「トランプショック」、高率関税はトリプル安リスク


時代刺激人 Vol. 330

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

中国の出方がカギ、米国債売却策で米国を揺さぶる?戦略

今後の問題として目が離せないのは、米国と中国双方の関係だ。両国は最近、115%幅の大幅な関税率引き下げで合意し、関係改善で歩み寄ったが、問題は、中国側が、米国に対して揺さぶりをかける武器を持っていることだ。
その武器は、中国が推定7600億ドルにのぼる巨額の外貨準備を持ち、かなりの額を米国債で運用している点とからむ。要は、中国が、この保有米国債の大量売却をちらつかせ、金融市場混乱で揺さぶりをかける可能性があるのだ。

今年4月、それが現実化した。中国が当時、トランプ大統領への反発からか、金融市場で4~500億ドル分の米国債を大量売却したのではないか、との噂が広がり、米国債価格が急落、連動する形で米長期金利が一気に年4.9%水準にまで急上昇した。中国は、公式にはコメントしていないため、事実確認はできないが、国際金融市場が一時、大混乱に陥った。中国は、対米関係悪化の場合、米国債カードを武器にするリスクは無視できないのだ。

アジアが学び対象にする日本、今こそ先進モデル事例を

日本は、米国とは同盟関係にあり、中国のような行動をとることは考えにくい。とはいえ、トランプ政権の行動に問題が起きれば、日本としても、戦略的に保有米国債をちらつかせ、米国に揺さぶりをかけ、世界経済安定に向けて米国は自制せよ、と主張するのが重要だ。
その場合、日本は「米国ファーストの行き過ぎた保護主義は、時代に逆行する。米国は、自由主義貿易の枠組みをベースに行動すべきだ」と、厳しく問題提起する。表面だって発言すれば、金融市場が過剰反応しかねないので、水面下での外交交渉の場で言えばいい。

アジア経済研究所の友人が興味深い話をしていた。「トランプショック」でグローバル経済情勢が混迷する中で、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10か国を軸にした成長センターのアジア諸国のいくつかの国が、人口減少と同時に超高齢社会国の課題を抱える日本が今後、どんな新たな経済社会システムづくりに取り組むのか、興味深いと日本研究を進めている、という。日本は先進モデル事例を提示しアピールするいいチャンスだ。

地域包括ケアシステムなどに磨きかけ、アジアに提案へ

日本がアジア諸国の期待に応えて提案するチャレンジテーマは、まだ数多くある。人口の都市集中に伴う経済社会課題への対応、人口の高齢化による医療や介護の地域対応に関して、日本がどう取り組んできたか、とくに課題克服に向けた教訓は何だったのか、それらを踏まえたモデル事例を提示することなどだ。

高齢社会化に苦しむタイ、ベトナム、シンガポールなどの国々にとって、参考になるのは日本の地域包括ケアシステムだ。日本ではいま、75歳以上の後期高齢者群が巨大な人口の塊となって経済社会への圧力となっている。医療や介護のニーズが高くなる中で、都道府県や市町村が2025年から医療機関と連携し、地域住民向け公助、自助、共助の枠組みとしてつくったシステムだ。今後、さらに磨きをかけアジアに積極的にアピールすればいい。

日本は今後、社会の分断や衰退リスクを抱える米国との関係維持よりも、アジアに視座を置き、新興アジア諸国が抱えるさまざまな課題に対し、これまでの日本の経験を参考にして積極提案を行い、連携強化することが戦略的にも重要だ、と考える。いかがだろうか。

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