中国は金融政策でジレンマ、引締め政策打ち出せば海外「熱銭」流入リスク 人民元高回避が狙い、人民銀行の為替介入で過剰流動性生じインフレ要因も


時代刺激人 Vol. 114

 中国は今、日本がデフレ脱却と財政赤字対策で身動きがとれない政策状況とは対照的な形で国内のインフレ火消しに躍起ながら、マクロ経済政策面でのカジ取りがとても難しい局面にある。中国経済のウオッチを続けてきた立場で、上海万博後の中国経済の話を102回コラムでレポートしたこともあり、そのフォローアップという形で、ぜひ、今回も取り上げてみたい。

金融政策は「緩やかに引締め的」なのに、公式には「適度に緩和的」から「穏健」へ
 結論から先に申し上げよう。中国は高騰する国内物価を抑えるため、金融引締め政策への転換を強く印象付けたいのが本音。現に今年10月に2年10カ月ぶりに貸出金利を引上げた。ところが、中国政府は、明確な金融引締め政策への転換という政策メッセージの発信を意識的に避け、金融政策運営に関しては「適度な緩和」から「穏健」な政策に変えるという慎重な言い方にとどめたのだ。理由は追加利上げ姿勢を明確にすると、熱銭と中国語で呼ばれる投機目的のホットマネーが金利高、人民元高を見越してドル売り・人民元買いの形で海外から流入し、とくに人民元高を誘発しかねないことを恐れてのものだ。

人民元高は、確かに中国の輸出などにマイナスとなる。しかし人民銀行が必死でドル買い・人民元売りの為替介入に向かえば、ドルの外貨準備が一段と膨れ上がると同時に、その分の過剰流動性が市中に出回り、インフレの火種をバラまく恐れが出る。そうなると、マクロ政策的には政策運営が苦しくなる。そこで、金利上昇や人民元高を見越したホットマネーの流入を抑えながら国内物価高への対策ということで、金融政策スタンスを事実上の「中立的」という、あいまいな表現にせざるを得なかった、と私は見ている。苦悩ぶりがはっきりとうかがえる政策運営だ。

引締め転換打ち出せないもう1つの理由、不動産バブル崩壊の引き金回避
 金融引き締めへの政策転換を明確に打ち出せないメインの理由は、このホットマネー流入対策だと、私は見ているが、もう1つ理由がある。それは、中国国内で広がる不動産バブルの動きに、金融引締めという強い政策メッセージを出せば、それが劇薬となってバブル崩壊の引き金になりかねないので注意深く警戒した、ということも見過ごせない点だ。

それにしても、中国はマクロ経済政策運営では不思議な国だ。日本と違って、中国の中央銀行である人民銀行は金融政策面で政府から独立というわけにはいかず、中国共産党の政策下にある。このため、マクロ政策はすべて共産党、そして共産党政権が財政政策も、金融政策もすべて決めることになっている。だから、日本で、中央銀行の金融政策は独立的に毅然と決めるべきだ、とか、いや日銀の金融政策は政府の財政政策運営と一体的に決めるべきだ、といった議論は、中国ではあまり通用しないのだ。

中国ウオッチャーからすれば、国内物価高対策から見て引締め姿勢を明確に、、、
 その金融政策は中国でどう変わったか見ておこう。12月3日の中国共産党政治局会議、そしてそのあとの12月12日の中央経済工作会議では、金融政策のスタンスを変えたが、いずれも金融引締め政策への転換を打ち出せていない。具体的には共産党政治局会議では、それまでの「適度に緩和的」とした政策スタンスから中立に近い「穏健」に切り換えることを正式に決めた。引締めという言い方は公式にはいっさいしていない。
続いて、胡錦涛主席ら中国政府首脳が一堂に会して年1回、マクロ経済運営の最終方針を決める中央経済工作会議でも同じだった。金融政策運営に関して「適度な緩和」政策から「穏健」な政策に変えるとしただけだ。

しかし、中国金融ウオッチャーたちからすれば、2010年の今年1年間の中国の金融政策の現実はむしろ「緩やかに引締め的」だった。しかも現状の中国国内の物価高、不動産バブルの要素が強い地価や不動産価格、さらに住宅価格の高騰を見れば、共産党および共産党政権は明確に「引き締め」政策に変えた、と厳しい姿勢で臨む方針を表明すべきなのだ。

預金準備率6回上げ、それでも効かず利上げ、これだけでも明確な引締め転換
 というのも、人民銀行は今年10月、実に2年10カ月ぶりに貸出金利を引上げた。同時に、人民銀行が商業銀行など民間金融機関の貸し出しをコントロールするため預金準備率についても、12月までの今年1年間で合計6回も小刻みに引上げた。この場合、ポイントは預金準備率を小刻みに引き上げてきたが、その効果がどうも効いていない、と判断して、中央銀行は10月に政策金利である貸出金利の引上げに踏み切った、と見るべきだ。経済ジャーナリストの私が仮に金融政策ウオッチのメディアの現場にいれば、躊躇なく中国の金融政策の大転換、カジを一気に引締めに切り換えた、と踏み込んで記事を書くだろう。
そればかりでない。人民銀行は日銀から学んだ金融引締め手法である「窓口指導」、つまり商業銀などの銀行融資を総額で抑え込む一種の行政指導を今年はひんぱんに行っている。預金準備率引上げも効くが、金融の現場からすれば窓口指導の方が中央銀行から直接コントロールなので引締め効果が大きいと判断したのだろう。

海外の熱銭はさまざまなルートで政策情報入手し巧妙に中国へ流入
 さて、本題の熱銭というホットマネーの海外からの流入リスクの問題だ。統計的には外国資本の流出入額などは国際収支でチェックできるが、こと、このホットマネーに関しては、いろいろな金融専門家やマーケット関係者に聞いても、アングラマネーでこっそりと入ってくる場合もあるし、巧妙な投資マネーという形で流入する場合もある。ただ、中国国内で共産党の政策中枢やそれにつながる国有企業などの幹部、その家族が海外にいる親戚や華僑仲間などに政策変更などの情報をこっそりと伝え、投機や思惑からドル売り・人民元買いで中国に入り込む、というパターンだ。人民銀行など中国関係当局が神経過敏になっていることは言うまでもない。

私の友人で産経新聞編集委員兼務論説委員の田村秀男さんは、著書「人民元が基軸通貨になる日」(PHP研究所)の中で、アングラマネーを動かす金融グループの中には中国共産党のインサイダー(内部情報保有者)がいて、彼らが人民元高誘発の仕掛け人でもある、と指摘している。

その手口の部分を著書から引用させていただこう。「中国のインサイダーたちは自国通貨の切り上げの詳細をいち早くかぎつけると、極めてたやすく巨万の富をフトコロにできるチャンスが生まれる。米国のヘッジファンドのようなプロのテクニックなど不要だ。インサイダーの多くは、党幹部と気脈を通じた国有企業の幹部たちやその一族だ。党幹部に直結しているため当局による制御が難しい。香港や米欧日などに資産を少なからず蓄えており、外から中国の不動産や株式に投資している」、「資本規制の厳しい中国から資金を持ちだす代わりに、ビジネス・パートナーであるAやその一族のBの銀行口座に移す。今度はその資金相当額の外貨をAやBの海外口座から引き出す。対中投資はこの逆のやり方で済む。帳簿上、輸出したことにして外貨を持ちこむ操作も、もちろん盛んだ」と。

中国は政策面でもガバナンスをきかせろ、というのが海外主要国の気持ち
 中国当局にしてみれば、海外のヘッジファンドなどとは別に、身内の中国人が政策ルートの利上げ情報などをいち早く入手し、それをもとにホットマネー操作でドル売り・人民元買いなどに暗躍され、あおりで金融政策が有効に働かないことをもっとチェックできないのか。法では動かず人で動く、いわゆる法治ならぬ人治の国は中国に張られた皮肉のラベルだが、中国も、ここまで世界中の注目を集める存在になり、マーケットにも影響を及ぼす存在になったのだったら、もっとガバナンスをきかせると同時に、政策面でもメッセージが明確に伝わるものにしてほしい、というのが海外の主要国、それに金融マーケット関係者の本音でないだろうか。

ところで、12月12日の中央経済工作会議では「物価水準の安定をより重要な位置に置く」とし、政府は物価高抑制には強い決意でいる、という政策メッセージを発した。こんなこと、当たり前だろう、と思われるかもしれないが、中国のような共産党政権のもとでは政権のシグナルは言葉のメッセージなのだ。つまり今の政権は、物価高騰を憂慮し低く抑えることに全力をあげる、というメッセージなのだ。しかし物価上昇を抑えるために、他の政策手段でもしっかり対応するから任せておいてほしい、と政策発信したにしても、物価高の状況は深刻なので、率直に言って苦しそうな感じがする。

中国は独り勝ち経済を望むが、暖房と冷房つける政策運営で矛盾
 しかし、その一方で、来年の2011年の国内総生産(GDP)成長率に関しては今年と同様、8%前後としながら、財政政策については積極的に対応し消費のけん引力を高めることを打ち出している。このあたりは早い話、極めて政治的な理由による。 つまり中国政府としては、実質経済成長率については2010年の目標に掲げた年率8%成長を超し10%近いレベルの成長率を確保できる。対外的には欧米先進国、それに日本が経済デフレにあえぎ、超金融緩和政策をとる中で、世界経済のけん引役を担う中国、あるいは独り勝ちの中国を浮き彫りに出来る。その状況を2011年も引き続き維持したい、そのためにもマクロ政策ではそろりそろり慎重に、しかし政策目標を達成するようにしたい、というのが偽らざる本音なのだろう。

だが、私から見れば、中国は暖房と冷房を同時につけて、温度管理に苦悩している、というふうにしか見えない。というのも、中国国内の民間金融機関は、人民銀行の窓口指導で貸出を抑え気味とはいえ、成長志向の強い地方政府が開発投資資金の調達に躍起でおり、そこでの資金需要の強さにどう対応するか、悩んでいる。それに、海外の熱銭がアングラマネーの形で、これら地方の開発資金需要に群がることは容易に想像できる。要は、中国共産党や人民銀行がはっきりしない政策ポーズながら、金融引締め政策に切り換えたのに、中国国内では物価高、インフレの温床が広がる、という政策矛盾が起きかねないのだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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