農協は全中とおさらば、自立へ挑戦を 大組織病に終止符打たないとダメだ


時代刺激人 Vol. 264

今、農協改革の問題が大きくクローズアップされている。私は、これまで農業の現場を歩いていて、たくましいリーダーのもとで、すばらしい経営で成功している農協を見て、うれしくなることも多いが、大半の農協は、組合員の農業者自身から反発を招く存在になってしまっている。

今、農協改革の問題が大きくクローズアップされている。私は、これまで農業の現場を歩いていて、たくましいリーダーのもとで、すばらしい経営で成功している農協を見て、うれしくなることも多いが、大半の農協は、組合員の農業者自身から反発を招く存在になってしまっている。なぜか。それは、農協自体が組織の肥大化によって、組織保身が最優先となり、1947年設立時の農協法でうたった「農業者の協同組織の発達を促進し、農業生産力の増進および農業者の経済的社会的地位の向上を図る」という立法の精神から大きく離反してきているためだ。

組織肥大化で農協法設立時の立法精神から
遊離、農業者のための農協でなくなった

具体的には、利益を稼ぎ出す金融、購買、共済の事業部門に組織運営の偏りが見られ、肝心の現場農業者のための営農指導、販売開拓などの営業部門が極度に弱体化している。しかも農産物の集荷や出荷の手数料だけは有無を言わさずとっておきながら、農業者が期待する共同購入でメリット還元すべき肥料に関して、専門商社や肥料メーカールートの方が相対的にコスト安なのに、農協ルートは割高で、現場農業者にすれば、誰のための農協なのだ、と反発せざるを得ない面がある。いわば現場農業者のための農協になっていないことが最大の問題だ。

そこで、今回は、私の現場体験をもとに、素晴らしい農協経営の先行事例を紹介しながら、大組織病に陥った農協の改革は、どうしたらいいのか、申し上げたい。
その前に、日本農業は担い手農業者の高齢化、耕作放棄地の増大などを抱えており、私が現場を歩いてみて、課題山積をいつも実感する。しかし私自身は悲観していない。日本農業は決して捨てたものでない、経営感覚をもって消費者ニーズを探り、売れる農産物づくりに取り組むだけでなく、川中や川下レベルで異業種企業との連携で新ビジネスモデルをつくりあげること、さらに世界の成長センターとなってきたアジア向け輸出にチャレンジすれば、農業は十分に成長産業になると思っている。

3段階ピラミッド組織に問題、全中の改革だけでなく
独禁法適用除外で競争原理も

現在、全国に700ある地域農協のすべてに問題があるとは思わない。あとでも申し上げるが、優れた経営実績を上げて、組合員農家のために大きな貢献をしている北海道のJA浜中町、福井県のJA越前たけふなど先行例がある。だから、私は一部にある農協解体論には乗らない。問題は、そういったビジネスチャンスづくりの中核になるべき農協が大組織病で、「守り」に入って機能していないところがネックなのだ。結論から先に申し上げれば、農協自体を独占禁止法の適用除外から外して、いい意味での競争原理が働くようにするべきだろう。

農協組織は3段階のピラミッド構造になっていて、末端に優れ者と経営ダメ農協などが混在する地域農協、その上に都道府県レベルの農協連合会、さらにその上に全国組織として、いまメディアなどでいろいろ話題になるJA全中、いわゆる全国農協中央会の組織構造に問題がある。

安倍政権や自民党の最終改革案はまだ不十分、
末端農協が「攻め」に転じる改革を

歴代の自民党政権は、政治的な票田となっていた農協組織の改革を先送りしてきたが、今回の安倍政権と自民党は、やっと改革に手をつけた。改革最終案では組織ピラミッドの頂点に立つ全中について、今後5年間に一般社団法人に移行させることにし、全中の農協監査・経営指導権にもメスを入れ、監査を分離して外部に新監査法人をつくると同時に、今後は、末端の地域農協は、農協系の外部監査法人か、公認会計士の監査法人かを選択できるようになったが、一歩前進という程度。また全国農協の商社機能を持つ全国農業協同組合連合会(JA全農)を株式会社への移行も可能にさせたが、改革のポイントはこのあたりまでだ。

つい最近、自民党の斎藤健農林部会長が農政ジャーナリストの会で講演&質疑会見したので出席し、話を聞いて質問してみたが、肝心のピラミッド構造の末端にいる地域農協が今後、自由度を高めて、どこまで競争力を発揮できるようにするのか、とくに大組織病の原因ともなっていた金融や共済事業部門への偏りをなくすための事業分離、さらには農協本来の生産力や販売力、営業力をつけるための新たな株式会社化などへの道筋、独占禁止法の適用除外をあえて外し「守り」から「攻め」に転じる枠組みづくりの構築などをどうするのかに関しては、はっきりした方向付けが見えなかった。こと、これらの最重要課題に関しては、引き続き問題先送りという印象が否めなかった。

先行モデル事例はJA浜中町、JA越前たけふ、
いずれもプロ意識の組合長が経営

そこで、これから農協経営の先行モデル例となるJA浜中町やJA越前たけふをご紹介したい。これら農協経営に共通するのは、組合長にあたるリーダーがいずれもプロ意識、経営感覚の面でなかなかの逸材なのだ。JA農協の役員会にあたる理事会も、こういったプロ意識のあるメンバー構成が必要だし、場合によっては外部から経営人材をヘッドハンティングするぐらいの大胆な経営改革に取り組める枠組みづくりが必要だ。

このうちJA浜中町に関しては、以前も、このコラムで取り上げたことがあるが、間違いなく経営は素晴らしい。リーダーの石橋榮紀組合長は1990年に代表理事に就任して今年で25年たち、正直なところ世代交代も必要な年齢だが、年齢を感じさせない指導力や見識、行動力がある点がすごい。以前、取材していて、既存の農協組織の経営手法に対する強い不満や反発にスジが通っている。要は、全国の多くの農協が金融や購買、共済といった組織維持や保全のための営業に比重を置き過ぎて本末転倒で、組合員農家向けの営農指導に力を注げていない、というのだ。

JA浜中町は米国高級アイスクリームと連携、
企業の農業参入の積極受け入れも

具体的には、石橋さんは酪農比重の高いJA浜中町の経営に関して、全国に先駆けて1981年に酪農技術センターを立ち上げて品質管理に力を注ぎ、強み部分を確立すると同時に、一方で、企業の農業参入を積極的に受け入れ、企業の効率的な工程管理を学び組織強化に活かした。時代先取りの農協経営を行ってきた点は企業顔負けだ。
この徹底した品質管理技術への長年の取り組みが高評価を得て、JA浜中町は神奈川県の中堅乳業メーカー、タカナシ乳業と連携し、牛乳の全量納入と同時に、高級アイスクリームで有名な米国系ハーゲンダッツの原料の一手引き受けを行っている。多くの酪農農家の悩みは生乳の販売先の確保だが、JA浜中町の場合、その心配が全くないのだ。石橋組合長は「新鮮な生乳に関しては、品質の良さ対策をとっていれば、輸送距離の面で外国産に対しては100%勝てる」というのだ。

企業の農業参入、とくに農地保有に関して、全中などの冷ややかな対応とは対照的に、JA浜中町は石橋さんの主導で2009年に農協と地元企業などの共同出資で、株式会社「酪農王国」というユニークな名前の企業を立ち上げ、大規模な酪農の農場経営に乗り出して成果を挙げている。企業との共同経営は当時、北海道のみならず全国でも初めてで、画期的だった、というから先見性がある。

JA越前たけふは全農ルート使わず
肥料メーカーから直接仕入れ、台湾へコメ輸出も

もう1人の優れ者の農協リーダーはJA越前たけふの富田隆組合長だ。残念ながら、私が現場に足を運んでお会いするチャンスに至っていないが、テレビのインタビュー、新聞や雑誌のインタビュー記事をたびたび見ており、そのつど、すごい経営手腕だなと感心する。
富田組合長は「農家のための農協」を掲げて、肥料は飼料メーカーからの直接仕入れ、コメも系統農協出荷に委ねず消費者への直接販売に切り替えた。とくにコメに関しては台湾など海外への輸出にも取り組んだ。要は、上部組織の県経済連、さらに全国組織の全国農協連合会(JA全農)のルートを離れて独自の購買、さらにコメなど生産物の販売に乗り出すことで無駄な手数料支払いのコスト管理を厳密化し、収益向上につなげた、という。

JA浜中町の石橋組合長、それにJAたけふの富田組合長は、いずれも農協組織が今や大組織病に陥って農協本来の営農指導や組合員農家本位の購買や販売に携わっていない、という強い危機意識のもとに独自行動に動きだし、それぞれ成果を挙げているのだ。

農協は日本農業の担い手の自覚必要、
人口減少で消費重要の落ち込み対応重要

日本農業の課題山積は冒頭に述べたとおりだが、今後、とくに大きな問題になるのは、生産現場では人口減少と同時に人口の高齢化で、農業の担い手不足に拍車がかかって生産力構造にも、現在以上に問題を生じるのは間違いない。しかも日本全体の人口減少に伴い農産物を消費してくれる消費者など需要層のパイが先細りし、供給過剰になってつくっても売れないという状況があり得ることだ。日本農業の担い手の農協が、こういった事態にどう対応するか、本来ならば、日ごろから常に考えておかねばならない問題だ。

そうしたことを踏まえれば、日本農業は、海外に新たな需要を求めて、とりわけアジアのような成長センターを視野に入れた農産物輸出のみならず、農業の海外、とりわけアジア展開を真剣に考える必要がある。その場合、日本が農業政策面で海外に活路を求めることは、同時に、海外に向けて日本国内市場の開放を意味することになり、それは国内農業にとって競争力のある安い農産物の流入を招き、深刻な打撃を受けかねない、という形で、途端に「思考停止」状態になってしまっている。それが、JA浜中町やJA越前たけふのような先行モデル例になる農協は別にして、大半の農協が陥っている偽らざる現実だ。

「攻め」の農協対処策は先細る内需を補う
外需への切り替え、アジアへの輸出戦略を

しかし、ここは、発想を転換し、「攻め」の農協として、どう戦略転換をするか、真剣に考える時期に来ているのだ。アジア1つをとっても、急激な経済成長志向に伴い都市化が進み、中間所得層が次第に膨れ上がり、新たなライフスタイル願望が高まっていること、とりわけ日本が強みにする「安全・安心」「品質のよさ」など日本の食文化を裏打ちする強み部分へのニーズが高まっていることなどを見れば、日本が、国内農業への影響阻止の一点で抑制的だった農産物の海外への輸出に大きな舵を切る時が来た、と言える。先細る内需を補う外需への切り替えの発想が重要なのだ。

それに、アジアの人口が多い国々を中心に今後の大きな問題は、食料に対する需要が爆発的に高まり、中国の食料買いあさりのような現象が他のインドやインドネシアを中心に着実に広がってくると、食料不足どころか食料危機の問題が起きる。このため、日本がその場合に備えて、守りの姿勢で臨むのか、危機に対応して積極的に農産物輸出で対応できる農業の生産基盤をつくるかどうかも重要なテーマだ。
これらの重要な課題に、ビジネスチャンスと積極的な経営展開を農協にも期待したい。くどいようだが、農協は、本来ならば、農業の専門家集団のはずだからだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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