「日本発!世界のヒット商品」にヒント 現地ニーズ見極め戦略マーケティングを


株式会社トリドール
代表取締役社長
粟田貴也

時代刺激人 Vol. 263

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

毎日新聞社の毎週日曜日付の朝刊で連載している「日本発!世界のヒット商品」という企画が意外に面白い。タイトルどおり、日本ブランドの製品の売れ行きが、新興アジアを中心に世界の主だった地域でヒット商品になっている秘密は何か、という点にスポットを当て、ジャーナリスト目線で探ったものだ。

「日本発!世界のヒット商品」にヒント
現地ニーズ見極め戦略マーケティングを

 毎日新聞社の毎週日曜日付の朝刊で連載している「日本発!世界のヒット商品」という企画が意外に面白い。タイトルどおり、日本ブランドの製品の売れ行きが、新興アジアを中心に世界の主だった地域でヒット商品になっている秘密は何か、という点にスポットを当て、ジャーナリスト目線で探ったものだ。私が以前勤めていた新聞社だからというわけでの評価づけではないが、時代のトレンドを見るうえで、なかなかの好企画だ。

現地化が最大のポイント、モノづくりの
得意技活用や日本食文化の強み発揮など

ヒット商品化したポイントは現地化だ。それぞれの地域の消費者ニーズをマーケットリサーチなどで見極め、そのニーズに対応するため、日本のモノづくりの得意技を生かして製品に工夫をこらし、機種によっては生産の現地化も行い、販売に踏み出したら一気に売れた、という事例が多い。モノづくりだけでなく、外食レストランビジネスは「食の現地化」に徹すると同時に、「おいしい」「安全・安心」「品質がいい」「おもてなしサービスが抜群」といった日本食文化の強み部分を生かして「成功物語」に発展した事例もある。

たまたま昨年2014年夏に毎日新聞社から出版された同名のタイトルの本を読んでいたら、私が最近旅行したベトナム、ミャンマーでの現場体験ともリンクする話があったので、今回は、グローバル市場で日本のモノづくりが力を発揮するカギは現地化だ、という観点で取り上げてみよう。

「丸亀製麺」はインドネシアで「食の現地化」、
イスラム教徒対応のメニューを開発

さっそく、そのうちの1つを紹介しよう。セルフ式讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」を経営する株式会社トリドール(本社神戸市、粟田貴也社長)が2013年3月、インドネシアに進出して現地化に成功した話だ。
新聞企画を抜粋した本の記事によると、インドネシアは豚肉やアルコールなどの飲食が固く禁じられているイスラム教徒が多いため、既存の原材料が使えず、現地の食文化に対応したメニューを開発した。具体的には日本で使われる調味液は豚由来の調味料が入っており、店ごとに鶏ガラからスープをつくった、という。「鶏白湯(バイタン)UDON(うどん)」(4万5000ルピア=円換算約405円・2014年3月当時)がそれだ。

この「鶏白湯うどん」は、鶏ガラスープのうどんの上に団子ふうの鶏肉ボールを乗せたのが特徴だが、記事によると、釜揚げうどんやかけうどんなどの定番メニューも、味は現地の好みに合わせた。しかもインドネシアの現地では麺のこしの強さよりも喉(のど)越しの良さを好む傾向がある。このため讃岐うどんでは「硬すぎる」と感じる人が多いので、少しやわらかく細めのうどんを使っている。「イスラム対応メニュー」が受け入れられ、今では店舗数も増え、各店1日平均1000人が訪れる、という。

粟田社長は日本食文化シンポジウムで
「郷に入れば郷に従えが成功の秘訣」と表明

実は、最近、日本食文化をアジアにアピールするためのシンポジウムがミャンマーのヤンゴンで開催され、私はそのプロジェクトに参加した。その際、この株式会社トリドールの粟田社長がパネリストとして登場したのだ。そして粟田氏はシンポジウムで、この「丸亀製麺」ブランドのうどんの現地化の話をしたので、具体的に聞けるチャンスがあった。
粟田氏によると、インドネシアが有望な成長市場と見て、日本のうどんを食べてもらいたいとマーケットリサーチして出店準備を進めたが、当初、うどん味に対する現地の志向の違いでパートナー選びにかなり苦労した。しかし運よく現地の1社が名乗りを上げてくれ、「食の現地化」に積極対応しながら、試行錯誤の上に出店したら大成功だった、という。

その際、粟田氏は「当初、日本での讃岐うどんに使うトッピングのネギやショウガにこだわったが、『それでは売れない』という現地パートナーの進言を受け入れ唐辛子など現地の香辛料を使ったら見事に当たった」という。毎日新聞記事にあるうどんスープ以外に香辛料もポイントだったわけだが、粟田氏は「郷に入れば郷に従えのことわざどおり、現地の風味に合せた現地化が食の世界の成功の秘訣だ、と実感した」とシンポジウムで語った。

東芝は同じインドネシアでイスラム教礼拝時間を
知らせるテレビを開発し大当たり

「日本発!世界のヒット商品」の本では、イスラム教がらみの面白い現地化対応の話があるので、それも紹介しよう。大手電機メーカーの東芝が同じインドネシアで、イスラム教の礼拝時間を知らせるテレビを開発して販売したら大当たりだった、という話だ。
記事によると、東芝は新興国で発売中の「パワーテレビ」シリーズのインドネシア向け機種(2012年6月発売)に、礼拝時刻のアザーンに合わせてアラームが鳴る機能を搭載した。現地社員の「礼拝をうっかり忘れないように、みんなが見るテレビにタイマーを付ければ便利ではないか」というアイディア提案が開発のきっかけになった、という。

さらに、記事はこう書いている。「アザーンの具体的な時間は、祈る場所の日の出、日没の時刻で決まる。ところがインドネシアの東端と西端の距離は、米国の東西両岸とほぼ同じ約5000キロ。現在地の正確なアザーンを知るのは意外と難しい。そこで、インドネシア向け機種のテレビに国内256か所を登録、自分のいる地域を選ぶだけでアザーンに合わせ正確にアラームを鳴らすようにした。東芝TV商品部の新興国担当、竹永貴子グループ長は『徹底的に現地のライフスタイルを調査した』と自信を見せる」と書いている。
東芝のヒット商品化は、現地のイスラム教徒のニーズを鋭くつかんだ開発の勝利だ。

グローバル市場での現地化がカギ、
「供給先行型」・「ガラパゴス化」からの脱却必要

現地化という場合、経営トップから幹部までを現地人材に委ねて、経営の意思決定の権限まで与えるマネジメント自体の現地化もあれば、生産の現地化、販売システムなどの現地化もあるだろう。
ただ、最大のポイントは、世界各地で、各地域の消費者、ユーザーのニーズを見極め、その地域で売れる商品づくりを志向する、そのために現地人スタッフ主導でマーケットリサーチを行い、その地域の新たなライフスタイル願望に合わせた商品づくり、サービスづくりを定着させることだろう。生産の現地化、あるいは必要に応じて現地の販売手法の活用、さらに経営を含めて意思決定の現地化はそれに付随して出てくる問題だ。

日本のモノづくりに限って申し上げれば、かつては「いいものをつくれば売れる」、「日本の最高品質に裏打ちされた技術で作り出された製品は売れないはずがない」といった供給先行型の企業成長パターンで来た。その極めつけが、1980年代のソニー「ウォークマン」で、世界市場も制覇しかねない勢いだったが、その後、日本の産業企業の一部ではガラパゴス化現象という、日本でしか通用しない多機能のシステム志向に走り、消費ボリュームゾーンの新興国の成長市場に対応できず、あっという間に先行した韓国のサムスン電子などに先を越されてしまった。「供給先行型」やガラパゴス化からの脱却が必要だ。

「脱ガラパゴス戦略」の北川・梅津両氏が
提案する新興国攻略のキーコンセプトは3つ

私は、このガラパゴス化には大反対で、ずっと以前からASEAN(東南アジア諸国連合)を軸に新興国市場に活路を求め、マネジメントや生産、人材などの現地化を積極的に行い新興国とはWIN/WINの連携で臨むべきだと主張してきた。
以前読んで「これは鋭い」と思った北川史和氏、海津政信氏共著の「脱ガラパゴス戦略」(東洋経済新報社刊)を最近、読み直してみたら、北川氏らが指摘している点がポイントを突いているので、改めて引用させていただき、みなさんにぜひご紹介したい。

北川氏らは、新興国を攻略するキーコンセプトとしては「日本の世界観を売る」「ちょっとした工夫」「マネジメントレベルの現地化」の3つだと述べている。具体的に言うと「日本の世界観を売る」については、新興国が経済成長によって所得水準も上がるにつれて、新製品だけでなく新ライフスタイルや価値観を求めるようになるので、日本の豊かな世界観がそれらのニーズに応えることができる。TOTOの温水洗浄の便器が典型例という。
2つめの「ちょっとした工夫」は、「日本の世界観が新興国で大きな武器になるとはいえ、日本の製品をそのまま売ればいいわけでない。かといって、現地に合わせて完全にローカル化すればよいというものでもない。そこで大事なのは、ちょっとした工夫で、現地の実情を前提にツボを心得た改善を行い、リーズナブルな価格設定をすることだ」という。3つめは、「マネジメントレベルの現地化」で、日本から世界観を持ち込むだけではなく、販売方法や管理までを含めた模倣困難な経営システムの構築だ、という。

ミャンマー・シンポジウムで日本食の
オリジナリティと「食の現地化」の整合性で議論

ところで、この現地化をめぐって極めて興味深い問題提起が、私もかかわった最近のミャンマーでの日本食文化をアジアにアピールするシンポジウムで起きた。タイから現地参加した浅井モスフードタイランド社長が「日本食文化をアジアに定着させるにあたって、現地化がベースになるのは当然のことだ。しかし、その一方で、それぞれの企業の日本食の味や風味などのオリジナリティの部分と、味付けなどを現地に合せる『食の現地化』とのバランスをどう維持すればいいのか、悩ましい問題がある」と述べたのだ。

この問題提起は、日本食文化をアジアに、というアピールを展開する場合の重要ポイントだが、浅井氏の出した事例が実に興味深かった。浅井氏によると、日本政府が2015年1月から中国向けと同様、タイ向けにもビザの発給条件を緩和したところ、円安・タイバーツ高も加わって富裕層などを中心に日本に旅行する人たちが増えた。その人たちが、日本で日本食文化を味わってみたら、タイで食べている味とは違う本物の味だ、といった評価が広がり、帰国して口コミで広がった、というのだ。
浅井氏は「現地の人たちの食や味の志向に積極対応する『食の現地化』の判断は間違っていないと考えるし、経営者としてもそれを基本にする考えに変わりはない。しかし、その一方で、日本に旅行して日本のオリジナル味を知って『本物の味だ』と本物志向を持った人たちを現場でどう取り扱うか、なかなか悩ましい問題だ。タイに限らずシンガポールやミャンマーでもあり得る話であり、それなりに対応を考えておく必要がある」と述べた。

ハチバンラーメンの清治氏「日本も海外も
品質面で同一ポリシーだが、味は現地化」

この点に関して、シンポジウムの議論を少しご紹介しよう。パネリスト参加のハチバントレーディング社長の清治洋氏は「ハチバンの場合、ラーメンなどの品質は日本も海外も同一がポリシーだが、味付けに関しては、海外のそれぞれの地域でローカル志向に合わせて対応するようにしている。タイの場合、現地の人たちの好みで砂糖をラーメンに入れるケースもある」と述べた。
また、さきほどの粟田氏は「丸亀製麺韓国店の事例を申し上げよう。現地の韓国人パートナーが日本食好きの人で、『韓国でのうどんにキムチを入れてはダメだ。うどんのダシの繊細さが出ない』とキムチ入りうどんに批判的だった。当初、そのアドバイスを受け入れたが、1号店、2号店とも振るわずの結果だった。そこで、私は現地化策として、3号店からキムチ入りうどんに切り替えたら、これが大当たりだった。『食の現地化』は、それぞれの地域の風土や志向に合わせることが重要だ」と述べ、日本のオリジナル味とは別に現地化がポイントになるとの指摘だった。
以上が、私の問題提起だが、いかがだろうか。

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