米金融システム不安、リスク連鎖で世界に波及する恐れ 世界のマネーセンター決壊防止で米当局があらゆる手だてを


時代刺激人 Vol. 7

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 何とも空恐ろしい事態になってきた。世界のマネーセンター、米国でケタ外れの金融システム不安という激震が起き、その影響が連鎖的に欧州、それに世界の成長センターともいえるアジアや中東の金融市場に波及しつつあるためだ。
 いまのようなスピードの時代、マーケットの時代、グローバルの時代にはリスク連鎖というか、危機の連鎖は、すさまじいスピードで世界中に及ぶ。1つの国の当局が、水際(みずぎわ)で止めようということなど、出来るはずがない。ましてや気休めのような「金融システムは維持されており問題ない」メッセージは、かえって不安心理をかきたてるだけ。今回の場合、まずは、米金融当局が非常事態宣言して、大胆な政策の総動員によって世界のマネーセンターの決壊防止を図るべきだ。

経済ジャーナリストという立場だと、どうしても、こういうメッセージ発信になってしまう。しかし、リーマン・ブラザーズやメリルリンチといった名だたる巨大企業がなぜ、いとも簡単に金融市場から退場をしていくのか、という疑問もさることながら、小生の最大の関心は、燎原(りょうげん)の火のごとくリスクがグローバルに連鎖という形で次から次へと波及していくことへの歯止めをかけることが最重要だと思っている。とくに、さきほども述べた時代のキーワードである「マーケット」「スピード」「グローバル」という時代状況のもとでは、その感を強くする。

日本の政治は危機対応よりも目先の自民党総裁選重視?

そんな中で、余談だが、強い危機感を持ったのは、日本国内の政治状況だ。政権政党の自民党は、福田首相の突然の退陣表明を受け、あわただしく総裁選に踏み出し立候補者たちが地方巡業さながらの地方回りで、支持のとりつけに躍起だ。狙いは、その直後に来る衆院総選挙での自民党支持確保にあるのは間違いない。
しかし、問題は、9月17日に開催予定だった経済財政諮問会議が一時、自民党総裁選優先で、あわや中止になりかねなかったことだ。内閣府関係者によると、諮問会議の有力メンバーの閣僚が前日の16日に会議を開いて米国の金融不安への対処を協議しているので17日は自民党総裁選で地方遊説を優先したい、という趣旨の提案をし、一時は中止とアナウンスがされた。ところが会議議長役の福田首相側から「待った」がかかり開催となった。それ自体は前進ながら、結果的に、突っ込んだ議論も行われず前日の危機対応策の確認にとどまり、それ以外のさまざまな政策課題についても中途半端なものに終わった、というのだ。政治家自身の危機認識が、この程度であることがとてもこわい、政治の劣化は間違いないと思う。

米当局は非常事態宣言し公的管理を、ドル暴落リスクも回避

さて、本題に戻そう。対応策としては、まず緊急に主要8カ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G8)、あるいは中国やインド、ブラジルなど新興経済国を含めた会議を、いずれにしても素早く開催することが必要だろう。中央銀行ベースでは過去の金融不安時と同様、金融機関の決済資金などが滞るリスクを避けるため、巨額の資金を短期金融市場などに供給しており、今回も流動性を確保する手立ては矢継ぎ早やに実施すべきだ。

しかし、これでは抜本解決にはなりにくい。やはり、ここは震源地の米国の金融当局が主導権を発揮して、今の米国金融不安の根源を断ち切るべく大胆な行動をとることだ。端的には、米金融当局が「非常事態宣言」を行って、この際、経営危機に陥っている問題金融機関に対しては、傷んだ資本を毀損(きそん)させるか、あるいは逆に輸血のような形での資本注入で出血を止めるかのいずれかで、国が直接間接に公的管理することだ。
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が巨額の資金供給で財務体質の悪化が懸念されるとして、米財務省が臨時に国債を増発してやりくりする、という話を耳にしたが、米金融、そして財政当局は、単に金融システムのほころびを修復するだけでなく、ドルへの信認がなくなってドル流出リスクに伴う暴落リスクを防ぐという重大な使命もあるはず。この際、徹底して、かつ大胆に危機対応をすべきだろう。
ただし、公的資金注入による金融機関への危機管理は緊急避難的、かつ一時的な措置としてのものであり、政府介入をそのまま続ける必要は全くない。

米国内では巨額の成功報酬得る金融機関救済には批判も

金融機関救済に限らず私企業救済に関しては、米国では「競争自由」を原則にしているため、極めて批判が強い。とりわけ金融機関のトップは競争の「勝ち組」の成果とばかりケタ外れの成功報酬を得ており、「なぜ、国民の税金をつぎ込んで、彼らを救済する必要があるのか」という声が議会のみならずさまざまなところから巻き起こる。当然だろう。
今回の場合、金融システムのリスクのため、特例的に公的資金をつぎ込んでシステム維持を図ることが重要だが、こと金融機関に対しては、徹底して経営責任を問うと同時に、市場からの退場を求めるのは当然、必要だ。

それと同時に、制度上の再発防止策を講じることが、この際、もっと重要だ。今回の金融不安の発端となったサブプライムローン債権担保の金融証券化商品のようなマネー資本主義の行き過ぎた部分に対し、一定の規制を加えること、同時に、今後は金融技術を駆使した金融商品によって、金融システムが制御不能に陥らないようにするため、金融当局が監督を続け、常にチェックしていくことだ。

正直なところ、小生は規制そのものには実は反対だ。金融当局の規制はあくまでも事後規制にして、問題が起きれば厳しくペナルティをくらわせるほうがいい。そうでないと、競争原理が働かず、金融の活力も生まれないし、市場にも広がりがなくなると思っている。しかし今回の場合、マネー資本主義という言葉でくくれるような、あやしげな金融商品が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)して世界のマネーセンターを金融不安に陥れる金融主導の経済の枠組みには、何としても制度的な歯止め措置が必要だ。

ソロス氏「金融当局は自分たちで理解できない商品を許可するな」

かつてヘッジファンファンドを駆使して世界のマネーマーケットを荒らしまわった、あのジョージ・ソロス氏(ソロス・ファンド・マネジメント会長)が近著「ソロスは警告する」(講談社刊)の中で、鋭い指摘を行っているので、紹介させてもらおう。
「現在の危機で明らかなのは、手綱(たづな)を解かれ、タガが外れたままの金融業界が経済を大混乱に陥れているという事実だ。危機から脱出するには、まず金融業界に対する政府の監督と規制を再度、強化しなければならないだろう」「金融危機の原因は、当局がきちんと仕事をしてこなかったことにある。新たに生み出された金融商品や金融手法の中には、誤った前提にもとづいて組み立てられたものも少なくなかった。もちろん、リスクをヘッジしたり分散したりするうえで実際に役立つ金融商品も当然ながら存在する。しかし大事なことは、当局が新しい金融商品・手法をしっかり理解することだ。自分たちが理解できないような商品や制度は許可すべきでない」

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