横浜の杭打ちミス問題はまだ未決着 元請け建設企業の責任が依然あいまい


時代刺激人 Vol. 281

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 「信じがたい」「なぜそんなことが」といった事故が最近、日本国内のみならず世界中いたる所で起きている。その多くは、ヒューマンファクターなど人災によるものだが、同時に組織エラー、端的には社会の安全や人命の安全を二の次に、目先の利益を最優先にする誤った企業の行動、あるいは大組織病が関係する組織エラーがそこに潜む。

下請け重層構造の実体や元請け企業の
工事管理・監督責任などを情報開示せよ

率直に言って、経済ジャーナリストの目線で今回の問題を見た場合、いろいろ知りたいことがある。たとえば杭打ち工事以外にも鉄筋工事、外装工事、内装工事、電気設備工事などさまざまな工事があり、それぞれに今回の杭打ちのケースと同様、第1次、第2次の下請け企業がぶら下がっているのだと思うが、その実体はどういった下請け重層構造なのか、元請け企業はそれぞれの工事の管理・監督をどうしていたのか、また今回の杭打ち工事に限定すれば、第2次下請けの日立ハイテクノロジーズの責任範囲ーーなど重層下請けのシステムを知りたいのに全く見えてこない。ましてや旭化成建材を除く関係企業の再発防止策は、行政処分後も依然、出てきておらず、明らかに責任を果たしたとは言えない。

 

国土交通省は今後の対応策に関して、監督官庁の立場で、有識者委員会を組織し、重層下請けシステムの改善策に関して今年6月に対案を出してもらう、という。当然のことで、私も評価するし有識者委員会の対案を期待している。問題は、肝心の当事者企業の対応だ。
三井住友建設は、投資家やメディアに対し、自社のネット上のホームページを通じて「今回の処分を真摯に受けとめ、(中略)再発防止に向けた管理体制の改善に全力を尽くして努める所存」とし、杭打ち工事の施工管理の在り方についても「日本建設業連合会が策定した『既製コンクリート杭施工管理指針(案)』を踏まえながら、弊社の新たな施工管理基準を策定すべく作業を進める」と表明した。しかし単なる作文としか思えない対応ぶりで、元請け企業として期限を明示しアクションをどうとるか真摯な対応が見受けられない。

当事者の旭化成建材が社会的責任とったのは
当然だが、再発防止策の実行が重要

問題当事者の第2次下請け企業の旭化成建材と親会社の旭化成は、社内調査委員会の原因解明の中間報告結果を踏まえ、社長の引責辞任、関係幹部の処分人事などを行い社会的な責任をとると同時に、再発防止策も打ち出した。今回の問題で、旭化成建材は杭打ちの作業ならびにチェックに関して、外部企業の杭打ちの専門家に委託して、嘱託扱いで現場対応を依頼する、という事実上の丸投げで、データチェックも十分に行っていなかった。横浜のマンション工事以外の全国でも起きていて、実に360件のデータ偽装があった。

 

住宅事業に特化して収益の柱になっている旭化成としては、ここで社会的責任をしっかり受け止めて対応しないと、事業基盤が崩れかねないと、親会社の旭化成の社長の引責辞任などで責任を明確にしたのだろう。問題を引き起こした第2次下請け企業としては当然のことで、再発防止策に関しても率先してしっかりと対応すべきだ。

建設大手幹部「トカゲのしっぽ切りのような決着、
元請けの責任あいまいは残念」

ある建設大手の幹部は「三井住友建設は、施工体制の改善委員会をつくって、世の中から問題指摘を受けている下請けの重層構造の課題などに関して、取り組む、と表明しているので、同じ業界関係者として、批判を払しょくできるような行動を期待している。ただ、率直に言って、今回の処理対応を見ていると、トカゲのしっぽ切りのような形で第2次下請けの旭化成建材に責任を負わせて、建設元請けの責任をあいまいにしているのは残念だ。トカゲのシャッポ切りが必要だ、と言われないように指導力を発揮してほしい」という。
その講演を聞いたあと、好奇心が強まり、ブレマー氏が出版した新著「スーパーパワー・Gゼロ時代のアメリカの選択」(日本経済出版社刊)、ブレマー氏のユーラシアグループが発表した2016年の10大リスクも見てみた。それらをもとに、リスクの専門家は2016年という波乱含みの年をどう見ているか、整理してみよう。

 

責任が問われる三井住友建設の新井英雄社長は、国交省からの行政処分を受けた1月13日に記者会見を行った。私は、運悪く会見に出席できていないので、メディア報道でチェックするしかないが、新井社長は、昨年11月の決算発表会見で同社の永本芳生副社長が「管理を行う上で三井住友建設側に落ち度がなく、旭化成建材に裏切られた」と、すべての責任が旭化成建材にあると決めつけた発言を行ったことについて「元請け責任を最初から感じていた。副社長発言は不適切な表現だったと思う」と述べた。しかしその一方で「当社は元請けの指導責任があるが、(個別の工事に関しては工事にかかわった)各業者にそれぞれの責任がある」と述べた。
このあたりの発言は、今後の建て替え補償の責任分担をめぐっての意識的な発言とみられ、マンションの建て替え問題などで生活設計を狂わされた居住者への配慮はまったく感じられないのが何とも残念だ。

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