「考える力」を身にまとい、世界標準目指せ


立命館アジア太平洋大学(APU)
学長
出口 治明

SOLOMON

日本は「経済一流、政治三流」といわれた時代があった。だが今年1月、出口治明さんは立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任した。
「本当にそうだろうか」と苦言を呈する。日本経済の体たらくは経済人の学力ばかりか、自分で「考える力」を備えた教養がないからではないか。世界標準の教養を身にまとった経済人を育てようと、出口さんは大学の場で奮闘を始めた。

教養=知識×考える力
教養は、考える力こそが大切

「学力」「学歴」といってもただ知識を詰め込むだけでは役に立たない。出口さんは指摘する。
「知識はもちろん必要ですが、それだけではだめです。自分の頭で考える力が必要です。私は『教養=知識×考える力』だと思います」
自分の頭で考える力があってこその教養なのだ。そこを見誤ってはいけない。
「考える力」について出口さんはこんな最近の例を挙げた。
現在の大学入試で使われる「センター試験」が2020年に廃止され、記述問題が増える新テストが実施される。出口さんは「ところがメディアでは記述式問題の採点が大変だ、などといった些末な議論ばかりが語られている。もっと世界を見なければ」と忠告する。

芸術作品は美しくある必要はあるか?
世界の18歳は、答えのない問いを考えている

例えばフランスの大学への進学に必要なバカロレアの試験ではどんな問題が出されているのか。出口さんが紹介してくれた問題は、
・物事を知るには観察するだけで十分か?
・芸術作品は美しくある必要はあるか?
「世界の18歳はこんな問題について考えているということを知るべきです」
正解が一つではない問題を若いころから考えてきた人間と、短時間にどれだけ正解を出すかというテストばかりを受けてきた人間とでは「考える力」の強さも質も変わってくるだろう。知識との掛け算で表されると出口さんが言う「教養」にも差が出てくるはずだ。
ではどうすれば「考える力」を養えるのか。
出口さんは「考える力は料理と同じ」と言う。
まずレシピ通りに料理を作ってみる。食べる。「ちょっと塩辛い」。醤油を減らす――。その繰り返しで、料理を美味しく作る力がついてくる。「料理のレシピのように先人の考えるパターンをまず学ぶことです」という出口さんが勧めるのは、やはり読書だ。しかも古典を読むことだ。
アリストテレス(古代ギリシャの哲学者)、デカルト(フランスの哲学者、近代哲学の父)などを読んでは、「先人たちはどのように考えたかを真似してみる。つまり思考プロセスを追体験することです」というのが出口さんのアドバイスである。

アリストテレス、デカルト、人・本・旅

こんな方法もある。出口さんは、座右の書の中国古典『貞観政要』を寺子屋形式でビジネスパーソンと輪読する出口塾を開催。声を出して読み、意見を述べ合う。「同じ本を読んでいるのにみんな解釈が違う。こんな読み方があるのかと思考のパターンが学べるのです。ダイバーシティーの中から新しい発想が出てくるのです」。みんなで読むので、難解本にも挑戦できるのかもしれない。
「人・本・旅から多くのことを学びました」と出口さんは人生を振り返る。
さまざまな本を読み、いろんな人に会う、そして各地を旅することで世界の広さと豊かさを知る。それは自分の小ささや至らぬ点を知ることでもある。謙虚さも自ずと身に付いてくる。それが知への欲求となり、教養として発酵していくのだろうか。
長時間、会社に縛られ、同じような人たちと仕事をしている人生では、「人・本・旅」は到底実現できないし、考える力も身に付きそうにない。

「APUで学んだ人たちが世界を変える。」

「2030ビジョン」目指す多国籍大学
2000年開学の日本初の本格的な多国籍大学。キャンパスは別府湾を望む高台にある。教員、学生の半数は外国籍を持ち、開学以来の入学生の出身国・地域は146に及ぶ。
学部は、アジア太平洋地域の発展と共生に貢献できる人材の育成を目的とする「アジア太平洋学部」と国際社会で活躍するグローバルリーダーの育成を目的とする「国際経営学部」の2学部。1年次にはすべての留学生と多くの日本人学生が「A Pハウス」と呼ばれる寮に入り、共同生活を送る。
グローバルな視点だけではなく、地域との共生を目指す「グローカル」な視点をも重視している。大分県内の全市町村と友好交流協定を結んだり、地元企業へのインターンシップを実施したりして、地域との連携を図っている。
2030年には「APUで学んだ人たちが世界を変える。」を目指す「2030ビジョン」を掲げている。
マネジメント教育の国際認証A ACSBを2016年8月に名古屋商科大学、慶應大学に次いで国内3校目として取得した。英国の教育専門誌の日本版ランキング(2018年)で西日本・九州の私立大学でNo.1に。2018年3月には国連専門機関、国連世界観光機関(UNWTO)の国際認証「Ted Qual」を国内私立大学で初めて取得。

出口氏の読書法

「世界標準の考える力」を身に付ける
サラリーマン時代は週に5、6冊を読んでいたという出口さん。ライフネット生命を創業し、忙しくなってからも週に3、4冊を読み続けた。読書だけで「教養」が身に付くわけではないだろうが、読まないことには教養はつかない。出口さんはどのように本を読んできたのか。
日本生命で旧大蔵省の金融部局との折衝を担当する「MOF担(モフタン)」のころは連日の打ち合わせ、接待と激務が続いた。だがどんなにお酒を飲み、深夜帰宅になっても「寝る前に1時間は本を読んだ」。「ゴルフはできません」と言い続け、土日の読書時間を守った。忙しさにかまけず、とにかく読書の時間を確保することが重要だ。
何を読めばいいのか。基本的にはベストセラーは読まない。新聞の書評欄に書かれた本は読む。「それぞれの分野でプロと言われている人が署名入りで書いているので、信頼できる」。当たりはずれは少ないという。
自分の感覚も大切にする。書店で立ち読みし、まず本文の10ページを読む。そこで面白ければ買い、面白くなければ買わない。「筆者は読んでもらいたいと最初の10ページを必死に書いているはず。そこで興味がわかない本はダメ」らしい。
そして読み始めたら、じっくり読む。「速読は百害あって一利なし、です。人の話は丁寧に聞かねばならない。読書も一緒です」。

出口さんの推薦書

1 .『社会心理学講義』/小坂井敏晶著(筑摩選書)
ビジネスをするには、まず人間を知らなければならない。そのための必読書。社会心理学の発想をその論理とともに伝え、「人間とは何か」を鋭く問う、この数年で最高の「ビジネス書」と言える。
2 .『パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学』/池谷裕二著(クレヨンハウス)
脳こそが人間だ。人間を知るには脳を知らなければならない。脳研究者の子育て記録だが、最先端の研究成果がふんだんに盛り込まれている。この本を読めばもっと子育てが楽しくなるはず。
3 .『夢遊病者たち 第一次世界大戦はいかにして始まったか』(全2 巻)/クリストファー・クラーク著 小原淳訳(みすず書房)
リーダーの重要性を理解するための必読書。世界史上初の総力戦となった第一次世界大戦はどのように始まったのかを描いた。いつの世もリーダーは優柔不断である。リーダーはどうあるべきかを考える名著。
4 .『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(上、下)/若桑みどり著(集英社文庫)
日本の歴史を学ぶならこの1冊。日本にとってのグローバリゼーションは今に始まったわけではない。安土桃山時代に4人の少年が天正少年使節として海を渡った物語。グローバリゼーションとは何かを考えさせられる。
5 .『「全世界史」講義』(Ⅰ、Ⅱ )
Ⅰ古代・中世編− 教養に効く!人類5 0 0 0 年史−
Ⅱ近世・近現代編− 教養に効く!人類5 0 0 0 年史−/出口治明著(新潮社)

拙著。世界史の大きな流れを知っていることはグローバル社会を生きるには必須。文字の誕生からの5000年の歴史を世界全体として描いた。ビジネスリーダーの地位にある方にはぜひ読んでもらいたい。

取材・構成/安井孝之 撮影/伊東祐輔

出演者情報

  • 出口 治明
  • 1948年
  • 三重県
  • 京都大学

企業情報

  • 立命館アジア太平洋大学(APU)
  • 公開日 2018.04.26
  • 大学名
  • 立命館アジア太平洋大学
  • 業種
  • 教育
  • 設置場所
  • 大分県別府市十文字原1-1
  • 設立
  • 2000年4月(1999年12月文部省設置認可)、2003年4月大学院開設
  • 学生定員(総収容定員)
  • 5,350名

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