自社ブランドとOEM製品に新たな付加価値を創造し、新しい「ものづくり」企業を目指す

自社ブランド確立でモチベーションがアップ
何を、誰に、どう売っていくのかを追求

 裁断から仕上げまで一貫した生産ラインを備え、60年以上にわたるアパレル製造の実績を積み重ねてきた丸和繊維工業株式会社。取引先が望むデザインに対する確かな再現性や、豊富な経験と開発力で培った独自の企画力を生かしたOEM事業を展開してきた。一方で、自社の優れた技術力を盛り込んだオリジナルブランドを立ち上げ、その確立にも注力している。

自社ブランドを推し進めることにより、社内のすべてのラインにおいて自己決定権と責任が生じるのだという。

「消費者と工場(縫製オペレーター)との距離が縮まったことは大きな変化です。エンドユーザーのお客様の声が、直接届くことによって、作り手としてのモチベーションが上がり、それが技術の向上や独自の技術開発にも繋がり、商品に付加価値が生まれるのです。さらに、付加価値の向上は、工場加工単価や工場従業員の待遇改善にも繋がり、お客様の喜びの声を社内共有することで、より一層モチベーションが高くなるのです」

同社では事業の成長を通じて、あらゆる面で順調に伸びていることを実感しているという。

「突き詰めて考えていくと、『何を売っていくのか』『誰に売っていくのか』『どうやって売っていくのか』の3点に収斂されてきました。これまでの大手アパレル頼りの下請け構造から、量から質への高付加価値による好循環の体質改善を図ることができ、『ものづくり』と『販売』が一体となり、お客様との距離がより近い、直接販売の構造へと変化したのです」

意欲的な事業への取り組みは、OEM事業にも変革をもたらした。

「従来のように利幅の少ない大量生産型のスタイルでは、自社生産工場を圧迫するという悪循環に陥ってしまうと、10年以上前から危機感を抱いていました。大量生産は単一ラインを回す効率的なメリットがある一方で、海外との価格競争に陥ってしまい、未来が見通せないのです」

OEM製品にも新たな付加価値を追求することで、同社ならではの製品が生まれるのだという。

「車いす生活を余儀なくされた障害者の方に向けた疲れにくいGパンの開発や、当社の特許技術『動体縫製+動体裁断』を生かした無縫製セーターの商品開発など、新たな角度からの付加価値へのチャレンジが、お客様からの高評価をいただいています。なかでも、筋ジストロフィーを患った方との出会いから、約2年の商品開発を経て完成した商品は、パラアスリート大会参加の障害者の方々にも『動きやすい、擦れにくい、ありがとう』など、感謝の言葉をいただきました」

この取り組みを通じて、洋服には人を元気にし、幸せにする力があることに気づき、さらなるモチベーションの向上につながったという。

新しい「ものづくり」企業の時代が到来
ひと針から笑顔のあふれる社会を築く

アパレルを取り巻く業界の今後を推測すると、右肩上がりの明るい基調とは考えにくい。

「数字だけを見れば、アパレル業界は厳しいと言われていますが、必ずしも暗い未来ばかりではありません。これからは国内に限らず、海外ブランドとのコラボレーションも視野に、デジタル社会や持続可能社会に必要とされるより付加価値の高い『ものづくり』が求められます。これを追求していく新しい『ものづくり』企業の時代が必ず来ると確信しています」

同社はますます多様化するニーズに応えて、未来を正しく捉えた新時代への事業方針を打ち出している。

「今後はシェアリングエコノミーの対極であるパーソナライズニーズの増加や、地産地消も加速していきます。デジタル化によって多様化した販売方法など、より付加価値の高いものへのニーズが高まると考えています。そのためには小ロットでも対応できる設備投資が大切です。また、付加価値追求型へ転換するため、4年前には中国から工場を撤退し、社員一丸となって商品開発、高付加価値生産体制の構築に努めています。これは今後のSDGs社会にも繋がっていくでしょう」

時代や社会が大きく変容しても、同社の掲げ続ける理念に変化はない。「ひと針ひと針の繋がりを大切にして、商品を通じてお客様に喜んでいただける誇りと笑顔のあふれる社会を築いていきたい」この思いのもとで、消費者や取引先、社員と共に夢と希望に満ちた新しい未来を築き、今後も笑顔の連鎖を追求していく方針だ。

コロナ感染長期化の「新常態」にどう対応すべきか

2020/10/13

コロナ感染長期化の「新常態」にどう対応すべきか

世界中を不安に陥れた新型コロナウイルス感染は今年に入ってついに10カ月に及ぶ。ここまで来ると、誰もが、この異常事態を「新常態」と受け止めざるを得ない、と思い始めたのは間違いない。そして、それに見合ったライフスタイル、経済社会システムをどう構築すればいいのだろうか、と模索も。だが、同時に、誰もがこれまでの枠組みを大胆に壊して、新たなシステムをなかなか作り出せず、もがき苦しんでいるのが偽らざる現状だ。

次世代の若者に託せ、「高専DCON2020」で実感

そんな中で「若者たちに、ポストコロナという不透明な次の時代を託せるぞ」と思わず実感する興味深い出来事に出会った。日本ディープラーニング協会(理事長・松尾豊東大大学院人工物工学研究センター教授)が、次世代テクノロジーの人工知能(AI)をモノづくり現場に生かそうと必死で取り組む、全国の高等専門学校生を対象に開催したプロジェクトがそれだ。名付けて「高専DCON(ディープラーニングコンテスト)2020」全国大会。

モンゴル工業技術大学付属高専などモンゴル高専3校の合同チーム、それに日本国内の東京高専、長岡高専など、予選を勝ち抜いた11チームが日ごろの研究成果を競ったが、研究レベルはどれも高かった。中でも最優秀賞を獲得した東京高専の7人チームの自動点字相互翻訳システムはとくに素晴らしかった。視覚障害者ニーズにしっかり対応している。

東京高専の自動点字翻訳システムは高評価で凄い

彼らの取り組みは、スマホで撮影した点字印刷物をコンピューターに接続し、深層学習済みの点訳エンジンがサーバー上で自動的に見やすい墨(すみ)字に翻訳する。逆ケースも行う相互翻訳システムが特徴だ。しかもスマホの点字ディスプレーで文字を読み取れる機能や長い文章をAI機能活用で簡略化し要点だけ読める機能の開発にもチャレンジした。

審査委員の専門家は「世界共通語の点字の領域で、視覚障害者の誰もが望む自動翻訳のシステムにチャレンジしたのは見事。グローバル評価につながる可能性がある」と述べた。参加した投資家もこの取り組みに事業評価額5億円、投資額1億円の価値ありと評価、起業資金として100万円を授与した。プロからも十分に市場価値あり、と認められたのだ。