日本の政治の衰退・劣化がこわい 2人もの首相が政権を放り出すリスク、日本株式会社のトップは強い志を


時代刺激人 Vol. 5

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

9月1日午後9時半の緊急記者会見での福田首相の突然の辞任表明には本当に驚かされた。わずか1年もたたない間に、2人もの首相が政権を放り出すというのは明らかに異常事態だ。日本の政治の衰退、そして劣化がとてもこわい。
ある中堅企業の経営トップが吐き捨てるように言ったのが極めて印象的だ。「同族経営のオーナー社長ならいざしらず、数多くの従業員、株主、取引先を抱えた企業経営では経営を放り出すということは、許されることではない」「昨年9月には安倍前首相が国会での施政方針演説を行った直後に突然、辞任表明し、今回も福田首相が1ヶ月前に内閣改造を行って、しかも総合経済対策まで打ち出した直後に辞任表明したのだから、国民からすれば政治リーダーに2度も裏切られたようなものだ。企業でいえば経営方針を示して『諸君、厳しい状況を乗り切るためにがんばろう』とゲキを飛ばした直後に突然、経営を放り出すのと同じだ」

「民間企業なら命運尽きかねない。日本株式会社なら許されるのか」
 「われわれの世界じゃ、こんなことをすれば、その経営者はもとよりだが、企業の命運も尽きかねない。日本株式会社のトップなら、それが許されるのか」
 この中堅企業トップの言葉は辛辣だ。確かに、経営という点では首相も日本株式会社の社長として、日本という国の経営に携わっているはず。その経営トップが日本国の運営に関して、誰に相談することもなく突然、勝手に放り出してしまうのだから、許されることではない。

ご記憶だろうか。旧雪印乳業の社長が2000年6月に突然発生した低脂肪乳の集団中毒事件での対応処理の記者会見で、厳しい責任追及の質問に対して、苦し紛れに「私だって(対応に追われ)寝ていないんだ」と述べ、その「不規則発言」が原因で社長辞任に追い込まれたばかりか、雪印ブランドを失墜させ経営破たんに追い込まれたことを。

旧雪印乳業の市場退場は社長の「不規則発言」だけでなく大組織病にも問題
 この社長の発言がテレビで繰り返し取り上げられたため、被害にあっている消費者だけでなく、それ以外の雪印製品を愛用していた消費者の怒りを買ってしまった。当然だろう。売れ行きは一気にダウンして経営が悪化、マーケットから厳しい淘汰を受けてしまった。
 小生は、「失敗の研究」という観点で、この事例研究をしたので、よく承知している。トップランクのリーディングカンパニーがあっけなく退場を余儀なくされたのは、社長の軽率なひと言だけでない。実は、旧雪印乳業という企業の内部に大組織病に陥る素地があり、衰退や組織の劣化の予兆が随所にあったのだ。

今回の福田首相、それに昨年の安倍前首相の政権放り出しの問題を旧雪印乳業の問題と重ね合わすと、互いの問題は無関係ではない。つまり、日本株式会社自体にも大組織病の素地が同じようにあり、組織自体の衰退、劣化が進んでいるのかもしれない。だから政治リーダーにも自己規律、緊張感、使命感、志、構想力、指導力が欠け、厳しい状況に追い込まれると、躊躇することなくあっさりと日本株式会社のカジ取りを放棄してしまう。裏返せば、そうした政治リーダーを生み出す素地が今の日本にあるということでないのだろうか。

そういう点でいえば、日本は、年金制度や医療制度に限らず、さまざまな制度が文字どおり制度疲労をきたしている。本来であれば、自民党を含めた政党がマーケットの時代、スピードの時代、グローバルの時代といった時代の変化のもとで、それら制度上の課題を見極め、同時に構想力で政策を練り上げて制度の新しい枠組みをつくっていくべきなのだが、それをやれていない。政治家個々人の問題であると同時に、それら政治家がかかわる政党組織に問題があるからなのだろう。

米有力紙は自民党だけではなく政権交代めざす民主党も問題と指摘
 現に、米有力紙のウオールストリート・ジャーナルが興味深い記事を書いている。福田首相の突然の辞任表明に関しては冷ややかで、早期に経済改革に取り組まなかったことが最大の失敗だと首相の指導力のなさをあげている。ところが、同時に、総選挙で民主党が過半数をとって政権を担っても、民主党自体も経済改革には慎重なので、自民党政権よりもひどいことになるかもしれない、と手厳しい。要は、日本の政権政党だけでなく、政権交代をめざしているはずの野党の民主党も時代の変化を鋭敏にかぎとって時代を変える力を持っていない、と見ているのだ。
しかし、政治にばかり責任を押し付けているわけにはいかない。実は、経済界もしかり、社会全体もしかりで、日本全体が制度疲労にある。小生のかかわったメディアも同じだ。みんなで旧態依然とした組織や枠組み、制度に安住してしまっている。壊すこと、変革することがこわいのだろうか。この際、思い切って新しい制度づくりにチャレンジしていく時期にきている。今回の福田首相の突然の辞任表明を、そのきっかけにするいい時期だ。

だが、皮肉なことに、政治のみならず経済や社会も含め制度疲労をきたし、賞味期限のきてしまった制度やシステムの枠組みを変えるには、やはり政治リーダーに期待せざるを得ない面がある。冒頭の中堅企業の経営トップは「冗談じゃない。今の政治家に日本の閉そく状況を変える役割を期待などできない」と言いかねないが、日本株式会社のリーダーは政治リーダーでいくしかない。

「日本を変えよう」という志や使命感を持った若い政治家に期待
 そういった意味で、米国の大統領候補のオバマ氏が「CHANGE(チェンジ)」と変革を訴えたら、米国の停滞していた政治の流れが変わってきたことに注目する必要がある。もちろん、オバマ氏の政策はまだまだ見極めが必要で、巨大国家の米国のカジ取りをどうしようとするのか評価しにくい。しかし、少なくとも若い政治リーダーの登場で米国に新たな変化が出てきていることを日本の政治家もしっかり学びとることは重要だ。そして、若い政治家が志や使命感を持ち、政策の裏付けをもってわれわれに力強く「日本を変えよう」とアピールすることだ。そうしたら、われわれも真剣にボールを受け止めることにやぶさかでない。

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