朝日新聞炎上、2つの誤報対応遅すぎた メディア戦争への守り固執も信頼喪失に


株式会社朝日新聞社

時代刺激人 Vol. 252

信頼の厚かった新聞社で、誤ったニュース判断や確認取材不足によって記事を書いて報道したことが判明した時、あるいは誤報の指摘を外部から受けて問題が表面化した時などに、新聞社がどういった対応をするかによって、その新聞社の「顔」が見えてくる。

信頼の厚かった新聞社で、誤ったニュース判断や確認取材不足によって記事を書いて報道したことが判明した時、あるいは誤報の指摘を外部から受けて問題が表面化した時などに、新聞社がどういった対応をするかによって、その新聞社の「顔」が見えてくる。
たとえば報道現場で事実の再確認や検証の作業に躊躇が出ると事実上、問題先送り状態になってしまう。逆に確認不足や思い込み取材による誤報の可能性が高いことが判明しても、今度は新聞社のメンツが出てしまい、守り姿勢に入ることが往々にしてある。当然、読者を含めた世の中から対応の遅さに対する批判が強まり、謝罪会見が避けられなくなる。

ところが大組織病体質が強い新聞社の場合、社内議論に時間がかかり、謝罪会見が行われた時はタイミングを失してしまう。そういった場合、新聞社がどんな外部評価を受けるか、結果は歴然としている。信頼度の高かった新聞社であればあるだけ、その批判は高じて、バッシングに発展しかねない。朝日新聞は、まさに、こうした誤報対応の遅れがあったため、批判の集中砲火を浴び、今、文字どおり炎上状態にある。

従軍慰安婦記事を33年たった今年8月検証で
記事取り消し、ただ謝罪なく問題に

朝日新聞の木村伊量社長が9月11日夜の緊急記者会見で2つの記事の誤報に関して謝罪し、改革見極め後の引責辞任を表明したことは、ご存じの方も多いだろうが、このコラムで取り上げる関係上、その概要を申し上げておこう。

2つのうちの1つは、1982年9月に朝日新聞大阪本社版朝刊で報じた「第2次大戦中の韓国・済州島で吉田清治氏(故人)が200人の若い朝鮮人の女性を日本軍の現場に強制連行することに関与したと証言した」という記事に関するものだ。吉田証言そのものが虚偽だったことが判明したため、33年たった今年8月5日付、6日付朝刊での「慰安婦問題を考える」と題した過去の慰安婦報道検証記事で朝日新聞が「記事を取り消す」と表明した。ところが記事取り消しに言及しながら、誤報に対するおわびや謝罪がなかったため、大問題になった。

独自入手の福島第1原発の「吉田調書」ベースの
「所長命令に反し全面撤退」が誤報

もう1つの記事は、今年5月20日の朝日新聞東京本社朝刊で、東京電力福島第1原発事故の現場所長だった吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調の聴取記録「吉田調書」を朝日新聞が独自入手、そして調書をベースに、別の独自入手した東電現場の時系列資料などと状況分析した結果、当時の原発所員の9割にあたる約650人が吉田氏の命令に反して約10キロ南の福島第2原発に撤退していたことが判明したというものだ。ところが産経新聞など他のメディアが後日入手した同じ「吉田調書」をチェックしたところ、「命令違反」や「撤退」という認識がなく、一時退避だったと見る方が正確だということが明らかになった。このため、朝日新聞は社内調査をもとに誤報と判断、謝罪に至った。

ジャーナリスト池上氏が朝日新聞連載コラムで
批判したことで掲載拒否も大問題に

この2つだけでも重大事で、報道機関として、致命傷になる問題だが、もう1つ、大きな問題が噴出した。朝日新聞オピニオンページに連載していたNHKのOBで著名なジャーナリスト、池上彰氏のコラム「新聞ななめ読み」で、池上氏がさきほど述べた8月5日付、6日付の慰安婦問題検証記事に関して、誤報という過ちがあったのならば率直にそれを認め、謝罪もすべきであるのに、訂正自体が遅きに失した上に謝罪しないのは問題だ、とずばりポイント部分を指摘した。

ところが記事掲載前の段階でコラム原稿に目を通した朝日新聞編集局幹部は、対応姿勢を批判されたことに不満を示して掲載見合わせを判断、正しくはコラムの掲載拒否に及んだ。これが表面化したため、言論の自由を標榜するメディアにあるまじき重大な判断ミスと外部批判が集中した。一転して掲載判断に踏み切ったが、このコラム対応はお粗末どころか、日ごろ、言論の自由を標榜している朝日新聞が「異論」に拒否反応を見せたこと自体に致命的なミスがあった。木村社長が謝罪するのは当然だった。

朝日新聞リベラル派の友人たちが
なぜ批判行動に出なかったか不思議、大組織病?

私はかつて朝日新聞のライバル紙、毎日新聞に20年間在籍し、その後、ロイター通信、フリーランスの生涯現役経済ジャーナリストと、取材拠点を変えたが、数あるメディア企業の世界で朝日新聞には圧倒的に友人が多い。朝日新聞の独特のプライドの高さ、民僚体質、大組織病体質に染まる人たちよりも、リベラルな問題意識を持つ人とだけ気脈を通じた友人関係だが、その中には今回の謝罪会見に出た社長の木村氏も含まれる。それらリベラルで問題意識ある人たちは、誤報が明らかになった時に、なぜ機敏に行動して謝罪、そして再発防止策などへのリーダーシップをとらないのだろうかと不思議に思ったほどだ。

朝日新聞の複数の友人が異口同音に言っていたのを紹介すると「従軍慰安婦、吉田調書の2つの誤報、それに池上氏のコラム対応を加えた3点セットによって、朝日新聞攻撃のメディア戦争に発展したため、経営陣や編集局幹部が守りの姿勢に入ってしまった。情勢判断ミスだ。われわれ現場も、もっと早く批判行動に出るべきで反省している。ただ、池上氏コラム掲載拒否の対応をめぐって編集局内部で批判が噴出し、若手記者もツイッターで社外の人たちに伝わるように自社批判を展開したので、今後に望みをつないだ」と。

朝日新聞は過去に長野総局ねつ造・誤報事件、
メディアは誤報リスクと背中合わせ

ただ、朝日新聞は2005年8月、長野総局で上昇志向の強い若手記者が当時の田中長野県知事に取材しないまま、本社政治部からの取材要請に応えて記事情報をねつ造、しかも政治部サイドも鵜呑みにして情報チェックを怠る二重ミスで誤報記事に発展した忌まわしい事件がある。当時の東京本社編集局長が皮肉にも今回の木村社長で、編集局の大胆な改革を指示して引責辞任せざるを得なかった。

こういった誤報問題は、私がいた毎日新聞を含めて、メディア全体に共通する問題で、現場記者の事実確認不足の思い込み取材にとどまらず、ライバルメディアとの過剰な競争意識、タイムプレプレッシャーなどさまざまな要因があり、誤報に至るリスクとは常に背中合わせだ。しかし朝日新聞の場合、エクスキューズの如何を問わず、今回の2つの重大誤報事件を引き起こした今、徹底した編集現場改革をしない限り、信頼回復にはならない。

誤報指摘はいずれも産経新聞、
朝日新聞誤報が海外に波紋を与えた責任も大きい

ところで今回、朝日新聞の2つの異なる記事のいずれについても誤報だとして、問題に火をつけたのは産経新聞だった。その問題意識、取材力は間違いなく評価していい。特に従軍慰安婦問題に関しては、産経新聞は実に23年前の1992年に誤報を指摘している。それに対して、当初から頑な姿勢を取り続けた朝日新聞の姿勢こそが問われてしかるべきだ。なぜ、長期にわたって再確認取材、検証取材を怠ったのか、朝日新聞の今年8月5日、6日付の検証記事を見ても、エクスキューズが多くて、すっきりしない。
「吉田調書」にからめて朝日新聞がスクープ報道とした5月20日付の1面トップ記事に関しても、産経新聞の後追い報道とはいえ、誤報指摘がなければ、安倍政権も政府事故調の聴取記録の一部公開には踏み切らなかっただろう。

いずれの記事も、海外に反響を呼び、とくに従軍慰安婦問題は日韓外交関係を複雑化させ、韓国民の反日キャンペーンの材料になってしまったばかりか、日本が女性の人権を無視して戦時中に性奴隷化したひどい国というラベルを張られる形になった。
また、東電福島第1原発事故現場から所長の命令に反して、約10キロ離れた福島第2原発に全面撤退という形で逃避した、という形で、朝日新聞報道時に外国メディアが一斉に記事発信、しかも韓国の客船沈没事故から乗客を放置して逃避した船長や乗務員と同じ行動だとの批判記事に発展したため、朝日新聞の誤報の責任は間違いなく大きい。

産経・読売新聞や週刊誌の朝日新聞誤報追及が
メディア戦争に発展したのは残念

特に従軍慰安婦問題に関しては、産経新聞は1992年に誤報を指摘、その後、対韓国の外交問題もからむため、産経新聞は執拗にキャンペーンを張って、朝日新聞自体の報道体質を問うた。これに呼応したのが読売新聞で、朝日新聞報道を検証する企画まで展開した。加えて、出版社系の週刊誌が格好の部数増期待を見込めるテーマと、朝日新聞批判を繰り広げたため、一気にメディア戦争となった。その原因をつくった朝日新聞にすべての責任があることは間違いない。とくに、誤報指摘に対して、逆に朝日新聞が他のメディアに対して、名誉棄損などの法的処理も辞さずと強気の抗議行動をとったりしたため、メディア戦争の火に油をそそいだことも事実だ。
私自身は、これらのメディア戦争がエスカレートするのを見て、いま、メディアが泥仕合を演じている場合でない。むしろ、メディアの信頼低下につながる問題を互いにどう克服するか、という視点で考えるべきでないのだろうか、とも思ったぐらいだ。それに、率直に言って、産経新聞にも読売新聞にも過去に重大な誤報事件があり、自身の非をタナに上げての批判はおかしいぞ、とも思ったが、とはいえ、朝日新聞の対応姿勢の遅さ、頑な反発姿勢が事態を悪化させたことは事実だ。その点で、メディア戦争に追い込まれた朝日新聞を同情する気持ちはもちろん、なかった。

朝日新聞は第3者調査委で誤報原因の徹底調査を、
海外メディアに謝罪広告も

さて、今回の朝日新聞の2つの大きな誤報事件、そして連載中の池上氏のコラムで誤報対応を批判されたことに過剰反応して「異論」を一時は退けて朝日新聞の狭量な体質を見せつけたコラム掲載拒否事件は、いずれも同情の余地がない。それどころか、日本の新聞メディアの中でもオピニオンリーダーの一角を担う新聞社だけに、しっかりと反省してもらうのは当然だが、何をどう反省して今後の信頼回復につながる回答を出すのか、まだはっきりしない。

とくに、2つの誤報記事がなぜ生じたのかという点に関する本格的な検証が行われていない。朝日新聞の木村社長は謝罪会見の席上で、社内の紙面調査委員会とは別に、外部の有識者やジャーナリスト、弁護士らによる専門的な第3者調査委員会組織を立ち上げ、なぜ誤報に至ったかの検証を行うと表明したが、その検証内容に関しては、すべて公表すべきだろう。
それだけでない。朝日新聞は英語などで海外に謝罪の情報発信を行う必要があったが、この点に関しては危機意識もあったのか、積極的に情報発信を始めたのは一応、評価する。しかし外交問題、さらに国連の人権委員会にまで問題が波及している従軍慰安婦問題に関しては、朝日新聞は、韓国の新聞のみならず欧米の新聞に謝罪広告を出すと同時に、女性の人権問題に関する朝日新聞の立ち位置も理解を得るようなキャンペーンも行うべきだと思う。みなさんは、これらの点に関して、どうお考えだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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