老舗家庭薬メーカーが考える
日本の医療制度を守る
家庭薬の役割とは
株式会社龍角散
代表取締役社長
藤井隆太
株式会社龍角散は、200年以上の歴史を誇る家庭薬メーカーだ。社名にもなっている「龍角散」は、ほとんどの日本人に認知されているトップ商品である。代表取締役社長 藤井隆太は、老舗企業だからといって守りに入ることを選ばない。常に進化し続けることで、人の役に立ち続ける企業とはなにか。藤井が目指す「オンリーワン戦略」に迫る。
坪井 生産された生薬と言うのは、その後どのように製品化されていくんでしょうか?
藤井 生薬というのは非常に厄介ですからね。種類によって硬さも違えば、脂分があったり水分があったり、繊維があったり、いろいろするんで、それをいろんな方法で均一に粉砕するんです。厄介ですよ。しかもこれ比重が違うから、それを混ぜて均一化するというのがテクニックなんです。
蟹瀬 そしてそれを最終的には、パッケージにしていかなきゃいけないんですよね。
藤井 そうですね。日本の家庭薬というのは、世界的に見ても非常に稀でございましてね。複数の生薬を均一にしてうまく混ぜて、製剤化するという技術は世界的にはあまりないですね。非常に高度で難しいんですよ。
こちらは千葉県多古町にある、龍角散千葉工場。最先端の設備に加え、厳しい環境衛生管理システムが組まれ、龍角散をはじめ、龍角散ダイレクト、トローチなどの主力商品を生産している。一箱に16包が入っている龍角散ダイレクトは顆粒製剤を1包ずつ充填し、箱詰めするまでの作業を1秒間に1箱のスピードで生産。24時間フル稼働のこちらの工場では需要の増加に伴い、今後は生産能力を3倍に高める予定だという。
蟹瀬 冒頭の映像でもご紹介ありましたけれども、龍角散は非常に早い時期から海外へ、とくにアジアへ進出されていますよね。やはり海外の需要ってことになると、アジア圏の方が親和性が高いということですかね?
藤井 ライフスタイルあるいは考え方からして、日本の家庭薬というのはやっぱりアジア系民族には受けられるかなと。ちょうど中国人に対するビザの要件が緩和された。要するにインバウンド戦略ですね。インバウンドなんて言葉がないときから、これはいけそうだというふうに考えたわけですよ。業界全体に働きかけして、やってみようかと、フリーペーパーに我々の共同広告を載せるわけです。うちだけじゃなくて、いろんなブランドの家庭薬の仲間を。ビザを発給するために、旅行代理店かならず行くでしょう?旅行代理店に置いておけばいいんですよ。(代理店は)そんなにたくさんありません。100箇所もないんだからね。みんな面白いからもっていくでしょう?「あ、こういう薬あるんだな」と。そういえば、龍角散って台湾の人使ってるな、香港の人も使ってるなと、なるほどねと。じゃあ日本に行ったときに買ってみようか。ということがあるわけですよ。
坪井 へえ。実際にその広告の効果はいかがでしたか?
藤井 最初僕ちょっと半信半疑でね、こういったことは初めてだから。私も業界で「やってみたけど大丈夫か?」と言われたらもう心配でしょうがなくて。うち秋葉原も近いから、毎日見に行ったんですよ。そしたらきましたよ。一週間もたたないうちに我々が撒いたヤツをもって「あ、いたいたって」中国人の団体を追いかけましてね。どこいくのかと思ったら、ドラックストアに行ってバンバン買ってくれましたね。
蟹瀬 普通それをやるんだったら自社ブランドだけをやるっていうのが、競合の会社をわざわざ入れるってことはないと思うんですけど、やはりその辺はあれですか?
藤井 確かに同じカテゴリーやっているメーカーさんもありますけどね。もう長年世代を超えて付き合っているから。お互いに競走はしますよ。甘えは許さない、一緒にやった方がいいことは一緒にやろうと、もう世代を超えて付き合っているから、だいたいわかっていますから。それは言いにくいこと事も言えるし、飲むこともあるし、頑張ろうよと言われれば、結構良い集団ができるわけですよ。
蟹瀬 確かにそういう意味では各社がオンリーワンというか、そういうものを持っているってことですよね?
藤井 そうですね。別に弱い物を集めるというつもりは全くないんですよ。弱者の協業体という考えはゼロです。それぞれ頑張って専門性を高めてください。磨いてくださいよ。それを束ねたら強くなりますよ、やろうとなるわけです。
伝統の製法を守り続け、唯一無二の製品を消費者に届ける。それがオンリーワンの道を歩み続けた、龍角散の歴史。
蟹瀬 さて、ここからは、家庭薬メーカーとしての戦略といいますか、その辺りを伺っていきたいんですけれども。まず国内のマーケット、これを俯瞰してどういうふうにご覧になっているか、どういう状況であるかということなんですが。
藤井 大体どなたも日本は少子高齢化で、市場規模は縮小するから、売り上げが下がるんだろうということを仰いますけど、私は全然そう思っておりません。例えば当社のオリジナルの龍角散パウダー。お客さんは買ってくれてる。「なぜこれがいいんですか」と聞いてみると、これは喉を元気にする薬、咳も止まるし痰も切れる。血中に入らない。血中に入って効くものじゃないから。だから産婦人科の先生とか、妊婦さんから問い合わせが多い。あるいは高齢の方の持病があって、強い薬を飲んでいるから、重ねて強い薬を飲みづらいなというときにお使いになっているんだと。凄いポイントだと思いましたよ。これはいけるなと。もう一方では「いいんだけどちょっと飲みにくいな」というのがあったものですから。龍角散ダイレクトにしたわけです。生薬製剤だから第三類医薬品ですね。同様にのど飴も「うちの規模でのど飴をやって行けるのかな」という話があったんですよね。
蟹瀬 ええ。
藤井 いや、これはちょっと違った考えにしようと。別にお菓子ののど飴じゃなくて、お菓子業界にセルフメディケーションという考えを持ち込もう。要するに龍角散シリーズの前段階として、普段からもうちょっと喉のケアを考えてもらいたいなっていう製品設計をしたわけですね。
蟹瀬 視点を変えたってことですね。
藤井 単なるお菓子ののど飴じゃなくて、明らかに効果がありますよ。これで他社に真似できないのは、龍角散と同じような成分を全部入れると医薬品になっちゃうから。医薬品になる成分だけ取って、食品で使える成分だけにしてパウダーで練り込んだ。普通ののど飴というのはエキスが入っているだけですから、これはパウダーが入っているから明らかに効果が違うんですよ。1回使うとね、いいんです。ずっと使っていただけるんです。
蟹瀬 これ海外と比べた場合は、どうなんですか?日本と海外の需要の違いっていいますかね。
藤井 海外で実際に営業してて感じるのは、やっぱり皆さん、みずからの健康は自分で作るんだという認識が非常に強いですね。日本は素晴らしい国でね、皆保険制度があって、手厚くやっていただけるわけですよ。僕は本当にね、幸せな国だと思いますけれども。ただ、残念ながらあんまりそこに頼りすぎると、制度をやっぱり厳しくなるわけじゃないですか。今もどんどん医療費ばっかりかかって、将来の世代は大変ですよ。
医療保険制度に関して、政府はどのように見ているのか。健康寿命の増進を政策に掲げる参議院議員 武見敬三氏に話を聞いた。
武見 日本の人に優しい優れた医療制度っていうのを、どうやって財政的に持続可能な形にしていくのか。これは税金と保険料と患者の自己負担しかないわけですから。その3つから何とか工面して、そして持続可能な形にしていく。これはものすごい大きなチャレンジで、そこはもう最大の課題になってきていると言っても過言じゃありません。
厚生労働省のデータによると、医療機関に支払われた医療費の概算は、2017年に42兆2316億円に達し、過去最高を更新した。
武見 これからはね。2040年。正確に言えば2042年に、高齢者の人口というのはピークに達して、それ以降は減少するんですよ。健康寿命を少なくとも3歳以上延伸させようという目標を、これから設定しようとしているんですよ。これを実現しようとするためには、今までの医療や介護、福祉のあり方自体をやはり予防分野により大きくパラダイムシフトをさせて、それによってしっかりと健康な長寿社会というものを、活力のある形で維持していくということが求められます。
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