力ある企業主導で新地域主権めざせ コマツが小松市で実績、先行モデルに


株式会社小松製作所

時代刺激人 Vol. 251

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

女性の晩婚化・少子化や若者の流出など社会現象による人口減少で、地方自治体は危機的状況にあり、今後しっかりとした対策を講じなければ、896の自治体に消滅リスクがある、という今年5月の民間研究機関調査結果は、未だにショッキングな話だ。

女性の晩婚化・少子化や若者の流出など社会現象による人口減少で、地方自治体は危機的状況にあり、今後しっかりとした対策を講じなければ、896の自治体に消滅リスクがある、という今年5月の民間研究機関調査結果は、未だにショッキングな話だ。
そのことで、興味深い話がある。8月27日に日本記者クラブで講演した片山善博慶応大教授(元鳥取県知事、元総務相)が、この調査結果に触れ「安倍政権の地方創成プロジェクトと巧みにリンクさせた部分がある」と意外な話を持ち出した。

消滅自治体調査話から安倍政権の
地域創成本部までは巧妙な出来レース?

片山教授によると、「私の昔の旧自治省時代の官僚経験からいくと、民間機関の調査結果公表と合わせて問題提起があった場合、官僚はあれこれ理由をつけて問題先送りするのが通例だ。ところが今回は、民間発表と同時に、関係各省庁が異口同音に『抜本的な対策が必要だ』と合唱し、全国知事会も同時に動いた。極めつけは安倍首相が素早く対策本部設置をアピールし実行に移したことだ」という。確かに、出来レースと言えなくもない。
ただ、片山教授は同時に、「仕掛けがあったかもしれないが、人口減少問題に危機感を強め、一早く対策を講じるのは間違いなく重要だ」と、付け加えるのを忘れなかった。

さて、本題だ。前回コラムで、その事態打開策には先進・先行モデル作りが必要と、富山市が行政主導で取り組む中心市街地を中核としたコンパクトシティ化事例を取り上げた。このプロジェクトをめぐっては議論があるようだが、大事なのはモデル事例づくりだ。

東京本社機能の一部地方移転でも地域再生だけでなく
モノづくり強化にプラス

そこで今回は、違うアングルでモデル事例を取り上げてみたい。ポイントは、企業経営面で力のある企業が、本社機能の一部を東京から地方拠点に移し、生産拠点化、現地雇用の積極創出などによって、企業主導での新地域主権の枠組みを定着させる、という話だ。
政治の側も動き出した。安倍政権は、さまざまな政治課題に取り組みながら、アベノミクスの成長戦略を含めて、期待先行の政治に終わってしまっており、何とかここでリカバリーショットを打たざるを得ない、ということで、安倍首相が指示して政府部内に省庁横断的に地域振興策をとりまとめる「まち・ひと・しごと創成本部」(本部長・安倍首相)の準備室を立ち上げた。取り組みが遅すぎたきらいがあるが、前回のコラムで取り上げた大組織病の最大のポイント部分のタテ割り組織の弊害をなくすヨコ串を刺す組織づくりに踏み切ったのだから、お手並み拝見と行きたい。
力ある企業こそが地域再生の担い手になるべきだ、というのが重要な点だが、中でもモノづくり企業にとっては大きなメリットがある。つまり物価や生活費のレベルが相対的に安い地方での企業活動はコスト競争力を回復できるし、インターネットによって世界中とリンク可能な現代には、地方拠点で活動しても時間や距離のハンディは十分に克服できる。それに、地方を新たな戦略拠点にすることで、数多くのライバル企業の中で埋没しかねない大都市よりも、存在感をアピールできる、という点があることも申し上げたい。

コマツは2002年から
創業の地・小松市の主力粟津工場に移転作戦

そのモデル事例になるのが、今回申し上げる建設機械メーカーのコマツのケースだ。すでにメディアで、コマツが創業の地、石川県小松市で思い切った取り組みを行っているのを、ご存じかもしれない。ただ、私は最近、チャンスがあって、このモデル事例づくりに強い指導力を発揮されたコマツの坂根正弘現相談役(元社長、前会長)にいくつかの場で話し合うことが出来、改めて、その取り組みの重要さがわかった。そこで、ジャーナリスト目線で、コマツの取り組みのどういった部分が、冒頭の人口減少問題の事態打開だけでなく、製造業自体の競争力強化にもつながったか、レポートしてみよう。

コマツによると、2002年に、まず東京本社内にあった生産資材などの買い付けを行う購買・調達本部を石川県小松市に移した。小松市内には主力工場の粟津工場はじめ、生産に必要なさまざまな工場があるが、生産現場にリンクさることで、調達の意思決定も現場で素早く行うことが出来、きめ細かくコストダウンを図る狙いがあった。

老朽化工場は次世代型工場に変身、
省エネや太陽光発電で電力消費を90%削減

また、コマツは国内の生産能力調整の一環で、主力工場の1つ、小松工場の生産性が低いため、閉鎖に踏み切ったが、その工場跡地に、2011年には東京本社や国内工場で分散していた研修・教育機能を集約し、世界中のコマツの拠点から集めた技術人材など社員の教育研修センターも移転させた。年間延べ2万人の教育・研修を行うため、地域との交流も進み、地元経済も潤った、という。

コマツは、日本国内工場のうち、建築してから40年以上経過した、いわゆる老朽化工場の建屋、生産設備の更新するプロジェクトをスタートさせ、2014年5月に粟津工場に関して、最新の省エネ、ICT(情報通信技術)、生産技術を備えた次世代の組み立て工場を完成させた。具体的には建屋統合による床面積の削減効果に加え、最新の省エネ技術を採用したことで2010年度に比べ電力消費量が半減させたが、2014年12月にバイオマス発電や太陽光パネルなどを活用して、コマツ工場独自の電力創出を行う予定でおり、その生産性向上分を含めると電力消費量は実に2010年度比で90%も削減効果が出る、という。この粟津工場方式を2014年度中に、栃木県小山工場、栃木工場、その後は大阪工場にも導入し、一気に省エネ工場化を進める、という。
これら生産力増強、省エネ投資に伴う工事は、建設資材調達や地元建設業者への請負い契約などで地元還元になるだけでなく、地元労働力の雇用にもつながり、コマツにとっても地元経済にとってもプラス効果が出たのは言うまでもない。

大卒新入社員の地元採用で若者に活気、
既婚女性社員の子どもの数も増える効果

このほか、コマツは2011年4月入社の新入社員から、大卒社員採用に関して、小松市で地元採用に踏み切り、それから3年間、連続して採用人数も増やしている。
地元雇用を増やすだけでなく、東京、大阪、小松などの勤務場所に関係なく、コマツの場合、全国一律賃金体系で臨んでおり、東京に比べて相対的に生活費が割安な小松など地方都市勤務の場合、生活がしやすいというメリットもある。

坂根さんは「コマツの小松市への生産拠点移転に伴うメリットについて、社内で、いろいろ調査してもらったところ、面白い結果が出た。コマツの既婚女性社員の子どもの数は、東京の0.7人に対して石川では1.9人、うち課長など管理職の平均は2.8人だという。そればかりでない。女性社員の既婚率は東京が50%で、石川は90%だった。女性にとっては、間違いなく石川でのコマツの会社生活のよさがあるということに他ならない。コマツに限って言えば、少子化の問題解決に貢献している」と述べている。

この点に関して、坂根さんは「人手不足が今後、深刻化しても、コマツの地元採用への取り組みを知っている人たちが多いので、積極的に門をたたいてくる人が多いはずで、雇用確保には困らないと思う。企業サイドにとっても、地方回帰は、地方での物価水準の相対的な安さなどによって、企業のコスト削減を含めた自衛策にもなる」という。

坂根さん「創業以来初の赤字で徹底して
競争力分析、固定費削減に照準」

コマツがこういった形で、地方回帰を進めたのは、坂根さんによると、理由がある。社長就任時の2001年、運悪く創業以来初めての赤字に遭遇した。坂根さんにとっては出鼻をくじかれる思いだったが、「コマツは、本当に本業のモノづくりのコスト競争力の部分で負けたのだろうかどうか、徹底的に調べ上げることが必要だった」という。その結果、根本的な原因が、企業コストの重要部分を占める固定費と変動費のうち、コマツの場合、生産量の増減に関係なく常に発生する固定費、つまり人件費や設備償却費などに加えて採算の悪い事業や慢性的な赤字子会社群を放置してきたことに原因があった。

そこで、坂根さんは、「大手術は1回限り」という原則をもとに、断腸の思いで子会社整理など大胆なリストラ策に取り組む荒療治を行った。しかし同時に、後ろ向きの対策だけでなく、グローバル化に対応して積極的な競争力強化策を打ち出した。たまたま新興アジアに検閲機械の需要増が見込め、コマツにとってはフォローの風が吹き、リストラ効果と合わせて危機乗り切りを図れた、という。

ライバルとの変動費部分での競争力は
最悪1ドル70円の超円高でも勝てる自信

ただ、ここからが、坂根さんというトップリーダーの問題意識のすごさだな、と感じたのは、「コマツは、内外のライバル企業との競争力分析を行った結果、とくに変動費の部分ではコマツは、仮にドル円の為替レートが最悪1ドル=70円という超円高になっても、米国最大手の企業にも負けない競争力を持っていた。ところが固定費部分では明らかに競争力に課題を残した。そこで、徹底して固定費の圧縮対策を行ったが、地方回帰もその一環だと言っていい」という点だ。

坂根さんは「日本の中央集権体制、東京への一極集中が限界に達し、その反動で地方が衰退している。コマツは、かつて創業の地から東京に本社機能を移した。今は経営トップが中央の行政や財界とのからみで日常的に対応せざるを得ないことや経営の意思決定を東京でせざるを得ない問題があるが、それらを除けば、地方回帰しても十分にグローバル戦略にも対応できるので、今後は、コマツが、新たな地方主権の時代づくりに対応できるように貢献していきたい」という。

「日本は東京への企業集中に問題、
ドイツ企業の地方分散に学べ」と坂根さん

坂根さんは、ドイツが第2次世界大戦後、旧西ドイツを中心に、さまざまな企業がそれぞれいろいろな地域で独自の企業活動を展開し、いわゆる地方分散を行い、日本のような企業の東京への一極集中とは対照的な地方主権体制をつくりあげたことを高く評価し、「ドイツに学べ」という考えを持っているという。

安倍政権は、冒頭の人口減少に伴う自治体の消滅リスクや地方再生に本格対応するため、9月3日に「まち・ひと・しごと創成本部」を発足させたが、具体的に、どういったことに取り組むのか、まだ定かではない。

片山慶応大教授「首都機能の地方移転進めれば
企業の地方分散に弾みも」と指摘

コマツが自身の企業防衛策、競争力強化策を兼ねて、地方回帰に取り組んでいるのは、冒頭に申し上げたように、先行モデル事例であることは間違いない。今後、東京に集中するさまざまな企業が、すべての本社機能を地方に移転させる、というのは現実的でないかもしれないが、コマツのように、少しずつでもメリハリつけて地方再生に取り組み、結果として、それぞれの地方で存在感を見せることで、結果的に、ドイツの企業が作り出した企業主導の地方主権というのも決して夢物語ではない。

富山市には私は過去に観光で行く機会が多かったが、ここ数年の「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営」の実態を見るチャンスがまだないので、現場重視の私としても辛いものがあるが、富山市内に住む私の友人に最近、聞いたところでは「以前と違って行政主導で新しい町づくりに取り組んでいる、という実感がある」と述べているので、成功事例であることは間違いない。

冒頭の日本記者クラブでの片山慶応大教授の講演後の質疑で、コマツの事例をもとに、企業の地域回帰の可能性について質問したら、片山教授は「コマツの企業としての取組みは評価する。ただ、極端に東京集中した大企業などの地方分散がどこまで実現可能かと言えば、なかなか難しい。むしろ、企業の背中を押すには首都機能の地方移転がポイントだ。安倍政権が地方創成対策で、首都機能移転にまで手をつけるのか、わからないが、本気で考えるのも一案だ」と述べた。
確かに、企業の横並び体質を改めさせ、東京から地方へ本社機能の移転を含めて分散っせるならば、首都機能移転は弾みをつけることにもなる。

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