中国のメディア統制は許されない 大国を誇示するならば言論自由を


時代刺激人 Vol. 210

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

隣の中国で、メディア報道をめぐる問題、それも共産党当局の報道介入、報道規制のような問題が生じているのを聞くと、メディアの現場にこだわって仕事をしている私としても、無関心でいられなくなる。今回は、ぜひ、この問題を取り上げてみたい。
すぐおわかりだろう。中国広東省の有力週刊紙「南方周末」の記事の一部が最近、中国共産党宣伝部という、メディアを監視する機関から記事改ざんなどの介入を受け、中国のインターネット上などで「言論統制だ」と反発が巻き起こった問題だ。

「南方周末」紙問題を契機に、
党中央宣伝部が登場し一気に「全国区」問題へ
共産党当局の改ざん要求に応じた「南方周末」編集長が、現場記者から批判を浴び、事態収拾のため、更迭された。一方で、地元広東省共産党委員会が問題波及を懸念して、改ざん指示した宣伝部長を今後解任することで決着を図る、という動きが出ている。しかし、この宣伝部長の解任にまで及ぶかについては、中国共産党内部の「政治問題」がからむだけに、まだ不透明だ。
それどころか「南方周末」問題が広東省の「地方区」から一気に「全国区」に波及する事態になった。というのは、共産党中央宣伝部が、あとで述べる人民日報系列の環球時報紙に対し、メディアが共産党当局の意向に逆らったり、対抗すれば、最後はメディアが敗れる、といった趣旨の社説を掲載させた。強烈なメディア介入だが、その社説を今度は北京市内の有力紙、新京報紙の社説にも転載要求した。新京報紙の経営陣、編集現場双方が反発して抵抗したが、最終的に政治的な力で掲載させてしまう事態に及んでいるのだ。

習近平総書記は言論の自由明記した憲法「履行」発言したのだから有言実行を
 どうすればいいのだろうか。結論から先に言おう。中国共産党、とくに党中央および地方の宣伝部というメディアチェック機関の存在が問題なのに加えて、メディア統制が続いていること自体、許される問題ではない、と私は思っている。ひと昔前の思想統制時代の閉鎖的な中国ならいざしらず、今や中国は経済の高成長を背景に、国際社会で大国を誇示しているのだから、大国らしく言論の自由を認めることが必要だ。

習近平総書記は就任の記者会見で、党幹部らによる腐敗をなくすための取り組みと合わせて「憲法使命の履行」を表明した。率直に言って、国民受けのためのポーズなのか、本気なのか、どちらなのだろうかと見極めがつかなかったが、習近平新政権が新たなチャレンジに踏み出した印象を与えた。順守しようと言及した憲法で、中国は言論の自由を明記しているのだから、新政権としても、言った限りは実行に移すべきだろう。有言実行こそが、新中国の指導者の証明だ。

共産党中央宣伝部というメディア規制機関の改革が必要、
情報開示で透明性を
 共産党中央宣伝部という前時代的な党機関がいまだに存在するというのも、われわれからすれば、理解できない組織だ。中国側からすれば「内政干渉だ。余計なお世話だ」となるのかもしれないが、大国・中国を誇示する限りは、習近平新政権としても、憲法上の言論の自由を優先させ、共産党中央宣伝部の行動に制限を加えるべきだ、と思う。

共産党中央、そして地方にある宣伝部組織に関しては、あとで、どんな組織なのか、少し述べるが、この組織の改革にも習近平新政権は踏み込むべきだ。その場合、今や時代の潮流ともなっている組織の透明性確保の問題が重要課題となる。日本のメディアから見れば、報道規制などは断じて許されないことだが、仮に、中央もしくは地方の共産党宣伝部がメディア介入などを機関決定した場合、その決定の中身、さらにその理由を開示することが大事だ。透明性というのは重要なことで、この確保がなければ、国際社会での大国評価など、到底得られない、と言いたい。

「南方周末」紙問題は日本のジャーナリスト感覚からすれば信じられない話
 さて、ここで少し「南方周末」紙の問題がどんなものなのか整理しておこう。中国の現場には行けなかったので、現地からのいくつかの報道をベースにする。お許し願いたい。
報道を総合すると、1月3日付の「南方周末」紙の新年特集号の紙面で「中国の夢、憲政の夢」というタイトルの記事が編集部でまとめられた。その記事は、習近平総書記が就任記者会見で述べた中華民族復興の夢の話を取り上げると同時に、憲法尊重に言及した部分にからめて「憲政の夢」という形で新政権の政治改革や民主化推進の必要性に言及した。夢という形で述べたものだったが、共産党宣伝部の反発を招いた。日本のジャーナリスト感覚では、その程度で過剰反応は信じられないところだが、彼らはそこが違ったようだ。

驚くのは、広東省共産党委宣伝部のとった行動だ。記者らが当初の記事を最終チェックしOKを出して帰宅したのを見計らって、やおら動き出し、「南方周末」紙の編集長と副編集長を呼び出して、印刷に入る前に記事の改ざんを求めた、という。編集長は、党宣伝部の指示には逆らえないと判断したのか、現場記者の了解を得ずに独断でタイトル、記事の中身を指示どおり大幅に変えた。民主化など政治的キーワードも外して、印刷に回した。そして、3日付けの紙面で中身が改ざんされたことを知った「南方周末」紙の現場記者らが騒ぎだし、デモや抗議行動に発展して大問題になった、というものだ。

北京有力紙「新京報」紙には「権力にたてついてもムダ」とする社説転載を指示
この問題は、インターネットで一気に伝わり、中国国内だけでなく、海外にも情報が伝播し、あっという間に広東省の「地方区」から「全国区」「国際区」に広がった。そうした中で、事態を重視した共産党中央宣伝部が1月7日になって、人民日報系列の環球時報紙に対し、さきほど述べたように、メディアが共産党当局の意向に逆らったり、対抗すれば、最後はメディアが敗れる、といった趣旨の社説を掲載させた。共産党機関紙の人民日報系列への指示とはいえ、強引なメディアへの介入だった。

ところが問題はそれにとどまらなかった。今度は北京市共産党委の宣伝部が、党中央宣伝部の意向を踏まえ、この社説を北京の有力紙、新京報紙の社説に転載しろと要求した。新京報紙の社長や編集長が強く反発したが、最終的に、転載を余儀なくされた。新京報紙の現場記者がその一部始終を手記の形でネット上に出した。すぐに共産党当局から、その手記がネット上から削除されたが、問題が大きく広がりを見せる結果となった。

社会主義と市場経済を巧みに使い分ける中国は言論にも門戸を開け
 報道の自由、言論の自由が当たり前の日本からすれば、この一連の共産党の中央宣伝部、地方宣伝部の動きが現代中国でまだ横行していること自体、到底理解しがたいことだ。冒頭でも、少し申し上げたが、ひと昔前の中国ならば、いざしらず、現代の中国は、政治的には社会主義の枠組み、共産党支配の体制を崩さないものの、経済的には大胆に市場経済化を進めている。早い話が社会主義と市場経済・資本主義とを適当に使い分けながら経済成長をめざしている、と言って過言でない。今や新興国の間でも、これが「中国モデル」という形で評価する国さえあるほど。

そういった中で、中国は、今年のGDPに関しては、ユーロ危機などの影響で8%成長を割り込む事態となったが、ここ数年の経済の高成長、とりわけGDPの面で日本を追いつき追い越して世界第2位のGDP国になった段階から、大国主義が強まり、国際社会での言動にもその傾向に拍車がかかっている。そんな中国で、いまだに共産党の中央宣伝部がマスコミ監視や世論操作にこだわり、さらには同じ共産党の政治局常務委員会ではイデオロギー担当の常務委員がいる、というのは何とも奇妙な現象というか、前時代的な共産党組織だ、と思わざるを得ない。なぜ、憲法でも明記している言論の自由などを前面に押し出さないのか、と不思議で仕方がない。言論には門戸を開くべき時期に来ている。

中国で発禁本「中央宣伝部を討伐せよ」は随所になかなか鋭い指摘
 そんな時に、9年前の2004年に、日本で「中央宣伝部を討伐せよ」(草思社刊)という本が発刊されたのを思い出して、私の書棚から引っ張り出して、読んでみたら、これが実に興味深かった。北京大学助教授(当時)の焦国標氏が、インターネット上に出したら、すぐにネット上で削除されたが、誰かが、素早くダウンロードかしていて、日本でも出版されたのだ。もちろん、中国国内では発禁本で、中国の人たちは見ることもできないが、この本で、焦氏が随所にわたって鋭く書いている点がポイント部分で、とても参考になる。少し引用させていただこう。
焦氏はその中で、「中央や地方の各レベルでの宣伝部を取り消すことだ。アメリカに、そしてイギリスに、またヨーロッパに宣伝部があるか。いずれの国にもない。(中略)もしも国際社会における中国のイメージがよくないというなら、政府は中央宣伝部の責任を真っ先に追及すべきである。その仕事の性格とやり方は、現代文明と相いれず、しっくりといかない」と。

「中央宣伝部が公言する『安定がすべてに優先』の安定は腐敗分子向けだ」も鋭い
また、私が指摘した中央宣伝部の組織改革にからめて、情報開示など透明性を出すべきだ、という点に関して、焦氏も「中央宣伝部の活動の透明度を高め、中央宣伝部が下達した各種の『不許可』指令をメディアが随時、新聞雑誌に掲載したり、あるいはインターネット上で発表する。中央宣伝部もそうする法定上の義務がある。下達したこれら禁令のうち、どれが正しいのか、どれが功徳で、どれが罪悪なのか、全国人民に評価してもらう必要がある」という。

さらに、興味深いのは「中央宣伝部が公言する『安定がすべてに優先する』に対して、われわれは、ひとこと言わざるを得ない。『誰の安定がすべてに優先するのか』と。中央宣伝部がストップをかけた1つ1つの報道から、われわれが見てとれるのは、腐敗分子の安定がすべてに優先していることであり、邪悪な勢力の安定がすべてに優先していることだ」という点だ。このあたりは、私自身としては、検証できないが、そのとおりかもしれないな、と思ってしまう。

中国人ジャーナリスト「民主化掲げて職を失うことしない。格差ルポ記事で追及」
 2か月前に、日本に出張で取材に来ていたところをたまたま出合って知り合った男女2人の中国人ジャーナリストが、なかなかしっかりとした問題意識でいた。もちろん、「南方周末」紙問題が起きる前の時点での話だ。
この共産党中央宣伝部の報道規制や報道介入の問題について、「自分たちは直接、中央宣伝部から、記事や取材の仕方について、過去に、何かを言われたとか、経験がないが、目を光らせて監視していることは、知っている。でも、彼らは天安門事件がトラウマになっていて、民主化とかいったことに過剰反応、過剰警戒しているだけだ。われわれも、そんなことでジャーナリストの職を失うバカなことはしない。その代わり、したたかに、都市部と農村部との所得格差、地域間格差の拡大の現実をルポ取材などで取り上げて問題提起していけばいいのだ。格差問題報道などが政治批判報道に発展させなければいいのだ」と述べていた。

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