国からの観光客増加をねらった中国人向けの個人観光ビザの発行条件緩和に関しては、年明け1月下旬をめどに、一定の方向付けをするそうだが、それ以外の2つの部会については、都市と農村の交流につながるグリーンツーリズム、環境に配慮したエコツーリズムに関する部会、そして国内の観光需要の拡大をめざした休日の分散取得などを促す制度の枠組み検討の部会はいずれも来年6月までに具体策をまとめるというのだ。
 こんなテーマは、観光庁がスタート後、当然のごとく議論しているべきものばかり。そして政権交代とは無関係に、推進会議初会合と同時に観光庁が取り組み課題、対応方針案を提示できるようにしておくのが行政本来の行動だ。そのこともさることながら、初会合では「観光立国・日本」の方向づけがさっぱり見えてこなかった。たとえば、2007年1月にスタートした観光立国推進基本法、それにからむ基本計画の中身に関して、新政権のもとで、計画目標の前倒しなどスピードアップを図るとか、新たに、この分野の問題を計画に加えて推進体制の強化を図る、といったものが今回の観光立国推進本部の初会合で出てくるべき筋合いのものだった。ところが現実は、それら前向きのものが見受けられなかった。重ねて言えば、信じられないほどのスローモーぶりで、あきれ返るばかり。

そればかりでない。実は、その初会合の2カ月前の10月1日に、前原国土交通相ら政務3役はじめ本保芳明観光庁長官ら政府側と生田正治氏(観光庁アドバイザリーボード)、桑野和泉氏(大分由布院温泉観光協会長)ら民間側関係者による「今後の観光庁および観光政策に関する懇談会」が開催されている。この時が政権交代後の新政権下での担当閣僚らによる実質的な初会合であり、ここをスタートに機敏な行動をとれば、よかったのに、言い放しに終わっているだけだった。

前原国土交通相が「観光分野は成長戦略の核になる」と言い切っているのに、、、
 この懇談会では、それなりに問題提起がされている。観光庁のインターネット上のホームページで議事概要がご覧になれるが、前原国土交通相はこの会合の冒頭あいさつで、「我が国の将来にとって、いかに成長分野をつくり育てていくかが重要であり、観光分野は成長戦略の核となり得る」「国際観光については、2020年までに訪日外国人旅行者数2000万人という目標があるが、達成時期を前倒ししたい。パリは年間6000~7000万人の外国人が訪れている。そのからみで言えば、我が国が(東京などの1都市でなくて)国全体で2000万人という目標は低いのでないかと思っている」と、取り組み姿勢を打ち出している
また、観光庁アドバイザリーボードの生田氏(元日本郵政公社総裁、元商船三井社長)は「今後伸ばすべき産業として、観光の経済的な意義は大きい」と述べると同時に、「観光庁が典型的なタテ割り行政構造になっていて、その弊害によって、権限の範囲が限定的であるため、戦略的な施策がとれない状況だ」とし、民主党政権が政治主導でそれら弊害の除去に取り組むべきだと主張している。  さらに、懇談会に出席した日本経団連観光委員会委員長(JR東日本会長)も「観光に対する意識を変えることが必要だ。観光は物見遊山ではなく、国際平和に寄与するソフトインフラであり、地域活性化へ向けた国家戦略として位置付けるべきだ」と述べている。

観光産業興しは内需振興がらみでも重要だが、外国人との交流が断然プラス
 観光に関しては、内需振興のからみ、とりわけ地域経済再生や地域雇用といった景気対策といった面だけでなく、日本再発見のチャンス、都市と農村との交流を深めながら自然の豊かさの享受など、国内観光1つとっても、いろいろな広がりがあるだけに、取り組むことがもとより重要だ。
しかし、私は、それ以上に、海外から外国人観光客を日本に呼び込み、消費などによって日本でおカネを落としてもらうということよりも、むしろ、日本人とのさまざまな交流チャンスをつくり、それら外国人に日本という国がどんな国なのか、どういったアイデンティティを持った人たちの集まりなのか、まだ、それなりの戦略的な強みを持っていて見捨てがたい国なのか、アニメ、技術力、日本食文化などソフトパワーでは魅力ある国と見るのかどうかなどを率直に見て、評価してもらうこと、もし魅力があれば帰国して口コミで、ぜひ日本という国のことを多くの仲間に語ってもらいたい、そのきっかけを観光というツールで実現したらどうかというのが私の考えだ。

日銀OBの額賀氏は交流・観光を中心にした「交流立国」論を展開
 私の友人で、日銀OBの額賀信氏(ちばぎん総研社長)が同じような問題意識で、観光を通じた交流こそが日本経済の蘇生のカギだと主張されている。額賀氏は著書「『日本病』からの脱出」の中で、交流・観光を中心とする「交流立国」こそ、産業政策のめざすべき1つの方向だ、と述べておられる。その主張ポイントを少し引用させていただこう。
「1990年代以降、日本経済を特色づけた問題は、需要不足だったが、本格的な人口減少が始まると、その需要不足に一段と拍車がかけられる。人口減少社会では需要を補てんし経済活力を維持するためには、おカネを使う人に来てもらうしかない。定住人口は増えないから、交流人口の増加で定住人口の不足を補うのである。人口減少社会の産業政策を考えると、必然的に交流の重視、観光をテコにした所得創出に至る」という。
さらに、額賀氏によると、「観光振興による交流人口の取り込みという分野は、明らかにこれまでの日本が最も遅れ、一方、これからの日本が最も必要とする分野である。交流を通じる幅広い相互理解の向上は、同時に国の安全保障に基礎を強化する。観光産業は、積極的に平和に寄与する平和産業という意味でも、21世紀的な未来を切り開く力を持っている。人口減少社会の経済活力を取り戻すために、国を挙げて、観光・交流による経済振興を柱とする『交流立国』をめざすべきなのである」と。

日本大好きの外国人に海外で「日本観光大使」を任じてもらうのも一案
 共同通信が、11月からカナダの国際オリンピック委員会の広報担当に就任したアンドルー・ミッチェル氏を人物紹介しているが、われわれにとって1つのヒントになる。というのは、ミッチェル氏は、カナダのブリティッシュコロンビア州出身だが、1995年に日本の中学生に英語を教えるプログラムで茨城県かすみがうら市に3年在住、そのあと東京で英字紙の記者となり2005年にはスポーツ担当記者としてサッカーのワールドカップドイツ大会に日本から出張取材するなど、日本在住歴が14年という親日家。もちろん日本語はベラベラ。ラーメンとギョーザが好物で、外見はカナダ人だが、心は日本人という。要は、日本が、このミッチェル氏のような日本大好きの外国人に「駐カナダ・日本観光大使」の肩書を与えて、自ら感じる日本観を多くのカナダ人、あるいはカナダ冬季オリンピックに来るさまざまな人たちへのメッセンジャーになってもらってもいい。その口コミが、日本っていう国は面白そうだなとなってくれればしめたものだ。
 笑うに笑えない話がある。私の友人が実際に経験した話だが、山形県と宮城県の県境に広がる蔵王スキー場のうち、山形県側の蔵王温泉スキー場で、雪に興味を持つ中国のニューリッチの若い人たちがホテルに泊まりがけでスキートレーニングを受けた際のこと。温泉の観光協会はもとよりだが、ホテルも中国語のできる人がほとんどいないうえ、中国語で書かれた案内書もなく大慌て。ところがこのニューリッチの中国人はスキーをマスターしようと躍起ホテルに1週間近く滞在する上客ながら、ホテル側にとっては想定外、逆にホテル側があてこんだ日本人の若者たちはと言えば、ほとんどがゲレンデでスキーはするが、ホテルには宿泊せず、運転してきたワンボックスカーに寝泊まり。日本人の若者は蔵王温泉のホテルにはおカネを落とさずスキーだけ楽しみ、逆に上客であるはずの中国人向けには何の準備もなし。北海道と並んで東北のスキー場が中国人観光客の間では口コミで人気を呼んでいるのに、地元観光協会、それにホテル側の対応が外国人観光客対応になっていないまずさなのだ。

外国人観光客への観光インフラ皆無の悲しさ、観光庁は行政仕分けで「不要」も
 これに似た話は、九州の宮崎県でも聞いた。大分県の別府温泉には韓国人の観光客がよく来ており、地元の観光協会などもハングル文字の案内表示はじめ、さまざまな工夫をしつつある。ところが、宮崎県は、別府からさらに宮崎まで足を延ばす韓国人観光客を呼び込もうと必死ながら、観光地にはまだまだ受け入れ準備体制が整っておらず、おカネを落としてくれる韓国人観光客がまたぜひ来ようという気を起こさせる状況に至っていない、というのだ。これは地方に限らず東京や大阪の大都市でも、最近でこそ、JR東日本の電車、さらに地下鉄で英語のアナウンスをするようになり、少しは観光客にやさしくなってきたが、まだまだ合格点を上げる状況でない。「観光立国・日本」の戦略づくりという以前のお寒い状況なのだ。観光庁はタテ割り組織の弊害で身動きとれずなどと泣いてばかりいると、今度は行政仕分けで「不要」の烙印を押されるリスクがあることに注意を払うべきだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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