中国経済に失速リスク、国家社会主義が災い? 株価PKOや天津対応で社会不安が経済波及も


時代刺激人 Vol. 274

中国経済が極めて不安定な状況に陥っている。私は、アジアの地域経済動向と合わせて中国経済にはずっと強い関心を持ち、自称中国経済ウオッチャーとして、いろいろ定点観測を続けてきたが、最近の経済状況は、経済自体にさまざまなダウンサイドリスクを内包しており、今回、ぜひ取り上げてみたい。

中国経済が極めて不安定な状況に陥っている。私は、アジアの地域経済動向と合わせて中国経済にはずっと強い関心を持ち、自称中国経済ウオッチャーとして、いろいろ定点観測を続けてきたが、最近の経済状況は、経済自体にさまざまなダウンサイドリスクを内包しており、今回、ぜひ取り上げてみたい。

一時は国家社会主義と資本主義型市場経済の
両立がうまく行っていたが、、、、

結論から先に申し上げよう。これまで中国は、社会主義型市場経済モデル国家をつくりあげる、とい
うことで、国家社会主義体制を堅持する一方で、改革開放路線にもとづき条件付きで市場経済への移行をそろりそろりと進めた。試行錯誤を経ながら、「中国型開発モデル」づくりに向けて着々と取り組み、世界第2位のGDP大国にのしあがるまでに至ったのは間違いないが、最近の状況を見ていると、経済が急成長し肥大化し過ぎたことによる反動と言っていい現象や問題が随所に出てきた。
具体的には、地域格差や階層間の所得格差などさまざまな格差の問題、共産党幹部の腐敗、それに公害や人権問題などの社会不安も露呈し、本来ならば平等であるべきはずの社会主義国家が存在を問われる問題だ。しかも実体経済が急速に減速し始める中で、それら格差の拡大に対する不満が広がり、また環境破壊などの公害に対する政府の対応の遅れに対する反発などが社会の各層に拡がり文字どおりの社会不安化が進み、それが共産党政府に対する政治不安に発展しかねない状況も生まれてきた。

最近は、経済規模がケタ外れに大きすぎるため
経済運営が機能しなくなる問題露呈

社会主義と資本主義型市場経済をどうやって使い分けができるのかなと思っていたが、案の定、最近の経済状況を見ていると、その使い分けがうまく機能しなくなってきた、と言っていい。
要は、中国経済の規模自体がケタはずれに大きすぎるため、経済運営が機能しなくなることのマイナス面が次第に噴出し始めた、ということだ。実体経済のスピードダウンが顕著になってくると、それまで経済が上向いていた時には出ることのなかった国民の不満が一転、生活がよくならないことへの不満に大きく変わり、さきほど申し上げたような社会不安が政治不安に発展しかねない。
そこで、危機感を強める共産党政府が国家社会主義の「顔」を強く出さざるを得なくなるが、それが資本主義型市場経済に新たなひずみをもたらす、といった状況になり、あおりで経済がまずます停滞に追い込まれるという悪循環過程に入ってしまう。

共産党政府の腐敗一掃対策で手を打つうちに
地方政府で「人事の崖」問題が表面化

最近、中国人の経済専門家から聞いたきわめて興味深い事例を申し上げよう。習近平政権が、共産党幹部の目に余る汚職など腐敗状況を放置できなくなり、メディア報道でもご存じのように、共産党の中枢にいた幹部の摘発と同時に、地方の共産党委員会の幹部などの摘発を活発に行った。習近平共産党総書記が表明した「大量のトラ(大物幹部)に限らずハエ(地方政府の小物幹部)まで厳しく対応する」がそれだ。
その結果、地方政府などの政策を実行する現場で、責任者の摘発が続出したため、政策運営の責任者が不在になる地方政治の空白状態が生じた。ところが、それらの責任者の下にいる中堅幹部らは保身のため、肩代わりして政策運営に携わって失敗したりしてミスを犯すと、今度は自分にまで責任を負わされかねないとサボタージュ現象が蔓延し始めた、というのだ。
その専門家によると、習近平政権は中央政府に限らず地方政府でも政治空白による経済停滞を何としても避ける、ということで、交代人事に着手、全国から9000人の幹部クラスを選抜して、政治腐敗が激しかった山西省などには大量に派遣したが、「人事の崖」が「景気の崖」をもたらす可能性は否定できない、という。そのとおりで、地域政府の中核部分で、「人事の崖」が顕在化してくれば、間違いなく行政の停滞を通じて、実体経済にさまざまな影響を及ぼす。まさに「景気の崖」に波及するリスクだ。

地方政府の巨額債務危機の最中だけに、
地方政府が機能しなくなると大問題

率直に言って、この地方政府の問題は早く機敏に対策の手を打たないと、中国経済全体に波及したら、とりかえしのつかない問題に発展する。というのは今、習近平政権にとっての大きな課題の1つが地方経済の立て直し、とくに膨大な債務を抱える地方政府対策だ。2013年6月末時点の地方政府の債務規模は17.9兆元だったが、そのうちの2.9兆元が今年中に返済期限がやってくる。この事態乗り切りを図らないと、地方政府の財政破たんが引き金になって中国経済全体の足を引っ張り経済低迷に拍車がかかるというリスクが増大する。

現時点で、習近平政権は、日本政府が財政危機を乗り切るために苦し紛れに行った借換債の大量発行に着手、事態の乗り切りを図ろうとしている。問題の先送りで、抜本対策には到底、なりきれないが、習近平政権にとっては国家社会主義を全面に押し出して、中央政府が非常時対応をする、とアクションをとらざるを得ないのだ。そんな地方経済の火の車の中で、政治腐敗への荒療治の結果、地方政治、つまり行政に政治空白が起きて、行政の現場が機能しなくなる現実があるのだ。

6月の上海株式市場での株価PKO対策が
強引過ぎて、あとあとにしこりも

もう1つ、別の中国人の経済専門家が「市場経済に共産党政権が強引に手を突っ込まざるを得なくなったが、今後の後遺症が心配だ」と語ってくれた事例も重要ポイントなので、ぜひ申し上げておこう。
メディア報道ですでにご存じの上海の中国株が今年6月、株バブル崩壊で急落した際、中国共産党政府が必死で株価維持のために公的介入を行うPKO(PRICE KEEPING OPERATION)を行ったことだ。
6月12日に株価指標の上海総合指数が7年ぶりの過去最高値をつけたあと、一転して急落しわずか3週間でピーク時に比べて30%も値崩れした。もともと行き場のないマネーが不動産バブルにピークが見え始めたということで、株式市場にどっと回ってきて株価を押し上げたが、実体経済が低迷し、投資対象の企業の経営実績も振るわない中での株価の異常高騰が株価の世界でいう「山高ければ谷深し」のたとえどおり株価急落となり、危機感を強めた共産党政権が強引にPKOに乗り出したのだ。

その経済専門家によると、6月30日に中国基金業協会が株式相場の下支えが必要と提案したのをきっかけに中国人民銀行が、短期金融市場での公開市場操作で500億元の資金を金融市場に供給、7月1日には上海、シンセン両証券取引所が「人民元建てA株の取引手数料引き下げ」、中国証券監督管理委員会が「信用取引の決済期限を撤廃」、そして7月2日には中国人民銀行がさきほどの金融オペで追加的に350億元をさらに金融市場に供給、上海、シンセン両証券取引所が「8月1日から証券取引手数料の30%引き下げ」を発表、7月3日には中国証券監督管理委員会がさらに対策として「中国証券金融の資産規模拡大」「新規株式公開(IPO)の認可抑制」「適格外国機関投資家(GFII)の投資枠拡大」、国有企業などでつくる創業板上場企業28社が「自社株買いなど相場下支えで合意」を打ち出すといった具合だ。

リチャード・クーさん「実体経済が減速中のもとでの
株価押し上げはそもそも無理」

私の長年の友人、野村総研主席研究員でチーフエコノミストのリチャード・クーさんは最近送ってきてくれたレポートの中で、「6月当時の中国経済はかなり顕著に減速しており、そういった中で株式市場(の株価)だけを上げるというのは、そもそも無理があった、ということだ。経済のファンダメンタルズが共産党当局に味方していないのに、当局がその事実を無視して(株価押し上げに)走ったのは問題だ」と述べている。
クーさんに言わせれば「市場経済の中でも最もコントロールが難しい株式市場を活用して政策目標を達成しようとしたことは、共産党の常識からすればにわかに信じがたいことだ」とも述べている。

同じく友人で大和総研OBの中国経済研究の専門家、金森俊樹さんも「中国当局の強引な株価対策は、マクロ景気への影響を懸念して、というよりも、社会不安の発生を抑える、という観点が強い」とみている。私も全く同じ問題意識でいる。行き場のないマネーを不動産や株式に投資していたニューリッチの新興富裕層、小金(こがね)持ちの投資家にとって、株価の急落によるキャピタル・ロスはそのまま共産党政権の政治や経済運営への反発となって広がるリスクが大きい、と判断しPKOに走った、とみて間違いない。「市場の失敗」が現実化し、社会不安が政治不安に広がるリスク回避のために、国家社会主義の「顔」が全面に出てしまったが、下手をすると「国家の失敗」「政府の失敗」という事態に至りかねず、中国政府自体が苦悩状態にあった、と言っていい。

天津爆発事故が追い打ち、
安全対策の不備などが露呈すれば国際問題に

そこへ、最近の天津での爆発事故が舞い込んだ。メディア報道などしか手がかりがない現状で、過剰反応するのは控えるべきだろうが、それでもいったい何がこんな大惨事になったのだろうか、と関心を持たざるを得ない。その点は、私などよりも、中国の共産党当局のみならず国民の方にその意識が強いはずだ。

最大の問題は、天津市当局がこれほどの危険物に関する安全管理をどう企業側に義務付け、チェックを行っていたのかどうかだが、消火に駆け付けた消防士の人たちが水をかければ有害な化学反応を起こして、消火活動に重大リスクがある、ということを知らされずに事故の二重遭難の形で多大の被害者を出した、という点だ。真相解明を待つしかないが、中国当局は、この問題に関するメディア報道に極度に神経質になり、現場での記者会見の映像を突然カットしてしまうなど、内外メディアから反発を招いている。しかし現実問題として、中国経済の恥部ともいえる「安全」の問題がおろそかにされていたことが判明すれば、
国際社会での信用失墜にもなりかねない。

2015年GDP7%成長目標達成は困難、世界の機関車役が失速する影響は大だ

習近平政権が2015年の成長率目標として打ち出した7%成長は、中国政府が発表するさまざまな経済指標を見ても、ダウンサイドリスクを抱えている。とくに李克強首相が実体経済を探る際の参考指標にしている電力使用量と鉄道貨物輸送量の2つを取り出しても、ここ数年、ずっと低迷し、とくに昨年から今年にかけては下降カーブを描いたままだ。海外のエコノミスト予想では、2015年の中国経済はGDPベースで7%維持は到底無理で、6%台半ばとみる向きが多い。

となれば、国家社会主義の「顔」がますます強くなり、体制維持のためにさまざまな市場経済無視の経済政策を行う可能性が強まる。その場合、経済のダウンサイドリスクが高まるが、中国1国にとどまらず、周辺国のみならず世界経済に影響を及ぼすリスクだ。中国経済は、2008年のリーマンショック後の世界経済の中で、ある意味での機関車役を担ってきただけに、それが崩れ始めると影響ははかりしれない。そこが最大の問題だ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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