目指す日本初の世界メディア、ポジティブ・メッセージで「日本を元気にしたい」


C Channel株式会社
代表取締役社長
森川 亮

SOLOMON

「日本を元気にしたい」。新たな起業の動機だった。LINEを世界的なコミュニケーション・アプリに育てた森川亮氏が、新たな挑戦を始めたのが3年前。女性向け動画メディア「C CHANNEL」をつくり、世界メディアを目指し始めた。Serial Entrepreneur(連続起業家)、森川氏に挑戦を成功させる鉄則を聞いた。

男は女性の「応援団」に
女性が結果を出せる仕組みづくりに知恵

今では「応援団に徹する」と言う森川氏だが、イライラしたこともあるという。だがLINEでもそうだったが、「ユーザーから遠く離れた社長がしゃしゃり出ても意味がない。僕も『おじさん』です。現場に権限を渡すしかない」とこ
の道が正しいと考えた。
男の森川氏にとって女性向けのコンテンツ作りは難しい。いまも森川氏は「なぜこのコンテンツが受けるのかが分からない」と言う。
例えば女性がよく口にする「カワイイ」。森川氏は動画コンテンツを見ても、どこがなぜカワイイのかと論理的に理解しようとするが、わからない。しかも「昨日カワイイと言っていたのに、翌日には別のものがカワイイと日々変わっていく」と森川氏。「女心は秋の空」である。論理的に考えようとしても無駄なことだから、任すしかない。
社長として不安はないのだろうか。
「僕の役目はビジネスモデルの構築と、ヒト・モノ・カネの経営資源の配分を決めることだと割り切っています。僕はどのコンテンツが受けるかどうかを予測はできませんが、結果が出ているかは数字を見ればわかります。女性社員が結果を出せるようにやる気を持ってもらうにはどうすればいいかを考えています。その方程式は男と女で違うかもしれませんがね」
森川氏の試行錯誤の日々は続いている。

「森川WAY」連続起業家の流儀
スピード、本質、ダイバーシティー

多くの会社で新規事業を立ち上げてきた森川亮氏のビジネスの流儀とは何か。3年前から社長を務めるC Channelは女性が多く働き、女性をターゲットにしたメディア企業である。これまで手掛けた会社と趣は大きく異なる。さまざまな経験を積んだ今、森川氏は経営にとって何が重要だと考えているのだろうか。
「やはりスピードが大切」
森川氏は即座に答えた。インターネット業界はスピードが命だといわれる。他社が簡単に追随できないほどの技術的なアドバンテージがない限り、新しい価値を持ったサービスを始めたとしても、すぐに真似される業界である。簡単には真似できないアナログ的なすり合わせ技術がモノをいう製造業とは大きな違いがある。
インターネット業界で勝ち続けるには、新しい価値を生み出したら、最速のスピードで改善を重ねなければならない。その改善スピードが他社を上回っているならば、追いつかれることはない。だから「スピード」なのだ。
LINEでもC Channelでも最初から世界を目指したビジネスモデルを考えたのも、スピードを重視したから。まず日本で成功させてから海外へと進出するという戦略では、日本で事業を定着させる数年間の間に海外のライバル企業が同様のサービスを始めてしまう。後から海外市場に進出しても入り込めない。とにかく素早く海外市場でシェアを取ることが重要なのだ。

クオリティとスピード
二律背反を解決するのは本質の見極め

スピードを高めることだけでいいのだろうか。サービスの質が伴わないまま市場に参入しても失敗に終わりはしないか。森川氏も自著の『シンプルに考える』の中で、「『クオリティ×スピード』を最大化する」ことをビジネスの鉄則としている。
問題は「クオリティ」を追求すれば、スピードが遅くなること。逆にスピードを求めれば、クオリティを妥協しなければならなくなる。この二律背反を解決するにはどうすればいいのだろうか。
森川氏は二つ目の流儀として「本質を見極めること」を上げた。
LINEの前身、ハンゲームジャパンで働いている頃の話である。ゲーム市場の主役がパソコンからケータイに移ろうとしていた。パソコンゲームではコンピュータ・グラフィックスを駆使した精緻なゲームが受けていた。ケータイの小さな画面向けに精緻なゲームはつくれない。ケータイ向けには「手軽なゲーム」をつくる必要があった。
技術に長けた社員らは「こんなものはゲームではない」と反対した。それに対し、森川氏は「それは間違っている」と反論した。
森川氏は社員らの主張が「本質」からはずれていると思ったからだ。
ゲームとは何か?本質は「遊び」だ。楽しく遊べるゲームがよいゲームになるはずで「美しいグラフィックス」はゲームの本質ではなく、ゲームの一要素にすぎない。何が本質かを考え抜かないとビジネスが単なる自己満足となり、スピードを落とし、事業が失敗してしまうのだ。
ソニーで働いていたころにも同じような経験をしたという。テレビやモバイル端末をインターネットにつなぎ、新しいサービスを創造するのが仕事だった。ソニーにいたテレビの専門家たちは「なぜテレビをネットにつながなければいけないのか。テレビはそんなものではない」と主張した。電波で映像を受信するのがテレビだとこだわった。
森川氏の考えは異なった。テレビを発明した人は「遠く離れた場所に映像を届ける技術」を開発しようとしたのだと考えた。過去は映像を伝えるものは「電波」だったが、それは手段に過ぎない。「ネット」を使って、映像を届けてもテレビの本質から外れるものではない。
「これは何か」と本質を見極める問いかけをし続けながらクオリティを追求することがゴールに最速で到達するためには必要なのだ。C Channelのように森川氏にとって未知の市場ともいえる女性市場向けのサービスを開拓するにも本質を探ることが大事だ。
「マーケティングでアンケートを取り、数字を見るが、数字の奥にある人の欲求、欲望は何かという本質を考えるようにしています」と森川氏は自戒する。
「スピード」「本質」、そして森川氏は3番目の流儀を挙げる。
「ダイバーシティー。そこに価値をゆだねる」
まさにC Channelを経営して、改めて確認したビジネスの要諦かもしれない。

自分を超えるような世界はつくれない

先の読めない時代
必要な現場のダイバーシティー

先行きが見えず、新しいテクノロジーが次々に登場していく時代である。一人のトップがすべてを理解し、判断するのは難しくなるばかりだ。それなのに多くの経営陣は現場の最前線の判断に口を出したくなるものだ。森川氏も自分が常に最前線にいなければならないと思った時期もあった。だが森川氏はかつて『賢者の選択Leaders』(2015年10月5日放送)でこう語った。
「自分を超えるような世界はつくれないことに気がついた」
ましてや女性市場の開拓は自分ではわからないことばかり。顧客と日々対峙する現場の最前線にいる女性に判断を任すしかない。
森川氏は自著で軍隊の指揮命令系統の変遷を紹介しながらニーズの多様性に応じて現場に権限を移すことを勧めている。かつて世界中の軍隊組織は厳格な中央統制型の管理を採用していた。だがゲリラ戦、局地戦が多くなった近年の紛争に中央統制では対応しきれなくなった。事情が異なる現場ごとに判断を任せる管理体制へと変わりつつあるのだ。ビジネスも同じだと森川氏は考えている。
トップや中央で考えても「このやり方が正しいはず」というものは見つけにくくなっている。多様な市場を相手にしている限り、多様な戦略が必要なのだ。
「自分のスタイルにこだわらず、現実、現場に任せた結果にゆだね、戦略の良し悪しを判断する」
細かな現場の最前線での判断に口を挟むのではなく、現場が判断した結果を経営陣がフィードバックして、次なるより良き戦略作りを構想するという「結果主義」が森川氏の経営判断の基本である。

日本を元気に
5G時代のNO・1企業へ

森川氏はこの春4年目に入るC Channelをどんな会社にしたいのか。
「日本を元気にしたい」と創業の思いを改めて語ったうえで、こう付け加えた。
「5Gの時代のNO・1メディアになりたい」
2020年に始まる携帯電話の次世代通信方式5Gで圧倒的な強みを持った動画メディアを目指すという。1回1回ダイアルアップでインターネットにアクセスした時代から常時接続になったころの激変ぶりが予想される。この2年がC Channelの正念場となる。

森川WAY

連続起業家の森川亮氏が流儀としてきた経営手法は極めてシンプルなものが多い。
「スピード」「本質を見極める」「ダイバーシティー」以外の森川WAYを自著『シンプルに考える』から紹介する。

ビジネスは「戦い」ではない
会社はバンドのようなもの。歌のうまい人、ギターのうまい人、ピアノのうまい人など様々。いい音楽のために力を合わせ、リスナーを喜ばせようとする。会社も社員が力を合わせユーザーに喜びを与えるのが目標だ。「ライバルからシェアを取れ」と戦えば、ユーザーのことよりライバルに気が向く。それでは結局勝てないのだ。
経営は「管理」ではない
社員を管理しなければならないという固定概念がイノベーションを阻害している。かつてのソニーには「自由」があった。優秀な社員たちが自由に活動し、共感をベースに連携し合うエコシステムこそがイノベーションの原動力になる。
会社を「動物園」にしない
会社が成長し、大きくなれば安定志向の社員が増える。創業直後にはユーザーに認められようと目をギラギラさせながら働いていた野性的な姿が失われ、牙を抜かれた動物たちが集まる「動物園」になる。「結果を出した人が報われる会社」を保つことが大切だ。
「成功」は捨て続ける
自分が生み出した成功には愛着がある。自分の手でもっと磨き上げたいと思う。他人に手渡すのが悔しいような気がするものだ。でもそれを手放させて、新たな価値の創造に向かってもらう。それぞれの社員が成功を捨て続けることが会社の価値を高める。
守ると攻められない
変化の時代を生き抜く「経営の鉄則」だ。「新しいもの」は一般的には「古いもの」を否定する。あらゆる企業は「古いもの」で成功したから今がある。どうしても「古いもの」を守ろうとし、「新しいもの」に適切に対応できなくなるものだ。森川氏も同じ過ちを過去に犯し、「守ると攻められない」を噛みしめた。

森川氏の足跡

日本テレビ放送網(1989年~2000年)
筑波大学で情報工学を専攻し、日テレに。音楽番組の制作を希望したが、コンピュータシステム部門に。青山学院大学院に通いMBA取得
ソニー(2000年~2003年)
新規事業部でインターネット・ビジネスの開拓を担当
ハンゲームジャパン〈後のNHN Japan、LINE 〉(2003年~2015年)
入社から4年後に日本のオンラインゲーム市場でNO1に。2007年社長に就任。LINEを世界的なコミュニケーションアプリに育てる
C Channel(2015年~)
2015年3月にLINE社長を退任し、4月にC Channelを設立。日本発の世界メディアを目指す

取材・構成/安井孝之 撮影/小林大介

出演者情報

  • 森川 亮
  • 1967年
  • 神奈川県
  • 筑波大学

企業情報

  • C Channel株式会社
  • 公開日 2018.04.26
  • 社名
  • C Channel株式会社
  • 業種
  • マスコミ(出版・広告)
  • 設立
  • 2014年7月
  • エリア
  • 東京都
  • 本社所在地住所
  • 東京都港区三田1-4-1 住友不動産麻布十番ビル4F

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