発想転換でビジネスチャンス広げる 和歌山のミカン産地が果敢に成功


株式会社早和果樹園
秋竹新吾

時代刺激人 Vol. 272

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

出会った人で、これは面白い、という人を早めに取り上げて、時代刺激の足掛かりにしたいと思うことがある。今回、取り上げる温州みかん産地の和歌山県有田市で株式会社早和果樹園を経営する秋竹新吾さんも、その1人だ。

出会った人で、これは面白い、という人を早めに取り上げて、時代刺激の足掛かりにしたいと思うことがある。今回、取り上げる温州みかん産地の和歌山県有田市で株式会社早和果樹園を経営する秋竹新吾さんも、その1人だ。現在、アクティブシニアの70歳。経営判断や生産手法の面でイノベーション、革新に対して頑なと言っていい農業の世界で、秋竹さんは、既存の枠組みを大胆に捨てた発想の転換によって、独自のビジネスチャンスを生み出した。

大半農業者の「お決まりの発想」を断ち切り、
Aランクミカンを加工ジュースで商品化

大半の農業生産者は、丹精込めてつくった農産物のうち、見栄えのするものだけが商品価値を生むと卸売市場へ一早く出荷する。逆に見栄えの悪いものに関しては、自家消費するか、ジュース、ジャムなど加工用に回してモトさえとれればいい、という発想が多い。

ところが秋竹さんがチャレンジングだなと思ったのは、見栄えの悪いミカンだけを加工ジュースに回すという、農業生産者のお決まりの発想を断ち切って、Aランクのミカンを積極的にジュース加工に回したことだ。しかも味のよさを引き出す改善や工夫に不断の努力を払った上で、ビンのデザインやブランディングに関してもプロに協力を仰いでセンスを発揮、それらの存在感アピールによって、お客さんの評価を得たのだ。

南高梅加工農業に比べ1000万円年収差が刺激、
生食生産の一本足打法に危機感

発想の転換を決意したきっかけが面白い。秋竹さんによると、紀州特産の南高梅を加工して販売している同じ和歌山県内の産地の人たちと有田ミカンの生産者との年収差を調べたら、何と南高梅の加工に取り組む農業者らが最大1000万円上回るのを知って、ミカン生産者も同じように加工で付加価値をつけて販売すべきだ、と決意したというのだ。

もう1つのポイントは、生食用生産だけの「一本足打法」生産に頼っていてはリスクが大きいと判断し経営多角化を意識したことだ。農業生産は天候など自然条件に振り回されることが多い上に、豊作になっても喜んではおれない。供給過剰が災いして市場価格が急落して農家手取りが不安定になるからだ。そこで秋竹さんは、生食用の生産から加工ジュースに生産の比重を大きく移すことで、市況変動に左右されない農業経営にしようと考えた。現在、年商6億円の70%強がジュースなどミカンの加工品というからすごい。

他の有田ミカン生産者が加工に見向きしなかったのが幸い、
ブランド化にも腐心

15年前の2000年に、秋竹さんは周辺のミカン生産者7人と連携して有限会社早和果樹園(のちに株式会社化)を創設し利益を出すには加工部門に力を注ごう、と決めた。そして、和歌山県やJAありだの「味一みかん」ブランド品のうち、糖度12度以上、全生産量の数%という優良品質の生食用ミカンを搾ってジュースに加工すれば間違いなく売れると考え、糖度の高い加工ジュース「味一しぼり」を生み出したことだ。そして「味一しぼり」の名前で商標登録し生産に踏み切った。

ミカン生産者がひしめく産地有田で、秋竹さんらに幸いだったことがある。当時、ブランドミカンを加工ジュースにする発想が生産者や地域を仕切る農協のJAありだに全くなかった、それどころか、市場で高く売れる生食ミカンを加工用に回すのはもったいない。コストが高くついて「搾れば搾るだけ損するぞ」と終始、冷ややかな態度だった。だから「味一みかん」ブランドの「味一」の一部使用についても同じ受け止め方で、秋竹さんらは農協組合員仲間なので使用はやむを得ない、どうせリスクを背負って損するだけだろうと、むしろ何の反発もなかった、という。先を見る目は秋竹さんにあったと言っていい。

秋竹さんはアジア成長センターの中間所得層や富裕層を
ターゲットに輸出にも意欲

さて、本題の秋竹さんの話に戻そう。秋竹さんの発想の転換による新たな農業ビジネスによって、株式会社早和果樹園の経営は極めて順調に進んでいる。「味一しぼり」以外に「飲むみかん」などジュース加工品のラインアップを拡げ、海外展開を活発に行う予定だ。

生食ミカンだと冷凍保存という方法もあるが、輸送期間中の品質維持に工夫が必要のため、秋竹さんは、高品質のジュースなど加工品ならばそのハンディが少ないとの判断から、アジアのアッパーミドルといわれる中間所得層の上のクラス、富裕層などをターゲットにしたい、と語っている。早和果樹園自体は、香港、台湾、シンガポール、マレーシアのアジア各国、それにオランダ、ベルギー、ドイツなど9か国・地域に輸出している。

ICT活用し高品質ミカン栽培実験にチャレンジ、
ワークスタイルにも変化もたらす

しかし発想の転換というよりも、新たなチャレンジという点で、秋竹さんが意欲的だなと感心したのは、情報通信技術(ICT)を活用し高品質みかん栽培の実験に取り組んでいる点だ。4年前からコンピューターメーカーの富士通と一緒にICT導入実験にチャレンジ、生産現場でデータ管理を通じ果樹農業の「見える化」をめざしたのだ。

秋竹さんは「私たちは露地以外のハウスでのミカン栽培にも取り組んでいますが、温度管理や水管理はじめ糖度チェックなどのためにはICTは重要です。ICT導入をきっかけにコスト意識がますます明確になりましたし、私たちのワークスタイルも大きく変わりました。オーバーに言えば革命的な変化です」とうれしそうに語っていたのが印象的だ。
ワークスタイルの変化というのは、作業員全員がスマートフォン片手にミカンのほ場を回って生育状況、具体的には葉や幹の状況、病害虫の有無を調べ、異変があれば写真撮影、そして問題個所が特定できるように木についた番号をデータ入力し、あとは本部で画像を引き出して分析、対策判断するのだ。スマホの活用でデータが瞬時に多くの人に共有されるのが、現場の仕事の枠組みを変えた、という。

和歌山県出身の大学生や短大生9人がUターンし入社、
秋竹さんの経営を評価

その秋竹さんが今、うれしくて仕方ないのは、ここ数年、早和果樹園の経営が若者の間で評価の対象になり、Uターンの大学生などが就職したことだ、という。秋竹さんによると、和歌山県の農業生産法人の早和果樹園に、昨年と今年の2年間だけで大学卒6人、短大卒3人の9人が入社してくれ、貴重な戦力になっていることだ、という。
秋竹さんは「いずれも地元出身で、千葉大、三重大、和歌山大などの農学部や園芸学部で学んだあと果樹の現場で新しい農業にチャレンジしたい、という目標を持っている若者ばかりです。ICTなどに習熟しているので、うれしい限りです」と楽しそうだった。農業を成長産業と位置付け、チャレンジを続ける経営者を見るのはうれしい限りだ。

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