「資産運用を バリアフリーにする」 日本の個人投資の変革目指す


株式会社FOLIO
代表取締役
甲斐真一郎

SOLOMON

「貯蓄から投資へ」という掛け声がかかるが、日本の消費者の動きは鈍い。国民性ゆえの行動なのか。いや違う。金融証券会社が提供する商品。仕組みのユーザー・インターフェース(UI)が悪いのだ。誰でも簡単に株式投資ができる仕組みをつくり、個人投資の変革を目指す。

企業へのきっかけはフィンテックの米国ニュース

海外の経済ニュースに目を通す日々が続いていた。それは甲斐真一郎氏が外資系投資銀行で金利デリバティブ取引のディーラーをしていた2015年の初頭だった。顧客はヘッジファンドが中心であったため、海外ニュースを常にチェックしていた。そこには見慣れない「Fin Tech(フィンテック)」という言葉が溢れていた。日本ではまだ金融機関の人間でさえもほとんど知らない言葉だった。甲斐氏は「おもしろい」と直感し、新たな金融分野における技術革新の可能性を調べ始めた。甲斐氏は06年に外資系投資銀行のディーラーとなり、10年目に入っていた。ディーラーの働きぶりも08年のリーマンショックを経て大きく変わった。ディーラーに求められる役割も徐々に変化し、甲斐氏は小さな違和感を持ち始めていた。新しいビジネスの種を見つけたくなっていた。

「日本の金融が抱えている課題を新しいテクノロジーを使って解決し、新しい金融産業が生まれるのではないか」

甲斐氏はフィンテックに期待を寄せた。日本の金融の課題とは何だろうか。預貯金は1000兆円もあるのに証券投資に向かう個人資産は限られている。高齢化社会に突入し、効率的な資産運用が求められるはずなのに、現実は低金利の預貯金に甘んじている多くの消費者たちがいる。「日本人は投資リテラシーがない国民なのだろうか」と自問自答した。

日本人は投資嫌いではない 仕組みが分かりにくいだけ

国民的娯楽であるパチンコがある。ビットコインもFXも日本の個人投資家がけん引している。先物取引を発明したのは大阪商人。「日本人は投資嫌いだ、というのは事実なのか。顧客が悪いのではなく、サービスプロバイダーや金融商品そのものに問題があるのではないか」。甲斐氏はそう確信した。誰もが使いやすいプラットフォームと金融商品を革新的なITで作り上げれば、投資家は増えるはずだと考えた。

「資産運用をバリアフリーにする」

進むべき事業のコンセプトが固まった。起業への動きは素早かった。新事業を考え始めて半年後には会社を退社し、本格的に起業の準備に入った。
投資銀行時代の友人やそのまた友人に声をかけていった。

「使いにくい、分かりにくい仕組みをテクノロジーで変えていく。証券会社をゼロからつくるプロシジェクトだ」

技術者にはワクワクする開発テーマである。その中のメンバーの一人がその後、現在FOLIOでプロダクトマネージャーを担当する広野萌氏だった。広野氏は日本最大級のハッカソンで最優秀賞を取り、ヤフーに入った逸材。顧客が使いやすくデザインするUIや顧客体験の面白さを高めるUX(ユーザー・エクスペリエンス)の専門家だった。

奇跡だった 凄腕デザイナーの獲得

共同創業者8人で起業したのは12月。

「UIやUXの何たるかも知らなかった僕ですが、広野を獲得したことが奇跡でした。『資産運用をバリアフリーにする』という目標を実現するには彼なしには難しかった」

と甲斐氏。友達の友達が芋づる式に集まり、すごいエンジニア集団が出来上がった。
FOLIOが17年7月から始めたオンライン証券サービスの特徴は①10万円という小額から株式投資ができること②個別企業の株を売買するのではなく、「ドローン」「人工知能」「サイバーセキュリティ」などのテーマごとにFOLIOが独自のアルゴリズムで選んだ銘柄をまとめて売買できることなどだ。

投資家が応援したいテーマ、関心のあるテーマの関連株をまとめて売買できるので投資が最適分散され、リスクは減る。証券投資を安心して始められるのだ。また小額投資を実現するために、一株から売買できる「単元未満株制度」を活用しテーマごとにまとめて売買、管理する独自のトレーディングシステムを作り上げた。

webサイトもユニークだ。買いたい株のテーマが決まれば「カート」に入れるプロセスを導入し、ECサイトで買い物をするような感覚で株を買えるようにした。オンライン証券としては全く新しいUXを実現したのだ。
ワクワクするようなUIやUXを高めるためにサイト上の文章やアイコンの色、デザインはすべて社内のデザイナーが制作した。美や健康などのテーマなら清潔感が出るような色で統一するという。

金融・証券会社がwebサイトをつくる場合、大半は外部のデザイナーやソフト技術者に委託するのが一般的だが、FOLIOは自社制作にこだわっている。その理由を甲斐氏はこう説明する。

「金融サービスのUI/UXの構築は、非金融サービスと比較して非常に難しいんです。専門用語がちりばめられ、プロダクトが多岐に渡り、お客さまが誤解しないようにしっかりと説明を果たさなければならない。きれいなだけではダメ。使いやすいだけではダメ。複雑に絡み合う論点を全てクリアして、全てのお客さまに満足して頂くサービスを創りだすには、非常に深く濃い議論が必要なんです」

システムを内製しているため即時性のあるテーマにも柔軟に対応できる。例えば「火蟻」というニュースが出れば、それに対応したテーマも数日で組成できるという。またwebサイトの書き込む金融取引についての注意事項などもデザイナーが文章を書く。

「金融知識を学んだデザイナーが読みやすいフォントを選び、分かりやすい語句を使って、文章を練り上げるから、とても読みやすくなる」と甲斐氏。

確かに銀行や証券会社のwebサイトをみると注意事項が細かい字で書かれていたり、難しい金融用語が使われていたりで、金融商品を正しく購入できているのかと心配になる。そんな不安を取り除けば、もっと投資にお金が回っていくのかもしれない。

「経済圏」にある金融商品を「生活圏」に持ってくる

甲斐氏は「経済圏」と「生活圏」という言葉を使う。経済の専門用語がび交う経済リテラシーが必要な世界とそうでない世界という意味だ。

「日本では消費者に経済リテラシーを教育して、経済圏にある金融商品を買わせようとしている。大人になって勉強を押し付けられても。やるなら経済圏にある金融商品を分かりやすくして生活圏に引き直してあげる方がいいのでは。FOLIOはそれを目指している」
課題解決の具体策を提示し、実行しようと動くのが甲斐氏の流儀である。

つまり甲斐氏は①日本の金融市場にある課題を明らかにする②消費者のペイポイント(困り事)を見つけて掘り起こす③具体的に解決する、というサイクルをとどんどん回してきたのだ。

「ずっとそう考え、行動してきたら自然にこうなった」

一見、ユニークな事業に見えても当然の成り行きだと言いたげだ。
60人ほどの社員のうち大半はデザイナーを含めたエンジニア集団だ。一方、法学部卒だが「がっちり理系です」と自任する甲斐氏は起業するまでの間、ディーラーとして働いた金融の専門家。社内の会議は「ものすごく議論する。すごいエンジニア集団である彼らをとっても尊敬しています。彼らの提案は自分の考えと違うことも多いが、論理的に議論を戦わせ、どっちの提案に納得感があるかを考えると、みんなが合意できる方向に向かっていく」

甲斐氏は言う。「自分たちの商品に自信を持ち、仲間を尊敬し、作り上げた商品を好きになることが大事ではないでしょうか。そうすれば自ずと最良の結果となり、ゴールに近づけます」

もちろん上場を目指している。「過去になかったようなすごい上場をしてみせます」。FOLIOが金融界の革命児になるのを早く見たい。

出演者情報

  • 甲斐真一郎
  • 大阪府
  • 京都大学

企業情報

  • 株式会社FOLIO
  • 公開日 2018.01.20
  • 業種:
  • 証券
  • 本社:
  • 東京都
  • 所在地住所:
  • 東京都千代田区一番町16-1 共同ビル一番町4F
  • 資本金:
  • 91億2万1636円(資本準備金含む)
  • 従業員:
  • 60人

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