ギリシャ財政危機は他人事でない、日本国債の「安全神話」が崩れるリスク 「金融資産1400兆円あるので大丈夫」は根拠なし、財政健全化策が重要


時代刺激人 Vol. 84

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 「ギリシャ危機、主要国が拡散を警戒」「ユーロ防衛、異例の政策総動員」「欧州危機は米リーマンショックに酷似」――内外メディアは財政赤字で満身創痍(まんしんそうい)のギリシャ経済危機を連日のように取り上げている。株式や債券、為替などの金融市場は欧州、米国、日本の通貨当局のケタ外れの金融支援をひとまず評価したが、不安定な動きが続いている。問題の根が深いうえ、さまざまな国々の寄り合い所帯の欧州共同体(EU)という不安定構造での問題だけに、いつ何がきっかけでグローバルな連鎖のリスクに発展するか、正直言って、予測がつかない。

こう申し上げると、「ジャーナリストは、いつも『予断を許さない』とか『厳しい事態が避けられない』といった形で、危機をあおり過ぎる」とおしかりを受けるかもしれない。しかし、今回のギリシャ経済危機を見ていると、米国発の世界経済危機に発展した米リーマンショックに匹敵する構造的な危機をはらんでおり、間違いなく細心の注意が必要だ。

ところで実は、今回のコラムで私が取り上げたいと思っているのは、ギリシャ経済危機をきっかけに起きているソブリン(政府や公的機関の国債など債券)・リスクにからめて、日本国債の問題だ。日本国債は巨額の借金構造のもとで、イソップ物語のオオカミ少年のように「大変だ、大変だ」と10年以上も前から危機が言われながら、ギリシャのようにならなかったじゃないか、安全神話は続く、という専門家もいるが、私の見方は違う。日本は家計貯蓄の取り崩しなどをきっかけに「金融資産が1400兆円もあるので国債は大丈夫」といった安全神話の根拠が次第に崩れてきていることを指摘したい。

ギリシャ現政権はEUやECB支援の見返り要求の緊縮財政策、乗り切れるか
 その前に、日本国債とリンクするソブリン・リスクのギリシャ経済危機の問題を述べておこう。危ないな、と思う理由がいくつかある。1つは、ギリシャ自体のリスクだ。ギリシャの現政権は、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)からの巨額の財政、金融支援の見返りに、財政規律を強めるため公的年金の支払いカットなど緊縮財政、肥大化した官僚組織のリストラなどの荒療治策を受け入れたが、ギリシャ国民の反発が根強いだけに波乱含みだ。政治混乱がおさまらず、もしギリシャがユーロ圏離脱といった事態に発展したりすれば、EU全体の危機に広がる。

2つは、極めてあぶなっかしいジャンクボンドとの位置付けが金融市場にあるギリシャ国債にからむ問題だ。ギリシャと似たような巨額財政赤字を抱えるポルトガルやスペインの国債にまで影響が及び、それら国債の買い手がつかず、価格暴落(逆に利回り高騰)といった事態に陥ればユーロ圏全体の信用不安に発展する。そこで、ECBが異例のユーロ圏諸国の国債買い支えに乗り出したのだ。これは信用第一の中央銀行の屋台骨を揺さぶる問題だ。というのも中央銀行が、財政赤字ファイナンスのための国債を買えば市場リスクにさらされ、価格下落で保有国債の損失が表面化すれば中央銀行のリスクとなる。しかし今回、例外的に、欧州各国の民間金融機関が買取ったユーロ圏諸国の国債を買支える形でギリシャ国債にからむソブリン・リスクの回避を図った。危険な綱渡りだ。

財政赤字で国家発行の国債に信用不安起きればソブリン・リスク
 ソブリン・リスクというのは、国債発行で財政資金調達を図る政府自体に財政危機が表面化、国債の償還といった借金返済がままならず財政破たん、デフォルト(国家の債務不履行)が起きるリスクのことだ。とくにギリシャ危機の問題は、ギリシャという国の財政破たんリスク、それに似たようなリスクを抱えるポルトガルやスペイン、イタリアなどPIIGSというくくりで呼ばれている国々の国債への波及リスク、さらに欧州のユーロ圏諸国16カ国の民間金融機関のうち、これら財政赤字問題を抱える国々の国債を投資運用の面で買っていたのが一転、損失リスク問題が表面化し、金融システム全体の亀裂にリスクが及ぶ問題だ。

さて、ここで本題の日本国債の問題に話を移そう。まず、今回のギリシャ危機騒ぎで、行き場を失ったグローバルマネーが「質への逃避」という形でゴールド(金)に向かうと同時に、日本国債にも及んだ、という話を聞いて、思わず日本国債のどこが安全資産、逃避先なのかと思った。それほど、私にとっては、日本国債はさまざまなリスクを抱えているのだぞ、と思うのだが、めぐる情勢をよくご存じでない海外の投資家の人たちにとっては、これから申し上げる点が日本国債は安全資産と映っているのだろう。

日本国債の安全神話、実は長期デフレによる低金利が支えとは皮肉な話
 いま、日本国債が安全、と言われる理由はいくつかある。1つは、1400兆円にのぼる個人金融資産があり、これが支えになっていること、2つは日本経済が長期にデフレ経済で成長率が1%前後で低迷し、それに見合って超低金利の金融政策が続いていること、このためインフレリスクが少ないこと、もっと言えば期待インフレ率と言われる先行きの長期金利のレベルも1%台の低いレベルで推移し、これが大きく跳ね上がる可能性は低いこと、3つが日本国債の95%が日本郵政の郵貯や簡保生命の資金、民間金融機関の資金、さらに公的年金資金などで保有され、安定的な国内保有構造にある、このためギリシャ国債の70%が外国人投資家保有で、もし何かのきっかけで海外に資金逃避するといった不安定な状況にないこと――などが挙げられている。

バブル崩壊の後遺症で「失われた20年」といった形で経済のデフレが長期化していることが日本国債の安全神話のサポート要因になっている、というのは何とも皮肉な話だ。ところが国債発行元の財務省のある幹部は「デフレで国債の発行コストが少なくて済むといった安易な発想はしていない。デフレ脱却がマクロ政策の最優先課題であることは間違いない」と述べる。そして「それよりもジャーナリストやマーケットの心配性の人たちは、日本政府の財政赤字が膨らみ続け、2010年3月末で国債などの債務残高が過去最大の882兆円に及び先進国中で最悪状態になったことをとらえて、日本国債危機を言うが、結果は、この10年以上、ずっと問題なく事態乗り切りを図れているではないか。それは個人金融資産1400兆円などの支え構造が厳然としてあるからだ」という。

格付け機関も日本国債を格下げ、市場も民主党のバラマキ政策を不安視
 この財務省幹部も、そう開き直りのような発言をしながらも、一方では歴代の自民党、そして政権交代後の民主党の各政権がデフレ脱却のための財政資金確保などを理由に国債増発を強いて、そのツケを財政当局の現場に綱渡り的な国債管理政策に求めていることに対して強い不満があるのは確か。
しかし現実問題として、国際的な格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が今年1月26日、ギリシャ財政危機が表面化した時期に日本の財政再建への取組みが見えないとして、長期国債格付けを引き下げネガティブ評価としている。ギリシャ危機も、これら格付け機関の厳しい市場の財務評価による格下げがもたらしたもので、日本の財務省だって日本国債の安全神話に強気ではおれないはずだ。

そこで、市場関係者の見方として、日本国債の暴落リスクを問題提起したみずほ証券金融市場調査部の特別レポート「緊急提言 2010年、ついに日本国債は暴落するのか」があるので、少し紹介させていただこう。レポートは、「どこまで国債発行は可能か、金利上昇はどこまでか、国債暴落対策は何か」といった副題がついているものだ。

みずほ証券緊急提言「財政健全化のロードマップ、国債版マニフェストを」
 みずほ証券によると、民主党政権下でバラマキ政策で財政赤字拡大が続くことを直視せざるを得ないこと、足元の政治状況が不安定に変動する中で財政規律の不安が存在すること、また、金融市場における受容力に不安が次第に高まっていることを挙げ、「不安を『オオカミ少年』として済ますことはできない」とし、国債暴落危機回避の対策を求めている。
レポートは確かに「日本は、公的債務残高を上回る個人金融資産と外貨準備を持っているため、国内でマネーフローが完結できる状況にありキャピタル・フライト(資金の海外逃避)が生じるリスクは少ない」としている。しかし、レポートは楽観論を戒めながら「まずは財政の健全化のためのロードマップの策定と実行性が問われる」とし、短期、中期、長期の「国債版マニフェスト」をつくるように求めている。

個人の家計貯蓄の減少は無視できず、個人金融資産は実質500兆円説も
 さて、ここからが私の指摘ポイントだ。日本国債の安全宣言を支える根拠が次第に崩れてきてリスクが増幅しつつあることを指摘したい。まず、人口の高齢化が進む経済社会で金融資産の取り崩しという形で家計貯蓄額の減少が進んでいることだ。総務省が5月に公表した2009年の平均家計調査では1世帯あたりの平均貯蓄額が1638万円となり、前年比で2.5%減となっている。貯蓄額の減少は今に始まったことでなく4年連続であり1つのトレンドとなってきた。米リーマンショックによる株価下落の影響などもあるが、先行き不安からの金融資産取り崩しも無視できない。現にかつては15%もあった日本の貯蓄率は今や3%台というから、個人金融資産1400兆円で安泰という論理にはつながらない。
それよりも個人金融資産1400兆円の数字の大きさが、日本国債の安全神話の支え部分だが、あるメガバンクのマクロ調査の担当者は興味深い話をしている。その担当者によると、住宅ローンなどの負債部分はじめいろいろなものを差し引くと、個人が本当に動かし得る金融資産は実質ベースで500兆円ぐらいかもしれない。日本国債をリアルにサポートできるのはその程度と言っても言い過ぎでない。楽観しない方がいい、という。

金融機関の横並び体質はクレジットリスクが表面化したら一気に国債売却へ
 前慶応大教授で、現在は千葉商科大学の島田晴雄学長も厳しい見方でいる。「日本はかつて、世界最大の貯蓄を持っているので、1990年代末のロシア、アジア危機のアジア諸国のような破たんにはならないと、これまで私たちはタカをくくってきたのでないか。潤沢にあるはずの国民の金融資産だが、住宅ローンや保険などを除いた家計の純粋な金融資産の総額は、実は1063兆円に過ぎない。2008年時点での政府の長期債務残高との差は100兆円を切っている。今のような大量の国債発行を続けると、今から1年半で政府債務が家計の純金融資産を上回ることになる。その場合、日本は事実上、純債務国に転落することだ。こうしたことは多くの関係者はすでに知っている」と、鋭く指摘している。私も同じ見方で、個人金融資産1400兆円あるから大丈夫という建前の論理に過度に頼らない方がいいと考える。

また、財務省などの論理は、日本国債の95%が国内の投資家などの保有構造にあり、70%が外国人保有という不安定なギリシャとは決定的に違うという点がベースにある。しかし、郵貯資金など活用する日本郵政、さらには保守的な民間金融機関は絶対の安定した行動主体かと言えばノーだろう。彼らもクレジット・リスクが不安定になることには神経質で、しかもひとたびリスクが表面化すれば、国債下落もしくは暴落による損失リスク回避のために一気に売却に走る。彼らの横並び体質は実にリスクで、一気に右ならえの行動に走る。みんなで渡れば赤信号でもこわくない、という集団論理で行動していたのが、リスク顕在化と同時に同じように売り逃げに動くからだ。

国債頼みにならず税収増をうむ新成長戦略が事態を変える?
 日本国債は大丈夫、という安全神話が少しずつ崩れる材料がまだまだある。友人のあるエコノミストは「政治的にはタブーだろうが、客観情勢として、ここまで財政が悪化してくると、場合によっては経営再建の一環で日本航空がとったように年金額の切り下げといった政策の選択肢も必要になって来る」という。
民主党政権の菅直人副首相兼財務相は2011年度の国債発行額の抑制を打ち出したが、目先の参院選対策を含めて選挙目当てのバラマキ政策を見直し、財政健全化の道筋をはっきり提示して、市場の信頼を得ることが必要だ。同時に、財政規律と経済成長をどうするか、国債発行に頼らず税収増を生みだすプラス成長の新成長戦略をどうするか明確に打ち出さないと、ジレンマに陥って、日本国債のソブリン・リスクが現実になるかもしれない。

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