6次産業化は農業の成功モデル 佐賀県で林業の面白いチャレンジ


時代刺激人 Vol. 170

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 農業や林業など第1次産業の現場を歩いていると、6次産業化が間違いなく成功ビジネスモデルだ、と実感する。この面白い名前のキーワードは、コラムで数回取り上げたので、ご記憶あると思う。要は、第1次産業の農業者や農業法人が自らマーケットリサーチを通じて売れる農産物づくりを行い、卸売市場流通には頼らずバイパス流通の産直ルートを独自開拓し、値決めも主導的に行うばかりか、第2次産業や第3次産業分野にまで経営の手を広げる。言ってみれば1+2+3が6と同じように、農業者主導で第1次、第2次、第3次産業すべてに関与すれば間違いなく利益を生み出せる、というのが6次産業化だ。

そこで、今回は、このビジネスモデルを林業分野でチャレンジし、見事に成功させた事例を取り上げてみたい。さまざまな現場で先進モデルを発掘し、こんないいモデル事例があるぞと紹介して時代の閉そく状況にくさびを打ち込みたい、というのが時代刺激人ジャーナリストを公言する私の立場だが、「これは面白い」と思ったのが今回の話だ。

川中の伊万里木材市場が川上と川下に
働きかけ林業版6次化を実現
 6次産業化といえば、水が高きから低きに流れるように、農業の場合も第1次から第2次、そして第3次産業へと農産物が流れ、その順番で6次産業化が成り立つと思うのが普通だ。ところが今回紹介する林業の場合、川中が、川上にある山林の山元、それに末端の住宅用木材などを販売する川下の双方に働きかけて、一貫したシステムに仕上げた点が極めてユニークなのだ。さしずめ林業版の6次産業化と言っていい。

出会いのチャンスがあり、話を聞いてみて面白いと思ったのが、佐賀県伊万里市で株式会社伊万里木材市場を経営する林雅文さんだ。この伊万里木材市場は、もとは山元から集荷した原木や木材製品などを毎月11日と28日の2日間の市日(いちび)に市場入札して需給調整機など市場機能を果たすだけだった。ところが林さんは、この川中の伊万里木材市場を単なる地方の木材市場にとどめず、広いスペースを活用して木材のコンビナートとして九州全土のみならず全国的に存在感を見せたのだ。

企業の現場経験を持つ林さんが独自に
林業改革モデルを現場で構想
 コンビナートと言えば、化学や鉄鋼などのプラントが林立し、タンカーからパイプラインで運びこんだ海外産の原油を精製し、次の化学プラントでエチレンなどの中間財にしたあと、最終製品の消費財にする。隣接する鉄鋼などのプラントで無駄なくエネルギー素材を活用しあう、というのが一般的だ。それがなぜ木材コンビナートなのかがポイントだ。

林さんは「さまざまなプラントが林立するコンビナートをイメージされるかもしれませんが、伊万里の木材コンビナートの場合、ちょっと違います。コンビナート事業、素材・製品の市(いち)売りや木材のプレカット事業、さらに原木システム販売事業、それに川上部分の素材生産事業、森林整備事業を広大な敷地内で手掛けています。コンビナートはそれら事業の一部分なのです」という。いわば木材の総合デパートのようなものだ。

ただ、林さんは「やるなら大がかりに、と考えると同時に、いい意味で注目され、かつ関心を呼ぶためにも木材コンビナートという名称がいいかなと思ったのです」と。

林さん「林業の世界は旧態依然、
お山の大将多くビジョン持ち合わせない」
 実は、林さんは43歳の時に、父親が経営していた伊万里木材市場の後を引き継ぐ形で木材など林業ビジネスにかかわった。現在56歳なので、まだ13年間の現場経営経験だが、林さんは、林業の世界に入る前に勤めていた住宅建設大手企業の営業経験などをもとに、林業に活力を与えるためにはさまざまな新しいチャレンジが必要だ、と経営面での改革を試みた。その1つが木材コンビナートの発想だが、工業コンビナートとは異質ながら、新しいビジネスモデルづくりの1つだったことは事実だ。このあたりが企業経営につながる発想で林業の再生をめざす、という面白さにつながっていく。

木材コンビナート自体よりも、林さんが取り組んだ本題の林業版6次産業化の話をしよう。林さんによると、伊万里木材市場という事業体は、流れる川にたとえれば川中にあるが、川上の山元から末端販売の川下までを一貫した流れにする、つまりシステム化することで、ムダを省くと同時にシステム統合によるメリットが出てくると考えた、という。

林さんは「林業の世界は旧態依然としたところがあって、山元にあたる山林地主の人たちは、豊富な山林を保有しながらも、お山の大将的なところがあって、林業の将来に対してビジョンを持ちあわせていません。川下の流通販売分野も力を活かしきれないまま、競争で力をすり減らしているのが現状です。国産材の世界は古すぎるのです」という。

国産材は守られる、国から必ず保護される
という発想抜け切れない
 実は、私の友人に、和歌山県で同じく林業を幅広く経営する榎本さんがいるが、榎本さんの場合、江戸時代からの旧家の山林地主で、広大な山林を今でも保有している。ただ、榎本さんの場合、志が高く、和歌山県でさまざまな林業改革に取り組んでいて、林さんが言うような保守的な山林地主ではない。でも、林さんが指摘するように、九州を含め全国的には、山元で保有する山林を維持することに汲々として、林業の6次産業化といった発想は持っていない頑迷固陋な人たちが多いのかもしれない。

林さんによると、外国産材との競争、それに需要の低迷など国産材をめぐる厳しい状況を考えれば、間違いなく大胆な発想の転換が必要だ。にもかかわらず林業の世界の人たちの間では国産材は守られるもの、だから国からは必ず保護されるという気持がベースにあり、神風がまた吹くという発想が根強い。このため当然ながら、積極的に改革していこうという発想が起きない、という。

行政もやっと「新」がつく生産や
流通・加工のシステム改革に動き出す
 問題は、国有林を含めて膨大な山林、森林資源をどうするのか、外国産材との競争を強いられる国産材の競争力強化を図るべきなのか、また、コンクリートから人へ、という民主党政権の揺れ動く政策とは別に、コンクリートから木へという形で木材の良さを広める形での木材需要掘り起こしも重要だ、さらには新興アジアで木材の持つ温かみ、優しさなどに評価が出ていて、それが需要増になりつつある中で、どうやって輸出戦略を構築するのか、まさに農林水産省自体の行政対応が迫られている。

その話をすると、止まらなくなってしまうので、今回は断念したい。ただ、林さんが取り組んだ6次産業化ともからむ新流通加工システム、さらには新生産システムという、何でも「新」をつければ済む話ではないが、農林水産省、それに傘下の林野庁は林業再生策の一環として、こういった新しいシステム化を目指している。早い話、林さんが川中から川上、川下に働きかけて一貫システム化をつくりあげたと同じように、林野庁も、新生産システム化といった形で原木など素材生産、加工、流通のさまざまな段階、工程をリンクさせるシステムづくりに取り組んでいることは事実だ。

韓国などの日本国産材需要に対応した
モノサシになっていないという驚き
こういうと、行政もやっと動き出したな、という感じもするが、林さんの話を聞いていて、まだまだ現場ではさまざまな課題があるなと実感した。その1つをご紹介しよう。林さんによると、米国産などの外国産材との競争がし烈だが、外国産材メーカーは国内の取扱い商社の情報をもとに日本市場研究を活発に進め、こちらが学ばねばならないことが多い、という。例えば外国産材はフィート、インチをベースに世界中で販売しており、それらが標準のモノサシ。ところが、木材需要の多い日本市場が有望市場のため、彼らは日本のサイズに合わせて寸あるいはメートル、センチでフレキシブル対応する、という。

林さんは「最近、中国や韓国で、木材住宅などの需要が増え始め、われわれ国産材企業にとっては、魅力的な話なのですが、対応しきれていないのです。下手すると、国産材は韓国などの有望市場を失う恐れがあります」という。具体的には国向け輸出の場合、韓国では木材の長さが住宅仕様などから2.4メートルの木材が求められているにもかかわらず、日本からの輸出は頑固に3メートルサイズを変えない。しかも原木を製材する山元側が3メートルにこだわる。これでは韓国側は日本から輸入しても60センチ分がムダになり、コスト高ともなるので、輸入を止めるとなりかねない、というのだ。

企業の農業参入に門戸を開け
経営手法を学び取ることが重要だ
 これは重要な問題だ。せっかく日本の国産材需要が見込めるというのに、相手先市場のニーズに対応して、モノサシをフレキシブルに変えれば済むことだ。それを頑としてやらないのは、林業の世界では国や行政の「お上(かみ)」が決めるまでは待つしかない、という発想、それに供給先行型の企業成長モデルがしみ込んでいて、需要に対応して供給の仕組みを大胆に変えるなど、とんでもない、それ自体がリスクだ、といった発想なのだろう。何とも理解しがたいことだ。

最近、企業の農業参入をめぐって、農協はじめ、農村地域社会に票田を依存する政治家は既得権益を守ろうとして、冷ややかな姿勢でいることを聞き、がっかりする。今回の林さんのケースのように、企業経営の現場でさまざまな経験を積み、それを携えて、固定観念なしに改革志向で、農業のシステム改革に取り組んで成功している人を見ると、企業の農業参入にも門戸を広げ、経営手法を学ぶことが大事だ。

農業の現場で保守的な発想をする人は、企業が利益優先で、もうからないとなるとさっと撤退してしまい、農業の現場は混乱だけが残るからイヤだ、という話を聞くが、閉じこもりの発想ではそれこそ衰退だけが口をあけて待っている、ということになりかねない。

林さんは川上の植林や育林に積極協力、
さらに新エネで投資ファンドも
最後に、今回の林さんの話を聞いていて、なかなか素晴らしいと思ったことがまだある。 6次産業化の延長線上のことだが、伊万里木材市場では、事業の大きな柱の中に、素材生産事業と同時に森林整備事業がある。伐採するだけでなく、あとあとの世代のために植林、育林するなど森林の整備は当然、やるべきだ。川中から積極的に川上に働きかけるだけでなく、自分たちで協力している、というのだ。

そればかりでない。林さんは「豊富で美しい森林資源は観光にも活かせます。きれいな水資源を生み出す貴重な場所です。さらにはバイオマス燃料など新エネルギーにも活用可能です。私は今、そのからみでは投資ファンドに働きかけて、森林資源を育てながら、ビジネスにもつなげることが出来ないか考えています。産学連携もあります。こうしてみると、林業はいろいろな広がりが期待でき、面白いです」という。いいじゃないかと思わず思ってしまう。企業経営の発想で、さまざまなビジネスチャンスの掘り起しは必要だ。

なお、日本政策金融公庫農林水産事業本部発行のAFCフォーラムという月刊誌の最近2月号で、林さんのインタビュー記事も書いたので、ぜひ、ご覧いただけばと思う。

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