東芝利益操作とガバナンス欠如は大失態 トップ企業がなぜ?再発防止策は可能か


株式会社東芝

時代刺激人 Vol. 273

 (海外に2週間ほど、出張取材で出ていたため、コラム掲載が遅れてしまい恐縮です)

 電機最大手、東芝の歴代3社長が、経営トップとしてあるまじき行為ながら、それぞれパソコンやインフラ関連など社内の主要事業部門に対し、日本国内や海外企業向けの外部への誇示のためなのか、あるいは資本市場対策のためだったのか、いずれにしても大掛かりな利益操作を指示していたことが東芝の第3者委員会調査で判明、しかもその利益水増し額が何と1562億円の巨額に及んだため、それら3社長は7月下旬、引責辞任に至った。メディア報道ですでにご存じのとおりだ。
 リーディングカンパニーとして経団連会長など財界トップを輩出し、グローバルビジネスの世界でも勇名を馳せている東芝だけに、取り返しのつかない大失態だ。

 長年、経済記者として現場で企業取材にかかわった私にとっては、驚きを通り越してあきれ返るばかりだ。とくに、東芝のような文字どおりのリーディングカンパニーのトップ企業で、なぜ、経営トップの露骨な利益操作指示が堂々とまかり通るのか、そればかりでない。幹部を含めてエリート層の多い中堅層までが異論をさしはさまずに長年、その指示に従ってなぜ、利益操作という許されざる行為に加担していたのか、まさに大組織病も来るところまできた、と言っていい。そこで、今回は、この東芝問題をぜひ取り上げたい。

「目標達成せよ指示はどこの企業でもある」と
言っていた東芝関係者も今では沈黙

 知り合いの東芝関係者は当初、私に対し「利益目標を明示して、経営努力で実現し達成せよ、といったトップの指示はどの企業でもよくあることだ。メディアが問題視するほどのことではない」と高をくくっていた。しかし、東芝という企業の構造的な問題になっていることが次第に明らかになるにつれて、その関係者も、すっかり口をつぐんでしまった。

 まさか自社の信頼していたはずの経営トップが歴代、利益操作にかかわるどころか、「チャレンジだ」と現場幹部に指示どころか、業務命令のような形でけしかけていたとは思いもよらなかったのだろう。
 東芝は、重電機では日立製作所、三菱重工とならんで、また家庭電気製品ではパナソニックなどと激しい競争を繰り広げながら、独特の存在感を持っており、現場取材していたころは、優れた、辣腕のリーダーが多かったので、その企業動向には常に関心を持っていた。あとでも申し上げるが、日立製作所がかつては官僚ならぬ民僚組織で、しかも内向きの発想が多くて歯がゆい思いをしていたころ、東芝は、対照的に経営トップら幹部リーダーに自信があるからか大胆な発想で発言を行い、面白い企業だなと思った。それだけに、今回のことは思わず「えっ、本当か」と言わざるを得ないほどだ。

中堅企業経営者は
「私たちが東芝と同じことをしたらその瞬間に市場淘汰だ」

 先日、出会った中堅企業の経営者が「私たちの企業レベルで同じことを行い、それが発覚したら、その瞬間に取引先のみならず金融機関からは締め出しを食い、あっという間に市場淘汰されて、企業の命運もそれまでとなるのは間違いない」と語った。確かに、そのとおりだ。
 さらに、その経営者は「かつてオリンパスでさえ、粉飾決算で厳しい制裁を受けたが、まさか東芝の場合、大企業で、社会的な存在であり、影響力も大きい企業だけに、社会的なペナルティは与えにくいなどと、関係当局などは問題をあいまいにすることはないのでしょうな」とも述べた。
 その発言には、凄味があった。確かに、大企業に比べて、いつも厳しい企業間競争のみならず市場での競争にさらされている中堅企業からすれば、思わず「あいまいな形での事態解決は許さない」と言いたくなるのだろう。

東芝第3者委は内部調査で真相解明に至らず、
独立の第3者委に再調査も

 東芝の第3者委員会調査では、いまだに目的や動機を含めて真相を解明できたとは言えない。率直に言って、かなりの分量の報告書、その要約を読んだが、時間的な調査の面で余裕がなかったのか、専門調査員が少なくて、専門分野に踏み込めなかったのか、あるいは東芝という大企業に遠慮して目的や動機の部分をえぐり出すのを躊躇したのか、いずれにしても事例が似たような報告書スタイルになっていて、報告書のボリュームは厚いものの分析、解明の中身に乏しいな、というのが印象だ。

 私が以前、東京電力福島第1原発事故の調査を行った国会事故調査委員会の事務局にかかわり、委員会調査を見ていて、東電や政府の事故調査委員会のような内部調査と違って、政府からも東電からも独立して、しかも法的権限をもって大胆に調査を行った。それでも調査を踏まえての報告書作成までの時間がきわめて短期間であったため、プロジェクトマネージメント手法を導入し問題やテーマなども設定し徹底的に調査した、というのを見てきた。
 その点からいえば、今回の東芝の第3者委員会調査は、ある面で東芝から委託されたもので、内部調査にすぎないという弱点があるように思う。問題の重要性に鑑みて、利害関係者、当事者から独立した本当の意味での第3者機関に調査をゆだねて、再度、真相解明に迫る、という方法をとるのも一案かもしれない。

コーポレートガバナンス先取りで
委員会等設置会社制導入したのに機能せず

 とりわけ東芝の場合、グローバル時代のコーポレートガバナンスを先取りする形で、米国で積極的に実施されていた委員会等設置会社という、社外取締役を主体にした委員構成によって経営監視するシステムをいち早く導入していた企業だ。今回、そのガバナンスが全く機能しなかったこと、それどころか監査委員会の監査委員長に就いていたのが歴代、財務担当トップCFOとして財務処理にかかわっていたOBばかりで、彼らが他の社外取締役の監査委員に何も情報開示していなかったことが判明してしまった。これでは、いったい何のためのコーポレートガバナンスだったのかと言わざるを得ない。

 ここまでくれば、下手をすると、大企業不信が一気に高まることを懸念する。私は、東芝問題の再発防止策とからめて、やはり、東芝が2003年当時、ソニー、日立製作所グループ、野村ホールディングスなどと並んで委員会等設置会社を導入しコーポレートガバナンスを先取りする行動をとった企業とは思えない経営トップの行動に今後、歯止めをかけられるのか、という点を問題視してみたい。

ガバナンス専門家久保利氏
「不都合な情報が社外取締役に伝わるシステム完備を」

 いつも辛口のコメントをしながら厳しく問題を指摘することで、私が評価するコーポレートガバナンスの専門家、久保利英明弁護士は毎日新聞の「東芝の不正会計問題でそこが聞きたい」という企画インタビューの中で鋭い指摘を行っているので、少し引用させていただこう。

 久保利氏は、「企業統治(コーポレートガバナンス)で重要なのは、社外取締役の人数などの形式論ではない。まずは、会社にとって不名誉、不都合な情報が社外取締役も出席する企業の取締役会に伝わるシステムを完備することが必要だ」と語った。 加えて、久保利氏は「不都合な真実を堂々と公表する勇気ある取締役や業務の執行者が選任されていることも重要だ。日本は、体制順応型の文化があり、『会社第1人間』が多い。しかし『公的資格』や『正義』、『うそは絶対につかない信念』など、会社よりも大切なものを持ち、独立性を保つことのできる人材の登用が求められる」と述べている。なかなか鋭い問題提起で、私も100%同意見だ。

証券取引等監視委に捜査権限を付与し
刑事罰を重大犯罪並みに、との指摘も

 最後に、久保利氏は再発防止策に関して、こう述べている。「不正を行った企業に対する課徴金を大幅に引き上げることも有効だ。過去の課徴金最高額は16億円だが、利益を水増した額のほんの一部にすぎない。これを水増し額と同額、あるいは倍額に引き上げてもいい。また、証券取引等監視委員会に捜査権限を付与し、刑事罰も重大犯罪並みに引き上げることも検討すべきだ」と。

 なかなか大胆だが、企業の信頼を失わせるような経営トップ自らが関与する利益操作などの不正行為に対しては、それぐらいのペナルティをくらわすことも再発防止という観点からすれば重要なことかもしれない。

新日本監査法人は何を監査していたのかが問われる、
監査法人制度そのものに問題

 今回の東芝の問題で、多くの専門家が指摘していることだが、新日本監査法人という大手の監査法人の「罪」は大きい。私も、この問題が表面化した際、監査法人はいったい何をしていたのだろうか、とすぐに思った。ご存じのように、監査法人は、企業から財務監査の委託を受けると同時に、もう1つの顔であるコンサルティング業務の面で利害が反する行動をとらざるを得ないことがある。

 ずっと以前から問題指摘されてきたことで、監査法人が企業監査する場合、ファイアウオールのような情報の壁を監査法人自身の内部につくるシステムができていたら、問題ないが、その点が実にあいまいなままだ。
 とくに、新日本監査法人はオリンパスの粉飾決算問題でも当事者の監査法人だったので、今後、問われることが多い。

東芝の今後の再発防止策は至難のワザ、
市場は厳しく見て株主代表訴訟もあり得る

 今後の問題は、今回の利益操作が表面化して、早くも米国で巨額の株主代表訴訟が起きた。グローバル企業となれば、こういったコーポレートガバナンスが全く効かなかったことに伴う損害が株価下落などに出れば、そういった株主代表訴訟という形で出てくる。9月に新たに発足予定の東芝経営陣は、再発防止策をしっかりとつくらないと、米国の株主代表訴訟のような形が波状的に襲ってくることも覚悟しなくてはならなくなる。

 しかし再発防止策といっても、大組織病に浸りきってしまった東芝の場合、正直言って至難のワザだ。まだまだ、ウオッチが必要だ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

Share this article

URL

Follow us on

Twitter FaceBook

関連コンテンツ

運営会社

株式会社矢動丸プロジェクト
https://yadoumaru.co.jp

東京本社
〒104-0061 東京都中央区銀座6-2-1
Daiwa銀座ビル8F
TEL:03-6215-8088
FAX:03-6215-8089
google map

大阪本社
〒530-0001 大阪市北区梅田1-1-3
大阪駅前第3ビル23F
TEL:06-6346-5501
FAX:06-6346-5502
google map

JASRAC許諾番号
9011771002Y45040