社会的矛盾あるところにビジネスあり 千本倖生氏の起業道


株式会社レノバ
代表取締役会長
千本 倖生

SOLOMON

Chapter Three ビジネスパーソンへのメッセージ
メガトレンドに乗る挑戦をリスクの先に実現する
「三方良し」

起業家人生を彩った
数多くの「出会い」

千本倖生氏の人生を振り返ると、その節目、節目で決定的な「出会い」があった。米国留学の時の「Damn!」と千本氏の価値観を揺さぶった友人、ジョン・ヒスロップ氏。日本電信電話公社を飛び出し、第二電電設立に動くきっかけとなった京セラ創業者、稲盛和夫氏との出会い。さまざまな出会いが千本氏の起業家人生を彩った。
人との出会いを人生に生かすか、殺すかでその後の人生は大きく変わる。千本氏は「出会いから何かを感じ、新しい行動に移す。その関係を一過性のものにせず『人的資産』として維持しなければ意味がない」とアドバイスする。「セレンディピティ(Serendipity)」という言葉がある。英国の政治家であり、小説家だったホレス・ウォルポールが18世紀に生み出した言葉だ。ウォルポールは子供のころに読んだ童話『セレンディップの3人の王子』からこの言葉をつくった、とされている。
その童話の中では、3人の王子たちが旅をしながらさまざまな出来事に会い、苦難を乗り越える。たとえば王子らは、片目のロバを盗んだとの罪をきせられ、旅先の国の王から死刑宣告を受ける。しかし、そのロバを直接見たことはなく、歩いてきた道の左側の草だけが食べられていることに気付き、自分たちの少し前に片方の目しか見えないロバが歩いていたことを知っただけだと主張し、無罪放免となる。こうした話にまつわる「幸運な偶然の出会いや発見、それに遭遇する力」をウォルポールはセレンディピティと名付けたのだ。

千本氏はこう語る。
「左側の草だけが食べられているのを目にしても何も気付かない人はいる。そういう人はせっかくのチャンスを逃し、新しい知恵を見つけないまま人生を過ごす、ということになる。同じ風景を見たり、同じ人物に出会ったりしても、何も感じなければ、人生は変わらない」
目の前のことから何かを感じ取り、新しい知恵に結び付ける力、それがセレンディピティの真の意味なのだろう。

「セレンディピティ」の能力
起業家の必須の資質

そもそも、じっとしていては誰にも出会えない。まず会いに行く。そして千本氏の流儀は、もし出会って「この人はすごい」と感じたら、関係を持ち続け、その関係を起点に新しい「人との出会い」の連鎖を起こすというものだ。例えば第二電電の立ち上げ時に必要だったアダプター用の特殊な半導体チップを作ってくれたデーブ・ライオン博士(PCSI社の創業者)。1994年にPHSのアンテナ網を構築する際にも助けてもらった。その付き合いはもう30年以上にもなる。
ライオン博士は米国のIT産業の真ん中にい続けた人物だけに、その人的ネットワークは豊富である。シリコンバレーの多くのキーパーソンと知己を得たのもライオン博士のおかげである。レノバに移っても、ライオン博士の人脈から世界最大の洋上風力発電会社Orsted社(デンマーク)のCEOとの関係が築けた。
千本氏は「素晴らしい人と偶然知り合い、何かを感じるというセレンディピティの能力を持ち、活用できることは起業家として必須の資質かもしれない」と指摘するが、この能力は起業家に限らず、どんなビジネスパーソンでも必須の能力に違いない。多くのビジネスパーソンは起業しようとしてもリスクの大きさに怯み、なかなか挑戦できないものである。連続起業家と言われる千本氏はなぜ何度も安定した生活を捨て、挑戦できたのだろうか。
安定企業だった電電公社を飛び出し、第二電電づくりに乗り出し、DDIが成功を収めた後に手にした慶應義塾大学の教授の地位。アカデミックな生活は満足できるものであり、安定した肩書きだった。しかし、ブロードバンドの普及という大きな変革の波を見て、あえてその地位から離れ、イー・アクセス創業へと、リスクに満ち溢れた世界へ飛び込んだ。

「ミッション」こそが
「リスク」に立ち向かわせる

千本氏は「なぜ一見、経済合理性のない人生を歩んだのか。それは時代の『メガトレンド』に気付き、その波頭に乗り、社会を変えていく、という『ミッション(使命)』を自らに課していたからでしょう」と挑戦の理由を語る。今回のレノバへの経営参画もエネルギー革命という大波が来ているからだ。だが大波であればあるほど波に飲み込まれ、海の藻屑となりかねない。たいていの人は「他の誰かが波へ挑戦するだろう」と傍観者になりがちだ。

「起業家にとって必要な素養は『論語』にあるように『義を見てせざるは勇無きなり』という使命感です」と千本氏。
社会に存在する歪や矛盾が明らかになり、まわりを見回しても誰も解決しようとしていないならば、千本氏は「そんな場面があれば、それは勇気をもって決断するべき最高のタイミングだ」と受け止める。そこにはすばらしいビジネスチャンスがあると信じるポジティブな感覚を千本氏は持ち合わせているのだ。
「起業をする際に、怖くはなかったですか?」と千本氏は問われることもある。最初の挑戦だった第二電電の創業時は何の実績もなく、その先にどんな苦労が待ち受けているかは分からなかった。目の前にある波に「思わず乗った」という挑戦で怖さはなかったという。
その時も千本氏は通信業界における矛盾を一番知っている自分が解消するのが自然だと思い、「他の人がやってくれるだろう」とは思わなかった。自分がやらずに誰がやれるのか。そんな使命感、ミッションが千本氏を突き動かしたのだ。起業に向けて動き始める原動力とは、矛盾を解決したいという「ミッション」である。
千本氏はミッションに突き動かされ実行する、リスクある挑戦について、こう考えている。「大きなリスクがあるような難事業を成し遂げれば、世の中がより良くなる、自分自身もエキサイティングな経験ができる、そして何より従業員や顧客を含む日本国民の生活が良くなっていく。まさにリスクの先でのみ、『三方良し』が実現する」ミッションに背中を押され、リスクに果敢に挑戦することが世の中のためになると信じる千本氏は、多くの日本人のリスク感覚に疑いの目を向ける。今年レノバに入社した若者からこんな話を聞いた。
この若者はメガバンクとレノバから内定をもらったが、「レノバに就職する」と母親に言うと、「銀行の方が安定し、いい会社なのになぜ名前も知られていないようなエネルギー会社に行くの?」と母親に泣かれたという。

大企業は安全か?
間違っている日本人のリスク感覚

銀行の将来は安定かというと決してそうではない。ビットコインなどが発展するこの先、日本の銀行の将来像はどう描けるのかは未知数である。それなのに依然として就職企業ランキングでメガバンクは上位のままだ。
千本氏は「大企業が一見、リスクがないように見えても、実は大きなリスクを抱えていることに多くの日本人は気づいていない。日本全体の状況も同じで、日本の生活は世界の中では比較的快適で微温的な環境だ。潜在的な競争力を徐々に失っているのになんとなくまだやっていけるのではないかと思っている。その環境に甘んじるのではなく、リスク感覚を研ぎ澄まし、リスクに果敢に挑戦することが今の日本には重要だ」と忠告する。
ましてや日本の大企業では、「人事部」に自分の人生を決められているようなものだ。「来月から○○支店に行ってくれ」と通告され、それに従っていれば、それなりに安定した人生が送れるのではないかという幻想を多くのビジネスパーソンは抱えているのではなかろうか。

千本氏はそんな人たちをこう一喝する。
「本当にそれでいいのですか。自分の人生は自分で決めたくはないのですか。リスクに果敢に挑戦してみたらどうですか」
そしてこう付け加える。
「Get?it?done!(やり切れ!)」

今夏、10年ぶりに書き下ろした著書『あなたは人生をどう歩むか』(中央公論新社)でも若者に限らず、企業の中堅幹部、退職者らにも挑戦せよ、と呼びかけた。千本氏はこの本のことを「次世代のリーダーたちに残す遺書」と書いたが、まだ挑戦を止める気配は見受けられない。
昨年10月、「一般財団法人千本財団」を設立した。優秀で学習意欲は高いものの、経済的な面で進学が困難なアジアの発展途上国などの若者に、日本での学習機会を与えることを目的とする財団だ。
「これまであらゆる場面で助けられてきた私からの恩返しとして、そしてアジアの若いリーダーが日本を良く理解し、両国の橋渡しをしてくれる、その役に立ちたい、そう考えて設立した」と千本氏は言う。
自分の経験を、次世代を担う若者に伝え、リスクに果敢に挑戦する風土を日本に創るという千本氏の思い。それを実現するには、まだしばらくは奮闘せざるを得ないことを千本氏自身が一番よく分かっている。

出演者情報

  • 千本 倖生
  • 1942年
  • 大阪府
  • 京都大学

企業情報

  • 株式会社レノバ
  • 公開日 2018.10.30

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