人口減少での自治体消滅話は深刻 富山市の先進事例がすごく興味深い


時代刺激人 Vol. 250

全国約1万8000ある大小の自治体のうち、896市町村が人口減少によって消滅するかもしれない、というビッグサプライズの試算結果が今年5月に民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相、元岩手県知事)から出されたのを、みなさん、ご記憶だろう。

全国約1万8000ある大小の自治体のうち、896市町村が人口減少によって消滅するかもしれない、というビッグサプライズの試算結果が今年5月に民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相、元岩手県知事)から出されたのを、みなさん、ご記憶だろう。

日本創成会議予測では全国の896市町村が
手を打たなければ消滅の可能性

人口減少という社会現象によって消滅自治体が出るかもしれない、との厳しい未来予測を「消滅」といったセンセーショナルな言葉でメッセージ発信があったので、多くの人たちに衝撃を与えたのは間違いない。私自身も、この国の将来を考えた時に、何も手立てを講じなければ、さまざまな社会問題が噴出するだろうなと思っていたが、いざ予測調査をベースに自治体消滅の可能性を出されると、率直に言ってショックだった。

名指しされた自治体はもっと厳しい立場に追い込まれただろう。とくに首長はじめ政策立案にかかわる人たちの間で、若者の都市への流出などによる人口減少に危機感を持ちながらも、財政難やさまざまな理由で手をこまねいていただけに、ずばり指摘されると自身の無能ぶりをさらけ出すことになり、いたたまれない気持ちになったのは想像に難くない。

政府が省庁横断的な「まち・ひと・しごと創成本部」立ち上げ、
まずはお手並み拝見

これをきっかけに、メディアでも「人口減少社会」の特集企画を展開せざるを得なかった。メディアとしては、当然のことだが、その結果、いい意味で危機感が作り出され、政治にも、行政にも、さらには自治体にも緊張感が出てきた。
政治の側も動き出した。安倍政権は、さまざまな政治課題に取り組みながら、アベノミクスの成長戦略を含めて、期待先行の政治に終わってしまっており、何とかここでリカバリーショットを打たざるを得ない、ということで、安倍首相が指示して政府部内に省庁横断的に地域振興策をとりまとめる「まち・ひと・しごと創成本部」(本部長・安倍首相)の準備室を立ち上げた。取り組みが遅すぎたきらいがあるが、前回のコラムで取り上げた大組織病の最大のポイント部分のタテ割り組織の弊害をなくすヨコ串を刺す組織づくりに踏み切ったのだから、お手並み拝見と行きたい。

「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営」は
間違いなく先進モデル事例の1つ

ということで、前置きが長くなってしまったが、今回のコラムでは、以前から一度、取り上げたいと考えていた人口減少社会の問題に踏み込んでみたい。ただ、理屈をいろいろ申し上げても、「そんなことはわかっている。要は、どうすればいいのだ」と言われかねないので、私の現場感覚、ジャーナリスト感覚で、「これは先進モデル事例なので、ぜひ参考にしてほしい」という事例を申し上げよう。
その先進モデル事例は、北陸の富山市が進めている「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営」というものだ。実は、その推進役の森雅志市長から、ある研究会合で聞く機会があり、いろいろ取り組みを聞いていると、人口40万都市での取り組みとしては、卓抜したものがあると思った。

コンパクトシティ化は、欧州にモデル事例があり、日本では国土交通省が中心になって自治体に導入を呼びかけた。日本の場合のポイントは、1990年代から地方の主要都市で中心市街地の空洞化現象が起きたことで、地域によっては商店街の一部がシャッターのおりてしまった閉店もしくは休業の商店が相次ぎ始めた。その一方で、郊外部にはショッピングセンターが出来、そこには自動車で買物や食事に立ち寄ることが多くなり、一種のドーナツ状の中心部空洞化現象が定着し始めた。そこで、中心市街地活性化の1つとして、 このコンパクトシティ化が具体化した。

コンパクトシティ化は中心市街地に居住人口を集め
新生活コミュニティ圏にする狙い

早い話が、中心市街地に住民が集まりやすくするため、地域を巻き込んだイベントなどを行える地域センターをつくったり、病院や老人介護施設など公共性の高い施設も集中化、もしくはネットワーク化すること、商店街も人通りを多くし、かつ賑わいを取り戻すため、さまざまな工夫をこらした地域展開にすることーーなどに取り組み、中心市街地を軸に、その一帯を生活コミュニティ圏とし、自動車に乗らずに路面電車や乗りやすいバスを使うか、あるいは歩いてゆっくり動き回れるコンパクトな町にする、というものだ。
と言っても、大きな地域的な広がりのある都市の場合、中心市街地を軸にコンパクトな町づくりにすると言っても、都市大改造を伴う話で、とくに、新たな町づくりには財政資金がかかること、地域の利害調整に時間がかかること、住民の移動を必要とする場合、合意形成にもエネルギーが必要なことなど、なかなか難問が前に立ちはだかるような気もしてしまう。富山市の場合、それらの問題に関して、どう取り組んだかだ。

森市長「富山市のコンパクトシティ化は
公共交通ネットワークを軸に対策講じた」

私が参加した研究会合で、富山市の森市長がどんなプレゼンテーションを行ったか、いくつかのポイントとなる事例を取り上げよう。まず、森市長は冒頭、富山市が直面する問題として、1)人口減少と高齢化 2)過度な自動車依存による公共交通の衰退 3)中心市街地の魅力喪失 4)割高な都市管理の行政コスト 5)社会資本の適切な維持管理などの課題を掲げ「20年、30年先を見据えて将来の世代に責任が持てる、しかも持続可能な都市運営、町づくりが必要だ」と述べた。

その問題意識をもとに、森市長が述べたところによると、富山市のコンパクトな町づくりの基本は、JR北陸本線富山駅を中心にJRの鉄道、富山地方鉄道市内軌道線、それに富山ライトレールという軽量の車体を使った都市型軌道システムなど6つの路線鉄軌道をはじめとした公共交通をつなげてネットワーク化すること、とくに、市内中心部を走るライトレールトレイン(LRT)をネットワーク化の中核にし、過度に自動車に依存したライフスタイルを見直して歩いて動き回り、かつ暮らせるように、LRTの沿線に居住、商業、業務、文化などの都市機能を集積させることだ、という。

富山市は公共交通沿線への住民の居住推進のため
住宅建設助成などに対策

この富山ライトレールは、乗客減少で身動きのとれなかったJR富山港線の鉄道に富山市がテコ入れして公設民営の経営にし、2両1編成で軽量の電車を走らせるのだが、今では富山市内の市内電車環状線化が実現した。この環状線以外に既存線、公共バスも加わって、中心市街地に来る利便性が増した、という。
森市長によると、富山市のコンパクトな町づくりは、この公共交通機関の整備がベースになっているが、同時に公共交通沿線への住民の居住推進も政策の柱になっている。具体的には中心市街地への郊外地域からの移住、転居を推進するため、良質な住宅をつくる建設事業者に限ってマンションなどの共同住宅や優良住宅への建設費や改修費の助成、店舗や医療、福祉施設の整備費用への助成、また一戸建て住宅や共同住宅の購入費用の借入金への助成などを行った、という。

また、中心市街地の活性化策として導入したプロジェクトがいろいろある。森市長によると、7年前に富山市が事業主体になって建設したガラス張りの全天候型の多目的広場グランドプラザがメインプロジェクトで、今では市民のさまざまなイベントに活用され、年間では休日100%、平日73%で、平均82%の利用率だという。中心市街地には「地場もん屋総本店」という地元農水産物の地産地消の拠点をつくった。180店舗が加盟店となり、その共同出資による「株式会社まちづくりとやま」が運営主体だが、60歳以上の年齢層がとれたて野菜などを買い求めに来る、という。

富山市への外部からの転出入は転入超、
周辺部から中心市街地へも同じく転入超

このほか富山市は高齢者が中心市街地で快適な生活を送れるように医療や介護の施設を充実させた。それら施設への就業を含めて、若者や女性が中心市街地で働けるように産業や企業の誘致も活発に行っているが、コンパクトシティ化をきっかけに、中心市街地で居住者が増えただけでなく、公共投資も増えたことで市街地再開発のプロジェクトに民間投資が増えるという好循環現象が起きた。それが雇用創出にもつながっている。また農業に携わる人材育成のために富山市が「とやま楽農学園」などをつくったりした、という。

問題は、富山市のコンパクトな町づくり効果がどこまで出たかだろう。森市長によると、2012年4月から翌年3月末までの1年間の富山市全体の転入、転出を見た場合、差し引き300人の転入超過となっていること、また富山市内での人口移動として、中心市街地では6年前から住民の転入超過に転じ、今もその傾向が続いていること、中心市街地の歩行者数が着実に増え、それに合わせて空き店舗が減少していること、また中心市街地の小学校児童数が5年連続して増加傾向を続けていることなどを挙げ、「間違いなく政策効果は出ている」と強調した。
ただ、森市長は、市の周辺部や中山間地域の人たちに対しては、中心市街地を軸にしたコンパクトシティ化のメリットを伝えるが、市の中心部への移住や転居を強制することは行っていない、という。確かに、このあたりはジレンマと言えそうだ。

人口減少による自治体消滅危機の回避策、
成功モデルを次々に出す以外にない

さて、私は冒頭の人口減少による自治体消滅危機の問題に対する1つの処方箋を言うならば、富山市のコンパクトシティ化と言った形で人口減少に歯止めをかけるために魅力ある町づくりを進め、人口流入を引き起こすことしかない。同時に、地方自治体が共通して抱える課題である高齢化対応についても、富山市のように、中心市街地に高齢者を呼び込むための生きがい実現策を含めたさまざまな対策をどのように講じるかだろう、と思う。

富山市には私は過去に観光で行く機会が多かったが、ここ数年の「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営」の実態を見るチャンスがまだないので、現場重視の私としても辛いものがあるが、富山市内に住む私の友人に最近、聞いたところでは「以前と違って行政主導で新しい町づくりに取り組んでいる、という実感がある」と述べているので、成功事例であることは間違いない。

コンパクトシティ化を現在、積極的に導入しているのは、主要な自治体のうちでは富山市以外に、北から順番に行くと札幌市、稚内市、青森市、仙台市、豊橋市、神戸市、北九州市などだという。
このうち、青森市の場合、地方都市再生問題を健祐しているある専門家によると、コンパクトシティ化にいち早く取り組んだ青森市の場合、青森駅前の「しんまち商店街」の入り口付近に「アウガ」という商業施設を建設し集客効果が出たため、成功例と見られたが、その「アウガ」周辺部分を除けば、「しんまち商店街」全体では歩行者数が増えておらず、コンパクトシティ化の波及効果は大きくなかったので、政策効果は限られている、という。
こうしてみると、人口減少に歯止めをかける地域活性化としては、コンパクトシティ化は絶対的なものではなく、もっと知恵を出し合って、新たな成功モデル事例をどんどん作り出すしかない、ということかもしれない。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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