政府から独立の原発事故調査委 東電や政府が怠った責任の検証を


時代刺激人 Vol. 166

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 世界中を震撼させた東京電力福島第1原子力発電所事故がなぜ起きたのか、政府や東電の危機対応にどんな問題があったのか――などを調査分析する政府の事故調査・検証委員会(委員長・畑村洋太郎東京大名誉教授)が12月26日、中間報告を出した。翌27日付の主要新聞を中心に、メディアが大々的に取り上げたので、私はいくつかの新聞記事をむさぼるように読んだ。しかし今回は、この委員会と一線を画する形で政府から独立し、独自の立場で原発事故の調査を行う国会原発事故調査委員会(委員長・黒川清日本学術会議元会長)の問題を取り上げたい。

ただ、その前に、政府の委嘱した事故調査・検証委員会の問題指摘ポイントが何かを見てみよう。報告書は、政府や東電の事故対応、事前のシビアアクシデント(過酷事故)への備え対応、市民や住民の被ばく拡大防止策の4つの問題をテーマに問題指摘している。今後、議論になる重要なポイントなので、少し引用させていただこう。

政府事故調の中間報告
「政府と東電は複合災害を想定せず、対策も講じず」
まず、この重大事故を未然に防げなかったのかどうかの点に関して、「政府と東電は、津波による過酷事故を想定しておらず、同時に自然災害と原発事故の複合災害も想定せず、それらの対策も講じていなかった」という。

とくに、2008年に、東電は有識者の意見を踏まえ津波を試算したところ15.7メートルの津波リスクがあることが判明したにもかかわらず、当時の武藤栄原子力・立地副本部長らが、それは仮の試算であって実際には来ない、(絶対に安全と言ってきた)原発を守るための防潮堤は社会的に受け入れられない、と事実上、無視した。この時点で、東電の清水正孝前社長が事故後の記者会見で「事故は想定外」と述べたことは明らかに逃げであり、ミスリードであったことがよくわかる。これは推測だが、東電経営サイドには巨額の補強工事投資の負担が大きすぎるので、見合わせる、という判断も加わったのだろう。

また原子力安全・保安院の対応も問題だ。報告書によると、震災4日前の2011年3月7日に15.7メートルの津波試算報告を受けていたのに、東電に対しては口頭で再評価を促しただけで、監督当局として、対策工事を求めなかった、というのだ。

東電の現場は原子炉冷却の非常用復水器の作動経験ないなど
驚愕の事実
 東電の現場の事故対応に関しては、これまた驚くべき現実があった。「1号機で、現場の全運転員が原子炉を冷却する非常用復水器(IC)を作動させた経験がないばかりか、過去に訓練を受けたこともなかった」という。さらに「3号機で、高圧注水系の手順を十分に検討せず注水が途切れたことは遺憾。しかも消防車を使っての代替注水の必要性や緊急性への認識が欠けていた」というのだ。

水素爆発に関しても、報告書によると、3月12日午後3時半過ぎに1号機で最初に爆発が起きるまで、現場の運転員、発電所や本店の対策本部のだれもが危険性を認識していなかった。有効な対策がとれず、3、4号機の爆発を防ぐことができなかった、という。
東電が、これまでわれわれメディアのエネルギー担当記者に対して「原子炉は五重の防護壁で守られ、絶対に安全です」と終始言っていた現実がこれだとすれば、愕然とする。

首相官邸、原子力安全・保安院、東電間で
情報共有が出来ておらずとの指摘も
 続いて、政府の事故対応に関しても、報告書は「首相官邸や経済産業省傘下の原子力安全・保安院、東電との間で情報共有や伝達が不十分だった」という。とくに首相官邸地下に設置した危機管理センターでは携帯電話が通じないうえ、官邸5階の菅直人首相ら閣僚との間で情報共有が出来ていないため、混乱に拍車がかかったばかりか、指揮命令系統の一本化ができないことによる事故対応の遅れもあった、という。

また、報告書が問題視しているのは、福島第1原発から5キロ先の事故対応拠点「オフサイトセンター」が機能不全に陥ってしまったことだ。センターの通信インフラがマヒし衛星電話を通じてやっと原子力安全・保安院と連絡をとりあう状況で、応急対策のための中核的な役割を果たしていなかった、という。これまた最悪の事態だ。
政府が新たにつくる予定の原子力安全規制機関、原子力安全庁(仮称)に関して、報告書は「独立性や組織力をあたえるべきだ」とすると同時に、専門知識、最新知見での情報収集が求められる、という。裏返せば、現在の原子力安全・保安院はほとんど機能していないと指摘しているのだ。

国会事故調は政府から独立がポイント、
政府対応に問題あれば厳しく批判期待
 この中間報告を読むと、まだまだ信じられないような問題が数多くあるが、今回のコラムでは、政府の事故調査・検証委員会とは別に、新たに政府から独立して国会に設置された国会東電原発事故調査委員会の問題が本題なので、そちらに移ろう。

前回のコラムで、黒川委員長が12月18日、福島原発事故現場を視察したあとの記者会見で、福島第1原発の原子炉の冷温停止状態が確保されたことを理由に、「原発事故は収束した」とした野田佳彦首相発言に関して、「納得がいかない。(原発事故収束に向けての)第一歩というならいいが、(首相の)言いぶりが、国民の受け取り方とギャップがある」と批判した。この委員長発言だけを取り出しても、私が、政府から独立して原因調査にあたる委員会に対する期待の一端がおわかりいただけるはずだ、と書いた。

政府事故調は政府の事故対応で致命的な欠陥あっても
追及できるかという弱み
 率直に申上げよう。政府の事故調査・検証委員会の委員の方々には失礼ながら、政府から委嘱された委員会の場合、その性格上、政府の原子力政策はじめ、電力会社の原発を監督する原子力安全・保安院の事故対応や組織体質、今回のような重大事故時の危機管理対応などに関して、致命的な欠陥などがあっても、切っ先鋭く問題指摘、抜本改革要求がなかなかやりにくい、という問題がある。

現に、27日付の読売新聞は、「政治家のヒアリングについて、政府の事故調は『周辺の事実関係を詰めてから』とするが、時間の経過とともに記憶が薄らぐことは避けられない。政治家1人あたりのヒアリングは最低限にとどめるといい、『政治家に遠慮していると受け止められても仕方がない』と語る事故調関係者もいる、と報じている。この辺りが、現在の政府事故調査・検証委員会の限界だろう。
問題は、世界中を震撼させた東電の原発事故に関して、あらゆる権力から独立して、事故の真相究明のみならず政府や電力会社、原発周辺自治体などの危機対応や危機管理の面での教訓は何か、さらに、もっと重要なことは安全最優先の再発防止策を講じるには何が必要か、それを海外に積極的に情報開示すると同時に、情報共有し、危機管理の主導的な枠組みづくりで、原発事故を引き起こした日本がリーダーシップをとることなどだ。

黒川委員長
「原発事故の情報や対策を世界に率先開示し問題共有が大事」
 黒川委員長は12月8日の事故調査委員会に関する衆参両院合同協議会の場で、国民、未来、世界の3つの視点で原発事故調査に立ち向かいたい、と述べている。1つは国民視点。政府ではなくて、国民に選ばれた国会が事故調査に踏み込むということは、「国民の国民による国民のための調査」である認識が必要。2つめの未来視点に関しては、過去を知らずに未来は語れない。そのためには政府や行政、業界からまったく独立して事に当たる責務があることを認識することだ。
3つめの世界に関しては、原発そのものが世界的な問題であり、日本は、万が一、原発事故が起きた時にどう対処するか、放射能被害にどう対応するかなどの情報や対策について透明性をもって共有することが大事、そして政府から独立して委員会が出来たことに関しての世界各国からの期待も大きいので、世界に情報発信すると黒川委員長は述べている。まったく、その通りだ。

自民党・塩崎代議士も
「国会事故調は政府や電力会社の失敗を厳しく調査願う」
 同じ合同協議会の場で、自民党の塩崎恭久代議士(元内閣官房長官)がなかなかいいことを言っている。「この事故調査委員会は、日本の新しい民主主義を形作る、また国家の自浄作用を強化するものと考える。委員会は、政府の失敗、政府の監督を受ける電力会社の失敗を、国民の代表たる国会で、国会議員ではなくて、民間の人たちが中心になって調査することだ。大事なのは政府からも原子力業界からも独立して調査することだ」と。
さらに、塩崎代議士は「委員会の独立性を確保するため、各種審議会のような各省庁や関係団体の『ご説明』や政治的な圧力を排除し、委員の議員や利害関係者との接触はすべて両院議長に報告してもらうことにしている。委員会の事務局には民間人を中心としたスタッフを用い、議論していただくので、官僚のシナリオに乗せられることはない」とも述べている。

国政調査権活用し極秘資料提出要求はメリット、
だが党利党略行動の監視必要
 ただ、国会事故調査委員会は、国会議員に専門知識もないので、民間の有識者や専門家に調査を委ねる形をとったが、政府の事故調査委員会と違って、国政調査権を活用して、政府が仮にひた隠しにしていた重要資料の提出などを要求できる。委員会の上部機関として両院合同協議会がその提出要求などを出来る、という。
しかし、私が危惧するのは、この事故調査委員会の場を通じて、事故対応時の政権中枢の責任を問うという形で、党利党略で政争に利用されたりして、国民が求める本来の真相解明、再発防止策づくりなどから大きく離れてしまうリスクがある、ということだ。そこは、問題の方向づけがおかしな形にならないように厳しく監視して行くことが大事だ。

国家レベルの事故などの真相究明のため、政府から独立した調査委員会をつくるというのは、米国ではすでにいくつか事例があるが、日本では全く初めてのことだ。そういった意味でも、今回の国会事故調査委員会を大事に活用していくことが必要だ。

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