韓国企業の国際競争力策に日本は学ぶこと大、新興国市場戦略に鋭さ 徹底した現地化で消費者ニーズに応え市場シェアを確保


時代刺激人 Vol. 78

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

最近、広島県へ取材で出かけた際、広島空港からの高速道路リムジンバスで面白いことに出くわした。日本語、英語、そして中国語、韓国語の車内アナウンスがあったのだ。4ヶ国語でのバス・アナウンスは初めてだったので、思わず苦笑してしまった。広島は原爆被災地だけでなく宮島などの観光資源もあり、中国や韓国からの観光客を意識したのかなと思った。そんな折に、数人の友人たちとの会合で、たまたま韓国のことが話題になり、国際競争力の強さを踏まえ、日本は韓国に学ぶことが多いという点で一致した。そこで、今回はなぜ韓国経済が日本にとって学習の対象なのか、という点を取り上げてみたい。
 その韓国だが、読売新聞3月14日付け朝刊のワールド・ビュー・コラムで、ソウル支局長を終えて帰国することになった森千春さんという記者が「時代の波に乗る韓国」というタイトルで、これから私の申し上げる話にからむ問題を取り上げておられるので、現場経験者のレポートとして、ぜひ引用させていただこう。

「桜は盛りを過ぎた。韓国のムグンファは満開。中国のボタンはこれから咲く」
 「韓国の評論家、池東旭氏は日韓中の経済を花にたとえて『(日本の)桜は盛りを過ぎた。ムグンファ(韓国の国花)は満開。ボタン(中国の国花)はこれから咲く』と表現した。リーマン・ショックと呼ばれる世界的金融危機で、マイナス成長に落ち込んだ日本を尻目に、韓国は急速に回復した。家電や自動車という花形産業で先進国市場に頼ってきた日本と、成長力に富む新興国市場を押さえた韓国の差が出ている」という。
さらに「韓国には不安材料も多い。基礎技術面の弱さ、為替変動に振り回されがちな経済体質、貧富の格差拡大、日本よりも低い出生率、そして北朝鮮との関係という変数も抱える。それでも韓国の存在感は今後も増すだろう。なにより国民、企業、政権のそれぞれがグローバル化に背を向けては韓国に未来がないと覚悟を決めた強さがある。バブル崩壊後、自信を失い変革の方向がいまだに見えない日本にとって、韓国の姿は参考になる」と。
 同じことを、友人で、旧大蔵省(現財務省)財務官、現早稲田大教授の榊原英資さんも最近、ある会合で述べていた。「2週間前に、仕事で韓国に行ったが、いろいろな人と出会って話をしていて、経済活動に自信を持っているのには正直、驚かされた。いまの日本のように発想も行動も内向きになっているのとは極めて対照的だ」と。

アジア通貨危機時のIMF金融支援条件のマクロ政策面での内政干渉も克服
確かに1997年から98年にかけてのアジア通貨危機の際には、韓国経済は壊滅的な打撃を受けた。日本が1970年代の原油価格高騰時のオイル・ショックで厳しい事態に追い込まれたのとは比較にならないほどのものだった。当時、韓国は国際通貨基金(IMF)などの国際的な金融支援を仰がねばならないほどだった。とくにIMFの金融支援に際しては、マクロ、ミクロ政策両面で内政干渉かと思えるほどの政策面での注文がつき、プライドの高い韓国を傷つけた。しかし、韓国のすごさは、その厳しい試練を乗り越えて、ややオーバーに言えば不死鳥のごとく再生したことだ。今回の米国発の金融危機、リーマン・ショックでも、日本のようにマイナス成長に陥らず乗り切りを図れている。
 今回、私が韓国経済の国際競争力の回復策で学ばなくてはならないのでないかと思ったのは、その韓国の企業の海外戦略だ。具体的に言えば、中国やインドなど今や世界の成長センターとも言えるアジアの新興経済諸国に積極的に進出し、いわゆるボリューム・ゾーンと呼ばれる経済にチャレンジし、しかも現地化を徹底して進めていることだ。

LGエレクトロニクスはイスラム社会に目をつけコーラン内臓テレビを販売
 韓国の代表的企業の1つ、LGエレクトロニクスがいい例だ。韓国ではトップ企業のサムソンに次ぐエレクトロニクス大手だが、海外市場で常に現地消費市場に食い込むには徹底した現地化しかない、という戦略判断がすごいのだ。具体的にはインドでのテレビ販売に関して、インドで方言を含めおびただしい数の言語があるのに対応して、それぞれの言語でのテレビの操作マニュアルをつくったり、低音が大きく出るようにスピーカーを増設したりする。言ってみれば、それぞれの国々の消費者のニーズが何かを見極め、それこそ痒(かゆ)い所に手が届くような徹底したサービスぶりなのだ。
その極めつけは、中東はもとよりアジアでもインドネシア、マレーシアなどイスラム教の言語、文化圏が大きく広がっていることに対する対応ぶりだ。LGエレクトロニクスはイスラム教の教典コーランを内蔵したテレビを売って大人気を博している、という。これは聞いた話の受け売りだが、ハードディスク装置の中にコーランを内蔵していて、画面に文章を出したり、教典を読み上げる機能もつけている。単にテレビでニュースを見たり娯楽番組を見ることが出来る、というだけでなく、生活の中に根付いているイスラム教を巧みにテレビに活用したのだ。LGエレクトロニクスの現地化戦略は現地の消費者ニーズの把握はじめ製品面での技術対応などを素早く地元の技術者を取り込んで対応している。
 日本企業もこれまでは海外でそれぞれの国々での現地化に対応してきたはずだが、韓国企業の徹底ぶりには驚かされる。しかし、それだけでない。韓国企業が国際競争力を回復しているすごさは、さきほど述べたボリューム・ゾーンという新興国の中間所得階層に鋭く食い込む戦略をとっていることだ。

新興国のボリューム・ゾーン、中間所得層の照準あて食い込む作戦
 このボリューム・ゾーンは今では当たり前に使われているが、2009年の通商白書で今後の日本企業の取り組むべき重点戦略市場として取り上げられた。具体的には1世帯の可処分所得が5000ドルから3万5000ドルのゾーンに入る中間所得階層群、中国では4億4000万人、インドでは2億1000万人がその対象で、アジア全体では8億8000万人にのぼる巨大消費市場が想定される、というものだ。確かに、中国やインドなどでは、かつては人口の多さが成長の制約要因だったのが、今ではその人口に消費購買力をつけ、逆に成長の起爆剤にしている。当然、所得水準が上がれば、中間所得階層が増え経済社会にとって安定したパワーとなる。韓国企業は、日本企業以上に徹底して、このボリューム・ゾーンに照準を当てているのだ。
 75回目のコラム「トヨタの品質問題検証どころでない、日本のモノづくりにも大きな警鐘」で紹介した野村総研の北川史和さんらが書かれた「脱ガラパゴス戦略」(東洋経済新報社刊)でも、韓国企業のすごさを取り上げているので、再度、引用させていただこう。「もともと韓国の人口は4000万人程度であり、国内市場は小さかった。だから韓国企業は、早い段階から米国を中心に海外を『主』、国内を『従』の市場として捉えてきた。現在は中国、インドでも存在感を示している。日本のように、国内需要に引っ張られてガラパゴス化する環境にない。常に海外市場で拡販することに経営の主眼を置いてきた」という。確かにそのとおりだ。

価格帯もハイエンドからローエンドまで網羅、日本は「一種の一物二価は無理」
 そればかりでない。北川さんらによると、「韓国企業は(高価格の)ハイエンドから(低価格の)ローエンドのものまで全面展開している。(中略)ローエンドモデルのものがいくら売れたところで、ウォン建てで見た場合の利益は少ないかもしれない。しかし、あらゆる手段を駆使したコスト削減に大胆に取り組んでいるから、利幅まで薄いとは言い切れない。重要なのは、こういうリスクを取ってリターンを狙う姿勢だ」という。
日本国内のある大手製造業企業の幹部は「韓国企業のようにハイエンド、ローエンドのものをフルラインでそろえるという戦略は日本企業ではとりづらい。現実問題として、デザインなどの企画、設計から生産ライン、そして販売の末端まで、一種の一物二価政策をとるというのは企業としてとりづらい。ハイエンドで安定的に売れるなら、何も無理してハイエンド商品の値崩れを起こしかねないローエンド商品をつくる必要がない、極端に言えば自分で自分の首を絞める行為になりかねない」というわけだ。早い話が、昔、銀行の人が言っていたことだが、手間ひまかけて小口預金を集めるよりも少ないコストで大口預金をとった方が効率的で、ムダなことはしないという発想につながるものだ。
ところが韓国企業は先進国市場ではハイエンド、ローエンド、新興国市場ではローエンドに絞り込んで市場シェアを確実に上げているのだ。しかもそこに徹底した現地化戦略が加わるから強い。日本企業は以前、韓国企業のことを、日本をライバル視しながら、その一方で技術の模倣したり盗んだりして平然としていると言った形で見くだしていたが、今や海外、とくに新興国市場ではその力関係が変わってきた。そういった意味で、日本企業こそがこの際、謙虚になって韓国企業の「強み」の研究をする時期に来ている、と言えまいか。

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