「ノーベル平和賞を取りたい」 企業サポートで世界平和を
株式会社サムライインキュベート
代表取締役
榊原健太郎
ベンチャー企業で悪戦苦闘した経験をもとに企業する人たちをサポートしようとサムライインキュベートを立ち上げたのが2008年。どれから10年、140社のスタートアップ企業を支えてきた。企業の聖地、イスラエルにも一早く進出し、日本企業をサポートする。目指すのは「ノーベル平和賞」という突拍子もない夢だ。
米トランプ大統領がエルサレムを首都にすると宣言し、再びパレスチナとの紛争が激しくなっているイスラエル。紛争国というイメージが日本では強い。だがサムライインキュべート(SI)代表取締役の榊原健太郎氏は「日本人の思い込みは間違っている。人口800万人の国だが、革新的な技術を持つ起業家たちがひしめき合っている」と言う。近年、イスラエルは先端技術が生まれ、資金が集まる米シリコンバレーのような場所として注目されている。これまで戦争が絶えず、軍事技術の開発に力を入れてきた。インターネット技術はもともと軍事技術だったものが民間に転用されて、新しい産業を生みだした。同じようにイスラエルが開発した軍事技術、つまり情報セキュリティ、AI、センサー技術、バイオ技術などから新しい産業の芽が出始めているのだ。SIは2014年5月、イスラエルのテルアビブに拠点をつくった。日本の大企業やベンチャー企業とイスラエルの起業家との連携を進め、日本の産業にイノベーションを起こそうとしている。
「日本のべンチャーがグーグルやフェースブックのように大きくなっていくにはイスラエルとの連携は一つの選択肢です」。
榊原はこう考えている。
世界各国がしのぎを削る米シリコンバレーで日本人の存在感を高めるのは容易でない。だがナチス・ドイツの迫害から逃れようとした多くのユダヤ人にビザを発給し、避難民として救った外交官、杉原千畝はイスラエルでは今も尊敬される存在だ。親日派も多い。榊原氏にとってイスラエルとのパイプを太くするのは日本のベンチャーを育てるには合理的な選択肢なのだ。SIがイスラエルに進出した年に、拠点を置いていた日本企業は5社に過ぎなかった。進出から4年近く経った今では大手電機、精密機械、IT企業など約60社がR&Dセンターを置く。欧米や中国、韓国の企業のイスラエルへの出ぶりに比べ、まだ少ないが、短期間で様変わりした。榊原氏の起業支援の活動は常に時代の一歩先を歩んできた。
大学を卒業し、医療機器メーカーやITベンチャー企業などで働き、SIを創業したのは08年。当時、起業したものの営業や事業運営のノウハウがなく事業拡大に苦労しているベンチャー企業を多く見た。
「ベンチャー企業なとどで苦労した自分の経験を、課題を抱えて困っている起業家たちへの支援に生かしたい」。
会社を設立した時の思いだった。
09年、東京メトロの小竹向原駅近くの一軒家を借りて、「サムライハウス」という起業家らが共同で使うコーワーキングスペースをつくった。起業家を支援し始めると「安い仕事場が必要だ」という声が聞こえてきたからだ。榊原氏は振り返る。「シェアリングという言葉もなかった。賃貸物件をまた貸しすることはほとんどの物件で断られた。ようやく見つけたのが小竹向原の一軒家。恐らく日本で最初の共同生活ができる起業家向けのコーワーキングスペースでした」。まるで、漫画家の手塚治虫や石森章太郎が共同生活をして、腕を磨いた「トキワ荘」のような存在だった。
10年ごろには学生の起業家にも投資をし、支援した。当時は「学生の人生を狂わせるのではないか」と批判も受けたこともある。だが、今では学生を対象とした起業支援を積極的に進める大学も現れた。
今の日本の起業を取り巻く状況は榊原氏がSIを設立した10年前に比べ大きく変わってきた。
SI設立直後の09年ころ、榊原氏が投資するのは1社に500万円ほどで、1〜2年後に企業価値が2倍ほどになればいい方だったという。ところが最近は、政府のベンチャー育成策やベンチャーキャピタルの増加で起業家にお金が流れ込み始めた。ベンチャー業界を見回すと、最初に1億円規模のお金を出資し、1年後には企業価値が10億円になることも珍しくない。榊原氏は「ベンチャー企業にお金が集まらない時代もあったが、今はとても資金調達しやすくなった」と言う。
開業率はリーマンショックが起きた08年の4.5%を底に上向き始め、15年に23年ぶりに5%を超え、5.2%となった。
未上場ベンチャーの資金調達額もリーマンショック後の09年〜13年は600億〜800億円程度で推移したが、その後は徐々に増え、16年は2000億円を突破した。ようやく起業にも追い風が吹き始めた。
起業をしたり、スタートアップ企業への就職をしたりすることにも抵抗感がすくなくなった。
榊原氏は「起業して失敗したとしても大企業が新規事業担当者として採用してくれることもある。SIにインターンに来ている学生の就職先は外資系投資銀行などから引く手あまただ」と話す。
起業をしたり、その周辺で働いたりしたことが評価される時代になったのだ。
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