G8サミットで原発事故不信の解消を 日本が世界に表明する最後チャンス


時代刺激人 Vol. 136

 「9.11」という米国を襲った国際テロが米国の運命を変えたとすれば、「3.11」は間違いなく自然の猛威、それによって引き起こされた原発事故で日本の運命を変えてしまったといって過言でない。中でも、東京電力福島第1原発の爆発事故は世界中を震撼させた。原発は巨大なエネルギー源である半面、ひとたび事故を起こせば放射能汚染がリスクの連鎖どころか恐怖の連鎖を引き起こすからだ。

それだけに、世界の多くの国々の最大の関心事は、日本のような安全や品質管理の技術にこだわりを持つ国で、信じがたい原発事故が、なぜ起きたのだろうか。その教訓はいったい何なのだろうか、自国にある原発の安全管理の面で共有すべき問題や課題は何だろうか、ぜひ日本から聞きたい、いや聞かせてほしい、といった点にある。

海外は最悪事故段階のレベル7が続いたままの状況を不安視
 そればかりでない。日本が官民あげて必死で原発事故対応することについては、世界各国の誰もが認めている。しかし、肝心の原発事故の国際的な危機最悪レベル7は続いたままで、レベル4や3への引き下げが出来ておらず、不安や不信の解消に至っていない。その結果、日本は世界に向けて、誰もが懸念する原発事故の全貌、今後の再発防止策にとどまらず、レベル7そのものの不安解消策について、もっと積極的に情報発信すべきだ――という苛立ちに発展する。私自身、この指摘を出会う外国人から何度も受ける。

「えっ? 日本政府は原発事故後、危機管理センターのある首相官邸から東電本社の現場に事故対策の統合本部を移し、毎日のように記者会見を通じて、事故の現状や対策を公表しているではないか」という反発が政府サイドから聞こえてきそうだ。

菅首相が国際的な専門家集めた独立の事故調査委創設表明を
 結論から先に申上げよう。私に言わせてもらえば、世界のトップリーダーが5月26、27日にフランスで世界の懸案を協議するG8サミット(主要8カ国首脳会議)が、日本にとって、原発事故対応をめぐる世界の対日不信を解消する最大かつ最後のチャンスだ。

菅直人首相はその場で、日本の事故対応を説明するのは当然だが、それよりも、日本政府として、新たに国際的な専門家を集めた独立の事故調査委員会を創設する考えであること、その委員会には現代世界で最高レベルの専門家があらゆる角度から原発事故原因の究明や再発防止のための検討を行うこと、そして、その委員会で引き出される結論は世界各国の専門家や技術担当者らですべて共有して再発防止に当てる、と表明することだ。

日本の事故を国際的に共有し再発防止に努めるアピールが重要

 ここで大事なのは、今回の原発事故が、日本の問題というよりも、国際的な広がりを持つ事故であるので、事故に関するすべての情報を国際的に共有し、二度とこういった重大事故を引き起こさないようにする決意である、ということを日本の首相自らが主要国のトップリーダーたちに強くアピールする点にある、と私は思う。

ところが日本は、現時点で菅首相指示によって5月中に原発事故調査委員会を立ち上げ、法曹関係者や科学者らを中心に10人程度のメンバー構成にし、トップに失敗の研究で著名な畑村洋太郎東大名誉教授を起用する考えのようだ。委員会は、原発事故発生後の政府や東電の初動対応、東電の安全対策に問題がなかったか、さらに政府の原発政策、安全監視や監督体制に課題はなかったか、今後の再発防止策は何かなどを検討する、という。

しかしこの政府の事故調査委員会には現時点では海外の専門家委員を加えず、あくまでも日本国内の問題として事故調査、原発監督行政にメスを加えるだけのようだ。私が申上げる国際的な位置付けが欠けている。そこが、日本がいま、海外からの対日不信の元に成っていて、日本自身が問われる最大の問題だ、ということに気がついていない。

「原発事故で独立の国際専門家による調査委」は黒川教授の発案
 実は、現代世界のトップレベルの専門家を集めた国際的な事故調査委員会を創設すべきだ、という構想は、政策研究大学院大学教授の黒川清さんが主張されているものだ。黒川さんは日本学術会議会長などを務められた人で、医学者であると同時に科学者だ。しかし私は、むしろ、その国際的な人脈ネットワークなどを背景に問題提起される積極姿勢を高く評価し、おつきあいさせていただくたびに、その構想力のすごさに刺激を受ける。

その黒川さんが最近、日本プレスセンターでの「3.11大震災――復興構想会議への要望と提案」講演で、この国際的な専門家を交えた福島第1原発事故調査委員会の創設を日本政府が早く創設すると同時に、フランスでのG8サミットで菅首相が正式表明すればいい、と述べた。

「不幸な事故での貴重な教訓を世界共通財産にすることが重要」
 黒川さんの主張ポイントは、今回の原発事故を世界全体の問題にすることが必要で、日本だけの問題でないこと、この不幸な出来事から得た貴重な教訓を世界の共通財産にすべきであること。そのためには事故処理のプロセスをすべて公開し、世界の科学者ら専門家の分析調査に委ねることだ、という。

そこで「原発危機対策、そして環境影響への国際的な日本のコミッションという観点から委員会を設置すべきだ。その場合、政府もしくは衆参両院が創設そのものに関して積極的に動くことが必要だが、委員会そのものは、政府の「外」に独立して設置し、あらゆる政治的な介入などを排除した事故調査、再発防止策の検討に当たらせるべきだ」という。

さらに、黒川さんは「委員会の中には、原発施設に関する対策の検討、そして放射能の影響に関する検討の2つの専門委員会を置き、とくに後者の専門家委では中国や韓国など周辺国が神経質になっている海洋汚染をモニターしたり、健康への影響、さらに風評被害抑止の観点での対策検討が必要だ」と述べた。そのとおりだと思う。

原発依存80%のフランスは今回のG8で脱原発回避に躍起
 今回の日本の原発事故は、冒頭から申上げているように、日本で想像する以上に国際的な広がりを持っている。とくに、今回G8開催のフランスはエネルギーの80%近くを原発に依存する国で、日本での原発事故がフランス国内の反原発運動に飛び火するのを回避するのに躍起だ。サルコジ大統領が日帰りのような強行日程で日本を訪問して「原発は安全だからこそ、その確認で来日した」とデモンストレーションすると同時に、フランスの原子力企業トップにも安全対策協力の名目で別途、日本訪問を求めたのも、その表れだ。

今年のG8議長国フランスとしては、原発問題をメインテーマにし、今後の安全対策を含めた国際的な情報共有や安全向上策の連携で合意などを宣言に盛り込む程度にとどめ、脱原発などを方向づけを回避したいだろう。しかし、域内14カ国に143基の原発を抱える欧州連合(EU)は、今回の日本の原発事故に刺激され、早期に安全性検査のためのストレステストを行う。

ドイツは日本の原発事故直後に脱原発政策に転換、米国も微妙
 フランス、英国は原発推進だが、ドイツは、フランスと違って、日本の原発事故直後に脱原発政策を鮮明に打ち出した。日本のように、四方が海に囲まれている日本と違って、陸続きの大陸欧州は、空中を飛び交う放射能汚染リスクに神経質であり、G8議長国のフランスのシナリオどおりにはいかない可能性が高い。

そういった意味で、今回のG8サミットは、原発問題が最大テーマになることは間違いないが、問題は、議長国のフランスが描くような日本の原発事故をきっかけに国際的な安全向上策で連携合意といった単純シナリオどおりにはいかない可能性が高いことだ。むしろドイツがどういった議論の展開をするかが興味深い。さらにサミットの場で影響力の大きい米国のオバマ大統領の出方も関心事だ。米国は、原発の安全性確保を条件に環境に優しいエネルギーということで当初は原発を織り込んだグリーンエネルギー政策を打ち出していたが、今回の原発事故で対応が微妙になっている。むしろ、米国内でシェールガスという比較的低コストの液化天然ガス(LNG)の開発が進んだことから、むしろ脱原発に踏み出す方向だ。

G8は日中韓3カ国首脳会議と異なる、日本の国際寄与が重要
 そんな中で、5月22日に東京で開催された日本、中国、韓国の3国首脳会議は、日中韓FTA(自由貿易協定)などの懸案よりも、東日本大震災の復興と合わせて原発事故に伴う安全策確保や風評被害対策の問題に議論が集中した。その結果、首脳宣言ではフランスが思わず喜びそうな「原子力エネルギーは引き続き重要な選択肢」としたうえで、原発の安全性強化の専門家協議の推進、さまざまな情報の共有などを打ち出した。

菅首相は、国内での政治指導力が問われているうえ、原発事故の初動対応の問題でも議論を呼んでいるアゲインストな状況と違って、会議の議長国日本の立場で首脳宣言を主導できたことがうれしかったのか、会議後の記者会見では満面に笑みを浮かべていたのが印象的だった。しかし、中国や韓国はいずれもそれぞれの国内事情で原発推進の立場にあるという特殊事情を考慮に入れる必要がある。

それに対してG8サミットは、すでに述べたように、日本を除く7各国には異なる国内事情があり、日、中、韓3国首脳会議のような形にはならない。しかも原発テロリスク、それも今回の日本の原発事故で「弱み」部分が判明したように、地震や津波だけでなく電源、冷却水といった部分の揺さぶりリスク、さらには空中からの飛行機墜落リスクなどへの対応もこれらの国々にとっては関心事だ。そういった意味でも、日本は、自国だけの原発事故調査にとどめず、国際的な広がりを持たせる専門家委員会創設を表明し、国際寄与を打ち出すべきだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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